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  • 【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。

  • 【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆​呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m

  • 犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…

  • 血漿交換(TPE: Therapeutic plasma exchange)とは/アメリカ獣医レジデント備忘録

    血漿交換(TPE: Therapeutic plasma exchange)とは/アメリカ獣医レジデント備忘録

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、重度高ビリルビン血症に対して、手動で血漿交換を行った例についてご紹介します。血漿交換とは何か?という基本的なところからイラストを用いてわかりやすく解説します。 血漿交換とは 血漿交換とは、血漿中の大きな分子の物質を取り除きたい時に、患者の血漿を取り除いて、ドナーの血漿で置換する治療です。 様々な方法がありますが、基本的な原理は、患者さんの血液を脱血、赤血球と血漿成分に分離します。そして、取り除きたい物質が含まれる血漿成分を処分し、赤血球を患者さんに戻します。患者さんから血漿成分を抜き取るので、抜き取った分の血漿をドナーの血漿を輸血することで補います。 血液浄化に関してはこの記事で詳しく説明しています。興味のある方はこちらもあわせてご覧ください。 二種類の血漿交換方法 血漿交換の方法は主に機械を用いたものと、手動の大きく二つに分けられます。さらに、機械を用いる場合は、フィルター法と遠心法があります。 機械を用いた血漿交換の原理 目的は患者さんの血漿を取り除き、ドナーの血漿で置換するということになります。 特殊な機械(CRRT)と患者さんの中心静脈カテーテルをつないで体外循環を行うことで、血漿交換を行うことができます。 機械を用いた方法では、患者さんの頸静脈から透析用のカテーテル(太くて、ダブルルーメンになっているもの)を設置します。ダブルルーメンになっている片方は脱血用、もう片方は返血用です。脱血された血液は機械を通り、血液成分が分離され、返血されます。 機械を使うと、圧倒的に少ない労力で、さらに短時間で処置を行うことができます。欠点としては、特殊な機械が必要なこと、部分的に体外循環を行うことになるので、小さい患者さんでは大量の血液が体外に出ていくことが致命的なリスクになりかねないということです。 機械を用いた血漿交換に関してはこちらの記事もご参照ください【リンク】 手動血漿交換 小型犬や猫の場合、安全に血漿交換を行うには手動血症交換が勧められます。上に記したように、機械と患者さんを繋ぐ、ラインを満たすための血液は患者さんの体外へと運び込まれることになります。よって、小さい患者さんから大量の血液を抜かざるを得なくなり、血行動態が不安定になます。 この改善策として用いられるのが、手動血漿交換です。この方法では、特殊な機械を用いません。太めのサンプリングライン(中心静脈ライン)を設置し、シリンジで血液を抜去し、手動で遠心分離し、血球成分を患者さんに戻し、血漿成分を廃棄します。 血漿交換のプロセス 簡単に具体的なプロセスを説明すると、以下の通りになります。(※下記画像を添付) 最終的には、治療ターゲットとなる量の血漿が交換されるまで繰り返します。 手動血漿交換は、教科書に典型的な方法が載っているわけではなく、ゴールドスタンダードな手法がありません。そのため細かい部分は文献をかき集めながら行わなければならないのが現状です。 case reportには手技が詳細に書いてあることが多いので、いくつか参考にしながら私の症例に当てはめて治療計画を立てました。 このとき役立ったのは、以前読んでまとめていたcase reportでした。自分で症例をみた時のイメージをしながら、処方方法を確認していたため、いざ症例がきた時にすぐに記憶が引き出せるようになっていました。 症例紹介 10歳、去勢オス、ヨークシャテリア。重度の膵炎に伴う胆管閉塞によってビリルビンが45まで上がった症例で、高ビリルビン血症による神経症状(ビリルビン25以上で高いリスク)を防ぐために血漿交換を行うことになった症例です。 ビリルビン血症による神経症状は、核黄疸と呼ばれ、人医療では一般的に認識されている病態になります。高ビリルビン血症によって、不可逆的な脳損傷が生じる可能性があるため、緊急的にビリルビン濃度を下げることが推奨されています。 体重8kgのヨークシャテリアと、比較的小型の犬として(アメリカでは)カテゴリーされるサイズでした。10kg以下では、機械を用いた血漿交換が勧められないため、マニュアルで行うことになりました。 体重及び、手技直前のPCV, TPを元にどのくらいのセッションを何回行うかを計算します。そして、しっかりと血行動態をモニターしながら脱血、分離、赤血球の返血を繰り返します。 最終的に、大きな合併症はなく無事終了し、翌日にはビリルビンが10まで下がってくれました。もしかしたら単純に胆管閉塞が解除されただけである可能性もありますが、治療が奏功し、こういった経験ができたことで、大きな自信にもつながりました。 プロトコール作成 血漿交換を行うにあたって、処方と実際の手順の両方の説明が必要になります。 処方とは、血漿交換を合計何ml(全血漿当たり何%)を行うか、一度に何mlの脱血で何回行うか、そして輸血と輸液のプラン立てになります。体重10kg、ヘマトクリット30%の患者さんに対する処方の例が以下になります。 新しい手技に関しては、常に同僚及び看護師さんとの共通の理解が必要になります。そのため、プロトコールを作成しておくことで、自分もすぐに記憶からよび起こせるだけでなく、看護師さんの協力を得られやすくなります。 このように写真を盛り込んだ図説が、初めての人でもイメージしやすくなると思います。 おわりに この記事では、血漿交換の基礎的な原理を解説し、実際の症例をご紹介しました。近年では、血漿交換に関連する論文がたくさん出てきています。適応を見極めることと、詳細な手順を確認した上で、患者さんごとに適応させると、治療の幅が広がるはずです。

