https://veccblog.com

参加講座

  • 【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。

  • 【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆​呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m

  • 犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…

  • 犬猫の気管切開チューブ設置方法

    犬猫の気管切開チューブ設置方法

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、気管切開チューブの設置方法について、写真を用いてご紹介します。 気管切開チューブとは 気管切開チューブとは、上部気道閉塞に対する応急処置です。 一時的気管切開チューブと、永久気管切開チューブの設置があります。 一時的に気管切開チューブを設置する場合は、基礎疾患の根本治療を行うまでのつなぎ、もしくは喉頭や軟口蓋の炎症などの腫れが引くのを待つ場合などです。 基礎疾患が治療される事が前提になります。 一方、永久気管切開チューブの設置は、上部気道内の腫瘍に対する緩和的な治療などに適応されます。 上部気道閉塞の緊急症例の安定化に関しては、こちらの記事もご覧ください。 気管切開チューブの緊急的な設置 エマージェンシーに来院した上部気道閉塞患者さんにおいて、緊急的に気管切開チューブの設置が必要になるのは、内科治療が奏功せず、気管チューブが挿管できない場合です。 もしくは、麻酔から覚醒する時に、気管チューブによる喉頭の腫脹によって、上部気道閉塞が見られた場合は、気管切開チューブの設置を検討します。 それ以外のシチュエーションでは、手術室などで準備をした上で計画的に行う事ができます。 気管切開チューブの設置方法 背側横臥の姿勢で、毛刈り、洗浄、そしてドレーピングをします。 皮膚切開/気管の露出 輪状軟骨から2-3cm尾側にかけて正中切皮。 胸骨舌骨筋を分離して、気管を露出。 気管切開 第3-4か第4-5気管軟骨間をメスで横断し、小さな穴を開けます。 穴を利用して前後に牽引縫合糸(2-0非吸収糸)をかけます。これによって、気管切開チューブの挿入がしやすくなります。 切開部を拡張 牽引縫合糸を用いて、切開部を拡げます。 ここで、半分以上の径を切らない様に注意します。 この時点で、出血や粘液が気管切開部から見られる場合は、サクションを行います。 気管切開チューブの挿入 気管切開ができたら、チューブを挿入します。 様々な種類のチューブがあります。 狭窄部が胸腔に近い場合、長めの気管切開チューブが必要になります。 気管チューブをちょうどいい長さに切って、使用することができます。 気管チューブの挿入 スタイレットがある気管切開チューブの場合は、スタイレットを用いたまま挿入し、チューブ挿入後にスタイレットを抜去します。 気管チューブの固定 気管切開チューブには、首に固定できる様に両側に穴があります。紐を穴に通し、締めすぎず、緩すぎず、ちょうどいい長さで首に固定します。 牽引縫合糸には、わかりやすく頭側、尾側のマークをつけておきましょう。 動画 トラブルシューティング 気管分泌が多い場合などは、気管切開チューブの詰まりが生じます。 液体や血液、そして血栓がチューブの詰まりの原因となります。 定期的なサクション、ネブライザーが推奨されます。 また、教科書的には、1日2回の気管切開チューブの交換が推奨されています。 分泌物の量によって、気管切開チューブの交換頻度を調節します。 もしも呼吸音に異常が生じた場合は、気管切開チューブから空気が出入りしているかを確認します。 閉塞や、気管切開チューブが患者さんの動きによって、皮下に移動している場合は直ちに気管切開チューブを再設置します。 まとめ この記事では、緊急的に気管切開チューブを設置する方法をご紹介しました。 気管切開チューブが設置された患者さんは、この管が詰まったら呼吸ができなくなるため、素早く患者さんの変化に気がつける様に24時間のモニターが必須になります。

