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【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!
この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。
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【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気
【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m
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犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…
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トピックラウンドをするときの準備/アメリカ獣医レジデント備忘録
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2022年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデント1年目をしています。 研修医をすると、避けては通れないのが学生へのラウンドです。自分の知識があやふやだと、学生へ教えることもできないので、しっかりと準備をしていく様にしています。この記事では、学生へのトピックラウンドでどの様に教えるか、また何を準備していくかについてご紹介します。 エマージェンシー科でのトピックラウンド Emergencyで必要な知識を教えることになります。テーマは学生のリクエストに答える形が多いのですが、必ずやるテーマは「ショック」「CPR」「AFAST, TFAST」「輸液」です。 これらに加え、「呼吸器のエマージェンシー」「輸血」「GDV」「尿道閉塞」などの来院した患者さんに関する内容をカバーします。 学生が、例えばアフィラキシーショックの症例を先日みたから、知識を確認したい!とリクエストした場合、リクエストに答えます。 たまに学生にDICについて、とリクエストされたりするのですが、より基本的なことがわかっていない可能性が高いので、あまりレベルの高すぎる内容は控える様にしています。 マストなトピック 「ショック」「CPR」「AFAST, TFAST」「輸液」に関しては、自分がここまでは理解した上で卒業して獣医師を始めてほしい、という内容を教えます。 私が学生に、Emergencyのローテーションを終わる前に絶対にマスターしておいて欲しいことは、ショックを見極めること、安定化です。 2週間Emergencyで働いたのにも関わらず、この患者さんがショック?と質問した時に答えられない学生を見ると自分がいい仕事できなかったな、と自分をくやしくなります。 なので2週間のローテーションのうちの速い段階で、ショックについてのラウンドを行い、エマージェンシーの患者さんが来るたびに、「この患者さんはショック?」と質問する様にしています。 何度もやっているうちにできる様になってくることが多いので、反復練習が重要です。 学生からリクエストされるトピック 毎回必ずやるトピックに関しては、自分の中である程度流れができているため、特に準備はいりませんが、まだやったことのないトピックに関しては、準備をして望みます。 ここからはどの様に準備して、どの様にトピックラウンドをリードするかをご紹介します。 以下の内容をiPadに書き出します。 輸血製剤の適応(どんな時にどんな輸血が必要か)のトピックラウンドを最近行ったので例を示します。 輸血製剤の適応(どんな時にどんな輸血が必要か) 自分の中の構成としては 以下のノートは、以前、輸血についてのラウンドを頼まれた日の前日に作った①についての「チートシート」です。 血液に含まれる成分を全て挙げる 血液の中の成分と、それを補うためにはどんな血液製剤が使用できるかを書いたものです。 話していると自分でも混乱してくることがあるので、それを防ぐために必要な情報を書き出しておきます。こうすることで自分のあやふやだった知識をも確認することができます。 例題 実際にこんな症例がきた場合、この患者さんに輸血は必要か?何の輸血製剤を選択するか?というクイズです。その場でうまい問題と答えを考えるのは難しいので、予め作っていきました。勢いのある学生チームだったので、結構盛り上がりました。 計算方法 輸血をどれだけ入れるかという計算方法を教えます。私のレクチャーで数値を覚えてもらう、というよりは、この様な計算方法ということがある、と理解してもらうのが大事だと思いました。 最後に、輸血をどのくらい入れるかの式を入れ、実際に10 kgの患者さんに入れるとしたら?という例を出してみんなで計算しました。 学生の反応 学生の知識のレベルによって、反応が大きく異なるので、同じことをやってもポカンとされることもあれば、白熱することもあります。学生の反応を見つつ、レクチャーを軌道修正していく力が必要になっていくのだと感じました。 まとめ この記事では、トピックラウンドとはどの様なものか、そしてリードをとる自分がどの様に準備をしているか具体的にご紹介しました。 この様な少人数のディスカッションの場は、学生に取ってもとてもいい勉強の機会になります。勉強意欲のある学生を相手にするのはとても楽しいので、私も準備に気合が入ります。 一度このようなものを作ってしまえば、次回学生からのリクエストで同じようなものがあったときに活用できるため、3年間かけて作り貯めることができたらいいなと思っています。
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アメリカ小動物 救急集中治療レジデントプログラムの内容