  • 他科でのトレーニング/ECCレジデント生活

    他科でのトレーニング/ECCレジデント生活

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 ECCのレジデントプログラムではECCのみで診察をするわけではなく、他の科で数週間トレーニングを受ける必要もあります。この記事では、レジデントプログラムの一貫である、他科へのローテーションについてご紹介します。 他の科へのローテーション ACVECC(The American College of Veterinary Emergency and Critical Careいわゆる専門医を認定する協会)のリクアイアメントに、ECCだけでなく、他科をローテーティングしなければならないという要項があります。 ACVECCのプログラムに参加すると、個人のアカウントが設けられ、以下の様なトレーニングを記録していくことになります。ここでは、どの科でどのくらいの時間トレーニングをしなければならないかが書いてあります。3年間で2-6週間、内科、外科、麻酔科、循環器科、画像科、神経科、眼科で研修を行うことになります。 特にECCの場合、様々な一般診療の知識が必要になりますので、たくさんの科でトレーニングを受ける必要があるのです。 例えば、外科や内科のレジデントでも他の科でのローテーションが必修となっていて、ECCで数週間働きにくることがあります。 どこでローテーションをするか この他科でローテーションをした、とみなされるには、どこの病院の専門科でも良いわけではありません。 このローテーションをACVECCのリクアイアメントに合うためには、専門医が何時間以上一緒に働かなければいけない、という決まりがあります。つまり、専門医が最低一人はフルで働いている場所で行う必要があります。 私の大学では、現在、神経科を設立している段階です。専門医は一人働いていますが、診察をしていない状態なので、今の段階ではここでローテーションをすることができません。よって、他の大学や二次施設に行って数週間のトレーニングを受ける必要があります。 どんなことをするか 他の科に行った時に、どんなことをするかは大学のプログラムによって様々です。 私がスペシャリティインターン時代、他の科でお世話になったことがありますが、内科や神経科でケースを主治医として持たせてもらいました。また、外科では助手として入らせてもらうこともできます。 科によって責任の重さが違うわけではありませんが、飼い主さんは、特に専門医に診て欲しくて大学病院に来院しています。よってERとは違い、いくら自信があっても、必ずレジデントが専門医に症例プレゼンテーションをして、一緒に方針を決定していくことになります。 一緒に働いた経験がない場合は、ケースを持ったら、専門医がみっちりと監督してくれます。また、数週間のローテーションのため、それ以降のフォローアップは別の先生に引き継ぐことになります。なので、スムーズな引継ぎとなるようにきちんとした書類作成を行う必要があります。 麻酔科へのローテーション 今回、レジデントとして初めての麻酔科での研修を行ったので、その経験をご紹介します。 基本的に、麻酔科では学生主体でケースを持つことが多いことと、テクニシャンがほとんど自立して麻酔の導入から覚醒までできるスキルがあるため、レジデントはそのサポートすることが多くなります。 麻酔科の仕事 麻酔科は、小動物と大動物の両方の麻酔に携わります。私の大学には、麻酔科のレジデントのポジションはありませんが、2人のスペシャリティインターンがいます。なので、ポジションとしては、専門医、インターン、テクニシャンの3つになります。そして、必ず学生が1ケースにつき一人つき、テクニシャンとコンビで症例の麻酔に携わります。 前日に、学生がプロトコールを考え、専門医とディスカッションの上、プロトコールを完成させておきます。そのプロトコールをもとに、テクニシャンが薬の準備をします。 当日、テクニシャンが主体となって、学生に挿管などの細かい手技を教えながら麻酔をかけていきます。テクニシャンは大抵の変化に対応できる知識がありますが、それでも困った時には専門医にいつでもコンタクトを取れるようになっています。 2人のオンクリニックの専門医は大動物と小動物、それぞれを監督します。すべての麻酔の進行状況を把握し、テクニシャンが困っていたら助けてあげる役割です。また、3週間毎日学生へのトピックラウンドが行うのも、専門医の仕事です。(レジデントのポジションがないため、専門医が行っています) 私は小動物の麻酔に専念させてもらい、特に重症患者の麻酔の時に手伝いをするというポジションで2週間過ごしました。ここからは2週間どんなことを勉強したかをご紹介します。 朝のラウンド 2週間、毎日(8時から9時)、学生のための講義、実技が行われます。麻酔に関する情報をここでアップデートすることができました。かなり基本的なこともカバーしてくれる一方、知らなかったというようなトピックも出てくるのでとても勉強になりました。 今回のローテーションした2週間でカバーされた内容は、以下になります。 ECCの専門医試験でも、麻酔科の内容は含まれます。知っている知識でも、学生にこうゆう風に教えるのか、と勉強になることもたくさんありました。 麻酔導入から覚醒まで 私はECCのレジデントということもあり、なるべくクリティカルな麻酔に入れるようにあらかじめお願いしていました。なので私が担当につかせてもらったのは、ITPが過去に診断され治療中、左後肢に肉腫ができて断脚が必要な症例でした。貧血もあったため、術前に輸血が必要になりました。 麻酔前の患者さんの入院管理で、非常に役に立つことができたと思います。手術で予測不可能な出血に対しての輸血製剤の確保や準備を手伝うこともできました。 その患者さんは無事に手術を終え安定した状態で覚醒することができました。 自分でどんなことを学びたいかを、専門医や担当の先生に伝えておくことは非常に重要なことです。専門医は忙しいので、他の科からきた先生がどんなことがしたいか、気を遣って考慮する時間はありません。自分でやりたいことがあれば、積極的にケースを取りに行くことで勉強の機会を増やせます。 夕方のラウンド 夕方のラウンドでは、翌日のケースの麻酔プロトコールに関してディスカッションを行います。学生はそれまでに、患者情報を集め、自ら身体検査を行い、プロトコール(前投与、導入、麻酔)を準備します。そしてみんなの前で症例プレゼンテーションを行い、専門医がアドバイスやプロトコールの変更を提案することもあります。 特に麻酔科をローテーションする学生の人数が多く、専門医から様々な角度で飛んでくる質問に答えなければならないため、緊張感が走ります。 やる気のある学生は、他の症例に対しても、質問や発言をして知識を深めようとします。このラウンドが終わり次第、解散となります。 おわりに 2週間の麻酔科ローテーションを経験しましたが、学ぶことはたくさんありました。麻酔科でないと滅多に使わない薬や、麻酔の回路や波形に関する良いリフレッシュをすることができました。 他の科で勉強するのは非常に良い機会なので、積極的に新しい知識を増やしていくことが大切なんだと再認識しました。また、他の科のシステムを理解し、麻酔科の先生と仲良くなっておくことで、ECC症例で麻酔をかける時に円滑に進めることができるかもしれません。 レジデントの生活を1ヶ月ごとにダイジェストする、こちらの記事も合わせてご覧ください。