  • 犬猫の胸腔穿刺(胸水抜去)の方法

    犬猫の胸腔穿刺(胸水抜去)の方法

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、胸腔穿刺の方法を解説します。胸腔穿刺は、エマージェンシーの現場で必須の手技で、ときに命を救う手技になります。 2種類の胸腔穿刺(胸水抜去) 胸腔穿刺を行う目的は、大きく二つあります。 患者さんが胸水や気胸によって、命を脅かされる状況でない場合、臨床症状が出ていない場合は、診断的目的の胸水抜去を行います。診断的胸水抜去では、診断に必要なだけの胸水を抜去すればいいため、5mlもあれば十分です。 もちろん、合併症について飼い主さんにお話しする必要がありますが、針とシリンジを用いて簡単に行う事ができます。 臨床症状(呼吸困難など)が出ていて、できれば全ての胸水(空気)を抜去したい時は、治療的胸水抜去を行います。この記事では、治療的胸腔穿刺の手技について解説します。 不適応 凝固異常によって、胸腔内出血が生じている場合は、胸腔穿刺によって、出血を助長する可能性があります。原因追求(凝固検査など)の後に、凝固治療が優先されることもあります。 胸腔穿刺の準備 しっかりと準備を整えてから、患者さんをテーブルに乗せて、手技をはじめましょう。以下が準備するもののチェックリストになります。 胸水を抜去したら、必ず性状検査を行います。そのためのサンプリングチューブの種類は以下になります。 胸腔穿刺の手技 ランドマーク 肋間の血管や神経が肋骨のすぐ後ろに走行しているため、肋骨の頭側がわを刺すようにします。 気胸 胸水 胸水は、超音波で一番大きなポケットが見られる場所を目掛けてさすことも多いです。 手技 超音波でどのあたりを穿刺するかを決めたら、毛刈り、洗浄を行います。 必要に応じて、鎮静薬を使用します。酸素のフローバイ、ECGモニターを行います。 どのあたりを狙うかをマーカーで印をつけておくとわかりやすいです。 リドカインなどの局所麻酔を皮下に投与します。 胸腔穿刺を行う人は、滅菌グローブを装着し、延長チューブと針、三方活栓、シリンジを組み立てます。 サクションを行う人に、シリンジを渡します。 穿刺はゆっくり行います。針先が皮膚を貫通したら、サクションを開始します。最初は陰圧がかかりますが、針先が肋間筋を貫通し、胸腔に入れば、液体もしくは空気が抜けてくるはずです。 液体および空気が抜けてくる位置を維持したまま、サクションを続けます。大きな陰圧をかけすぎると、針先で胸壁やフィブリンを吸引してしまう可能性があるため、ゆっくりと優しい力で陰圧をかけます。 採取された胸水は採材用のチューブに無菌的に移します。 採材が完了したら、残りの胸水は計量カップなどに移し、最終的に何ml抜けたかを計測します。これ以上抜けないという状況になったら、陰圧をかけながら針を抜去します。 動画 みた事がない手技に備えろ、というのは難しいので、英語ではありますが、以下の動画でどのような事が行われるかをみて、イメージトレーニングをしてみてください。 この猫の胸腔穿刺は、三方活栓を使用していません。胸腔への重度な出血が疑われたため、この採取した血液を血管内に輸血(自己輸血)するため、常に新しいシリンジで胸水を採材しています。 アメリカの経験ある動物看護師さんは、獣医の監督下でこの処置を行う事ができます。 合併症 この手技は、ここに記された手順に従えば、非常に安全な手技です。 一般的に起こりうる合併症は、医原性の肺裂傷です。もしも針が肺を貫通した場合、胸水を抜いていたはずが空気が抜けてくる、もしくは胸水が血様に変化するという事が起こります。 上の図から分かるように、液体が抜けてきた時点で針の挿入を止めれば、肺を傷つける可能性は低いです。 まとめ この記事では、胸腔穿刺の方法をご説明しました。チーム全体がやることを理解していると、これらの救命に繋がる手技がスムーズに行えます。この記事が、獣医さんおよび看護師さんの手技の理解につながれば嬉しいです。

  • 犬猫 腹水性状検査

    犬猫 腹水性状検査

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、FAST scanで腹水を見つけたときに行うべき腹水性状検査についてご紹介します。腹水の原因が致死的な病態の可能性があるので、この致死的な状況を診断/除外するための大切な検査になります。 緊急対応が必要な腹水 エマージェンシーの臨床現場で、腹水の性状検査が非常に重要になる理由は、その原因に早く対処しないと手遅れになる可能性があるからです。 例えば、感染性腹水だった場合、手術をしない限り、内科管理では患者さんの命を救う事ができません。以下の3つの腹水は、緊急的な手術が必要になります。 これらを素早く検出するために、腹水の性状検査が非常に有用なのです。 腹水を採取したら行うべき検査 感染性腹水の診断 グルコースは、腹水中に細菌感染がある場合、末梢血より20以上低くなります。細菌が腹水中のグルコースを食べるからです。 乳酸は、感染性腹膜炎では、末梢血よりも2.0以上高くなります。細菌が乳酸を産生するからです。 そして、細胞診では、細胞内バクテリアが検出されれば、感染性腹膜炎が診断できます。 尿腹 カリウムとクレアチニンとは、尿中からのみ排泄されます。つまり尿中には高濃度のカリウムとクレアチニンが含まれるのです。よって、尿腹の場合、腹水中のカリウムとクレアチニンが末梢血中に比べて非常に高くなるはずです。 胆汁性腹膜炎 胆嚢破裂の場合、胆汁が腹腔に漏れます。胆汁は黄色なので、胆汁性腹水を疑うのは簡単です。すでに黄疸がある患者さんの場合、ビリルビンの測定を行うことで胆汁性腹膜炎を診断する事ができます。 腹水の性状検査 腹水の性状は漏出液、変性漏出液、滲出液の3つに分類することができます。 この分類には、腹水のタンパク質濃度及び、細胞数が必要になります。 この分類をしっかりと理解する事で、腹水の原因となる疾患の診断への大きな手がかりになります。 腹水を漏出性、滲出性に分類することで、以下のように鑑別診断を絞る事ができるのです。 それでは、これらの腹水が出るメカニズムについて考えてみましょう。 漏出性腹水 低アルブミン血症による膠質浸透圧の減少は漏出性胸水の主な原因です。以下のような機序で漏出性胸水が貯留します。 アルブミンが1.5以下で漏出性胸水や腹水が見られた場合、その原因は低アルブミン血症の可能性が高いです。 そして、低アルブミン血症の有無にかかわらず、前類洞、類洞から漏れ出る水も漏出性腹水の性質をもちます。 変性漏出性腹水 変性性漏出液とは、漏出液と比較した時にタンパク質の濃度が異なることが特徴です。この違いは、腹水が貯留する機序の違いによって生じます。 漏出液は血管内の膠質浸透圧の低下によって生じましたが、変性性漏出液は①血管内の静水圧上昇、もしくは②血管透過性の亢進によって血管内の血漿成分が漏れ出ることになります。血管内皮の透過性は変化しないため、細胞の漏出は多くありません。 ①静水圧(静止している液体の中の任意の面に作用する圧力)が上昇する原因は、循環系のどこかに圧力がかかった状態(血液がうっ滞した状態)です。例えば、右心不全による、後大静脈の静水圧が上昇が挙げられます。 ②血管透過性亢進は、血管炎による漏出によって生じます。 滲出性胸水 滲出液の原因は、毛細血管内皮の透過性亢進です。血管内皮の透過性亢進によって、細胞成分が滲出します。 滲出性胸水は、さらに感染性 vs 非感染性にカテゴリー分類することができます。 感染性の滲出液は、変性性好中球が細胞成分を占めます。 細菌感染の原因 非感染性の滲出液の細胞成分の特徴 まとめ 腹水が生じるメカニズムを理解すると、腹水の性状の分類についての理解が深まります。そして、それが原因疾患の大きな手がかりになる事がご理解頂けたでしょうか。 エマージェンシーの現場では、少ない手がかりから、以下に多くの情報を得るかどうかがキーになります。身体検査、FASTスキャン、胸水の性状検査といった、非常に安価な検査のみでも大体の病気の見当がつくのです。飼い主さんの経済的な状況を考慮しなければいけない時などにも非常に有用な知識になるので、この記事が臨床現場で働く獣医さんのお役に立てれば嬉しいです。

