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【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!
この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。
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【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気
【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m
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犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…
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医療x犬猫のイラストをCanvaとProcreateで簡単に作成する方法
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、私が普段、動物x医療のイラストをどの様に作っているかをご紹介します。 医療x犬猫のコンビネーションの素材を見つけるのはとても大変です。ただでさえ少ない、イラストに自分の好みを加えると、自分のイメージ通りのイラストをみつけることはできません。 しかし、わかりやすく、見栄え良くするためには、医療x犬猫のイラストは必須です。そこで、自分好みのイラストを自らで作成する方法を今回はご紹介していきたいと思います。このブログでは、以下のアプリを駆使してセミオリジナルで作成しています。 みけブログのサムネイルなどが、どの様に作成されているか、ご興味のある方は、ぜひご覧ください。 Canva ブログにあげるため、著作権の問題でグーグルから拾ってきた画像を使うことはできません。そして、私は絵を描くのは得意ではありません。なので、基本的には、Canvaというアプリからダウンロードできる素材を元にイラストを編集しています。 CanvaというアプリはブログやYoutube、インスタなどのサムネイルから、プレゼンテーション、ロゴの作成まで簡単にできてしまう、非常に便利なアプリになります。iPadからでも、パソコンからでもアクセスできます。 無料会員と、月額有料会員があります。月額は月11ドルほどです。有料会員になると、使える素材が格段に増えるため私は、月額会員です。 例えば、私が最近始めた「XXXヶ月後に専門医になる私」のコーナーでは、ブログの表紙として、以下の様なカウントダウンのイラストを作成しています。 いろんな素材や、デザインが数多く使用できるため、自分では思いつかない様な可愛らしいサムネイルも簡単に作ることができます。 さらに、月ごとにコンセプトを変えたかったので、10月にはハロウィン仕様の色にして、スタンプの様に素材を貼り付けてみたり、クリスマスにはクリスマス風のデコレーションをすることができます。 自分で描かなくていいのと、ユーザーフレンドリーな機能を駆使して、短時間でイラストを作成することができています。実はいつもワクワクしながら作っています。 Canvaを使っても、動物x医療となると、なかなかコアな分野なので、Canvaにもドンピシャリで使える画像がないときもあります。そこで、私がiPadやアプリを駆使してどの様にしてイラストを作っているかをご紹介します。 透析に関するイラストを、最近作ったので、ご紹介していきます。まずCanvaで透析に関する素材を検索すると、この様に人の患者さんに透析をしているイラストは出てきます。まずはこれをもとに編集していくことにします。 素材はトリミングすることができるので、真ん中の人を切り取ってしまうことができます。 そして、人の患者さんの代わりに、犬の患者さんをおきたいので、いい感じの犬のイラストを探します。 素材で、「犬」と検索すると、大量の素材が出てくるので、いい感じのものを選択し、大きさ、位置や配置を整えます。ここからは、犬と透析のラインをつなげたいので、多少自分で加工しなければなりません。 Procreate Canvaは手書きのイラストはできないので、ここからはProcreateで編集していくことになります。Procreateというアプリは、イラストレーションを書くためのアプリになります(こちらの記事で解説しています)。 この画像を、PNG(ピング)というファイル形式で背景を透明にしてダウンロードします。ここで背景を透明にすることで、仕上げで背景の色を自由に変えられることになります。 