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2022年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためにはどの様なトレーニングが必要かご紹介します。3年間、具体的にどの様なことをしているか、興味のある方への記事になります。 ECCレジデントプログラムの内容 ECCのレジデントは3年間の研修医プログラムになります。3年間のうちに、ACVECC(American College of Veterinary Emergency and Critical Care)というアメリカのECC協会が決めた水準に満たすようなトレーニングを受けます。その水準を満たすことで、3年後の専門医試験で試験会場に着席できることになります。そして試験に合格すれば晴れて専門医の資格を獲得することができます。 ACVECCに登録されたレジデントは、ACVECCの公式サイトのログインアカウントを持つことになります。そのページに、3年間で必須となるトレーニングを記録していくことになります。 専門医試験を受けるために必要な要件 これが先ほどの3年間のレジデントトレーニングで、専門医試験を受けるための必須条件です。 このトレーニングでは、日々コツコツとやらなければいけないことが大きく4つあります。ローテーション、セミナーへの参加、講習の受講、教育から構成されます。 他の科へのローテーション ローテーションというのは、ECC、麻酔科、外科、内科、眼科、神経科、画像科で何週間、専門医の下で働かなければいけないという要件です。ECCは特に、様々な分野におよぶ知識が必要になるので、様々な科をローテーティングすることになります。 セミナー セミナーとはジャーナルクラブ、ブックリーディング、レジデントが週に一度行うプレゼンテーション、血液ガストレーニングなど、専門医が開催するディスカッションの場です。1年間に100時間参加する必要があります。 講習の受講 講習の受講とは、IVECCSやACVIMなどのカンファレンスで、野外で行われている学会への参加、聴講です。 教育 最後に教育とは、プレゼンテーションに加え、学生にレクチャーやウェットラボをすることです。 この4つの他に、研究分野にも取り組む必要があります。要件は、試験を受ける前に、レジデント期間中に論文が1本Acceptされていることです。 その他の活動 大学病院の仕事 日々の診察(ERやCritical Care)で、飼い主さんと話したり、インターンや学生に教育をすることが含まれます。そして専門医であるファカルティと毎日ディスカッションをします。 症例から学ぶ 症例やプレゼンテーションのために、論文をあさったり教科書を読み知識を深める時間はレジデントをする中で非常に重要な時間です。日々の診察を振り返って、最新の知見をリサーチを日常的に行っています。 カウントダウン 3年間のレジデント生活を記録するためのブログのページを作りました。3年間なので、36ヶ月をカウントダウンし、1ヶ月ごとにどんなことがあったかをダイジェストします。 面白かった症例や、学んだことなどをシェアしていきたいと思っています。1ヶ月に1度更新する予定なので、ぜひご覧ください! まとめ この記事では、ECCのレジデントプログラムにどの様なレーニングが含まれているかをご紹介しました。ECCに興味のある方、レジデント生活に興味がある方、専門医を目指している方に役立つ情報を発信していけたらと思っています。
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英語の教科書王道を紹介します/アメリカ獣医大学で学ぶ
はじめに 私は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2021年現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、アメリカの獣医大学でバイブルの様に使われている教科書をご紹介します。本の存在を知っているだけで、本当に興味が出たときに簡単に電子書籍を購入できる時代です。ぜひ検索ツールとしてご活用ください。 バイブルのような教科書たち 私のおすすめの教科書たちをご紹介していきます。教科書と論文、雑誌の使い分けに関してはこちらの記事もご覧ください。 科目ごとにどんな本があるかを知っておくと役に立つと思うので目を通してみてください。 エマージェンシー Small Animal Critical Care Medicine2nd Edition この本は、エマージェンシーとICUケアに関する重要な情報が、病態から臨床的なことまでわかりやすく載っている本です。救急集中治療専門医試験もこの本から出題されることが多いのです。この第二版は2014年に発行されていますが、2022年の今でも何かを調べる時はまずこの本に手が出ます。 ECCに興味がある方はこの本でどこにどんなことが書いてあるかを把握しておくと、実臨床で非常に役立つと思います。 Textbook of Small Animal Emergency Medicine1st Edition 2018年に発行されたECCの本です。この本もSmall Animal Critical Care Medicineと同様によく手に取られる本です。内容はほとんど同じですが、Small Animal Critical Care Medicineに載ってない内容がこっちに載っていることがあります。 そして、Small Animal Critical Care Medicineよりも新しいことが特徴です。 輸液/電解質異常 Fluid, Electrolyte, and Acid-Base Disorders in Small Animal Practice (Fluid Therapy In Small Animal Practice)4th Edition エマージェンシーやICUの輸液管理、もしくは電解質異常の疑問はこの本で解決できることが多いです。内容は難易度が高い部分もありますが、生理学が詳しく載っているので重宝しています。また、臨床に活用できる情報も十分載っています。 2011年に発行された第4版が2022年現在での最新版なので、やや古いですが、基礎を学ぶにはとても良い本です。…
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アメリカ獣医大学で働く動物看護師さんの仕事
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2022年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデント(研修医)をしています。 この記事では、アメリカ獣医大学における、看護師さんの仕事についてご紹介します。アメリカで看護師さんになるにはどんな資格があるか、アメリカの獣医大学にはどんなポジションがあるのか、看護師さんは一般的にどんなスキルを持っているか、に興味がある方を対象に書いた記事です。 アメリカの看護師さんは、獣医学部4年生に教えることも仕事のうちの一つにです。学生がどの様なことに興味がある方は是非こちらの記事もあわせてご覧ください。 アメリカ獣医大学病院の専門科 アメリカ獣医大学は、スペシャリティホスピタル(専門科が集まる病院)とも言われる様に、様々な科にそれぞれの専門医が働いています。 人医療の、総合病院をイメージしてもらうとわかりやすいでしょうか。専門医や研修医が、それぞれの専門の科で働くのと同様、看護師さんも所属する科を決めます。 アメリカの大学病院には、どの様な科があるか、以下に示します。 このうち、上から12(画像科)までは看護師さんの専門家ライセンスがあります。こちらの記事をご覧ください。 