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  • 【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。

  • 【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆​呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m

  • 犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…

  • ショックの種類/救急患者の命を救う動物看護

    ショックの種類/救急患者の命を救う動物看護

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。 この記事では、ショックとは何か?を解説します。ショックとは、患者さんが死に至る前に陥る、直ちに治療が必要な状態です。 ショックをしっかりと理解する事、そしてのサインをいち早く気が付く事で、命を救えます。こちらの記事では患者さんのショックにいち早く気が付く方法をご紹介しています。ショックを理解した後に読んでもらいたい記事です。 ショックとは 上記の記事を読んでいただいた方にはおさらいの内容になりますが、ショックとは、エネルギーの供給が需要に追いつかない状態です。 そして、体でエネルギーを産生するために最も重要なのがグルコースと酸素になります。 ショックを言い換えると、 ①については診断がとても簡単なので、この記事では②にフォーカスを当てて説明します。 ショックの種類 全てのショックには原因があります。ショックとは、ある病気の成れの果てに陥る、死の直前に陥る病態です。 ここでは、どのような病気がどのようなショックを引き起こすかを示します。それが理解できれば、どのような安定化治療が適切かがみえてくるはずです。 低酸素血症性ショック 血液に酸素が取り込まれない状態です。 の鑑別疾患が低酸素血症性ショックを引き起こす、具体的な基礎疾患となります。 循環性ショック 循環性ショックには大きく、徐脈性、循環血液量減少性、心原性、血液分布不均等性の4つのカテゴリーがあります。 不整脈性では、不整脈を同定する必要があるので、心電図が必須の検査になります。電解質の異常によって不整脈が出る事があるので、血液検査も必要です。抗不整脈薬や電解質の正常化が安定化に必要になります。 循環血液量減少性ショックでは、どこから血液が失われていることを同定する必要がありますが、安定化には輸液治療が必要になります。 心原性では、どのような心臓病かを同定する必要がありますが、心収縮力を補うための強心剤、また、うっ血性心不全の場合は利尿薬が安定化に必要になります。 血液分布不均等性では、血管拡張が(血管に対して)相対的な血液量の減少が原因で拍出量が減少することになります。よって、輸液治療で血管内用量を補った後、血管収縮薬の使用を考慮します。 貧血性ショック 貧血による組織の低酸素は、肺の酸素化能、循環にも問題がないけれども、血液中に酸素を運ぶキャパシティが足りないという状態です。 貧血性ショックを疑った場合、溶血や出血の証拠を探します。そして、安定化の手段としては赤血球の輸血になります。 組織毒性性組織低酸素 これは、酸素が組織まで届けられているのにもかかわらず、細胞が膜異常などによって酸素を正常に活用できない状態です。動物ではエチレングリコール中毒によって生じます。 診断が非常に難しく、上記の全てを除外して初めて疑われます。この場合、明らかに有用なショック治療法はわかっていません。 代謝性ショック これは、酸素の需要が大きくなることで、供給が追いつかなくなるショックです。 組織での酸素の消費が増加することで酸素の供給が追いつかなくなる状態です。 高体温、発作、甲状腺機能亢進によって組織の低酸素が生じます。 原因の除去(冷却や発作を止める)および、酸素運搬量を最大化する事が救命につながります。 まとめ この記事では、ショックの種類についてご紹介すると同時に、基礎疾患の同定、そしてそれに合わせた治療法をサラッとご紹介しました。救急対応で役に立つ知識になると思いますので、活用してください。

  • ショックとは何か/救急重症患者の命を救う動物看護

    ショックとは何か/救急重症患者の命を救う動物看護

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。 この記事では、ショックとは何か?を解説します。ショックとは、患者さんが死に至る前に陥る、直ちに治療が必要な状態です。 ショックをしっかりと理解する事、そしてのサインをいち早く気が付く事で、命を救えます。こちらの記事では患者さんのショックにいち早く気が付く方法をご紹介しています。ショックを理解した後に読んでもらいたい記事です。 ショックの病態を理解することはなぜ重要? 患者さんが亡くなる原因はショックです。ショックの原因が何であれ、ショックを正しく治療してあげないと患者さんは亡くなります。 ショックの病態を理解した上で、「この病態でショックに至っているからこの治療をする」と考えられるようになると、獣医さんの指示よりも一歩先をいった心の準備ができるようになります。(例えば、ボーラス輸液が必要になりそう、など) ショックとは ショックとは、エネルギーの供給が需要に追いつかない状態です。 なのでショックを言い換えると、「エネルギーの供給が需要を下回る」になります。 そして、エネルギーを産生するために最も重要なのがグルコース、そして酸素になります。 ショックをさらに言い換えると、 ショックの結果 ショックの原因の解説の前に、ショックの結果起こることに触れておきます。 ショック(エネルギーの欠如)によって、細胞機能不全、細胞死、多臓器不全、最終的に患者さんの死に直結します。 重症患者さんの管理において、患者さんを死なせないためには、ショックに陥らせないようにすることが最も重要なのです。 すでにショック状態の場合、患者さんを救命するためにショックを攻略する必要があるというわけです。 ショックの原因 前置きが長くなりましたが、いよいよショックの原因に話を移します。 ショックの原因は様々ですが、根本は のどちらかです。①から見ていきましょう。 グルコースが利用できない状況 患者さんの循環、呼吸に問題がなかったとしても、グルコースが利用できない状況では、患者さんはショックに陥ります。 どのような状況が考えられるかというと、低血糖や糖尿病の最終形態であるDKAです。 この状況を除外するのは、とても簡単です。血糖値を測定すれば、重度な低血糖、もしくは糖尿病による高血糖を除外する事ができるからです。 酸素が体に十分に供給されない状況 酸素がどのように細胞に運ばれるかを考えてみましょう。 酸素は大気中から気道を通り、肺胞を介して血液中に入ります。酸素を含んだ血液が心臓から拍出され、各臓器の細胞周囲で酸素が血液から離れることで、酸素を受け渡します。 大きく、以下の3点(酸素化、血液の運搬、酸素の受け渡し)が重要になります。 これらのいずれか一つでも異常が生じた場合、酸素の供給が減ることになります。それでは、これらの異常とはどのようなものか、一つ一つ考えていきましょう。 血液が酸素化されない 酸素化に問題が生じるとき、その原因を大きく二つに分類する事ができます。 この場合、いくら心臓がしっかりと血液を臓器に運ぶことができても、酸素は組織に届けられることはありません。 血液が臓器に運べない 血液運搬の異常とは、血液に酸素が含まれているにも関わらす、血液をうまく循環できないことで酸素を運ぶことができない状態です。 血液が心臓から各臓器へとうまく運べない病気の例として、心臓病や、血管の異常があります。 臓器で酸素が使えない 酸素が含まれた血液が、届けたい臓器に行き渡ったのにも関わらず十分な酸素を組織に届けられない状況が最後のカテゴリーです。 貧血の患者さんでは、肺で血液に酸素を取り込むことができ、さらに心臓のポンプ機能によって血液が組織へ到達することもできます。しかし、赤血球が少ないために、受けわたせる酸素の不足が生じます。 そして、組織毒性とは、組織が目の前にある酸素を利用できなくなる状態です。一般的に見られる病態ではありませんので、このような病態のショックもあるんだなー、というレベルに抑えていただければいいかと思います。 まとめ ショックとは、様々な病気のなれの果てに陥る状態です。原因を突き止めて、それに合わせた治療を行うことで、救命につながります。 どのようにショックの患者さんを見つけるかについてはこちらの記事もご覧ください。