  • アメリカ獣医レジデント オンコールの仕事

    アメリカ獣医レジデント オンコールの仕事

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学での夜間オンコールって何?どんなことをするの?という疑問に答えるような記事になります。 レジデントの生活を1ヶ月ごとにダイジェストする、こちらの記事も合わせてご覧ください。 夜間オンコール レジデントにはオンコールという、重大な役割があります。 レジデント=オンコールが大変というイメージがあったのですが、実際にレジデントになってから、それがどういう意味か理解するとともに、大変なことは間違いない、ということがわかりました。 ここでは、夜間のオンコールではどんなことをするか、そしてオンコールの何が大変なのかを解説していきたいと思います。 ERに来院する患者さん まずはERについてさらっと解説します。 時間外もしくは予約外で来院した患者さんは、基本的にはERを介して来院します。ERに来院した患者さんは、インターンが主治医になります。 病気の原因によって、神経検査が必要になったり、整形外科の検査、眼科検査が必要になることなど、様々です。爪から血が出ているなどの場合は、専門科の診察が必要のない場合もあります。 ERに来院する患者さんは大きく二種類に分けられます。状態が急変して、救急的な治療が必要な場合、もしくは専門科の診察が必要だけれども数週間先のアポイントメントまで待てないような場合です。 前者の場合はERを診る獣医師(インターン)が全体的に患者さんを評価して、専門科のコンサルテーションが必要かどうかを判断することになります。後者の場合は、大抵どの科に転科させなければいけないかがわかっていることが多いため、サポーティブケアを一晩行い翌日に転科することになります。 ERのドクター ローテーティングインターンは1年間のプログラムで、専門科をローテーションすることになりますが、多くの病院がローテーションの50%はERに配分を置いています。 理由としてはERが最も総合的な知識が学べる環境であることと、必要最低限のスキルや経験ができる(例えば処置、飼い主さんとのコミュニケーションなど)ためです。 全てのローテーティングインターンが専門医を目指しているわけではなく、中には一般診察のレベルを上げるために1年間修行をする先生もいます。 アフターアワー(時間外) 時間内(スタッフの勤務中)であれば、ERの症例が特異的な科からのコンサルテーションを受けることは簡単です。実際にその科に患者さんを連れて行ってみてもらうことができるからです。 しかし、大学病院に人がいなくなった時間(アフターアワー)に来院した患者さんを診る場合には、オンコールの先生の力を借りる必要があるのです。 例えば、胃内異物の症例であれば、内科のオンコールが電話を受け、夜中に内視鏡を行うかの判断をします。異物による消化管閉塞であれば、外科のオンコールが電話を受け、夜中に手術を行うかを判断します。もちろん、多くの場合、レントゲンや超音波検査が必要なので、画像科のオンコールが読影します。 また、緊急的な重症患者さんに対してはECC(クリティカルケア)のオンコールが電話を受けて必要に応じてベンチレーションのセッティングを行うこともあります。 もしくは、特殊な手技が必要な場合でなくても、オンコールに連絡することはできます。例えば、DKAの初期治療をどうしたらいいかなど、治療に関する、質問もオンコールのレジデントが対応することになります。 インターンは新卒間もない、特に専門的な勉強をしていない先生が多いです。大学ではバックアップ体制の一つとして、オンコールのレジデントに電話をして、コンサルテーションを受けることができるのです。 大学のバックアップ体制 この様なバックアップ体制が整っていることで、インターン、レジデントが安心して働けるのです。もしもオンコールのレジデントが判断に困った場合は、オンコールのファカルティに電話をかけることになります。 インターンからオンコールのレジデント、そしてレジデントからファカルティ、そしてようやく、ファカルティと相談したレジデントからインターンへの指示がいくというステップを踏むことが大学病院では鉄則です。周りくどいですが、この順番は基本的にはスキップできません。インターンからファカルティに直接連絡というのはいろんな意味で許されないのです。 いくらインターンが自信があっても、「インターンの立場で一人で判断するべきことではない暗黙の了解」ということもあります。インターンは「なんでオンコールの先生に相談しなかったの?」と問い詰められることはありますが、「なんで電話してくるんだ」と怒られることはありません。 そして、ECCのオンコールは少し特殊です。重症患者に関しては、他の科と同様、電話で受け答えられるものは電話で対応し、もしも挿管、人工呼吸などが必要になった場合はオンコールが病院に駆けつけることもあります。 ECCのオンコールはそれだけではなく、新人のインターンたちのERを監督する必要があるのです。私が働く大学では、最初の数ヶ月は、全ての時間外ERの症例を、ECCのオンコールに連絡して確認するという決まりがあります。なのでオンコールになると、爪から出血している、という症例に関しても連絡が来ることになります。 オンコールを経験して オンコールをやってみて、何が一番大変だったかというと、インターンの症例プレゼンテーションのクオリティによって、症例に関して把握できる情報量が大きく異なることです。 重要なポイントを簡潔に伝えられるプレゼンテーションと、そうでないものでは、オンコールで必要な労力も大きく異なります。翌日になって、「こんなこと昨日電話した時言ってなかったよね?!」というサプライズが待ち構えていたりするのです。 私が常識だと思ってあえて質問しなかったことでも、インターンにとってはそうでないこともあります。プレゼンテーションを鵜呑みにせずに、全ての必要事項を自分から聞いて確認するということが重要だということを学びました。 オンコールの時間とスケジュール オンコールの仕事は夕方5時(ファカルティが帰宅する時間)から朝の7時30分(ファカルティが出勤する時間)に行います。この時間が一番ERが忙しい時間になります。なので夕方帰宅してから2時間おきに電話がかかってくることも珍しくありません。 私の大学でのECCオンコールは、レジデント2人で割り振ることになります。なので週に3-4回割り当てられます。 大学によってオンコールのシステムは異なります。私の友達のECC専門医の先生は、全ての紹介患者さんがERに来院した場合、何時であろうがレジデントは大学に行って患者さんを直接評価して治療方針を決めなければいけないというルールがあったと言っていました。 おわりに この記事では、オンコールの仕事について解説しました。インターンにせよレジデントにせよ、円滑なコミュニケーションが非常に重要になります。そしてコミュニケーション能力こそ、研修医がファカルティに評価される大事なスキルといっても過言ではありません。 電話でのコンサルテーションは緊張が伴いますが、しっかりケースプレゼンテーションの練習すれば大丈夫です。

  • アメリカ獣医インターンとレジデントの違い

    アメリカ獣医インターンとレジデントの違い

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務し、現在アメリカの獣医大学で救急集中治療(ECC)の専門医を目指してレジデントをしています。 インターンとレジデントとは、どちらも大学病院の研修医というポジションですが、それぞれに与えられている役割や期待されていることは異なります。この記事では、インターンとレジデントとでは、具体的に何が違うかを解説していきます。 アメリカ大学のインターンについては以下の記事もご覧ください。 インターンからレジデントになって変わったこと 1ヶ月前までインターンとして、レジデントやファカルティに助けてもらいながら臨床現場で働いてきた私ですが、今ではレジデントとして、インターンに指導、教育をする立場になりました。インターンの時は、学生にどこまで積極的に指導をするかは任意でしたが、レジデントになると仕事の1つになります。 そしてレジデントには、インターンの時にはない課題がたくさんあります。例えば、3年間のうちに研究をして論文を1本アクセプトされなければならないこと。そしてセミナーの聴講やレクチャーを行うことも必須になります。この具体的な要項に関してはこちらの記事で解説しています。【レジデント生活1ヶ月目リンク】 インターンに期待されること インターンに期待されること(英語でexpectationといいます)はなんでしょうか。 インターンの仕事は、症例をプライマリーの獣医師として診ることです。インターンのバックグラウンドがいかなるものでも、先ほどのステップを飛び越えることは許されません。ファカルティの指示を仰ぎながら症例をみていくことになります。 インターンの仕事は、飼い主さんとのコミュニケーション、診断プラン、そして治療プランの構築です。必要な診断検査を終えてプランを立てた上で、レジデントと相談、確認して実際の治療を行なっていく形になります 特に飛び抜けたスキルや知識は必要なく、インターンに重要なのは適応力とコミュニケーション力です。一緒に働く人たちは、インターンは知らないことがあるのは当たり前、というスタンスです。誰しもが、それを学ぶ場所を提供するのが大学なのだ、という共通の認識を持っています。 よって、インターンに期待されることは、いかに円滑に診断を進められるか、患者さんに責任を持って接することができるか、飼い主さんにプロフェッショナルに対応できるかが期待されています。つまり、当たり前のことが当たり前にできるか、ということが重要なのです。 インターンのゴール インターンがゴールのことはなく、インターンはあくまで他の目標を達成するための過程となると思います。インターンの1年をどう過ごすかで、その次の年どう過ごせるかがかかっているのです。 日本の先生方の多くは、インターンを行う目的は、レジデントのポジションにつなげることだと思います。もちろん、インターンでどれだけ知識を吸収するかは重要ですが、最重要事項はインターンの最中にファカルティからいい推薦状をもらって次につなげることです。 この目標を見失わないように1年間過ごすことが非常に重要だと私は思います。 いい推薦状をもらうこと=職場のみんなから信頼され、好かれること と思いながら、インターンを過ごしていました。私は、レジデントよりもインターンの時の方がストレスが大きかったのを覚えています。インターンでは、毎日の診察で常にファカルティから試されている気分になり、冬の時期になると診察で忙しい上にマッチングの準備をしなければならないからです。 マッチングでは別の大学の先生たちからも評価を受けることになります。厳しい世界ですが、1年間という期限つきなのでどうにかやり遂げられたのだと思います。 レジデントに期待されること インターンからレジデントになって、臨床現場で一番大きく変わったことは、責任の重みです。アメリカの大学病院のシステム上、インターンのみで判断していいことには限界があります。それはインターンの知識や経験とは関係ないもので、どれだけ自信があっても、踏まなければいけないプロセスがあるのです。これは学生が勝手に判断して患者さんを治療してはいけないのと似たようなイメージでしょうか。 そのプロセスの順番が、学生#8211;gt; インターン#8211;gt; レジデント#8211;gt; ファカルティ(専門医)になります。 例えば、ERに来院した患者さんをプライマリーに診察するのはインターンになります。そして、インターンがどうしていいか行き詰まった場合、レジデントに相談します。そして、レジデントも悩むような状況の場合は、ファカルティの指示を仰ぐことになります。 大学のシステムの違いもありますが、基本的にインターンを直接指導するのはレジデントになります。なので、インターンからファカルティにステップを飛び得ることは、よっぽどな理由がない限り起こりません。 カルテの診断記録には、常にプライマリーに診察した獣医師とファカルティの名前が記載されます。何かしらの問題が起こった際(飼い主さんとのトラブルなど)には、ファカルティが責任をとることになるのです。なので、ファカルティが「そんなこと聞いてなかった」という状況を避けるためにも、常にインターンとファカルティとの円滑なコミュニケーションが非常に重要になります。 レジデントのゴール レジデントのゴールはもちろん専門医になることです。専門医になるために満たさなければいけない条件やテストをクリアする必要があります。 ゴールは人それぞれですが、私は専門医になるとは、「獣医を教育する存在になること」だと思っています。 なので、自分が最先端で走り続ける力と、最先端で勉強したことをフィードバックする能力をつけることがレジデントの3年間の目標になる、と考えています。日々のインターンの指導、学生への教育が非常にいいトレーニングになります。 おわりに この記事では、インターンとレジデントの違いについて解説しました。インターンとレジデントでは、期待されることやゴールが大きく異なるため、ゴールに近づくために毎日努力をする必要があります。日々目標を忘れずに、周囲に好かれながら仕事をすることで、実りあるインターンやレジデント生活が送れることと思います。 この記事では、アメリカ獣医大学 インターンの1日①に引き続き、ECCスペシャリティインターンのナイトシフトについてご紹介します。アメリカ大学のインターンがどの様なことをしているか、興味のある方が対象の記事になります。