  • 犬猫 FAST scanで見逃してはいけない異常所見

    犬猫 FAST scanで見逃してはいけない異常所見

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、FAST scanによって、見逃してはいけない重大な異常所見についてご紹介します。そして、実際にどのようにエマージェンシーやICU看護で役立てるかについても説明します。 FASTスキャンとはなんぞや?腹部超音波エコーとは何が違うの?という話はこちらの記事をご覧ください。 おさらい FAST scanの一番の目的は、2分で胸水、腹水の検出すること。つまり、緊急処置が必要となる患者さんのスクリーニングです。 いかなる姿勢でもできるようになりましょう。 常に同じプローブの当て方を心がけましょう。 AFASTの異常所見 腹水/胸水 胸水/腹水は、膜に囲まれていない、低エコー性の領域です。 このスキャンでは、胸水と腹水が同時に見えています。 前腹部のフリーフルイドは、胸水なのか腹水なのかを見極める事が重要です。この画像からも見られるように、高エコー性の横隔膜の位置に着目すればわかりやすいです。 その他の腹水の見え方は以下のようになります。 腹水が見られた場合は、可能な限り、採取をして性状検査を行います。敗血症性腹膜炎だった場合は、抗生剤の早期投与が予後を左右し、そして試験開腹が必要になるからです。 腹水の原因が患者さんを死にいたらしめる危険性があるため、腹水を見たら必ず性状確認です。 腹水の性状に関してはこちらの記事もご覧ください。 心嚢水 腹部の剣状突起やや尾側からプローブを押し当てることで、心嚢水を検出する事ができます。この画像では、心嚢水と腹水が同時に見えています。 心嚢水は、心筋と心臓の周りを覆う心嚢によって囲まれています。胸水との違いは、膜に覆われているかどうかです。 へーローサイン へーローサインとは、胆嚢浮腫によって上の図のように見える所見です。アナフィラキシーショックの際に見られる特徴的な所見ですが、その他、輸血、右心不全などによっても見られます。 アナフィラキシーが疑わしい症例で、この胆嚢所見を見たら、ほぼ間違いなくアナフィラキシーショックだと確信します。 胆嚢粘液嚢腫 胆嚢粘液嚢腫は、症状がある場合や、胆嚢が破裂している場合は、緊急的な処置が必要になります。 胆嚢粘液嚢腫が超音波で見られても、臨床症状がなくビリルビンの重度な上昇もない場合は、緊急手術が必須でない可能性もあります。 尿管/腎盂拡張 腎臓の周囲に腹水がないかを見るだけでなく、腎臓の形態に着目することも重要です。 高窒素血症がある患者さんで、尿管の拡張や腎盂の拡張が認められた場合は、尿管閉塞を鑑別リストの上位に挙げる事ができます。 TFASTの異常所見 胸水 胸水は、以下のように見える事があります。左は、肝変化した異常な肺が胸水にぷかぷかと浮いているような所見。そして、右は、横隔膜の奥に見られるフリーフルイドなので、胸水とわかります。 B-lines B-linesとは、本来空気が含まれるはずの肺に水分が含まれる事でみられる、高エコー性のラインになります。肺に炎症細胞や腫瘍の浸潤、もしくは肺水腫や肺出血が起こった場合にこのような所見になります。 この所見から分かるのは、肺に異常があるということのみです。この初見から病気を絞ることはできません。この検査で肺疾患を疑った場合、レントゲン検査など、次の検査に進むべきです。 まとめ この記事では、FAST scanの見逃してはいけない異常所見をご紹介しました。エマージェンシーの現場で、患者さんがなぜショックなのかを同定するのに非常に有用な検査です。素早く漏れなく検査ができるように、FAST scanを習得しましょう。