  • ショックの種類/わかれば怖くない動物救急医療

    ショックの種類/わかれば怖くない動物救急医療

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、救急集中治療の専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、患者さんの生死を左右するショックの種類について解説します。ショックとは何かを理解した次のステップです。ショックの種類を明らかにすることで、患者さんを安定化するための治療方法がみえてくるはずです。 ショックとは何か?という記事を先に見ていただけるとこの記事の内容もすっと入ってくるはずです。 ショックとは 上記の記事を読んでいただいた方にはおさらいの内容になりますが、ショックとは、エネルギーの供給が需要に追いつかない状態です。 体内で最も重要なエネルギーとはATPです。 なのでショックを言い換えると、「ATPの供給が需要を下回る」になります。 そして、ATPを産生するために最も重要なのがグルコース、そして酸素になります。 ショックをさらに言い換えると、 ①については診断がとても簡単なので、この記事では②にフォーカスを当てて説明します。 ショックの種類 全てのショックには原因があります。ショックとは、ある病気の成れの果てに陥る、死の直前に陥る病態です。 ここでは、どのような病気がどのようなショックを引き起こすかを示します。それが理解できれば、どのような安定化治療が適切かがみえてくるはずです。 低酸素血症性ショック 血液に酸素が取り込まれない状態です。 の鑑別疾患が低酸素血症性ショックを引き起こす、具体的な基礎疾患となります。 循環性ショック 循環性ショックには大きく、徐脈性、循環血液量減少性、心原性、血液分布不均等性の4つのカテゴリーがあります。 不整脈性では、不整脈を同定する必要があるので、心電図が必須の検査になります。不整脈を治療する必要があるため、抗不整脈薬や電解質の正常化が安定化に必要になります。 循環血液量減少性ショックでは、どこから血液が失われていることを同定する必要がありますが、安定化にはボリュームを補うための輸液治療が必要になります。 心原性では、どのような心臓病かを同定する必要がありますが、心収縮力を補うための強心剤が必要になる事が一般的です。また、うっ血性心不全の場合は、うっ血を改善することで拍出量の改善が期待されます。 血液分布不均等性では、血管拡張が(血管に対して)相対的な血液量の減少が原因で拍出量が減少することになります。よって、輸液治療で血管内用量を補った後、血管収縮薬の使用を考慮します。 貧血性ショック 貧血による組織の低酸素は、肺の酸素化能、循環にも問題がないけれども、血液中に酸素を運ぶキャパシティが足りないという状態です。 貧血性ショックを疑った場合、溶血や出血の証拠を探します。そして、安定化の手段としては赤血球の輸血になります。 組織毒性性組織低酸素 これは、酸素が組織まで届けられているのにもかかわらず、細胞が膜異常などによって酸素を正常に活用できない状態です。アルコールやシアン化合物への暴露によって生じます。動物ではエチレングリコール中毒によって生じます。 診断が非常に難しく、上記の全てを除外して初めて疑われます。この場合、明らかに有用なショック治療法はわかっていません。 代謝性ショック これは、酸素の需要が大きくなることで、供給が追いつかなくなるショックです。 組織での酸素の消費が増加することで酸素の供給が追いつかなくなる状態です。 高体温、発作、甲状腺機能亢進によって組織の低酸素が生じます。 原因の除去(冷却や発作を止める)および、酸素運搬量を最大化する事が救命につながります。 まとめ この記事では、ショックの種類についてご紹介すると同時に、基礎疾患の同定、そしてそれに合わせた治療法をサラッとご紹介しました。救急対応で役に立つ知識になると思いますので、活用してください。