Veterinary technicianとVeterinary assistantの違い 日本では、「看護師さん」と一括りにされている職業ですが、アメリカでは、Veterinary technician(テクニシャン:技術者)とVeterinary assistant(アシスタント:助手)に分かれています。 AVMAアメリカの獣医非営利団体のホームページに、テクニシャンとアシスタントの違いが描かれています。 テクニシャン:Veterinary technician テクニシャンは獣医師の監督下で様々な医療行為を行うことができます。テクニシャンになるには、ライセンスが必要です。ライセンスを取得するには、高校卒業後の2-4年間の准学士号もしくは学士号の学位が必要になり、試験に合格する必要があります。 そしてライセンスを取得した後も、ライセンス維持のためには、最新の獣医学をアップデートしていると言う証明のために、セミナーの受講などが必須になります。 アメリカに来て1年目の研修医をしていた頃は、このライセンスを持っているテクニシャンが1人しかいませんでした。忙しいエマージェンシーの科では、テクニシャンが即戦力になるため、常にこのポジションで働く看護師さんを募集していました。 アシスタントとして働きながらテクニシャンの資格を取ろうと頑張っている看護師さんもたくさんいました。それだけテクニシャンの需要が大きいということです。 アシスタント:Veterinary Assistant アシスタントは主に患者さんの保定やケージの掃除などがメインの仕事になります。看護師国家資格が始まる前の日本の看護師さんの仕事に近いイメージです。 州によって、アシスタントがどこまでしていいか、というルールの厳しさが異なります。ある州ではアシスタントは大概のことを行なっていたため、私からしたら誰がテクニシャン誰がアシスタントかわからない、という経験もしました。ある州では、ルールがすごく厳しく、アシスタントはABCの仕事はできないので、研修医はアシスタントに頼んだらダメ、と言われていました。 アメリカ獣医大学におけるテクニシャンの配属 それぞれの科に、テクニシャンが働いています。ポジションの数は大学や科によって異なりますが、内科、外科、画像科などには2人ほど常勤で働いていることが一般的です。一方、麻酔科はマンパワーが必要になるので、多くのテクニシャンが働いています。 実際の選考方法は大学によって異なりますが、一般的にはポジションに空きがあれば、希望が通りやすそうです。専門の科への専属を決める前に、「フローター」と言って、様々な科をローテーションするポジションもあります。ある程度経験を積んだら、興味のある分野の専属になるのです。 エマージェンシーは、看護師さんのトレーニングにもうってつけの場所になるため、フローターがたくさん働く科でもあります。一度所属したら、そこで必要な知識や技術をひたすら学ぶことになります。 その科に専属で働くテクニシャンは、獣医師とも良好な関係を保っていることが多く、長く働ける環境の様です。50歳、60歳近くになってもテクニシャンとしてバリバリ働いている女性はたくさんいます。 アシスタントには若い女性が多いです。テクニシャンは、男性よりも女性の方が多いですが、男性のテクニシャンも珍しくありません。そして、テクニシャンの平均年齢はアシスタントよりも高い様に思われます。(2022年現在) テクニシャンの仕事 専属する科によって、看護師さんの仕事は異なりますが、基本的には患者さんの保定はもちろんのこと、採血、穿刺採尿、静脈留置、入院管理などの基本的な手技はテクニシャンの仕事です。 獣医大学病院では、患者さんの治療方針を決定すること、そしてそのプロセスを学生に教えるのが獣医師の仕事です。それ以外のほとんどが、テクニシャンとアシスタントに任されることになります。その中でも、テクニシャンはより専門的な手技を使う仕事に徹し、アシスタントや学生への指導にも携わります。 このシステムによって、診察の効率は格段に上がります。獣医師は、獣医師にしかできないこと、もしくは学生教育に費やすことができるのです。テクニシャンは、経験を積むほど、できることが増えて、いろいろな仕事を任される様になり、やりがいが生まれます。最終的な目標は、チームとして患者さんをうまく治療することなので、分業がうまく行けば普段の診察に好循環が生まれることは間違いありません。 もちろん、獣医師とテクニシャンの信頼関係も重要です。誰かが偉そうに、礼節が足りない行動をしたときにはこれらのチームワークは成り立たなくなります。 獣医学生および研修医よりも長い臨床経験があるテクニシャンが多いため、学生や研修医に教えたりアドバイスをしたりできる看護師さんもいます。今私が働いているアメリカ獣医大学の看護師さんは、獣医学生の3年生に、模型を使ってメス犬の尿カテ留置のテクニックを教えたりしています。 まとめ この記事では、あまり馴染みのない動物看護アシスタントとテクニシャンの違いについて解説しました。そして、アメリカの獣医大学病院において、テクニシャンはどの様な役割を果たしているかについてご理解いただけたかと思います。 忙しい研修医として、このシステムは非常にありがたく、毎日テクニシャンがハイスペックなお陰で自分がトレーニングに集中できているのだ、と感謝の気持ちでいっぱいなのです。 私のお気に入り、救急集中治療科の看護師さんの仕事は別の記事に書いたので、こちらも是非ご覧ください。
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小動物 救急集中治療科の看護師さんの仕事/アメリカ獣医大学
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、アメリカ獣医大学病院の救急集中治療科で働く看護師さんの仕事についてご紹介します。動物の救急集中治療科に興味がある方、アメリカの動物看護師さんの仕事の興味がある方が対象です。 こちらの記事もあわせてご覧ください。 救急集中治療科(エマージェンシー科/ICU科)とは 人間の病院で専門科があるのと同様に、小動物医療においても、専門科があります。 まず、救急集中治療科がどの様な科かをご紹介します。救急集中治療科は、エマージェンシー科とICU科に分かれます。 エマージェンシー科は、急に具合の悪くなった患者さんが予約なしに診察を受ける場所になります。人の救急患者さんの様に、数時間点滴をして帰れる場合もあれば、さらに入院検査が必要になる場合もあります。患者さんを外来として適切な治療を施してその日にお返しするか、入院検査に進むかを判断する、入り口と考えてもらえればわかりやすいでしょうか。 そして、ICU科は、入院患者さんのケアになります。24時間体制で患者さんをモニター、投薬などを行います。ゴールは、飼い主さんが安心しておうちで管理できる様な状態にまで患者さんを安定させることです。 どちらの科の患者さんも、重症症例であることが多く、常に急変のリスクがあります。日々緊張は走りますが、その分、患者さんを死の危険から助けることができたら、目の前で結果が見えるのでやりがいは大きいです。 