  • 犬猫のFAST scanのコンセプトを理解しよう

    犬猫のFAST scanのコンセプトを理解しよう

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、FASTスキャンとはなんぞや?腹部超音波エコーとは何が違うの?というお話をします。そして、実際にどのようにエマージェンシーやICU看護で役立てるかについても説明します。 FAST scanとは? FAST scanとは、エマージェンシーやICU患者さんに対して、ベッドサイドで行う簡易超音波です。 FAST: Focused Assessment with Sonography for Trauma, Triage, and Tracking = 外傷、トリアージ、トラッキングにフォーカスを当てた超音波検査 FAST scanの一番の目的は、2分で胸水、腹水の検出すること。つまり、緊急処置が必要となる患者さんのスクリーニングです。 腹水にフォーカスが当たる理由としては、敗血性腹膜炎、膀胱破裂、胆嚢破裂をいち早く検出し、治療を開始する事が、救命につながるためです。胸水に関しては、呼吸困難の原因が胸水であった場合、胸水抜去によって救命できるからです。 「腹部エコー」との違いは? 腹部エコーは、腹部のいかなる異常を検出するための検査ですが、FAST scanはあくまでスクリーニングです。腹水、胸水の検出、そして予後を変えるような重大な異常の検出のみが目的になります。 大きな違いは、検査時間と、患者さんにかかるストレスの大きさです。 FAST scanは、エマージェンシーに来院した患者さん、そしてICUの入院患者さんにルーチン的に行われる検査で、検査に5分以上もかけていられません。 患者さんのトリアージ、安定化のために必要な情報を集めるための検査になるため、腹部エコーとは異なるものとして捉えられます。 そして、不安定な患者さんにもストレス少なく検査ができるようになる事が重要です。呼吸困難で今にも命を落としそうな患者さんを、仰向け姿勢にして超音波検査をすることは危険です。どの体制でもある程度の検査感度を保ちながら、異常を検出できるようになる事が重要です。 FAST scanのやり方 患者さんがどの体勢でも行えるようになる事が重要です。特に不安定な患者さんにストレスをかけることは危険なので無理せず、多くの情報を手に入れられるように練習が必要です。 基本的には毛刈りはしません。毛をかき分けて、プローブを直接皮膚に当てることで綺麗な像が出せます。 プローブには、片方にマークがあります。そのマークは、モニターの左側に来るように設定されているはずなので、常にこのマークを患者さんの頭側に向けます。 すると、モニターで、左側に焦点を当てたい場合は、頭側に動かせばいいと常に方向が一定します。 また、プローブの当て方のポイントとしては この3点です。毛の上からプローブを当てても、何も見えません。上記にも示したように、FAST scanでは毛刈りをしません。そのため、しっかりと毛をかき分けてプローブを直接皮膚に当てる事が重要です。 また、患者さんが今にも心肺停止しそうな場合は、念のためアルコールの使用を避け、ジェルの使用を考慮します。 AFAST 4つのビュー 腹部のFASTscanでは、4つのビューを評価します。 横隔膜-肝臓 このビューでは、肝葉の間、肝臓と横隔膜の間、そして胆嚢周囲の腹水を評価します。 剣状突起のやや尾側から、プローブを頭側に押しながら観察します。胆嚢はやや右側に位置するため、胸郭が深くて胆嚢が見えにくい場合は、右肋間からアプローチすることで胆嚢を検出する事ができます。 このビューで確認することは 頭側にプローブを傾けることで、横隔膜を介して心臓が見られます。このビューで、心嚢水がないかを確認することもできます。 また、重症患者さんでは、胃停滞が生じる可能性が高く、重度な場合は誤嚥や吐き気の原因になるため、検出できれば積極的にNGチューブを設置して胃を空にしてあげましょう。 脾臓-腎臓 左側の最後肋骨、背尾側からアプローチします。腎臓は後腹膜によって背側に吊るされている状態なので、背側気味から見られます。 を確認します。 腎盂や尿管の拡張は、尿管閉塞を示唆する所見です。状況によっては早急な手術の検討が必要になるため、早めに検出できる事は大きなアドバンテージになります。 肝臓-腎臓 右側の最後肋骨、やや尾側からアプローチします。左の腎臓と比べ、右腎はやや頭側に位置するため、プローブを肋骨の下に潜り込ませて頭側へ押さないと見えにくいです。…