  • アナフィキシーショックを呈した犬の症例検討

    アナフィキシーショックを呈した犬の症例検討

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、アナフィラキシーショックに陥った患者さんを救うことができたので、どのようにアプローチしたかをご紹介していきます。 アナフィラキシーショックの病態については、こちらの記事もご覧ください。 アナフィラキシーショックの発生頻度 私は、日本で3年間一般獣医師として働いていましたが、アナフィラキシーショックが疑われた患者を診た経験は一度だけでした。それも、麻酔中にIV抗生剤投与に反応したと考えられています。 現在は、アメリカでERおよびクリティカルケアでのトレーニングを受けて3年目になりますが、アナフィラキシーショックには地域による発生頻度の違いがあるということがわかってきました。 2年目でアナフィラキシーショックが疑われた症例に遭遇したのはたった1度です。現在、新しい環境で働き始めて5ヶ月目になりますが、アナフィラキシーショックが疑われる症例が非常に多く、すでに4例は診ています。 私のメンターであるクリティカリストは、原因はフィラリア症にあると疑っています。フィラリアの成虫内には、ボルバキアという細菌が感染していることがわかっています。フィラリア成虫が死亡したときにこの細菌の放出によってアナフィラキシー反応が出ると踏んでいます。私の住むエリアでは、予防という概念が浸透していないということもあり、フィラリア症が非常に多いです。 アナフィラキシーショックの原因を探るために問診は非常に重要になりますが、ずっと家の中で一緒にいて突然虚脱した、というパターンが多いのです。このことからも、もしかしたら外的な抗原への暴露ではなく、内的な変化である可能性が強く疑われます。 症例 今回私が診た患者さんについてご紹介します。 3歳、去勢雄、バセンジー。室内で飼い主と一緒にいたところ、嘔吐を数回繰り返し、すぐ後に虚脱。既往歴はなく、このエピソードの直前まで普通だった。 来院時、患者さんは昏迷状態、心拍数は230回/分、CRT 3秒、可視粘膜蒼白。四肢冷感。股脈は触知可能だが、血圧は測定不可。呼吸数44回/分、心雑音なし。 この時点で、アナフィラキシーが頭に浮かぶかということが重要になります。実際にこの症例が処置室に運ばれてきたときに、学生やインターンがさまざまな思想をめぐらせていました。「発作じゃない?」「失神だろう」という声が聞こえてきましたが、アナフィラキシーショックという声は聞こえてきませんでした。 実際に症例を何度か経験することでようやく、アナフィキシーショックを鑑別診断リストに考慮できるようになるかと思います。 血液検査結果 来院時に、AFASTをしたところ、へーローサインが若干疑われる様な、胆嚢の変化が見られました。この時には、まだ上写真ほどの、綺麗なヘーローサインはみられませんでした。しかし、輸液をある程度投与した後にAFASTを再度評価したところ、教科書で見られる様なヘーローサインが見られました。 エマージェンシーでは、POC (Point of Care)の簡易血液検査をします。この中には、PCV, TP, グルコース、乳酸が含まれます。PCV 43%, TP 6.0, グルコース140, 乳酸10.9でした。 そして、CBC, 生化学、凝固系パネルの結果が以下になります。 CBCでは、重度の白血球減少および左方移動、血小板減少が認められました。 生化学では、AST, AKTの重度な上昇、アルブミン及び総タンパクの低下が顕著でした。 アルブミンと総タンパクの減少は、出血によるものと考えられ、アルブミンの減少に伴い、総カルシウムの減少が認められました。 そして、PTに対してPTTの顕著な延長が認められました。 VCMという凝固検査を行ったところ、30分経っても凝固を始める様子がなく(正常は7、8分まで)、1時間後でも凝固を開始する様子がなくフラットなラインになりました。 VCMについての解説はこちらの記事をご覧ください。 初期治療 この血液検査結果が出る前には、アナフィラキシーショックであると確信していたので、アグレッシブな輸液治療を開始しました。高張食塩水及び、晶質液の投与を行いました。 血漿成分の間質への漏出により、ヘマトクリットが非常に高いことが多いです。この症例に関しては、重度な消化管出血とのコンビネーションにより、ヘマトクリットは41%でしたが、50-60%のことも珍しくありません。 病態を思い返してみると、初期治療で血管容量の増加が最初のステップであることがご理解いただけると思います。私のメンターは、この大学に長く努めているので、アナフィラキシーショックの治療経験が非常に豊富なのですが、いつも強調していることは、昇圧剤などの血管を締めに行く前に、十分な血液容量の改善を行いなさい。ということです。 コロイドの投与 そして、晶質液の投与だけでは、血管外漏出してしまうため、早期にFFPの投与を行うことも推奨されています。もしもFFPが使えない状況であれば、人工コロイドの投与も考慮します。(人工コロイドによる血小板機能抑制が仇となることもあるので、使用は賛否両論ありますが、背に腹は変えられないこともあります) FFPを早期に使用するメリットはいくつかあります。 まずは膠質浸透圧のサポートです。アルブミンが1.5とかなり低いため、晶質液はアナフィラキシーショックの病態と組み合わさってさらに血管外に漏れやすくなっています。膠質液を使用することで、短期的ではありますが、血管内容量を維持する効果が期待できます。 そして、アナフィラキシーショックの症例に関しては、凝固因子の補充という大きな役割もあります。 最後に、グリコカリックス層の保護につながると考えられます。グリコカリックスについては詳しく触れませんが、FFPの早期投与によって、低灌流によるグリコカリックスの破壊を防ぎ、更なる血管外漏出を防ぐことにつながります。 この症例では、輸液治療の最中に、血様下痢、血様嘔吐が認められました。この時点ではPT, PTTの結果は出ていませんでしたが、凝固異常による消化管出血が認められたため、FFP(凍結血漿)をすぐに解凍することをテクニシャンに指示をしました。(解凍には15-20分ほどかかります) FFPの投与 数回の晶質液のボーラスに反応することなく、心拍数は200以上、血圧は測定不可。FFPが解凍されたので、ボーラスで投与。FFPは本来は輸血なので、緊急時でない限り、数時間かけてモニターしながら投与しますが、この患者に関してはアクティブな出血及び低血圧が命取りになりかねなかったため、急速に投与しました。 FFP1ユニットは、250mlほどです。殺鼠剤中毒などの治療で、アクティブな出血を止める際に使用する量としては10 ml/kgからスタートしますが、投与後に再評価をしてさらに必要かどうかを判断します。…