救急集中治療科(エマージェンシー科/ICU科)で看護師さんができること 私は、この救急集中治療科で研修医をしているので、この科で働く看護師さんがどんなことをしているかをご紹介します。私の大学では、救急(エマージェンシー)科と集中治療(ICU)科が完全に分かれているので、テクニシャンも所属が分かれます。大学によっては、この二つの科の区別がない場合もあります。看護師さんに必要なスキルは似ていますが、以下にどの様な仕事をするかを具体的に説明します。 どちらの科の看護師さんも、静脈留置、サンプリングライン、中心静脈ライン、尿カテーテル、栄養カテーテルなどを入れるプロなので、獣医さんより上手にこなしてくれます。テクニシャンが様々なことができるので、いつも関心しています。 エマージェンシー科で働く看護師さんのすごいところ エマージェンシーで働く看護師さんは、緊急で飛び込んできた患者さんの診察に携わるので、先を読む力が素晴らしいです。私が、点滴準備してください、とお願いする頃にはすでに準備ができていたり、留置をいれる時に指示をしていなくても血液を検査用に取っておいてくれたり、細かいことを言えばキリがないくらい、とにかく仕事が早いのです。 外来の患者さんをみるのが主な仕事になるので、見積もりの作成や、(血液検査などの)検査のリクエストなど、事務的な作業も必要になります。 最近のエマージェンシーの症例では、アナフィラキシーショックに陥って、昏睡状態で運ばれてきた患者さんを救うことができました。獣医師である私が司令塔として、静脈留置の設置、輸液のボーラス、輸血などをオーダーし、エマージェンシーのテクニシャンが私がお願いしたことを素早く効率よくこなしてくれ、獣医学生が患者さんのバイタルなどをモニター、投薬記録する、というチームプレーを発揮したことで、患者さんを救うことができました。 患者さんが明らかに元気になっていく姿を見て、3人のチームでハイタッチした時には、救急集中治療科ってなんてかっこいい科なんだ!!!と改めて感じました。そしてさらに嬉しいことに、翌日その患者さんを診ていた学生は、救急専門医に興味をもち、その道に進みたいと相談してくれたのです。 エマージェンシーは常にドラマがあり、学びがあり、本当に楽しい科です。 集中治療科で働く看護師さんのすごいところ 集中治療科で働くテクニシャンはICUの入院患者さんの看護(治療、投薬やバイタルを測定するなど)が主な仕事です。ICUの患者さんは24時間の看護体制でそして入院中の患者さんの変化に敏感に気がついてくれます。 急にお腹が痛そうにしている、昨日と比べて呼吸が速くなった、などという重要な変化にいち早く気がついてもらえると、獣医師としては非常に助かります。ICUで働く看護師さんは、病院で一番患者さんと過ごす時間が長く、言葉を喋れない患者さんの代弁者とした活躍してくれます。 その他の科で働く看護師さんの特別なスキル 麻酔科の看護師さん 例えば、麻酔科の看護師さんは、静脈留置、採血に加、麻酔導入、挿管、麻酔モニタリングや管理、抜管、覚醒、そしてベテランの看護師さんでは、動脈留置を入れたり、局所麻酔を行うこともできます。 麻酔科専門医が常にバックでいつでも助けられる様に準備をしてるので、最終的な決定や責任は常に麻酔科専門医のもとにあるので看護師さんも安心して働けます。 循環器科の看護師さん 循環器の看護師さんは、循環器専門医がエコーだけ当てれれば済む様に、他の検査、例えば血圧測定、ECG、レントゲン検査など全てを終わらせておくことができます。この様な有能なテクニシャンがいることで、専門医はエコーをする、血圧、ECG、レントゲン検査の総合評価をする、そして飼い主さんと話して処方を決めると言うことに専念できるのです。 神経科の看護師さん 神経科では、椎間板ヘルニアの症例がたくさん来ますが、リハビリの方法や、自宅での管理について飼い主さんに説明することができます。自宅管理の説明は時間をゆっくり取って飼い主さんとの距離を近づけられる看護師さんの方が適任です。患者個人間で自宅管理の方法に差はないため、一般的な情報を看護師さんに説明しておいてもらって、患者さん特有に説明しなくてはならない内容を獣医がカバーすることになります。 MRIの撮影や手術の予定を調節するのも看護師さんの仕事です。 内科の看護師さん 例えば、初めて糖尿病が診断された場合、飼い主さんはたくさんのことを習得しなければいけません。どうやってインスリンを投与するか、ご飯の管理や、低血糖の症状にいち早く気が付く、などです。 この様な飼い主さんの教育に関しては、内科の看護師さんの専門分野といっても過言ではありません。基本的な自宅管理はどの患者さんでも同じなので、この様な仕事をテクニシャンにお願いすることで、テクニシャンと飼い主さんとの信頼関係が築きやすくなります。獣医は、患者さんの状態に合わせたオーダーメイドの説明をテクニシャンの説明に加えて行う必要があります。それが獣医師の専門分野となるのです。 まとめ この様に、専門の科に所属すると、「看護師さん」と一括りにできないほど、専門分野によって持っている知識やスキルが異なるのです。分業が進んでいるため、狭く深い知識となります。私は、アメリカ獣医大学でトレーニングをしている身なので、この様な環境はすごくありがたく、毎日が充実しています。 看護師さんが専門的なスキルを習得したら、もちろんその科も有能な看護師さんを失いたくないため、看護師さんに配慮したスケジュールが組まれ、待遇もよくなるはずです。そして獣医師も看護師もお互い気持ちよく仕事ができる様に、いい仕事環境を維持する努力をすることになるのです。この好循環によって、アメリカ獣医大学の動物看護師さんは長く続けている方が多いのだと思います。
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アメリカ獣医大学 ECCインターンのシフト/スケジュールについて
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務し、2022年現在アメリカの獣医大学で救急集中治療(ECC)の専門医を目指してレジデントをしています。 この記事では、アメリカ獣医大学の研修医のシフト及びスケジュールについてご紹介します。研修医ってどれくらい働くの?どれくらい忙しいの?という疑問に、私の経験を元にご紹介していきます。 具体的にどんなことをするかは、以下の記事もご覧ください。 はじめに 日本で一般病院で働いていたため、スィングシフトや、ナイトシフトというものに馴染みがありませんでした。この記事では、24時間営業しているERってどんなシフトで働いているの?という疑問に答える様な内容を書いていきます。 大学病院のプログラムによって、働くインターンの数、そして症例数によっても何人必要になるかが異なるため、大学間のばらつきは大きいということだけ最初にお伝えしておきます。 ちなみに、私がインターンをした時の特徴としては、症例数はそこまで多くないものの、インターンの数が例年に比べて少なかったです。 3つのシフト 24時間営業のERには、3つの名前のシフトがあります。