  • 胸腔内疾患(胸水、気胸)の緊急対応/救急患者の命を救う看護とは

    胸腔内疾患(胸水、気胸)の緊急対応/救急患者の命を救う看護とは

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。 この記事では、胸水、気胸ってなに?というところから、救急患者さんの命を救うための看護について、そして獣医師の視点から、看護師さんがこれをしてくれたら助かる!という実践的なことについて書いていきます。 胸水と気胸による症状 胸腔内の異常による呼吸器症状は、肺が膨らめなくなることが原因で生じます。 上記に示した病態の結果、以下のような呼吸様式がみられます。 奇異性呼吸 奇異性の呼吸とは、腹部の動きが、普通の呼吸で見られるものと逆になる事です。 息を吸っている時に、腹部が凹みます。息をはいている時に、腹部が膨らみます。 患者さんの安定化 呼吸困難な患者さんに対しては、安定化でまず酸素供給を行います。なるべく、ストレスの内容にハンドリングをしてあげましょう。 そして、気胸、胸水による呼吸困難を示す患者さんの安定化の方法は、胸腔内を占拠しているもの(空気にせよ胸水にせよ)を抜去して、肺が膨らめるようにしてあげる事です。 この手技を、胸腔穿刺といいます。胸腔穿刺には、2種類の目的があります。 患者さんが胸水のせいで呼吸困難を示している場合は、一刻も早く治療的胸腔穿刺によって、胸腔内の液体や空気を抜去してあげる必要があります。 治療的胸腔穿刺には、最低でも2人(保定1人、実施する人1人)は必要です。 患者さんの命を救う手技 胸腔穿刺 この処置には、患者さんの鎮静(必要ないこともあり)、毛刈り、洗浄、超音波、ECGのモニター、リドカインの局所注射、留置針(翼状針を用いることもある)、シリンジ、延長チューブ、三方活栓、滅菌グローブなどが必要になります。 看護師さんが、この準備を素早く行ってくれると獣医も素早く処置を行い、患者さんを救命する事ができます。 みた事がない手技に備えろ、というのは難しいので、英語ではありますが、以下の動画でどのような事が行われるかをみて、イメージトレーニングをしてみてください。 この猫の胸腔穿刺は、三方活栓を使用していません。胸腔への重度な出血が疑われたため、この採取した血液を血管内に輸血(自己輸血)するため、常に新しいシリンジで胸水を採材しています。 ちなみに、アメリカの経験ある動物看護師さんは、獣医の監督下でこの処置を行う事ができます。 胸腔チューブの設置 胸腔チューブとは、その名の通り、胸腔へのアクセスとなるチューブの事です。 気胸が持続的に生じる場合、膿胸(膿の胸水が貯まる事)を内科管理する場合、などに設置が考慮されます。 特に気胸の患者さんへの胸腔チューブの設置は、命を救う処置になります。全身麻酔の必要はなく、鎮静下で行える手技です。 設置した後に必ず、レントゲンによってチューブの位置を確認します。 胸腔チューブに関してはこちらの記事もご覧ください。この手技も、アメリカでは看護師さんが行う事ができます。 安定化の後の看護 患者さんが安定化した後、患者さんの呼吸様式をしっかりとモニターします。 気胸の場合は1時間以内にまた空気が貯まり、呼吸困難に陥ることもあります。一度安定したからといって、原因が取り除かれるまでは安心できません。 同様の症状が出ないかを頻繁に観察します。 また、ECGを設置しておくことで、気胸の再発を早期に疑う事ができます。心拍数の増加が初期症状となる事が一般的だからです。気胸の再発が疑われたら、再度胸腔穿刺を行います。 頻繁に穿刺が必要な場合は、胸腔チューブの設置に進みます。 気胸や胸水が貯留している患者さんのモニターし、異変をいち早く獣医さんに知らせる事で、救命につなげる事ができます。 まとめ 胸水、気胸が貯まって呼吸困難になった患者さんの、緊急対応についてご紹介しました。緊急症例や重症患者さんほど、獣医さんと看護師さんの連携が非常に重要になります。看護師さんが、一歩先を読んで、どの状況でどんな手技が必要になるか、そしてどんな物を準備するか、どんなことをモニターするかを理解してくれていると、獣医さんも心強いはずです。

  • 犬猫の胸腔チューブの設置方法

    犬猫の胸腔チューブの設置方法

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、胸腔チューブの設置方法を解説します。 胸腔チューブとは 胸腔チューブとは、その名の通り、胸腔へのアクセスとなるチューブの事です。気胸が持続的に生じる場合、膿胸を内科管理する場合、などに設置が考慮されます。 胸腔チューブの設置の適応 気胸の患者さん 気胸の患者さんへの胸腔チューブの設置は、命を救う処置になります。一般的な適応は以下になります。 緊張性気胸の場合、持続的に胸腔チューブに陰圧をかけるために、サクションをつなげることもできます。 膿胸の患者さん 膿胸は犬の場合、内科管理が奏功する可能性があるとも言われています。その内科管理とは、胸腔チューブを設置して、生理食塩水やヘパリン生理食塩水で胸腔内を洗浄する、というものです。 ただし、この方法も獣医師によって意見が分かれます。 一刻も早く胸腔チューブを設置し、フラッシュして膿を希釈して胸膜炎を抑えるべきだという意見と、細いチューブを設置した場合、フラッシュした生理食塩水が回収できなくなる可能性があるため、外科的に太い胸腔チューブを入れるまで待つべきだ、という意見があります。 胸腔チューブの設置方法 必要なもの チューブのサイズは、患者さんの体の大きさに合わせます。第7-8肋間から、カテーテルの先端が第3肋間に位置するように設置します。カテーテル先の孔が全て胸腔内に入らなければいけないので、短すぎても長すぎてもいけません。 気胸の場合は太さはあまり関係ありませんが、膿胸の場合は、チューブが細いとつまり安くなるため、なるべく太いチューブを選択するべきです。 準備 第7-8肋間の最も高い位置をターゲットにします。周囲の毛刈り、洗浄を行います。 カテーテルの先端が第3肋間に位置するようにチューブの長さが適切かを確認します。 カテーテルを挿入 この方法によって、留置針が確実に胸腔に入っている事が確認できます。 ここでのポイントは、胸腔チューブが頭側に設置されるように、カテーテルを頭側に角度をつけて設置することです。 ガイドワイヤーを挿入 カテーテルを挿入したら、内針を抜き、空気が胸腔に入らないように滅菌グローブをした手でカテーテルを塞ぎます。 ガイドワイヤーを頭側方向に挿入していきます。全て挿入する必要はありません。 カテーテルを抜去 ガイドワイヤーが挿入されたら、カテーテルを抜去します。この時、ガイドワイヤーが抜けないように注意しましょう。 ダイレーターを挿入 ダイレーターは、胸壁の穴を広げるためのものです。多少の抵抗がありますが、皮膚さえ貫通してしまえば、ダイレーターを回転させながら挿入していきます。 皮膚をなかなか貫通できない場合は、付属のメスの先端で、皮膚を少しだけ切開するとダイレーターが設置できます。 根本まで通るようにすれば、胸腔チューブはスムーズに入るはずです。 ダイレーターを抜去、胸腔チューブを挿入 ガイドワイヤーが抜けないように気をつけながら、ダイレーターを抜き、胸腔チューブを挿入します。常に、チューブが頭側に向かうように意識しながら挿入します。 抜気を確認 チューブの孔が全て胸腔内に入ったことを確認してから、シリンジで抜気します。 チューブを設置 空気がうまく抜けることを確認したら、チューブを、バタフライを介して皮膚に縫い付けます。キンクが起こらないように、自然な角度で設置します。 レントゲン撮影 設置したら、必ずレントゲンで位置を確認します。 理想は、チューブが頭側に伸びている事です。 このレントゲンで示されるように、右側のチューブが尾側に向かっていると、頭側の胸水や空気がうまく抜けない可能性があります。 チューブが機能しているかどうかで、設置のし直しが必要になることもあります。 チューブの保護 胸腔内に直接つながるチューブなので、外の環境に晒されないように、ガーゼやシャツで保護します。 この胸腔チューブを操作する時には、滅菌でなくても、グローブを装着するようにします。 動画 まとめ 胸腔チューブの設置方法について解説しました。設置自体は難しい手技ではありません。医原性の感染を避けるためにも、滅菌になるべく近い状態での設置を心がけましょう。 胸腔内疾患の緊急対応に関してはこちらの記事もご覧ください。