  • アメリカ獣医 レジデントのお給料と生活費

    アメリカ獣医 レジデントのお給料と生活費

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2022年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医を目指してレジデントをしています。 この記事では、レジデントのお給料及び、生活費が実際どの様なものかをご紹介します。あくまで、私のケースなので参考までにお読みください。 2020年にインターンのお金の記事を書きましたが、その頃とは時代が変わり、住む環境も変わったのでレジデントバージョンもお楽しみください。 2022年現在 2022年、ドル高円安が進み一時期、1ドル、151円までに上がりました。私の収入は大学からドルで支払われる分のみなので、特に打撃はありませんが、日本から来られる方に取っては一刻も早く円高になって欲しいものです。 レジデントのお給料 大学によって、residentのお給料は様々です。私のお給料は、月3000ドルほど(年間36,000ドル)です。このお給料は、他の大学に比べると平均からやや低めかと思います。 大学が位置する州によって、全ての物価が高いので、賃金も高かったりもします。しかし、レジデントという立場上、40,000ドルを超えることは稀なのではないかと思います。 お給料は、マッチングの際のVIRMPのページに、年間の有給などと合わせて記載があります。マッチングをしている時は、お給料など特にランクに影響するものではないと思っていて、あまり気にしていませんでしたが、家族を養わなければいけない場合などは、ランクに関わる重要な要素になるのかと思います。 その他の収入 ありがたいことに、私の大学では、祝日出勤する場合に手当てがでます。(今まで働いたことのある他の大学ではこの様なシステムはありませんでした) 病院のシステム上、金曜日にきた患者さんは、週末に各科に転科することができないため、週末はERがinpatient care(基本的にサポーティブケアのみ)を行い、月曜日に、専門科に転科が行われます。 このERのinpatient careは、大学のインターンやレジデントが、アルバイトとして行うものです。7:30-17:30の10時間で700ドルのアルバイト料がもらえます。 入院患者数や、重症度によって、どのくらい仕事が大変になるか異なりますが、基本的に18時くらいには帰れることが多いので、貧乏レジデントにはかなりありがたいポジションになります。 このアルバイトのポジションがある大学で働いたのは今年が初めてで、今までの大学では特にこの様なシステムはありませんでした。 税金やら健康保険やら 思い出すと気が重くなるお金の話ですが、私の大学は毎月お給料からbenefit(健康保険や積立貯金など)が差し引かれます。なので、自分の手取りは月収-税金-健康保険(パーキング代)、ということになります。 私が加入した健康保険は、オプションの中で最もグレードの高いものです。それで月約200ドルほどです。 これらのお金が差し引かれて、毎月手取りで2.000ドル(アルバイトの稼ぎを含めず)はもらえることになります。 私は、資金調達のためにアルバイトになるべく入る様にしているため、月2-3回のアルバイト(1.400-2.100ドル)ほどのプラスアルファがあります。これも税金で持っていかれるので、最終的な毎月の手取りは3,300-3,900ドルほどです。 生活費 アメリカ にきて3年目になりますが、生活費が毎年どんどん上がって行っています。もちろん、シェアハウスをしていた1年目は家賃や光熱費が非常に安く済みました。そして2年目もそこそこ家賃が安い地域だったので、毎月少しずつ貯金もでき、お金に困ることはあまりありませんでした。 今年、生活費が爆あがりしたのは、家賃が一気に上がったこと、車の保険の値段が一気に上がったことです。 家賃は不運なことに、私が引越し先を探した時が最も高くなっていた頃で、静かな地域で選んだところどう頑張って探しても1,000ドル以下のところはみつけられませんでした。よって、今の家賃は1,030ドルです。家賃はタイミングによっても(毎日の様に)大きく変動します。1月に退去する人の部屋のリースで、私と同じ部屋のを探してみたところ、最安で830ドルになっていました。 リース(契約)の期間は7月からの1年間ですが、解約金600ドルを払うことで、アパート内でのtransfer(部屋を変更)することができます。例えば、私が830ドルの部屋に引っ越したい、ということであれば、600ドルを支払い、1月から引っ越すことができるのです。1ヶ月に200ドルの違いがあるので、600ドルを支払ってでも引っ越した方がお得になります。 友人のレジデントは2ベッドルームをシェアハウスして、大学から車で6分のところに600ドル+光熱費で過ごしているそうです。 そして、光熱費(月によって大きく異なりますが)今のところ月約100ドルほどです。水道代が30-40ドルほど。wifiが60ドル。 そして大幅に変わったのが車の保険料です。車の保険料は、州によって最低料金が異なり、私が暮らす州は車の事故が非常に多いこと、車の保険を持っていない人が多いことから、アメリカ1車の保険料が高い州、と知られています。私が支払っている保険料はずばり月額250ドルです。(去年は同じ値段で半年分でした) ガソリン代や、車のメンテナンスにかかる費用もバカになりません。 食費に関しては、1週間100ドルほど、グローセリーに使っているのではないかと思います。基本的に外食は控えていますが、外食の値段も2020年に比較すると上がっていて、30ドルは簡単につかうことになるので、特別な日のみに行く様に心がけています。 大きな出費 年間を通して大きな出費があるとしたら、私の場合以下になります。 カンファレンスは年に一度必須でいかなければいけないので、避けては通れません。大学からある程度の補助が出ますが、話に聞くところ、例えば遠い州に飛行機で行って、数日間ホテルに宿泊するプランだった場合でも、最高500ドルほどの補助が最高額になるため、完全に補助に頼りきれるわけではありません。(飛行機代だけで500ドルほどかかることが多いです) 車のメンテナンス(修理も含む)は、意外に毎年大きな額を支払っています。私は2020年に、2015年の車を12,000ドル(当時は1ドル110円弱)ほどで中古で購入しましたが、修理や登録に毎年500-600ドル以上の出費があります。 州をまたぐ引越しの際に、車の登録を行います。これも州によってややこしいのですが、登録料に加えて車の値段の数%(2%ほど)税金を支払わなければいけないのです。州によって毎年。私の週は1度支払えばそれっきりですが、400ドルほどの支払いになりました。 1年目にはトランスミッションの交換(1500ドルほど)が必要、2年目には1つのタイヤがパンクし交換(150ドルほど)、3年目には全てのタイヤを交換(600ドルほど)かかっています。わりといい状態で購入した車でも、この様に大きな出費が必要になることが多々あります。 おわりに アメリカで生活するにあたって、お金の問題は避けては通れません。どの様にしてお金の工面をしましたか?というご質問を受けることがあります。初期費用(日本からアメリカ渡航、腰を据えるまで)は日本で働いて貯めた貯金を使い、働き始めたらなんとか生きていけるだけの収入はもらえる、というのが私の答えです。私は、中古車の購入なども含め、初期費用に20,000ドルほど必要でした。 最初はお給料が出るポジションにつくのが大変かもしれません。しかし、一度インターン、レジデントで月2,000ドルほどもらえる様になれば、なんとかなります。新しいことに挑戦するのは不安が伴います。このブログを通して、「実際どうなの?」というところに突っ込んで、皆さんのモヤモヤして不安な部分を解消できたらと思っています。ご質問があればメールをお待ちしています!