デイシフト、スィングシフト、そしてナイトシフトです。スィングシフトには、early swing(早番)とlate swing(遅番)で別れている場合もあります。 デイシフトは全てのサービスが活動している時間なので最も働きやすいです。そして、ファカルティの指示を常に仰げる状態なので、みんなが好むシフトでもあります。 特に24時間開いているERでは、他の病院が閉まり始める時間(夕方5時くらい)が最も忙しくなります。他院からの紹介として、日中点滴管理していて、夜の入院看護は24時間人がいる病院に送る、ということも一般的です。 ナイトシフトは、患者さんが直接緊急的に飛び込んでくることが多いです。1件も来ない日もあれば、6-7件くることもあります。ナイトシフトは朝8時までとなっていましたが、8時からケースラウンドが始まるので、結局9-10時までは病院で仕事をする事になります。 自分の症例が終わるまでは帰れないので、シフトが終わる時間は上記通りですが、何時に帰れるかは、その日の進行具合と効率よく仕事がこなせるかという事になります。カルテが書き終わらないと帰れないので、症例は全て帰っていても、そのあとの書類に時間を取られたりします。 営業時間とそれ以外 病院の営業時間は、朝8時から夕方5時です。基本的にはほとんどのファカルティは5-6時には帰宅します。なので、画像診断や細胞診断など、専門医の力が必要な場合は4時にきた症例でも急いで診断の予約をする必要があるのです。 営業時間を過ぎると、アフターアワーになります。ほとんどの診断にアフターアワー料金が加わる事になり、腹部超音波や心エコーなどは、よほどの緊急症例でない限り、翌日もしくは次の営業日まで待たなければなりません。 午前中に来た症例に関しては、ほとんどの検査をその日にできる可能性が高いですが、午後になると、様々な検査やできることが限られてしまいます。 スケジュール 私の経験では、インターンのスケジュールは、過酷なものでした。12日連続で働いて2日休みを1年間繰り返しました。インターンの数が例年よりも少なかったことから、土日休みも誰かがカバーしなければいけないという状況でした。勉強会(Journal Clubなど)の準備をしたくても、家に帰ったら疲弊していて、結局時間がない、ということはよくありました。 バケーションは、1年間に10日ありました。 現在レジデントを行っている大学のインターンのスケジュールは非常に余裕があります。週に2日の休みは確保されています。 レジデントになると、もう少しオフクリニックの時間が増えます。その時間に専門医試験に向けて勉強しなさい、ということなのですが、それにしても勉強会の準備がしっかりとできるのはすごくありがたいことです。 まとめ インターンの仕事は、体力的にとても辛いものでした。日本から飛び出して行って、やる気に満ち溢れていたこと、そして1年間という期限があるからやり切ることができましたが、もう一回できるか?と聞かれたら即答はできないというところが正直なところです。
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アメリカ獣医大学 インターンとは
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務し、2022年現在、アメリカの獣医大学で救急集中治療(ECC)の専門医を目指してレジデントをしています。 この記事では、インターンとはどんなポジションかについて説明します。アメリカで専門医を目指そうと考えている方には、必須の知識になります。アメリカ獣医大学には、どんな研修医ポジションがあって、それぞれどんなことをしているかをしっかり理解しましょう。 2種類のインターン インターンには、ローテーティングインターンとスペシャリティインターンの2種類があります。 ローテーティングインターンとは、日本の研修医でいう、全科研修医の様なものです。1年間かけてすべての科をローテーションすることで、幅広い知識を習得できます。大学のプログラムによって、どの科へのローテーションが重点的かは異なりますが、大体どこの大学でもERは1年のローテーションの半分を占めることになります。 スペシャリティインターンとは、それぞれの科に専属する、専科研修医の様なものです。希望があれば他の科を数週間ローテーションすることはできますが、基本的には1年間を通して同じ科で働くことになります。 どんな人がインターンをするか アメリカの獣医大学を卒業したばかりの先生がインターンをする場合、目的は二種類考えられます。 一つ目は、専門医になるためのトレーニングです。小動物臨床のレジデントになるには、インターンの経験があると有利だからです。競争率の高い科の専門医になりたい場合、何度もインターンをしてようやくレジデントのポジションを獲得した、という例も少なくありません。 もう一つの目的は、一般の獣医師として働くけれどもしっかり勉強したい、もしくは興味のある分野があるけれども専門医になるつもりはない、という先生です。インターンは辛い仕事ですが、その経験は確実に獣医師としてのキャリアにも影響します。 私の様に、外国人でインターンをする、もしくは既卒の先生は特に専門医を目指している場合が多いです。インターンでトレーニングを積み、ちゃんと働けること、人間性をファカルティから評価してもらうことで、良い推薦状がもらえ、次のステップに繋がるチャンスになります。 インターンの仕事内容 インターンの仕事は、基本的にはそれぞれの科で診察することです。主治医としてケースを取り、ファカルティと相談しながら診療にあたります。大学病院では学生と一緒にケースを診る事になりますが、学生への教育もインターンの仕事の一部です。 どの科にいるかで具体的な仕事は違いますが、例えば画像科にいるときは診断書の作成を実際にやってみたり、外科にいる時は手術の助手として入ったり、麻酔科にいるときは麻酔を担当したり、と様々です。 ERでは一般動物病院で働く様な形と似ていますが、いつでも相談できるファカルティがいる事、教えなければいけない学生がいる事、そして他科のコンサルテーションができる、という点で少し異なります。 ERのインターンの仕事については、こちらの記事で具体的にどんなことをしているかご紹介しています。 レジデントになるためにインターンをするべきか レジデントになるにはインターンが必須か。専門医に興味がある方からちらほら受ける質問です。最初にはっきりさせておきたいことは、何の専門医を目指すかによって答えは異なる、という点です。 麻酔科、解剖病理に関しては、インターンをせずにレジデントになった先生を知っています。それ以外の科で、インターンをせずにマッチングでレジデントになった先生は見たことがありません。 私なりの回答としては、アメリカで獣医師として働いたことがなければするべき。だと思います。理由は大きく2つあります。一つは、アメリカで、英語で診察する訓練として。もう一つは、レジデントの採用にインターンを経験しているかが見られるからです。 アメリカでインターンとして働いたことがない外国人は残念ながら、以下の様にみなされてしまいます。 これらの不利な条件がある上に、ビザを発行しなくてはならない、ということで、どんなに日本の強いバックグラウンドがあってもいい候補者にはなりにくいのです。 まとめ この記事では、インターンのざっくりとした仕事についてご紹介しました。そして、レジデントを目指す際にインターンをしたほうがいいの?という疑問をお持ちの方に、私なりの回答をしてみました。