そして、Procreateから、ダウンロードしたファイルをインポートします。 インポートした画像は、自由に編集することができ、以下の様に消しゴム機能で消したい部分を消すこともできます。 もしくは、上から色を重ねることで、例えば首輪を外したければ(透析中には首輪は外しますので)以下の様に同じ色を重ねて塗ることで元々首輪をしていなかった様に見えます。 さて、ここからは、この透析機のラインと犬をつなげていきます。赤いラインを付け足してあげるだけで、犬が透析機に繋がれている様になります。 Procreateの特徴でもある、右上のボタンからレイヤーを編集することができます。レイヤーをうまく使えば、元のイラストを残してイラストを追加することができます。 例えば、元の素材と重なる様に筆で何かを描きます。同じレイヤーで行ったものは、修正する時に消しゴムを使うと、元の素材が消えてしまいますが、違うレイヤーに描いていた場合、新しいレイヤーは元の素材とは独立しているため、消しゴムで消してもそのレイヤーの部分だけを編集することができます。 例えば、新しいレイヤーにバンデージを足してみます。 これがあまり好きではなかった時、もしくは編集したくなった時に以下の様に消しゴムで消した時に、他のレイヤーを変えることなくバンデージだけ修正できます。 色を調節することや、さらに細かい加工をすることも可能です。 仕上げ ここで出来上がった画像をPNGやJPEGの形式で保存して、さらにCanvaで文字を追加すればサムネイルの完成になります。 文字のフォントも豊富で、フォントを選べるだけでなく、エフェクトという機能を使うことでシャドーなどをつけることができます。 完成したら、ダウンロードというところから、保存したいファイルの形式を選択して保存することができます。 まとめ 今回の記事では、普段どの様に独自のイラストを作成しているかご紹介しました。これら、全ての知識はYouTubeのAmity先生で学んだものです。アメリカにいながらも、YouTUbeを駆使すれば日本語で、日本人の可愛らしいセンスのある先生から新しいことが勉強できる様になったのは素晴らしいことだと日々ありがたく思っています。 もし興味のある方はYouTubeのリンクものせておきます。
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アメリカ獣医大学の研修医プログラムを比較するためのモノサシ
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、アメリカ獣医大学の研修医プログラムについて、各大学をどう比較するかをご紹介します。マッチングに臨む先生、特にランキングで悩んでいる先生に向けての記事になります。マッチング過程の最終段階である、「ランキング」では、自分がどこの大学のプログラムに参加したいかを順位付けるものになります。研修医プログラムの良し悪しを、どの様な視点で評価するかのヒントになれば幸いです。 マッチングに関する概要こちらの記事もあわせてご覧ください。 研修医プログラムの違いを理解する 日本の獣医大学の教育カリキュラムが、大学によって異なるのと同様、研修医プログラムによって様々な特色があります。極端な話、毎日の診察が忙しすぎて、専門医試験の勉強をする間もない様なプログラムもあれば、専門医試験の対策にファカルティが熱心であるプログラムもあります。 レジデントとして3年間過ごす環境となるので、予め自分がどんな環境で過ごしたいかを明確にしておくこと。そしてプログラムに入ってからびっくり、ということを避けるために、少なくとも情報収集ができているといいと思います。 まずはアメリカにはどのようなプログラムが存在するかを大まかに説明した上で、私が参加しているプログラムについてご紹介していきたいと思います。 大学病院 vs Private practice (私営/企業の動物病院) あまり知られていないかもしれせんが、専門医を育成するためのプログラムは、大学病院以外にも、私営/企業病院にもあります。 外国人である私たちにとっては、アカデミアのプログラムがメジャーで、専門医を目指す、となると、大学で働く、という印象が強いかもしれません。実は、私営/企業の動物病院にも専門医取得のためのプログラムはたくさんあるんです。アメリカでは、スペシャリティホスピタルといって、たくさんの専門医や専門の科を抱えている大きな二次病院が大都市を中心に増えてきています。このような大きな二次病院には、VCAやPathwayといった、企業病院が多く、専門医を抱えられるだけの規模があります。 なぜこのような動物病院のプログラムがあることが私たちの耳に届きにくいかというと、①ビザと②資格の関係があるからです。 ①ビザについて アメリカで数年間働くためには、適切なビザが必要になります。 