  • 犬猫の胸腔内疾患/鑑別疾患

    犬猫の胸腔内疾患/鑑別疾患

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、胸腔内の異常(胸水や気胸)を生じる原因疾患をご紹介していきます。 臨床現場では、安定化のあと、どのような原因疾患が考えられるか、その原因疾患を診断/除外するためにどのような検査が必要か、を考える事が最初のステップです。そして診断がついてしまえば、教科書や論文を漁って何が最善の治療かを決めればいいだけです。 最初のステップをスムーズにこなすためには、ざっくりどのような病態があるかを知っておく必要があります。どんな病態があったかな、と思い出すためにこの記事をご活用ください。 こちらの記事では、呼吸が速い、努力呼吸、といった症状で来院された患者さんに対して、鑑別診断を11つのカテゴリーに分類して解説してます。呼吸困難で来院した患者さんに対する最初の思考プロセスになります 胸腔内疾患の病態 胸腔内の異常による呼吸器症状は、肺が膨らめなくなることが原因で生じます。病態は以下になります。 胸腔内疾患の鑑別リスト 胸腔内の異常における鑑別疾患の大きなカテゴリーを以下にあげます。 病態は、胸腔内が肺以外の何かに占拠されることで肺が膨らめなくなります。この「何か」が上記の鑑別に挙げられていますが、さらにこの病態の原因となる鑑別診断を挙げていくことにしましょう。 胸水 胸水の性状はTPと細胞数によって以下のように分類されます。 様々な疾患によって、胸水が生じるメカニズムが異なります。メカニズムを理解することで、鑑別リストを絞っていくことができます。 漏出性胸水の原因 変性漏出性胸水の原因 腫瘍性胸水、乳び胸は漏出性に分類されることがあります。 滲出性胸水の原因 感染性 非感染性 胸水の性状に関するもう少し詳しい情報はこちらもご覧ください。 気胸 気胸の原因は様々です。大きなカテゴリーとして、自然気胸と外傷性気胸、医原性気胸に分けられます。 自然気胸 自然気胸にも、一次性と二次性の自然気胸があります。 一次性自然気胸 二次性自然気胸 などです。二次性気胸とは、独自の原因疾患が存在し、それに付随して気胸が起こる事です。様々な病気が基礎疾患になりえます。 気胸の治療に、原因疾患の追求が重要になる事がよくわかります。 医原性気胸 いかなる胸腔を針で刺すような手技において、合併症として気胸が含まれることはたやすく想像できるかと思います。 麻酔をかけたあとなどに、気胸が生じた場合は、気管チューブによる気管の損傷や、人工換気による気道内圧の過度な上昇による肺胞の破裂が起こる可能性があります。 そして、NGチューブなど設置ミスによって、チューブ先端が肺を貫通するといったことも医原性気胸の原因の一つです。これを教科書で読んだ時には、こんなこと起こるはずがない、と思っていましたが、長く働いているといろんな状況に遭遇するもので、実際にNGチューブの設置で気胸になってしまった患者さんをみた事があります。 胸腔内腫瘤 胸腔内腫瘤の増大によって、呼吸困難が生じる場合、腫瘍や膿瘍が考えられます。 これらの疾患は、急に呼吸困難に陥る疾患ではなく、慢性的な経過をたどる事が一般的です。診断には、レントゲンやCTの撮影、そしてFNA、バイオオプシー検査が必要になります。 胸腔内の腫瘤に伴う胸水は、以下の原因で生じます。 横隔膜ヘルニア 横隔膜ヘルニアは、先天的および後天性の二つが考えられます。問題になることが多いのは後天性の横隔膜ヘルニアで、交通事故などの衝撃によって横隔膜が引き裂かれることが原因になります。 交通事故などの場合は特に、手術のタイミングをよく考慮する必要があります。 緊急手術が必要な状況 これらの状況では、24時間以内に手術を行うことによって、良好な予後が得られるというデータがあります。 長時間(72時間以上)、肺虚脱が持続していた場合、肺の再膨張性肺水腫のリスクが上昇します。よって、以上のケースに当てはまらない場合も、早急な手術は術後合併症のリスクを減少させる可能性があります。 ただし、緊急手術に進む前に、一般状態の安定化及び、患者さんの全身を診ることが非常に重要です。例えば、肺挫傷が重度の場合は全身麻酔が安全にかけられるか。もしくは予後を大きく変えるような他の傷害(例えば脊髄傷害)がないか。などを評価した上で手術のプランを立てることが重要です。 まとめ この記事では、胸腔内疾患の鑑別リストについてざっくりとご紹介しました。どんな病気があって、どんな検査をしたら診断につながるかを考える事が、診断学の核になります。