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血漿交換(TPE: Therapeutic plasma exchange)とは/アメリカ獣医レジデント備忘録
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、重度高ビリルビン血症に対して、手動で血漿交換を行った例についてご紹介します。血漿交換とは何か?という基本的なところからイラストを用いてわかりやすく解説します。 血漿交換とは 血漿交換とは、血漿中の大きな分子の物質を取り除きたい時に、患者の血漿を取り除いて、ドナーの血漿で置換する治療です。 様々な方法がありますが、基本的な原理は、患者さんの血液を脱血、赤血球と血漿成分に分離します。そして、取り除きたい物質が含まれる血漿成分を処分し、赤血球を患者さんに戻します。患者さんから血漿成分を抜き取るので、抜き取った分の血漿をドナーの血漿を輸血することで補います。 血液浄化に関してはこの記事で詳しく説明しています。興味のある方はこちらもあわせてご覧ください。 二種類の血漿交換方法 血漿交換の方法は主に機械を用いたものと、手動の大きく二つに分けられます。さらに、機械を用いる場合は、フィルター法と遠心法があります。 機械を用いた血漿交換の原理 目的は患者さんの血漿を取り除き、ドナーの血漿で置換するということになります。 特殊な機械(CRRT)と患者さんの中心静脈カテーテルをつないで体外循環を行うことで、血漿交換を行うことができます。 機械を用いた方法では、患者さんの頸静脈から透析用のカテーテル(太くて、ダブルルーメンになっているもの)を設置します。ダブルルーメンになっている片方は脱血用、もう片方は返血用です。脱血された血液は機械を通り、血液成分が分離され、返血されます。 機械を使うと、圧倒的に少ない労力で、さらに短時間で処置を行うことができます。欠点としては、特殊な機械が必要なこと、部分的に体外循環を行うことになるので、小さい患者さんでは大量の血液が体外に出ていくことが致命的なリスクになりかねないということです。 機械を用いた血漿交換に関してはこちらの記事もご参照ください【リンク】 手動血漿交換 小型犬や猫の場合、安全に血漿交換を行うには手動血症交換が勧められます。上に記したように、機械と患者さんを繋ぐ、ラインを満たすための血液は患者さんの体外へと運び込まれることになります。よって、小さい患者さんから大量の血液を抜かざるを得なくなり、血行動態が不安定になます。 この改善策として用いられるのが、手動血漿交換です。この方法では、特殊な機械を用いません。太めのサンプリングライン(中心静脈ライン)を設置し、シリンジで血液を抜去し、手動で遠心分離し、血球成分を患者さんに戻し、血漿成分を廃棄します。 血漿交換のプロセス 簡単に具体的なプロセスを説明すると、以下の通りになります。(※下記画像を添付) 最終的には、治療ターゲットとなる量の血漿が交換されるまで繰り返します。 手動血漿交換は、教科書に典型的な方法が載っているわけではなく、ゴールドスタンダードな手法がありません。そのため細かい部分は文献をかき集めながら行わなければならないのが現状です。 case reportには手技が詳細に書いてあることが多いので、いくつか参考にしながら私の症例に当てはめて治療計画を立てました。 このとき役立ったのは、以前読んでまとめていたcase reportでした。自分で症例をみた時のイメージをしながら、処方方法を確認していたため、いざ症例がきた時にすぐに記憶が引き出せるようになっていました。 症例紹介 10歳、去勢オス、ヨークシャテリア。重度の膵炎に伴う胆管閉塞によってビリルビンが45まで上がった症例で、高ビリルビン血症による神経症状(ビリルビン25以上で高いリスク)を防ぐために血漿交換を行うことになった症例です。 ビリルビン血症による神経症状は、核黄疸と呼ばれ、人医療では一般的に認識されている病態になります。高ビリルビン血症によって、不可逆的な脳損傷が生じる可能性があるため、緊急的にビリルビン濃度を下げることが推奨されています。 体重8kgのヨークシャテリアと、比較的小型の犬として(アメリカでは)カテゴリーされるサイズでした。10kg以下では、機械を用いた血漿交換が勧められないため、マニュアルで行うことになりました。 体重及び、手技直前のPCV, TPを元にどのくらいのセッションを何回行うかを計算します。そして、しっかりと血行動態をモニターしながら脱血、分離、赤血球の返血を繰り返します。 最終的に、大きな合併症はなく無事終了し、翌日にはビリルビンが10まで下がってくれました。もしかしたら単純に胆管閉塞が解除されただけである可能性もありますが、治療が奏功し、こういった経験ができたことで、大きな自信にもつながりました。 プロトコール作成 血漿交換を行うにあたって、処方と実際の手順の両方の説明が必要になります。 処方とは、血漿交換を合計何ml(全血漿当たり何%)を行うか、一度に何mlの脱血で何回行うか、そして輸血と輸液のプラン立てになります。体重10kg、ヘマトクリット30%の患者さんに対する処方の例が以下になります。 新しい手技に関しては、常に同僚及び看護師さんとの共通の理解が必要になります。そのため、プロトコールを作成しておくことで、自分もすぐに記憶からよび起こせるだけでなく、看護師さんの協力を得られやすくなります。 このように写真を盛り込んだ図説が、初めての人でもイメージしやすくなると思います。 おわりに この記事では、血漿交換の基礎的な原理を解説し、実際の症例をご紹介しました。近年では、血漿交換に関連する論文がたくさん出てきています。適応を見極めることと、詳細な手順を確認した上で、患者さんごとに適応させると、治療の幅が広がるはずです。
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他科でのトレーニング/ECCレジデント生活