  • ショックの見つけ方/救急患者の命を救う動物看護

    ショックの見つけ方/救急患者の命を救う動物看護

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。 この記事では、ショックの見つけ方について看護師さんに向けて説明します。ショックとは、患者さんが死に至る前に陥る、直ちに治療が必要な状態です。 患者さんのショックのサインに気がつけないと、ショックから臓器不全いたり、亡くなってしまいます。逆に、ショックのサインをいち早く気が付く事で、命を救えるかもしれません。 ショックの患者さんは治療を直ちに受けるべき ショックとは、体に必要なエネルギーを供給する事ができず、動物がエネルギー不足で死に至る直前の病態です。 こちらの記事で、ショックとは何かということを頭で理解してもらえるかと思います。 頭でショックが何かと理解できても、実際に患者さんがショックかどうかを判断できなければ治療を始める事ができません。 ショックかどうかで、何が変わるかというと、患者さんの緊急性が異なります。ショックの場合、治療までの時間が生死に関わるため、すぐに治療をする必要があります。 ショックではないと判断された場合、その患者さんの優先度が下がり、何頭もの患者さんが一度に来院している場合は、ショックと判断された患者さんから優先して治療を受けるべきです。 6つの血液灌流パラメーター 患者さんがショックかどうかを見極めるために重要なパラメーター6つをお示しします。これは、特別なデバイスがなくても視診と触診によってできます。獣医師でなくても見極められます。 意識レベル 最初の意識レベルに関しては、体に酸素が足りていない状況なので、意識がもうろうとするのは想像がつくかと思います。 心拍数 心拍数は、犬では速く(小型犬で180以上、中大型犬で160以上)、猫では遅く(180以下)なります。 これらの数字は、必ず暗記しましょう。どのくらいの心拍数だと、速いな、遅いな、という感覚は動物看護を行う上で非常に重要になります。 脈質 脈質とは、股脈を触ったときにどれだけ強く触れられるか、もしくはほとんど触知されないほど弱いか、です。 血液の循環が悪い場合は脈質が落ちることになります。 CRT CRTとは、上唇を持ち上げて、歯茎もしくは口腔粘膜を指で押した後に色がピンク色に戻るまでの時間です。正常2秒以下です。 循環が悪いと、圧迫後にピンク色に戻るのに2-3秒以上かかります。 全身的な感染がある場合は圧迫後、瞬時に色が戻ることになります。 可視粘膜色 循環の悪い患者さんは、可視粘膜が蒼白します。普通はきれいなピンクのはずが、なんだか白く見える、というのは、貧血の可能性か、循環が悪い証拠です。 四肢末端の冷たさ 循環が悪いと、患者さんの四肢は冷たくなります。 いかがでしたか。この6つのパラメーターを測定できない人はいませんね。この簡単な評価で、患者さんのショックを疑う事ができ、治療を早期に開始する事ができるとは、とてもコスパがいいですね。 ショックだとわかったら ショックだと疑ったら、獣医さんは簡単な検査を素早く行いつつ、安定化を同時にはじめます。 素早く結果が得られる検査としては、以下のようなものが含まれます。 アメリカの獣医大学では、獣医師がECGの評価、身体検査、AFAST/TFASTを行っている間に、看護師さんが留置を入れ、同時に血液検査を回してくれるため、非常に効率がいいです。 獣医師と看護師で息を合わせる事で、とても効率よく安定化につなげる事ができます。 ショックには、様々な種類があります。こちらの記事でショックの種類について看護師さん用に解説していますので、ご覧ください。 この検査が全て揃う頃には、どのタイプのショックであるか、予測がついているはずです。チームプレーによって、ここまで5分ほどで終わらせる事ができます。 獣医師が看護師さんに手伝ってほしいこと さて、ここまででショックが患者さんの生死に関わることで、一刻一秒が大切という事がお分かりいただけたでしょうか。このように、時間との勝負の場合、看護師さんと獣医師の連携がが患者さんを助けるための鍵になります。 獣医師が看護師さんに手伝ってほしい事。 例えば、エマージェンシーで来院した患者さんであれば、上記の簡易検査を素早く終わらせてくれるという事です。 そして、もしも入院患者さんが急変して、ショックに陥った場合であれば、入院看護でこれらの異常にいち早く気がつき、獣医さんに伝えてもらえたら非常に助かるのです。 獣医師が常に入院患者さんを見張っているにはいけません。なので、このような変化を教えてくれる看護師さんがいると、信頼して入院看護を任せられます。 まとめ この記事では、ショックの見つけ方についてお話ししました。この内容は、アメリカの獣医学生がエマージェンシーの科に実習にくる際に必ずカバーする内容になります。患者さんの生死に直結する知識なので、しっかり身に付けましょう。

  • ショックの患者さんを見つけるには/わかれば怖くない動物救急医療

    ショックの患者さんを見つけるには/わかれば怖くない動物救急医療

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、救急集中治療の専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、患者さんの生死を左右するショックについて解説します。緊急患者さんの命を救うのに最も重要な基礎知識です。ショックとは何か?という解説をこちらの記事で行いました。 今回の記事では、ショックの患者さんをどう見極めるかについてご紹介します。 ショックの患者さんの同定はなぜ重要か 私が働く大学では、救急治療科の実習初期に学生にショックのレクチャーを行い、ERに来院した患者さんを前にして、「この患者さんはショック?それともショックじゃない?」という質問をします。 頭でショックが何かをわかっていても、実際に患者さんがショックかどうかを判断できなければ治療を行う事ができません。 6つの血液灌流パラメーター 患者さんがショックかどうかを見極めるために重要なパラメーター6つをお示しします。これは、特別なデバイスがなくても視診と触診によってできます。 これらのほとんどは、ショックの際にみられる体の代償反応の結果みられる所見です。 意識レベル 最初の意識レベルに関しては、体に酸素が足りていない状況なので、意識が朦朧とするのは想像がつくかと思います。 心拍数 心拍数は、犬では頻脈、猫では徐脈になります。頻脈は、酸素運搬効率をあげるための代償反応です。猫で徐脈になることは特徴的です。猫で心拍数が180以下(特に病院のストレスフルな環境で)になるのは異常です。 脈質 脈質とは、股脈を触ったときにどれだけ強く触れられるか、もしくはほとんど触知されないほど弱いか、です。 血液の循環が悪い場合は脈質が落ちることになります。 CRT CRTは正常2秒以下です。 抹消循環が悪いと、圧迫後にピンク色に戻るのに2-3秒以上かかります。もしくは、敗血症などで抹消血管拡張がある場合は圧迫後瞬時に色が戻ることになります。 可視粘膜色 循環の悪い患者さんは、粘膜などの主要臓器への血液供給をなるべく減らし、より重要な臓器、例えば脳や心臓に血液供給を優先させます。 交感神経の活性によって、抹消血管が収縮し、その結果、可視粘膜が蒼白することになります。 四肢末端の冷たさ 可視粘膜と同じ理由ですが、ショックの患者さんは、重要でない臓器に血液を送る余裕がありません。四肢への血流を極力減らすことで、主要臓器への血流を増やします。その結果、四肢が冷たくなります。 いかがでしたか。この6つのパラメーターを測定できない人はいませんね。この簡単な評価で、患者さんのショックを疑う事ができ、治療を早期に開始する事ができるとは、とてもコスパがいいですね。 ショックだとわかったら ショックだと疑ったら、その他のベッドサイドの検査を素早く行いつつ、安定化を同時にはじめます。 ベッドサイドの検査には素早く結果が得られる以下のようなものが含まれます。 ここから得られた情報を元に、ショックの鑑別を一つ一つ潰していきます。 アメリカの獣医大学では、以下の検査がER診察費用に含まれていたので、ルーチンとして行われていました。獣医師がECGの評価、身体検査、AFAST/TFASTを行っている間に、看護師さんが留置を入れ、同時に血液検査を回してくれます。 獣医師と看護師で息を合わせる事で、とても効率よく安定化につなげる事ができます。 この記事でショックの病態及び、鑑別について解説をしています。 この検査が全て揃う頃には、どのタイプのショックであるか、予測がついているはずです。チームプレーによって、ここまで5分ほどで終わらせる事ができます。 最初の安定化 ここまでの病態の当てがつけれれば、安定化につなげる事ができます。 そして、飼い主さんからしっかりと問診をとり、プロブレムリスト、鑑別リストの作成、診断プラン、治療プランを組み立てていきます。 ショックの患者さんに対する全ての詳細な診断は、(例えば神経検査、整形学的検査など)患者さんが安定してから進みます。レントゲンなど安定化に必要な検査以外は、焦らず患者さんの容態を優先させましょう。 まとめ この記事では、ショックの見つけ方についてお話ししました。この内容は、アメリカの獣医学生がエマージェンシーの科に実習にくる際に必ずカバーする内容になります。患者さんの生死に直結する知識なので、しっかり身に付けましょう。