  • 凝固検査の基礎知識

    凝固検査の基礎知識

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 凝固検査にはさまざまな種類があり、それぞれの検査で凝固系の何をみているかが異なります。この記事では、凝固系の基礎を理解した上で、凝固検査の意義について解説していきます。 少し発展の内容になりますが、Viscoelastic test(TEG, ROTEM, VCMなどの検査)については以下の記事で解説しているのでご覧ください。 凝固系の基礎 まずは、凝固系の異常を評価する際に、理解しておかなければならない3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)について解説します。 一次止血 一次止血とは、血小板が小さな血管の損傷を埋めるフェーズです。 この段階でできる血栓は、フィブリンによる強固が行われていないため、非常に脆いです。この脆い血栓を強固にするのが二次止血のフェーズになります。 一次止血の異常は大きく二つに分類することができ、一つは血小板数の減少、もう一つは血小板の機能不全です。血小板減少の原因は、骨髄による産生低下、出血による喪失、血管の損傷による消費、免疫介在性疾患の様な破壊、に分類されます。機能不全は、遺伝性疾患、NSAIDs中毒、人工コロイドの投与などが挙げられます。 一次止血がうまくいかないと、どのような臨床症状や徴候が現れるでしょうか。小さな血管の損傷を修復することができないため、点状出血が一般的な身体検査所見になります。 二次止血 二次止血は、血小板によってできた脆い血栓をフィブリン重合によって強化するフェーズです。ここでは凝固因子が活躍します。内因系、外因系のY字の凝固因子活性のカスケードによって、最終的にフィブリノーゲンがフィブリンになり、血栓を強固にします。 一次止血異常でみられた点状出血に対して、二次止血異常では皮下出血(bruising)や血胸、血腹といった大きな出血が見られることが一般的です。一次止血が正常である限り、微小出血のコントロールは可能なため、点状出血は起こらず、それ以上の大きな血管の欠損に対して止血ができなくなるというメカニズムです。 この写真は、アナフィラキシーショックによって凝固異常が起こり、PT, PTTの重度な延長が見られた症例です。サンプリングラインの周囲で激しい皮下出血がみられました。点状出血とは違い、アザの様な見た目になります。 線溶系 線溶系は、上記の止血過程で作られた血栓を溶解する工程です。作られた血栓はいつまでも血管にへばりついているわけにはいかないため、溶解される必要があります。 プラスミンという血栓溶解酵素が、フィブリンを分解することで血栓が溶解します。 線溶系の機能低下によって、血栓傾向になります。その反対に、線溶系の亢進によって出血傾向になります。 線溶系亢進は外傷や、重度の炎症、DICなどの病態で起こることがあります。血小板数、血小板の機能、そして凝固因子の定量的な異常がないにもかかわらず出血傾向を示す場合に疑われる病態です。 凝固異常の病態 凝固異常といったときに、どの様な病気や病態が挙げられるでしょうか。 血液中に足りない成分、そして凝固亢進する状況及び線溶系が亢進する状況を想像してみましょう。 従来の凝固検査 私は、獣医新人時代、出血傾向=とりあえずPT, APTT!という考えをしていました。凝固系の病態をよく理解していなかったこともあり、嫌いな分野でした。しかし、病態をしっかり考えれば、どの様な検査が必要で、どんな治療が必要かが明瞭になることがわかったので、今はそれほど凝固系疾患が恐ろしくなくなりました。 では、従来の凝固検査にはどの様なものがあるでしょうか。そして、それらの検査ではどの様な病態が検出できるでしょうか。 出血傾向の場合 血栓傾向の場合 従来の検査の限界 上記の検査では説明のつかない出血に関しては、結局診断がお蔵入りになってしまいます。 この従来の検査の弱点を補うのが、Viscoelastic testや血小板機能検査(PFA100など)になります。これらの比較的新しい凝固検査では、凝固の3つのフェーズを評価することが可能になります。 これによって、血小板を補えばいいのか、凝固因子を補うべきか、それとも線溶系を抑制するべきなのか、という方向性が決まります。 まとめ この記事では、凝固系の基礎と、検査の意義について解説しました。凝固不全の原因を、適切な検査によって見極めることで、治療方針が明確に立てられます。凝固系についてもっと深く勉強したいという方はこちらの記事も併せてご覧ください。