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 ECCのレジデントプログラムではECCのみで診察をするわけではなく、他の科で数週間トレーニングを受ける必要もあります。この記事では、レジデントプログラムの一貫である、他科へのローテーションについてご紹介します。 他の科へのローテーション ACVECC(The American College of Veterinary Emergency and Critical Careいわゆる専門医を認定する協会)のリクアイアメントに、ECCだけでなく、他科をローテーティングしなければならないという要項があります。 ACVECCのプログラムに参加すると、個人のアカウントが設けられ、以下の様なトレーニングを記録していくことになります。ここでは、どの科でどのくらいの時間トレーニングをしなければならないかが書いてあります。3年間で2-6週間、内科、外科、麻酔科、循環器科、画像科、神経科、眼科で研修を行うことになります。 特にECCの場合、様々な一般診療の知識が必要になりますので、たくさんの科でトレーニングを受ける必要があるのです。 例えば、外科や内科のレジデントでも他の科でのローテーションが必修となっていて、ECCで数週間働きにくることがあります。 どこでローテーションをするか この他科でローテーションをした、とみなされるには、どこの病院の専門科でも良いわけではありません。 このローテーションをACVECCのリクアイアメントに合うためには、専門医が何時間以上一緒に働かなければいけない、という決まりがあります。つまり、専門医が最低一人はフルで働いている場所で行う必要があります。 私の大学では、現在、神経科を設立している段階です。専門医は一人働いていますが、診察をしていない状態なので、今の段階ではここでローテーションをすることができません。よって、他の大学や二次施設に行って数週間のトレーニングを受ける必要があります。 どんなことをするか 他の科に行った時に、どんなことをするかは大学のプログラムによって様々です。 私がスペシャリティインターン時代、他の科でお世話になったことがありますが、内科や神経科でケースを主治医として持たせてもらいました。また、外科では助手として入らせてもらうこともできます。 科によって責任の重さが違うわけではありませんが、飼い主さんは、特に専門医に診て欲しくて大学病院に来院しています。よってERとは違い、いくら自信があっても、必ずレジデントが専門医に症例プレゼンテーションをして、一緒に方針を決定していくことになります。 一緒に働いた経験がない場合は、ケースを持ったら、専門医がみっちりと監督してくれます。また、数週間のローテーションのため、それ以降のフォローアップは別の先生に引き継ぐことになります。なので、スムーズな引継ぎとなるようにきちんとした書類作成を行う必要があります。 麻酔科へのローテーション 今回、レジデントとして初めての麻酔科での研修を行ったので、その経験をご紹介します。 基本的に、麻酔科では学生主体でケースを持つことが多いことと、テクニシャンがほとんど自立して麻酔の導入から覚醒までできるスキルがあるため、レジデントはそのサポートすることが多くなります。 麻酔科の仕事 麻酔科は、小動物と大動物の両方の麻酔に携わります。私の大学には、麻酔科のレジデントのポジションはありませんが、2人のスペシャリティインターンがいます。なので、ポジションとしては、専門医、インターン、テクニシャンの3つになります。そして、必ず学生が1ケースにつき一人つき、テクニシャンとコンビで症例の麻酔に携わります。 前日に、学生がプロトコールを考え、専門医とディスカッションの上、プロトコールを完成させておきます。そのプロトコールをもとに、テクニシャンが薬の準備をします。 当日、テクニシャンが主体となって、学生に挿管などの細かい手技を教えながら麻酔をかけていきます。テクニシャンは大抵の変化に対応できる知識がありますが、それでも困った時には専門医にいつでもコンタクトを取れるようになっています。 2人のオンクリニックの専門医は大動物と小動物、それぞれを監督します。すべての麻酔の進行状況を把握し、テクニシャンが困っていたら助けてあげる役割です。また、3週間毎日学生へのトピックラウンドが行うのも、専門医の仕事です。(レジデントのポジションがないため、専門医が行っています) 私は小動物の麻酔に専念させてもらい、特に重症患者の麻酔の時に手伝いをするというポジションで2週間過ごしました。ここからは2週間どんなことを勉強したかをご紹介します。 朝のラウンド 2週間、毎日(8時から9時)、学生のための講義、実技が行われます。麻酔に関する情報をここでアップデートすることができました。かなり基本的なこともカバーしてくれる一方、知らなかったというようなトピックも出てくるのでとても勉強になりました。 今回のローテーションした2週間でカバーされた内容は、以下になります。 ECCの専門医試験でも、麻酔科の内容は含まれます。知っている知識でも、学生にこうゆう風に教えるのか、と勉強になることもたくさんありました。 麻酔導入から覚醒まで 私はECCのレジデントということもあり、なるべくクリティカルな麻酔に入れるようにあらかじめお願いしていました。なので私が担当につかせてもらったのは、ITPが過去に診断され治療中、左後肢に肉腫ができて断脚が必要な症例でした。貧血もあったため、術前に輸血が必要になりました。 麻酔前の患者さんの入院管理で、非常に役に立つことができたと思います。手術で予測不可能な出血に対しての輸血製剤の確保や準備を手伝うこともできました。 その患者さんは無事に手術を終え安定した状態で覚醒することができました。 自分でどんなことを学びたいかを、専門医や担当の先生に伝えておくことは非常に重要なことです。専門医は忙しいので、他の科からきた先生がどんなことがしたいか、気を遣って考慮する時間はありません。自分でやりたいことがあれば、積極的にケースを取りに行くことで勉強の機会を増やせます。 夕方のラウンド 夕方のラウンドでは、翌日のケースの麻酔プロトコールに関してディスカッションを行います。学生はそれまでに、患者情報を集め、自ら身体検査を行い、プロトコール(前投与、導入、麻酔)を準備します。そしてみんなの前で症例プレゼンテーションを行い、専門医がアドバイスやプロトコールの変更を提案することもあります。 特に麻酔科をローテーションする学生の人数が多く、専門医から様々な角度で飛んでくる質問に答えなければならないため、緊張感が走ります。 やる気のある学生は、他の症例に対しても、質問や発言をして知識を深めようとします。このラウンドが終わり次第、解散となります。 おわりに 2週間の麻酔科ローテーションを経験しましたが、学ぶことはたくさんありました。麻酔科でないと滅多に使わない薬や、麻酔の回路や波形に関する良いリフレッシュをすることができました。 他の科で勉強するのは非常に良い機会なので、積極的に新しい知識を増やしていくことが大切なんだと再認識しました。また、他の科のシステムを理解し、麻酔科の先生と仲良くなっておくことで、ECC症例で麻酔をかける時に円滑に進めることができるかもしれません。 レジデントの生活を1ヶ月ごとにダイジェストする、こちらの記事も合わせてご覧ください。
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アメリカ獣医レジデント オンコールの仕事