  • 上部気道閉塞患者の命を救う動物看護

    上部気道閉塞患者の命を救う動物看護

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。 この記事では、上部気道閉塞の患者さんの看護についてご紹介します。どんなことをするのか、どんな看護をしてくれたら獣医師が嬉しいかという視点で解説していきます。 上部気道閉塞の症例の安定化のゴール 上部気道閉塞で苦しんでいる患者さんの短期の目標は、「寝かせる」ことです。 苦しくて一生懸命呼吸し、空気の摩擦によって喉がさらに腫れ上がり、さらに苦しくなって、と言う悪循環が生じます。この悪循環を断ち切るためには、気道確保し患者さんに眠ってもらい、喉の腫れが引くのを待つ必要があります。 アプローチ 患者さんが興奮している場合は、ブトルファノールなどの鎮静剤を使用し、酸素室で落ち着くかを確認しましょう。この処置で上部気道閉塞が緩和され、呼吸が落ち着けば、この先の処置に進まずにすみます。 この処置によっても安定化されない場合、以下のアプローチに進みます。 挿管するかしないか、が最初の大きな判断ポイントになります。上から順番に説明していきます。 挿管のタイミング 上記3つの異常が揃わないと挿管しない、というわけではありません。総合的に評価しますが、呼吸様式を見て「やばい」と思った場合、SpO2を確認せずにすぐに挿管に進むこともあります。 どんな呼吸をしているか 呼吸様式で判断するには、少なくともどんな呼吸が「やばい」のか。主観的に「このまま放って置いたら死んでしまう」と思えることが重要です。表情や意識レベル、呼吸の姿勢などの情報を揃え、総合的な評価をしましょう。 「やばい呼吸」 ブルドッグやフレンチブルドッグやパグ、上部気道閉塞音が凄まじくても、オーナーさんに聞くと「この子にとってこの呼吸はいつもです」などと言われることもあります。患者さんによって、どこまでが正常かというのは問診が助けになることもあります。 舌の色はどうか 呼吸様式に比べると、少し客観的な目線で評価できると思います。きれいなピンクではない場合、おそらくかなり低酸素の状態です。(※チャウチャウなどの犬種による舌色の違いに注意) チアノーゼが見られたら、挿管に進む必要があります。もしも患者さんが酸素室に入れられてからチアノーゼが見られた場合は、獣医さんに直ちに報告しましょう。 また、貧血の患者さんは低酸素血症でもチアノーゼが見られないので、「チアノーゼがないから大丈夫」ではないので注意しましょう。 SpO2 SpO2が測れないといって、時間をかけて数値を得る必要はありません。一刻を争う状況のことが多いので、もしも測れなければ別のパラメーターで判断します。 SpO2は95%以下は異常値です。酸素供給下で低いSpO2が見られた場合は獣医さんに知らせましょう。 挿管について 静脈留置を設置し、プロポフォールなどの導入薬を顎の緊張がなくなるまでゆっくり投与して挿管します。患者さんの状態が悪く、鎮静薬なしに挿管できる場合はいち早く気道確保を行いましょう。 アメリカでは、看護師さんが当たり前のように挿管を行います。日本でも、看護師さんの国家資格が始まれば、このような挿管処置も看護師さんによってやってもらえるようになるかもしれません。 気道が炎症で腫れている場合、挿管が難しいこともよくあります。気管径と同じくらいの太さ気管チューブを用いることで、喉の刺激になって炎症が悪化するので、やや小さめのが望ましいです。 鎮静薬で完全に自発が消えてしまった場合は、人工的に換気を補助してあげる必要があります。 この動画では、軟口蓋が長い患者さんの喉頭がどの様に見えるかがよくわかります。 必要に応じてサクション 患者さんが誤嚥している可能性もふまえて、サクションを準備しましょう。 この場合はできる限り気道内の分泌物や誤嚥した液体を排除するために気管チューブを通してサクションします。 鎮静について 挿管をしたら、次の目標は鎮静で呼吸を落ち着かせて、なるべく早く抜管することです。 挿管だけでは呼吸数が落ち着かないことが多いので、もしも挿管して呼吸数が40gt;minであれば、追加の鎮静によってガッツリと寝かせてあげる必要があります。 このときに、できるだけ患者さんにとってストレスのない看護をしてあげることで(例えば耳栓やアイマスク)過剰な投薬が必要なくなるかもしれません。 モニター 鎮製薬の選択のみならず、いつ抜管するかの判断をするためにも、モニターは必須です。 体温 上部気道閉塞が長時間続くと、体温が上昇し(パンティングによる蒸散ができなくなるため)、熱中症になってしまうことがあります。 必ず体温をモニターし、必要に応じて冷却処置を取りましょう。目標は39.5度以下で、冷やしすぎると逆に低体温から戻って来れなくなる可能性があるので、39.5度以下になったら冷却をストップし、体温を最低でも10-30分おきにはモニターするようにしましょう。 血圧/心拍数 血圧の測定は、どの薬を安全に使用できるかを判断するのにも非常に重要です。血圧の低い場合(収縮期血圧lt;90mmHg)はアセプロマジンを避けましょう。 心拍数や血液灌流の評価が非常に重要になります。ショックの兆候にいち早く気がつけるようにしっかりモニターをしてもらえると、獣医師も安心して仕事をできます。 SpO2 問題が上部気道閉塞のみの場合は挿管さえしてしまえば、SpO2は正常gt;95%になるはずです。 SpO2は、呼吸不全が本当に上部気道だけか?上部気道閉塞に合併して、肺の疾患を合併していないか?を確認するために重要です。もしも誤嚥していた場合、挿管していてもSpO2が低く、抜管できない可能性があります。 その場合、酸素の投与が必要になります。鎮静下で、鼻喉頭/鼻気管チューブを設置する事で、抜管のあとに低酸素血症が見られたときに備える事ができます。 抜管について 早期の抜管が非常に重要です。理由は、気管チューブによって気道の炎症が悪化するためです。鎮静がかかって、呼吸が落ち着き、モニター項目に異常が見られな場合はいち早く抜管に移りましょう。 呼吸数 40回/分と言いますが、完全に患者さんが寝ている状態を作ります。目が覚めたときにパニックにならないようにしっかりと鎮静をかけ、なおかつ自発呼吸が残るようにします。 SpO2gt;95% 酸素供給を止めた状態でこの数値を確認しましょう。酸素供給がないとSpO2が下がる場合は、上部気道閉塞に加え、別の疾患が隠れていることを疑います。…