  • 凝固系検査・Viscoelastic coagulation test

    凝固系検査・Viscoelastic coagulation test

    はじめに この記事では、Viscoelastic coagulation testについての解説をしていきます。 この検査は、凝固系の3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)を反映してくれる、素晴らしい検査です。TEG, ROTEM, VCMなどの様々な検査機器に反映されますが、原理は同じなので、この記事で原理、及び汎用性についてご紹介したいと思います。 どれくらいメジャーな検査か 日本では、この検査について聞いたことがありませんでした。 アメリカでも、一般の動物病院にはないと思いますが、今まで働いた3つのアメリカの大学病院では、ラボやPOC(Point of Care)で測定することができました。こちらでは、メジャーな検査の様です。 どんな検査か Viscoelastic coagulation testは、凝固系機能を計測する血液検査です。 一番の特徴は、この検査一つで、血液凝固の3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)を反映してくれます。 例えば、日本では出血傾向のある患者さんをみた場合、凝固系パネルといって、PT, APTTを測定することがメジャーです。PT, APTTが教えてくれる情報は、凝固因子が十分あるかないか、ということです。なので、除外できる病気としては、殺鼠剤中毒(PTの重度な上昇)、肝不全によるビタミンK依存性凝固因子の枯渇などがあります。 これ以上の情報、例えば、血小板の機能異常(NSAIDs, 高窒素血症など)、線溶系亢進(外傷性凝固異常、DIC、ヘビ毒など)による出血かどうかはわからないということです。 血液凝固の3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)が測定できるというメリットは、PT, APTTだけでは検出できない病態を検出することができるという点です。 凝固系の基礎 この検査の特徴を理解するためには、凝固系の病態生理学の知識が必要です。 何度も出てきている様に、凝固系には3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)があります。まずは止血に関する一次止血、二次止血を見ていきましょう。 一次止血 一次止血とは、血管に損傷が起こったときに血小板が小さな損傷を埋めるフェーズです。 この段階でできる血栓は、フィブリンによる強固が行われていないため、非常に脆いです。この脆い血栓を強固にするのが二次止血のフェーズになります。 一次止血の異常は大きく二つに分類することができ、一つは血小板数の減少、もう一つは血小板の機能不全です。血小板減少の原因は、骨髄による産生低下、出血による喪失、血管の損傷による消費、免疫介在性疾患の様な破壊、に分類されます。機能不全は、遺伝性疾患、NSAIDs中毒などが挙げられます。 一次止血がうまくいかないと、どんな臨床症状や徴候が現れるでしょうか。小さな血管の損傷を修復することができないため、点状出血が一般的な身体検査所見になります。 二次止血 二次止血は、血小板によってできた脆い血栓をフィブリン重合によって強化するフェーズです。ここでは凝固因子が活躍します。内因系、外因系のY字の凝固因子活性のカスケードによって、最終的にフィブリノーゲンがフィブリンになり、血栓を強固にします。 一次止血異常でみられた点状出血に対して、二次止血異常では皮下出血(bruising)といった大きな出血が見られることが一般的です。一次止血が正常である限り、微小出血のコントロールは可能なため、点状出血は起こらず、それ以上の大きな血管の欠損に対して止血ができなくなるというメカニズムです。 この写真は、アナフィラキシーショックによって凝固異常が起こり、PT, PTTの重度な延長が見られた症例です。サンプリングラインの周囲で激しい皮下出血がみられました。点状出血とは違い、アザの様な見た目になります。 線溶系 線溶系は、上記の止血過程で作られた血栓を溶解する工程です。 線溶系の機能低下によって、血栓傾向になります。その反対に、線溶系の亢進によって出血傾向になります。 線溶系亢進は外傷や、重度の炎症、DICなどの病態で起こることがあります。血小板数、血小板の機能、そして凝固因子の定量的な異常がないにもかかわらず出血傾向を示す場合に疑われます。 従来の凝固検査 従来の凝固検査にはどの様なものがあり、どの様な病態が検出できるでしょうか。 出血傾向の場合 血栓傾向の場合 従来の検査では検出できない病態 この従来の検査の弱点を補うのが、Viscoelastic testになります。 Viscoelastic test 血液が凝固、線溶するにつれて粘弾性が変化することを利用した凝固検査の機械になります。Viscoelasticityとは、日本語で粘弾性という意味です。 液体が固体になるときに粘性が増し、固形から液体に戻る際に弾力が落ちます。 Viscoelastic testのうちの一つであるTEGという機械と、その構造が以下になります。原理がわからないとよくわからない波として出てくる結果が、なんだか恐ろしいですが、しっかり原理を理解すれば、案外とてもシンプルな検査なのです。わかりやすくシンプルに解説していきます。 原理…

  • 凝固系発展編①(勉強会の構成)

    凝固系発展編①(勉強会の構成)

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、凝固系をがっつり学びたいという方に向けて、ECCレジデントがどのような勉強をしているかをご紹介します。 勉強会 大学のプログラムによって、didactic(教科書の読み合わせやジャーナルクラブなどの勉強会)の質やfacultyの力の入れ具合が大きく異なります。 didacticに力を入れている大学では、大量の宿題(論文や教科書を読んでくる)が出され、毎週の様にテストをして、レジデントの理解を問うために、みんなの前でホワイトボードを使って説明させる、ということが行われているそうです。 今月、ローカムの先生が3週間、一緒に働いてくれた際に、先生がどんなトレーニングを受けたか、試験勉強に向けてどんな勉強法をしてきたかを教えて頂きました。このローカムの先生が修了されたレジデントプログラムは、didacticに非常に力を入れていたようで、私たちにそれを再現する様に、凝固系ブートキャンプの様なエクササイズをして頂きました。 ECCの専門医試験の頻出の分野、凝固系は、なんといっても覚えることが山ほどあり、そして非常に複雑なのです。この記事では、このブートキャンプで行った内容の、cell based model coagulationについてご紹介していきます。ちなみにこのモデルを理解することは、専門医試験をパスするのに非常重要なのです。 Cell based model of coagulationとは まずはcell based model of coagulationとはなんぞや、ということです。これは、古典的な内因系、外因系にくっきりと区別された二次止血の原理だけでは説明がつかない凝固系の反応をより、詳細に説明をつけたモデルになります。 内因系、外因系の概念が根本から覆されたわけではなく、あくまで内因系、外因系が独立して起こっているものではなく、血小板の細胞膜の反応も併せて、関与し合って凝固が成立するということを表しています。 なんのこっちゃわからないかもしれないので、軽い例をあげるとするならば、外因系で組織因子と凝固第七因子から始まり、FXを活性化するということが古典的な外因系の説明です。一方、cell based modelの場合は、始まりは同様ですが、ここから少量のトロンビンが活性化され、トロンビンが血小板、FV、FVIII、そしてFIXを介してFXIを活性化することで、内因系のカスケードが回り始めることになり、そして血小板の活性によってそのスピードが1,000倍にも増すということが明らかになっています。 この複雑な絡み合いを、説明したものがcell based model of coagulationということです。 参考 まずこの概念を理解するのに、かなりの時間を要しました。そして、以前働いていた大学の課題で、このレビューを読んだことがありました。2009年のレビューが、今でも重要参考文献として使用されています。 インターンの頃、まず文字で全てを理解するのは不可能でした。Youtubeをあさっても、cell based modelについて詳しく説明したものがうまく見つかりませんでした。そこで、理解をあやふやにしたまま放置していましたが、レジデントになった今、もう放置はできない状況になってしまったのです。 今回の見方は、こちらのコーネル大学が出している、Video on Demandの授業になります。これは、クリティカリストがボランティアで様々な分野をプレゼンテーションしてくれるというものです。 Cell based modelに関した、Dr. Thomovskyの動画が非常に役に立ったため、参考にしてみてください。 https://vod.video.cornell.edu/media/CoagulationA+ACVECC+Exam+Webinar+July+10%2C+2019/0_cgdrjrqj/122121141 ブートキャンプ内容 primary hemostasis, secondary hemostasis, fibrinolysis, coagulation monitoringという分野をカバーしました。 2週間前に、課題である論文や教科書のチャプターが割り当てられ、与えられた分野を解説することが宿題となりました。自分のパートだけならまだしも、全ての分野を網羅しようと思うと、非常に量が多く、かなりしんどかったです。 1日2時間程度使い、初日にprimary hemostasisとsecondary hemostasisをカバー、二日目に、cell…

  • ローカムの先生(気になるお給料からメリットデメリットまで)

    ローカムの先生(気になるお給料からメリットデメリットまで)