  • 犬猫の下部気道疾患のエマージェンシー/わかれば怖くない呼吸器疾患

    犬猫の下部気道疾患のエマージェンシー/わかれば怖くない呼吸器疾患

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、犬猫の下部気道疾患の緊急対応について解説します。呼吸器疾患の救急症例の診察は、常に生死に関わる、緊張感の走るものとなります。この記事をしっかり理解して要所を押さえれば緊急疾患の診察も怖くない事をお伝えします。 下部気道疾患とは 下部気道疾患とは、気管支や細気管支を中心とした病気の総称です。犬猫では、犬で慢性気管支炎、猫で猫喘息といった病気が代表的です。 エマージェンシーのバイブルでもあるSilversteinの教科書(Small animal emergency and critical care)では、この病気を、アレルギー性気道疾患と総称して一つのチャプターとして解説しています。 下部気道疾患には様々な種類の病気が含まれます。その中で多少の違いはあれど、臨床症状、緊急時の対処法、そして確定診断に必要な検査が類似していることから、呼吸器を11つのカテゴリーにわけて考える際に一括りにしています。 病態 気管支炎の原因が何であれ、結果として生じる事は、気管支の狭窄です。 正常であれば、胸腔内の陰圧によって空気が肺胞内に流れ込み、陽圧によって空気が肺胞から押し出されます。 気管支の狭窄によって、胸腔の陰圧の際に空気は肺胞に流れ込むことはできるけれども、胸腔が陽圧のときに空気が肺胞にトラップされやすくなります。 呼吸様式 病態から考えると、どのような身体検査が認められるか想像がつきます。気管支(空気が肺胞から出るための出口)が炎症によって狭くなる事で、呼気に問題が起こります。 下部気道疾患の急性増悪の原因 下部気道疾患は、慢性経過(2ヶ月以上)を辿る事が一般的です。しかし、ときにエマージェンシーで運ばれてくる事も稀ではありません。 どのようなきっかけで、下部気道疾患が急性増悪して、患者さんの命を脅かす状態になるのでしょうか。 気道の虚脱 下部気道疾患と、気道の虚脱の明らかな関連性は証明されていませんが、慢性気管支炎による気管軟骨や平滑筋の#8221;ヘタリ#8221;が原因だと考えられています。 逆に、下部気道の虚脱によって慢性気管支炎が問題になるとも考えられています。 慢性気管支炎の患者さんの緊急事、気道の虚脱の併発が疑われた場合、気管支拡張剤は推奨されません。なぜなら、気道が虚脱している場合、さらなる気管支平滑筋の弛緩は逆効果と考えられるからです。 粘液による気道閉塞 気管支炎によって、粘液産生が亢進し、気道を閉塞するとVQミスマッチが生じます。(肺胞への血液流量と換気のバランスの乱れによる低酸素血症) 粘液の蓄積による急性増悪のため、粘液の粘度を高めるような薬、例えば利尿薬やアトロピンの使用は中止します。そして、逆に粘液を希釈するようにネブライザーを行い、喀痰しやすいようにサポートします。 気管支拡張 気管支拡張は慢性気管支炎の結果、気道壁の破壊によって生じます。これによって、粘液が気管支に蓄積しやすくなり、再発性の感染が起こります。 粘液による気道閉塞と同様、粘液を排出しやすくするサポートが重要です。 感染(呼吸器の感染、全身感染) 気管支炎は喉頭の異常が併発しやすいと言われています。その結果、誤嚥するリスクが高まり、誤嚥性肺炎を併発します。誤嚥性肺炎が疑われた場合は、抗生剤の使用、そして酸の化学的刺激による気管支収縮は、気管支拡張薬によって和らげられると考えられています。 慢性気管支炎を患う患者さんの多くは、ステロイドの長期投与をされている事が多く、全身感染のリスクが高まります。早期の同定、抗生剤の使用が推奨されます。 肺高血圧症 慢性気管支炎を患う患者さんは、慢性的な低酸素血症によって肺動脈の高血圧を伴いやすいです。失神は肺高血圧の一般的な症状です。心エコーによって、肺高血圧を診断する必要があります。 治療は、酸素の供給および、重度な場合はシルデナフィルを投与します。 肥満 ステロイドの長期投与により、体重の増加が起こりやすくなります。気管支炎に加え、肥満による換気不全が生じると、慢性的な高CO2血症が起こります。これにより、脳での血中CO2濃度による換気刺激センサーの感度が弱くなります。 人では、慢性的な高CO2血症の患者さんに高濃度の酸素を供給することで、患者さんの換気コントロールシステムが完全に止まり、患者さんの呼吸が停止する、と言われています。獣医療では一般的には見られませんが、このような可能性も考慮して、供給するFiOには注意が必要です。 患者さんの呼吸が停止した場合は、気管挿管、人工換気が必要になります。 下部気道疾患が急性増悪したときの一般的な対処法 下部気道疾患が急性増悪したときの一般的な対処法は、以下の5つが含まれます。なぜ急性増悪をしたかを考え、それによって治療法を選択する事が重要です。 まとめ この記事では、下部気道疾患が急性増悪する原因とその対処法についてご紹介しました。典型的な急性増悪の可能性を知っておく事で、緊急時に素早い対応ができるようになります。