  • 呼吸が苦しい患者さんの命を救う動物看護

    呼吸が苦しい患者さんの命を救う動物看護

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。 この記事では、呼吸が苦しい患者さん(酸素投与が必要な患者さん)の看護についてご紹介します。獣医師の視点から、どんな看護をしてもらえたら嬉しいかを説明していきます。 獣医師が看護師さんに求める事2つ 患者さんの命に関わる状況の場合、獣医師が看護師さんにしてもらえたら嬉しいこの2つを、どう達成するかを解説していきます。 呼吸が苦しそうな患者さんには、酸素を供給してあげる事が鉄則です。まずはなぜ呼吸が苦しい=酸素供給なのかを考えてみましょう。 なぜ酸素が供給されているかを理解する 患者さんの呼吸が苦しくなる理由は様々です。 肺の病気(例えば肺炎、肺水腫)によって、血液中の酸素濃度が下がっている場合、喉の腫れや気管虚脱によって、空気の通りが悪くなっている場合、もしくは呼吸をするための筋肉の動きが悪くなった時などがあります。 要するに、体にうまく酸素が運ばれていないから、酸素を補ってあげましょう。ということです。 呼吸が苦しい原因によって、適切な酸素の供給方法が異なるということを理解しましょう。そして、どんな酸素の供給方法があるかを知っておくことも重要になります。 酸素供給の真の目的とは 呼吸が苦しい患者さんへの酸素供給をする目的は、何らかの基礎疾患が治るまでの時間稼ぎです。つまり、低酸素によって患者さんが死に至らないようにすることが一番の目標なのです。 どの程度の酸素の供給をすれば、患者さんが楽になるかは、実際にやってみないとわからないことがほとんどです。 なるべく安全な酸素供給方法から始め、不十分であれば次のレベルへ、と徐々に侵襲性の高い、より高濃度の酸素を供給できる手段へとレベルアップしていきます。 よって、効果的な酸素供給を行うためには、患者さんの酸欠状態が悪くなっているサインに気が付く事が非常に重要になってきます。 ここからは、酸素化が不十分の時に出る患者さんのサインを説明します。 酸素化が不十分の時に出るサイン 酸素化が不十分のときに出るサインは以下になります。これらのサインが見られたときは、気管挿管、人工換気などが必要になる可能性が高いため、獣医さんにいち早く報告します。 「こんなことでいちいち報告してこないでよ」という態度をとる獣医さんもいるかもしれませんが、これらのサインは患者さんの生死に関わる問題です。必ず獣医師が獣医師の目で確認するまで、放置してはいけません。 意識レベルの低下、虚脱 意識レベルが下がっている場合や、虚脱が見られた場合、少しのストレスの負荷も命取りになります。主観的な評価になりますが、「今にも呼吸が止まりそうな見た目をしている」という感覚を大切にしましょう。 舌の色 舌の色が、青や紫になった場合、重度の低酸素状態(SpO2lt;66%)です。酸素室内でこのサインが見られたら、酸素供給方法を見直す必要があります。 注意点として、舌の色がピンクだからといって、患者さんの呼吸機能が正常とは限りません。チアノーゼ=重度の低酸素ですが、チアノーゼじゃない=大丈夫、ではありません。 酸素室に入れているのにチアノーゼが見られた場合は、直ちに獣医さんに知らせましょう。 喀血の有無 喀血(薄ピンク色の水が咳や呼吸と共に口から出てくる)=肺胞が水浸し、肺が溺れているサインです。これは非常に重症なサインです。直ちに挿管、人工呼吸管理を行う必要があるため、獣医さんにいち早く伝えるべき出来事になります。 努力呼吸の持続時間 「呼吸筋の疲労」とは、努力呼吸が長時間続き呼吸筋に限界がきた状態です。 低酸素血症の最初の反応は、一生懸命呼吸する必要があるため、呼吸数が増加し努力呼吸が増します。 その後、呼吸するための筋肉が疲労した場合、呼吸数は落ちることになります。努力呼吸が長時間続き、ついに呼吸数が落ちた時には、要注意です。 ここで判断を見誤り、呼吸数の低下#8211;gt; 改善傾向と解釈してしまうと、その後呼吸停止に至る可能性があります。 SpO2の低下 血中酸素レベルは、クリップを用いたSpO2で測定する事ができます。 SpO2のセンサーは感度が良くないため、設置位置によって間違った数字が出ることも少なくありません。心拍数とパルスが一致しているかを確認した上でSpO2が本当に下がって生きていたら緊急事態です。 SpO2の正常はgt;95%です。もしも酸素投与下で95%以下になった場合は注意が必要です。 患者さんの看護にあたり重要なこと 酸素供給が必要な患者さんは、すこしのストレスの負荷で急変する可能性があります。 患者さんの保定や扱いには慎重になる必要があります。こればかりは、経験がものを言うので、もしも保定にまだ自信がない場合は、ベテランの看護師さんにお願いすることは恥ずかしいことではありません。 これらの患者さんには、無闇に保定したり、酸素室を何度も開け閉めして体を触ったりすることはNGです。静かなストレスの少ない環境を作ってあげる事が、獣医師の求める最も重要で基本的な看護になります。 まとめ