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学での夜間オンコールって何?どんなことをするの?という疑問に答えるような記事になります。 レジデントの生活を1ヶ月ごとにダイジェストする、こちらの記事も合わせてご覧ください。 夜間オンコール レジデントにはオンコールという、重大な役割があります。 レジデント=オンコールが大変というイメージがあったのですが、実際にレジデントになってから、それがどういう意味か理解するとともに、大変なことは間違いない、ということがわかりました。 ここでは、夜間のオンコールではどんなことをするか、そしてオンコールの何が大変なのかを解説していきたいと思います。 ERに来院する患者さん まずはERについてさらっと解説します。 時間外もしくは予約外で来院した患者さんは、基本的にはERを介して来院します。ERに来院した患者さんは、インターンが主治医になります。 病気の原因によって、神経検査が必要になったり、整形外科の検査、眼科検査が必要になることなど、様々です。爪から血が出ているなどの場合は、専門科の診察が必要のない場合もあります。 ERに来院する患者さんは大きく二種類に分けられます。状態が急変して、救急的な治療が必要な場合、もしくは専門科の診察が必要だけれども数週間先のアポイントメントまで待てないような場合です。 前者の場合はERを診る獣医師(インターン)が全体的に患者さんを評価して、専門科のコンサルテーションが必要かどうかを判断することになります。後者の場合は、大抵どの科に転科させなければいけないかがわかっていることが多いため、サポーティブケアを一晩行い翌日に転科することになります。 ERのドクター ローテーティングインターンは1年間のプログラムで、専門科をローテーションすることになりますが、多くの病院がローテーションの50%はERに配分を置いています。 理由としてはERが最も総合的な知識が学べる環境であることと、必要最低限のスキルや経験ができる(例えば処置、飼い主さんとのコミュニケーションなど)ためです。 全てのローテーティングインターンが専門医を目指しているわけではなく、中には一般診察のレベルを上げるために1年間修行をする先生もいます。 アフターアワー(時間外) 時間内(スタッフの勤務中)であれば、ERの症例が特異的な科からのコンサルテーションを受けることは簡単です。実際にその科に患者さんを連れて行ってみてもらうことができるからです。 しかし、大学病院に人がいなくなった時間(アフターアワー)に来院した患者さんを診る場合には、オンコールの先生の力を借りる必要があるのです。 例えば、胃内異物の症例であれば、内科のオンコールが電話を受け、夜中に内視鏡を行うかの判断をします。異物による消化管閉塞であれば、外科のオンコールが電話を受け、夜中に手術を行うかを判断します。もちろん、多くの場合、レントゲンや超音波検査が必要なので、画像科のオンコールが読影します。 また、緊急的な重症患者さんに対してはECC(クリティカルケア)のオンコールが電話を受けて必要に応じてベンチレーションのセッティングを行うこともあります。 もしくは、特殊な手技が必要な場合でなくても、オンコールに連絡することはできます。例えば、DKAの初期治療をどうしたらいいかなど、治療に関する、質問もオンコールのレジデントが対応することになります。 インターンは新卒間もない、特に専門的な勉強をしていない先生が多いです。大学ではバックアップ体制の一つとして、オンコールのレジデントに電話をして、コンサルテーションを受けることができるのです。 大学のバックアップ体制 この様なバックアップ体制が整っていることで、インターン、レジデントが安心して働けるのです。もしもオンコールのレジデントが判断に困った場合は、オンコールのファカルティに電話をかけることになります。 インターンからオンコールのレジデント、そしてレジデントからファカルティ、そしてようやく、ファカルティと相談したレジデントからインターンへの指示がいくというステップを踏むことが大学病院では鉄則です。周りくどいですが、この順番は基本的にはスキップできません。インターンからファカルティに直接連絡というのはいろんな意味で許されないのです。 いくらインターンが自信があっても、「インターンの立場で一人で判断するべきことではない暗黙の了解」ということもあります。インターンは「なんでオンコールの先生に相談しなかったの?」と問い詰められることはありますが、「なんで電話してくるんだ」と怒られることはありません。 そして、ECCのオンコールは少し特殊です。重症患者に関しては、他の科と同様、電話で受け答えられるものは電話で対応し、もしも挿管、人工呼吸などが必要になった場合はオンコールが病院に駆けつけることもあります。 ECCのオンコールはそれだけではなく、新人のインターンたちのERを監督する必要があるのです。私が働く大学では、最初の数ヶ月は、全ての時間外ERの症例を、ECCのオンコールに連絡して確認するという決まりがあります。なのでオンコールになると、爪から出血している、という症例に関しても連絡が来ることになります。 オンコールを経験して オンコールをやってみて、何が一番大変だったかというと、インターンの症例プレゼンテーションのクオリティによって、症例に関して把握できる情報量が大きく異なることです。 重要なポイントを簡潔に伝えられるプレゼンテーションと、そうでないものでは、オンコールで必要な労力も大きく異なります。翌日になって、「こんなこと昨日電話した時言ってなかったよね?!」というサプライズが待ち構えていたりするのです。 私が常識だと思ってあえて質問しなかったことでも、インターンにとってはそうでないこともあります。プレゼンテーションを鵜呑みにせずに、全ての必要事項を自分から聞いて確認するということが重要だということを学びました。 オンコールの時間とスケジュール オンコールの仕事は夕方5時(ファカルティが帰宅する時間)から朝の7時30分(ファカルティが出勤する時間)に行います。この時間が一番ERが忙しい時間になります。なので夕方帰宅してから2時間おきに電話がかかってくることも珍しくありません。 私の大学でのECCオンコールは、レジデント2人で割り振ることになります。なので週に3-4回割り当てられます。 大学によってオンコールのシステムは異なります。私の友達のECC専門医の先生は、全ての紹介患者さんがERに来院した場合、何時であろうがレジデントは大学に行って患者さんを直接評価して治療方針を決めなければいけないというルールがあったと言っていました。 おわりに この記事では、オンコールの仕事について解説しました。インターンにせよレジデントにせよ、円滑なコミュニケーションが非常に重要になります。そしてコミュニケーション能力こそ、研修医がファカルティに評価される大事なスキルといっても過言ではありません。 電話でのコンサルテーションは緊張が伴いますが、しっかりケースプレゼンテーションの練習すれば大丈夫です。