  • ショックをTree of Lifeに当てはめて分類しよう

    ショックをTree of Lifeに当てはめて分類しよう

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、ショックの記事をここまで読んでくださった方に、もう少し実践的な内容を交えてトレーニングしてもらえるような内容にしていきます。様々な病態は、酸素運搬量を決定するどの要素に落とし込む事ができ、それに応じた治療を行うことで、患者さんの究明につながります。 ショックとは 上記の記事を読んでいただいた方にはおさらいの内容になりますが、ショックとは、エネルギーの供給が需要に追いつかない状態です。 そして、体でエネルギーを産生するために最も重要なのがグルコースと酸素になります。 ショックを言い換えると、 ①については診断がとても簡単なので、この記事では②にフォーカスを当てて説明します。 ショックの見つけ方はこちらの記事に詳しく説明しています。 ショックの種類 全てのショックには原因があります。ショックとは、ある病気の成れの果てに陥る、死の直前に陥る病態です。 ここでは、どのような病気がどのようなショックを引き起こすかを示します。それが理解できれば、どのような安定化治療が適切かがみえてくるはずです。 酸素運搬量を決定する要素をこちらのイラストで示します。 低酸素血症性ショック 血液に酸素が取り込まれない状態です。原因は以下の病態が上げられます。 そしてこの病態の成れの果てに何が起こるかというと、PaO2(動脈酸素分圧)とSaO2(ヘモグロビンの酸素飽和度)が減少します。 結果的に、血液1dlに含まれる酸素の量が減少、酸素運搬量が減少してショックに陥ります。 では治療はどうするべきか?といえば、原因が酸素化であるのであれば、原因に合わせた酸素化を改善するような治療(気道確保、酸素供給、ときにベンチレーションなど)を行います。 循環性ショック 循環性ショックには大きく、徐脈性、循環血液量減少性、心原性、血液分布不均等性の4つのカテゴリーがあります。 Tree of lifeに戻ってみると、いずれの原因によっても、心拍出量が減少し、酸素運搬量が減少することになります。 原因の同定と、安定化の方法は、以下のようになります。 不整脈性では、不整脈を同定する必要があるので、心電図が必須の検査になります。電解質の異常によって不整脈が出る事があるので、血液検査も必要です。抗不整脈薬や電解質の正常化が安定化に必要になります。 循環血液量減少性ショックでは、どこから血液が失われていることを同定する必要がありますが、安定化には輸液治療が必要になります。 心原性では、どのような心臓病かを同定する必要がありますが、心収縮力を補うための強心剤、また、うっ血性心不全の場合は利尿薬が安定化に必要になります。 血液分布不均等性では、血管拡張が(血管に対して)相対的な血液量の減少が原因で拍出量が減少することになります。よって、輸液治療で血管内用量を補った後、血管収縮薬の使用を考慮します。 貧血性ショック 貧血による組織の低酸素は、肺の酸素化能、循環にも問題がないけれども、血液中に酸素を運ぶキャパシティが足りないという状態です。 原因が何であれ、貧血によるヘモグロビンの減少のけっか、動脈の酸素含有量が減少し、酸素運搬量が減少します。 貧血性ショックを疑った場合、溶血や出血の証拠を探します。そして、安定化の手段としては赤血球の輸血になります。 組織毒性性組織低酸素 これは、酸素が組織まで届けられているのにもかかわらず、細胞が膜異常などによって酸素を正常に活用できない状態です。動物ではエチレングリコール中毒によって生じます。 診断が非常に難しく、上記の全てを除外して初めて疑われます。この場合、明らかに有用なショック治療法はわかっていません。 代謝性ショック これは、酸素の需要が大きくなることで、供給が追いつかなくなるショックです。 組織での酸素の消費が増加することで酸素の供給が追いつかなくなる状態です。 高体温、発作、甲状腺機能亢進によって組織の低酸素が生じます。 原因の除去(冷却や発作を止める)および、酸素運搬量を最大化する事が救命につながります。 まとめ ここまで理解できたみなさま、お疲れ様でした。なんだかショックが怖くなくなった気がしませんか?原因がわからずどうしていいかわからないと、恐怖を伴いますが、ここまでしっかりとショックを理解してしまえば、緊急対応も怖くなくなります。とにかく安定化させた上で、じっくりとプランを立てればいいのですから。 みけぶろぐにのせたショックの内容は、私がエマージェンシー科とICU科に実習にくる獣医学生に必ず行う内容になります。この科の核とも言える大事な知識です。このブログを通して、日本の皆さんにもうまくシェアできたら嬉しいと思っています。