  • 様々な酸素供給方法/救急患者の命を救う動物看護とは

    様々な酸素供給方法/救急患者の命を救う動物看護とは

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。 この記事では、様々な酸素の供給方法についてご紹介します。ざっくりとどんな酸素投与方法があって、どんな特徴があるかを解説していきます。 酸素化の方法9つ 9つの酸素供給方法についてご紹介していきます。⑧のハイフローという方法は、特別な機械がないとできません。自分が働く病院にこの機械があるかどうかを知っておくことも大事です。 ①から⑨にかけて、侵襲度が高くなり、合併症が起こる可能性が高くなります。よって、①から徐々に試して、患者さんが最も快適に呼吸ができるところで維持します。 フローバイ レベル1だと思ってください。呼吸異常の患者さんがきた時に最も素早く簡単にできる酸素供給法になります。口ではなく鼻もとにチューブを近づけましょう。 この方法では、酸素濃度はせいぜい25-40%にしか到達しません。そして、違和感から顔を背けられたりすると肺に到達する酸素濃度は非常に低くなってしまいます。 適応としては、患者さんのトリアージをしながら酸素を供給していたい場合になります。長時間の酸素供給の選択肢にはなりません。 顔を背ける、逆に興奮する、呼吸や舌の色が改善しない場合は次のステップに進みましょう。 酸素マスク 酸素マスクは酸素濃度50-60%供給できると言われています。この方法も、ストレスになることが多く、口元の当てられるのを嫌がる患者さんは珍しくありません。検査を済ませたら速やかに次のステップに進みましょう。 患者さんが横臥状態で、何らかの理由で酸素室に入れたくない場合、この方法を数時間維持することもあります。常に酸素を出している状態なので、酸素消費量は酸素室よりも大きくなります。 マスクを鼻と口に当てる際、皮膚とマスクの隙間を埋めるためののダイアフラムがありますが、二酸化炭素を逃す必要があるため長時間の管理の際は使わないようにします。 酸素フード この方法は、エリザベスカラーにサランラップなどで下2/3を覆い、酸素をカラー内に供給するといった、カラーの中を酸素室のような状態にするといったものです。上1/3を開放するのは、カラー内に二酸化炭素がたまらないようにするためです。 酸素マスクがストレスになる場合はこの方法に切り替えることが可能です。人が押さえていなくていいので便利ですが、酸素濃度は30-40%と、あまり高濃度の酸素を供給することはできません。 酸素室 最もストレスや侵襲少なく、酸素を効率的に与えられる方法です。万が一患者さんが、興奮×低酸素である場合は少し鎮静をかけてあげて酸素室の中で休ませてあげましょう。 もしも酸素室の中でも呼吸が非常に悪い場合は、何らかの治療薬を開始する、待てない場合は次のステップに移ることになります。 酸素室に入れるかをためらう状況としては、上部気道閉塞のある患者さんです。酸素室内から音が漏れにくいので、上部気道閉塞の悪化にすぐに気が付く事ができない事が欠点です。 上部気道閉塞が悪化する可能性がある場合は、酸素マスクやフードを用いて、通常のケージを利用するという選択肢もあります。 鼻喉頭チューブ 酸素室に入れないような大型犬に適応される鼻喉頭チューブです。 送り込む酸素はの流速が大きくなるほど、鼻への刺激が強くなります。酸素の供給を増やしたい場合は、両側にチューブを挿入して、刺激を分散させることができます。 酸素流量をあげることで肺に到達する酸素の量を増加させる事ができます。 SpO2をモニターしながら、酸素流量を上げていくと患者さんが最低限必要な酸素流量がわかります。SpO2は95%以上になるように維持しましょう。 もしも、SpO2が95%に達する前に患者さんが鼻の刺激に許容できなくなった場合は、次のステップに進む事が必要になります。 鼻気管チューブ 鼻気管チューブは、上部気道(喉頭よりも手前)に何らかの閉塞疾患がある場合に用いられます。例えば、軟口蓋に異常がある場合、鼻気管チューブでは先端を気管に投げ込む事で、閉塞部をバイパスする事ができます。 設置する際は深めの鎮静が必要になります。初めは鼻喉頭チューブの設置と同じですが、口からチューブを喉頭、気管へ鉗子を用いて通していきます。 高流量酸素供給(ハイフロー) この機械は、大きな施設にしかないかもしれません。 上記の酸素供給方法と大きく異なるのは、酸素を加湿、加温し高流量で送気するため、100%の酸素を送れる点です。 また、鼻への刺激がなく、高流量の送気によって、PEEPの効果もあると言われています。 深い鎮静や全身麻酔が必要なく、患者さんは自発呼吸を維持します。人工換気と違い、1対1でつきっきりの看護が必要ありません。患者さんはこの状態で歩くことや食べることもできます。 気管挿管/人工換気 この手段は上部気道閉塞を除く、呼吸不全の患者さんの最後の手段といえる酸素化の方法になります。人工換気にすることで100%の空気を送れます。 患者さんは挿管された状態で動いたりすることができないので、深い鎮静や麻酔が必要になり、1対1の徹底的な看護が必要になります。合併症も多く出うる方法なので、酸素供給の最後の手段です。 気管切開チューブ 気管切開チューブは、上部気道閉塞の最後の手段といえます。なぜなら、この方法も侵襲性が非常に高く、チューブに痰が詰まったら窒息してしまうので徹底した看護が必要になるからです。 上部気道閉塞が重度で挿管できない場合などに緊急的に行われる処置になります。 肺機能に問題がない場合は、自発呼吸を残してルームエアーで維持できる場合もあります。 まとめ この記事では、様々な酸素供給方法についてご紹介しました。どの酸素供給方法を選択するか、最終決定は獣医師の判断によりますが、看護師さんにこれらの酸素供給方法を理解した上で患者さんを看護をしてもらえたら嬉しいです。