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 実際レジデントって何をしているの?3年間アメリカの大学病院でどう過ごすの?といった疑問を持たれている方から、留学するつもりはないけど、アメリカの獣医生活に興味がある方まで、少しでもお力になれればと思っています。 『ローカム』とは、アメリカで常勤ではないけれども獣医師のポジションを埋めるように、非常勤で働くポジションのことを指します。ローカムの先生と働く機会があったため、ローカムについて質問してみたので、この記事でまとめていこうと思います。 ローカムの先生 ローカムとは、派遣型のドクターのことを指します。ラテン語の #8220;locum tenens#8221;「代替」から、代替医師を意味します。具体的にどんな役割かというと、常勤の先生の穴を埋めるような役割です。 例えば、私の大学病院には2人のfacultyが常勤で働いていますが、1人のfacultyはマタニティリーブで長期の休みに入ることになります。レジデントのプログラムには、最低2人の専門医が必要になります。そして、レジデントである私たちが、この期間ECCで働きました、という証明を専門医がしなければならないのです。 プログラムの存続のためには専門医がその穴を埋める必要があるのです。それの穴を埋めるのがローカムの仕事になります。このような状況はどこの大学、私営/企業病院でも起こりうるため、ACVECCのオンラインサイトに、ECC専門医のローカムの募集要項が掲載されます。 別の大学のfacultyがオフクリニックやバケーションを使って、1週間から数ヶ月の期間ローカムや、フリーランスという形で働いている専門医が働きに来たりします。ECCだけでなく、他の科でもローカムが働いていることはよく見かけます。特に私が働く病院では多い様に思います。 10月に、出産準備に入る専門医の先生の休み期間を埋めるために、4週間、ECCに2人のローカムが働きに来てくれたので、その経験と、その先生から伺ったローカムのあれこれをご紹介します。 気になるお給料 専門医が1日いくらで働いているか、年収がいくらかは生々しい話ですが気になるところです。2022年現在、円安が進み、1ドル151円です。 ローカムの雇用形態は場所によって異なります。大学から支払われるお給料は、私営/企業病院よりもかなり安いと言われています。交通費、宿泊費は出ないところが多いそうです。 私の大学では、ローカム1日に1,400ドル(211,400円)支払っている様です。そして、週末のオンコールは一日1,000ドル(151,000円)。オンコールで大学に呼び出されることは稀です。常に電話にでる準備をしておくこと、そして万が一呼び出された時に出てこられるような場所にいることが原則となります。 そして、私営/企業病院では、ピンキリですが、大体の場所で交通費や滞在費が賄われ、お給料がいいところでは一日約2,200ドル(332,200円)と聞きました。実際に働いた時の仕事内容は、契約時に交渉するようです。 ローカムのメリット ローカムで働く魅力をご紹介します。私が特にいいなと感じたのは、スケジュールを自由に組めるということです。全ての働き方を自分で決めれるので、休みたい時は好きなだけ休むことができるのです。 私は、人生で最も大切なのは時間だと思っています。その時間を自分でマネージメントできる素晴らしさは、ローカムならではなのではと感じます。 そして、もう一つの魅力は大学や私営/企業病院のマネージメントに影響を受けないということです。大学であれば、その科を統括する必要があります。例えば、レジデントやインターンのスケジュール管理、スタッフの教育など。そして度重なるミーティングに加え、学生へのレクチャー、研究などもfacultyの仕事になります。 私営/企業病院では、売り上げを伸ばすことが軸にあるため、売上高に応じてお給料や昇給が決まるそうです。そして売り上げが伸びないと、専門医であっても、一般獣医師とお給料が同じくらいになってしまうこともあるそうです。ECCは少なくとも、売り上げで力量が測れる科ではないので、この方針に私は強く違和感を覚えますが、現実問題このような病院がたくさんあるそうです。ローカムをすることで、自分にあったマネージメントの病院を選べることになります。 ローカムのデメリット 最初のシステムの立ち上げまでが大変なのではないかと思います。個人経営者になって、全ての税金や契約、スケジュールを管理しなければならないため、時間は自由にコントロールできる反面、そのための仕事量は増えます。 クリティカリスト(ECC専門医)は基本的にはERと重症患者を診れるようになるトレーニングを受けています。ACVECCの要項に緊急手術や内視鏡などの技術習得は含まれていません。私のようにアカデミア(大学)でレジデンシーをした場合、他の科のサービスが充実しているため、ECCレジデントが外科手術や内視鏡のスキルを身につけるチャンスはありません。 このクリティカリストという概念がアメリカでも浸透しきっていないようで、面接にいくと、ECC専門になのに緊急手術できないの?内視鏡もできないの?と言われることも多々あると聞きました。 また、現在ローカムの需要は大きいですが、この需要がいつまでも続くとは限りません。今まで短期雇用でローカムを募集していた病院が、長期的に人を雇用すればローカムの出番はなくなります。居心地の良い病院ほど、欠員はすぐに埋まっていくはずです。このように雇用が永続的ではないことはローカムのデメリットと言えます。 最後に、獣医師業界は狭いので、一度悪い評判が流れてしまうと、あっという間に広まります。ローカムをする上で、対人関係が非常に重要になってくるので、悪い評判が立たないように気を使って臨む必要があります。 ローカムの先生と一緒に働いてみて ここからは、実際にローカムの先生(A先生)と一緒にお仕事をさせて頂いた感想を書きます。A先生は3年前にECCのレジデントプログラムを修了され、専門医試験に合格し、現在ローカムとして様々な大学や一般病院で働かれています。 A先生が経験したレジデントのプログラムは、メンターシップが非常に強く、専門医試験のためのレクチャーやジャーナルクラブに、facultyが率先して参加していたそうです。時に非常に厳しい教育を受けていた、と言っていました。 A先生にとって、教育は自分が受けてきたような、しっかりとしたメンターシップで行うべきだ、という意識が強いようで私たち、レジデントの面倒を一生懸命見てくださいました。 私たちは週に一度、facultyとresidentが集まり、ジャーナルクラブとブッククラブを行っていますが、その進め方はA先生の大学では大きく異なっていたようです。教科書のチャプターをresidentが割り当てられ、みんなの前で説明する。それをfacultyが聞いて、間違いを指摘したり新たな質問をぶつけたりと、毎週緊張感のあるテストのようだったそうです。 私たち、residentのリクエストに答え、A先生は先生が受けてきたトレーニングに似たような形で私たちに時間を使って教えてくれました。もちろん、専門医試験に必要な知識は、ベーシックな生理学であることが多いため、普段の診察で思い出しもしないであろうことばかりです。A先生は私たちのために、その分野を勉強し直し、プレゼンテーションまで準備してきてくれたのです。 A先生から学んだことは、以下の記事でご紹介しています。 私たちは熱心なA先生に非常に感謝しました。そして、今回きりでなく、ZOOMのミーティングを通して、継続的にこのような勉強会を開いても良いよとオファーしてくれたのです。 一気にA先生の虜になった私たちは、A先生がまたローカムに来てくれるのを待ちわびているのです。 おわりに この記事では、ローカムの先生と4週間一緒に働かせてもらい、いろいろなお話を聞かせてもらえたのでまとめてみました。 このように、大学病院と私営/企業病院でこんなにもお給料に違いがあるのに、どうしてあえて大学病院でも働くの?と聞いてみたところ、やはり学生に教えるのが好き、レジデントとのディスカッションしている間に情報がアップデートされるのが好き、という教育や学習へのモチベーションがあるようでした。 アメリカでの獣医師の初任給(一般獣医師)は、100,000-120,000ドルが一般的と聞いたことがあります(しかも週休3日)。ローカムで働くメリット、デメリットを考えたときに、どちらが良いかは、人によって異なると思います。これらの選択肢があることを知って、自分なりの選択肢ができるのは素晴らしいことだと思います。