  • 動物病院での様々な酸素供給方法

    動物病院での様々な酸素供給方法

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、低酸素血症を示す患者さんに、適切な酸素供給方法を選択するために必要な知識をご紹介します。救急集中治療の現場では、多くの患者さんに酸素投与が適応されます。この記事を読めば、患者さんの状態にあわせて酸素供給方法を選択できるようになります。 酸素化の方法9つ 9つといいましたが、特別な機械がないとできない場合、適応ではない場合もあります。大切なのは、自分が所属する病院でどんなオプションがあるかを知っておくということです。また、病態によって最適な酸素供給方も異なるのでどんな適応ができるかについても説明していきます。 フローバイ レベル1だと思ってください。呼吸異常の患者さんがきた時に最も素早く簡単にできる酸素供給法になります。口ではなく鼻もとにチューブを近づけましょう。 この方法では、酸素濃度はせいぜい25-40%にしか到達しません。そして、違和感から顔を背けられたりすると肺に到達する酸素濃度は非常に低くなってしまいます。 適応としては、患者さんのトリアージをしながら酸素を供給していたい場合になります。長時間の酸素供給の選択肢にはなりません。 顔を背ける、逆に興奮する、呼吸や舌の色が改善しない場合はすぐに次のステップに進みましょう。 酸素マスク 酸素マスクは酸素濃度50-60%供給できると言われています。この方法も、ストレスになることが多く、口元の当てられるのを嫌がる患者さんは珍しくありません。素早く検査を済ませたら速やかに次のステップに進みましょう。 患者さんが横臥状態で、何らかの理由で酸素室に入れたくない場合、この方法を使用することもあります。常に酸素を出している状態なので、酸素消費量は酸素室よりも大きくなります。 マスクを鼻と口に当てる際、皮膚とマスクの隙間を埋めるためののダイアフラムがありますが、二酸化炭素をある程度逃す必要があるため長時間の管理の際は使わないようにします。 酸素フード この方法は、エリザベスカラーにサランラップなどで下2/3を覆い、酸素をカラー内に供給するといった、カラーの中を酸素室のような状態にするといったものです。上1/3を開放するのは、カラー内に二酸化炭素がたまらないようにするためです。 酸素マスクがストレスになる場合はこの方法に切り替えることが可能です。人が押さえていなくていいので便利ですが、酸素濃度は30-40%と、あまり高濃度の酸素を供給することはできません。 酸素室に入りきれない大型犬への酸素供給に適応されます。ここまでの方法3つでは、供給している酸素量がわかりません。患者さんの呼吸数や呼吸様式によっても異なります。 酸素室 最もストレスや侵襲少なく、酸素を効率的に与えられる方法です。万が一患者さんが、興奮×低酸素である場合は少し鎮静をかけてあげて酸素室の中で休ませてあげましょう。もしも酸素室の中でも呼吸が非常に悪い場合は、何らかの治療薬を開始する、待てない場合は次のステップに移ることになります。 酸素室に入れるかをためらう状況としては、上部気道閉塞で低酸素血症になっている患者さんです。酸素室内から音が漏れにくくなっているので、上部気道閉塞音がなかなか確認できな事が欠点です。 上部気道閉塞が悪化する可能性がある場合は、酸素マスクやフードを用いて、通常のケージを利用するという選択肢もあります。 鼻喉頭チューブ 酸素室に入れないような大型犬に適応される鼻喉頭チューブです。この方法では、片側から最高100ml/kg/minの流速で酸素を供給できます。つまり、10kgの犬であれば1l/minでの酸素が送れます。 なぜ流速に限界があるかというと、高流速の酸素が患者さんに違和感を与えることになるためです。送り込んでいる酸素は流速が大きくなるほど、鼻への刺激が強くなります。酸素の供給を増やしたい場合は、両側にチューブを挿入し、片側100ml/kg/minの流速で酸素を供給することで左右のトータル2l/minを送り込むことができます。 ここで注意するべきことは、実際に肺へ到達する酸素濃度は患者さんの換気量によって左右されるということです。 換気量が多いほど、ルームエアーが供給される酸素に混ざり込むため、肺へ到達する酸素濃度は低くなります。換気量を決定する因子は、一回換気量(1回に吸う空気の体積)と呼吸数で決まります。 よって、この流速を送れば、いくらの酸素濃度を送り込めるかというのは簡単に計算できるものではありません。患者さんが許容できる範囲で、そして低酸素にならない流速を見つけることが重要です。 もしもこの方法で低酸素が改善されない場合は次のステップにいきましょう。 この酸素供給方法が禁忌となるのは、凝固異常がある場合です。鼻出血が止まらなくなる可能性もあるため、血小板が重度に減少している場合や、凝固不全がある事がわかっている場合は使用を避けます。 鼻気管チューブ 鼻気管チューブは、上部気道(喉頭よりも吻側)に何らかの閉塞疾患がある場合に用いられます。例えば、軟口蓋過長症がある場合、鼻喉頭チューブでは閉塞部をバイパスする事ができませんが、気管に投げ込む事で酸素を供給する事ができます。 ある論文では、短頭種気道症候群の手術後(麻酔から覚醒させる直前)、術後管理のためにこのチューブを入れることで、術後深刻な合併症が防げたという報告があります。 設置する際は深めの鎮静が必要になります。初めは鼻喉頭チューブの設置と同じですが、口からチューブを喉頭、気管へ鉗子を用いて通していきます。 こちらも鼻喉頭チューブ同様、鼻出血の心配がある場合は禁忌となります。 高流量酸素供給(ハイフロー) この機械は、大きな施設にしかないかもしれません。 上記の酸素供給方法と大きく異なるのは、酸素を加湿、加温し高流量で送気するため、100%の酸素を送れる点です。 また、鼻への刺激がなく、高流量の送気によって、PEEPの効果もあると言われています。 適応としては、酸素室(-60%)の酸素供給では不十分で人工換気に進む一歩手前のステップ。肺が潰れてしまうことで換気量が減っている場合など、PEEPをかけてあげることで肺を膨らませた状態を保つことができます。 深い鎮静や全身麻酔が必要なく、患者さんは自発呼吸を維持します。人工換気と違い、1対1でつきっきりの看護が必要ありません。患者さんはこの状態で歩くことや食べることもできます。 自発呼吸が維持されている必要があるため、神経疾患(頸部脊髄の損傷や神経筋接合部の病気)、や中毒などで、換気に問題がある場合は使用できません。この場合は、人工換気が必要になります。 人工換気(メカニカルベンチレーション) この手段は上部気道閉塞を除く、呼吸不全の患者さんの最後の手段といえる酸素化の方法になります。人工換気にすることで100%の空気を送れ、PEEPをかけることができます。 換気および、酸素化のどちらに問題がある場合も使用できます。 患者さんは挿管された状態で動いたりすることができないので、深い鎮静や麻酔が必要になり、1対1の徹底的な看護が必要になります。合併症も多く出うる方法なので、酸素供給の最後の手段です。 気管切開チューブ 気管切開チューブは、上部気道閉塞の最後の手段といえます。なぜなら、この方法も侵襲性が非常に高く、チューブに痰が詰まったら窒息してしまうので徹底した看護が必要になるからです。 気管切開チューブの設置は、上部気道閉塞の患者さんで、深い鎮静、フローバイ、酸素室に入れても改善しない場合、もしくは、挿管した後に抜管できなくなる場合に設置が考慮されます。(喉頭の腫脹などで上部気道閉塞が悪化する事があるため) もしくは、上部気道閉塞が重度で挿管できない場合にも、緊急的に行われる処置になります。 肺機能に問題がない場合は、自発呼吸を残してルームエアーで維持できる場合もあります。もしも酸素供給が必要な場合は、深い鎮静をかけた上で、気管切開チューブにフローバイの酸素を供給することもできます。 もしも肺疾患が併存している場合、気管切開チューブにカフがついているものがあり、このチューブから人工呼吸を行う事もできます。 まとめ この記事では、様々な酸素の供給方法とその適応不適応についてご紹介しました。どのタイミングで酸素供給方法を変更する必要があるか、こちらの記事もあわせてご覧ください。

  • 低酸素血症とは何か?

    低酸素血症とは何か?

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、救急集中治療の専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、低酸素血症と組織低酸素の違い、低酸素血症の定義についてご紹介します。重症患者さんを治療するためには必ず必要になる生理学です。しっかりと理解しましょう。 低酸素血症とは何か 「低酸素状態」には、低酸素血症と組織低酸素の二種類があり、救急集中治療では、これらの概念を理解することが重要です。 低酸素血症 (hypoxemia) 血液中に酸素が足りていない状態です。血液中に十分な酸素がないので、組織に行き渡る酸素の量も必然的に低くなります。 組織の低酸素 (hypoxia) 組織中で必要な酸素量が十分に供給できていない状態です。血液中に酸素は十分に含まれていても、組織で酸素が利用できない状態のことを組織の低酸素(hypoxia)と言います。 組織低酸素は、酸素の需要と供給のバランスの乱れによって生じます。重度の低酸素血症であれば、必然的に組織低酸素が結果として起こりますが、血液中に酸素が十分含まれていても血液循環の減少や細胞のミトコンドリア障害によっても組織の低酸素が生じることもあります。 これらの理解がどう臨床現場に直結するかはこちらの記事をご覧ください。 余談ですが、アメリカでは呼吸が悪い症例が来ると、専門医はほぼ必ず学生に、hypoxiaとhypoxemiaの違いを質問します。それほど、救急集中治療においてこれらの概念を理解しているかが重要ということです。 さらに余談ですが、血液の異常はhypokalemia, hypernatremiaなどと最後にmiaがつきます。なので、血液中の酸素濃度が低いことをhypoxemiaといいます。私はいつもこんがらがっていましたが、血液の異常=ミアで解決です。 チアノーゼがみられた患者さんはどれほど「やばい」状況なのかを考えてみよう!という記事では、この数字がどこから来るのかを解説しています。 低酸素血症の定義 そもそも、低酸素血症とはどのレベルからを指すのでしょうか。 と定義がされていて、酸素を供給しても重度の低酸素血症である場合は挿管を考慮する必要がある状態です。(1) 動脈血液ガスを測定することで酸素分圧を測定することができますが、「動脈血」が必要になります。不安定な患者さんから動脈血を採血するのはリスクが高いです。そこで、代替として日常的に用いられているのが非侵襲的に測定可能なSpO2です。PaO2 80mmHgに対応するSpO2は約95%で、PaO2 60mmHgに対応するSpO2は約90%です。(2) よって、酸素下でもSpO2が90%以下である場合は挿管管理を考慮する必要があります。 PaO2とSpO2(SaO2)の関係についてはこちらの記事もご覧ください。 チアノーゼとは チアノーゼが示すのは、血液中の酸素濃度の減少で、「低酸素血症」を表していることになります。組織の低酸素は低酸素血症の結果として起こります。 では、どれほどの低酸素でチアノーゼが生じるのか。結論から言うと、正常なPCVもしくはHCTの患者さんでチアノーゼが見られたら、SaO2 (SpO2)は約66%、PaO2は35 mmHgほどになります。 つまり、チアノーゼがある患者さんに優雅にSpO2を測定している場合ではないのです。酸素供給、もしくは挿管管理が必要、ということになります。 酸素化 さて、低酸素血症が明らかになった場合、酸素の供給が必要になります。 マスクやフローバイで酸素をかがせる方法や、酸素室にいれる方法があります。もしもその酸素療法でも患者さんの呼吸が良くならなかったら?と思われるかもしれません。その時は、少々アグレッシブな酸素供給が必要になります。例えば挿管管理です。 もっと詳しく知りたい方へ、酸素の供給レベルをあげたいときにどんな方法があるかをご紹介した記事がこちらにになります。 まとめ この記事では、低酸素血症と組織低酸素の違い、低酸素血症の定義についてご紹介しました。また、チアノーゼがどれだけやばい状況か、そして酸素の供給についても併せてお話ししました。 これらの生理学は、ショックや重症患者さんを診察するときに大変重要な知識です。イラストを用いながら、私と一緒に生理学を楽しく勉強しましょう! 参考文献