私営/企業の動物病院で、ビザをレジデントのために発行してくれることは非常に稀です。理由を以下に説明します。 ビザの発行にはお金がかかります。基本的には、ビザを発行する施設が費用を負担することがほとんどです。さらに、これらの手続きには、international officeや弁護士のような、特殊な知識を持つ人材が必要になります。つまりビザの発行には費用と労力が必要なのです。 私営/企業の動物病院のメインの目的は、売り上げを上げることです。これらの施設にとってレジデントとは、専門医のもとで直接トレーニングができる機会の代わりに、安いお給料で長い時間働いてくれる存在です。そのため、わざわざビザを提供してまで、外国人をとる必要がなく、英語も堪能で、アメリカで教育を受けてきたアメリカ人を雇う傾向にあるのです。 では大学のビザ事情はどうでしょうか。 全ての大学がビザを提供してくれるわけではありません。実は「外人をとらない学校」の方が多いと思います。大学が外国人を雇うメリットとしては、組織のPRとして、diversity(多様性)を示せるという点が大きいように思います。 アメリカに来るまで、diversityという概念はよく理解できていませんでしたが、マッチングの際に「personal statementにdiversityに関する文を入れなさい」という大学があったため、勉強するきっかけになりました。私が受け取ったdiversityの意味とは、「大学が人種を問わずいろんな人を雇うことで、多方面からの知見やものの見方を取り入れることができて、組織がよりよくなる」です。diversity and inclusionというと、(人種、性別や肌の色などが)異なる人を受け入れることだという私なりの認識です。 外国人をとるデメリットとしては、先ほども出てきましたが。ビザを発行するためにはコストと労力が必要といった点になります。 大学によっては、「外国人を一切とらない(外国人にビザを発行しない)」というところもあります。政治的な理由であったり、コロナが理由であったり(ビザの発行遅延により、外国人をとると始業に遅れるリスクがある)、様々です。 ②獣医師免許について ビザの問題が解決されたら、資格の問題もあります。ここは私も理解するのに時間がかかった点です。 大学で働く限り、アメリカの国家資格やECFVG, PAVEは基本的には必要ありません。州によっては例外もあるので注意が必要な点です。 マッチングのサイトに、それぞれのプログラムに必要な資格が書いてあることが多いです。そこに「アメリカ人/カナダ人でない場合はECFVG, PAVEやNAVLEの点数を証明できる書類が必要」と書いてある場合は、「大学でも国家資格を持っていないと働けない」例外にあたるということです。 ここで注意が必要なのが、ビザが必要な場合は特に、直接大学に問い合わせないといけないことが多いということです。「マッチングのサイトに全ての情報が書いるとは限らない」ということは3度のマッチングを経験して思い知ったことです。「自分から聞かないと教えてくれないの?!」と何度も感じました。 「大学教育機関で専門医になるためのプログラムに沿って働く」ことが、アメリカの獣医師資格がなくても働ける条件になります。なので、大学病院では資格なしでも獣医師として働けますが、一歩外に出たら、獣医師として医療行為を行うことはできないのです。 よって、私営/企業の動物病院でも、資格がないと医療行為を行えないため、プログラムに参加する資格がないということになります。 ビザや資格に関する要項は毎年変わります。ここで記載したことはあくまでも2021年の時点での、一般的な風潮になります。探せばおそらく様々な例外(裏技)があるのかもしれません。この記事で一般的な風潮を理解した上で、自分から直接大学や私営/企業の動物病院にと言わせてチャンスを掴むことが重要だと思います。 私が聞いたことがある特殊な例 このような特殊な例もあるので、直接各施設に問い合わせてみる価値はあると思います。 臨床 vs 研究 vs 教育 ここまでで、外人にチャンスが大きいのは大学のプログラムであるということを説明しました。ここからは、実際にアカデミアのプログラムに参加した時とprivate practiceのプログラムとでは何が違うの?ということを解説します。 専門医になるためには、大きく、臨床、研究、教育という3つの能力を鍛える必要があります。簡単にいうと以下のスキルになります。 アカデミアとPrivate practiceのプログラムで大きく違う点は、これら3つの配分です。 アカデミア(大学病院)の特徴 Private practice(私営/企業の動物病院)の特徴…
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アメリカ獣医大学病院の働く環境を比べてみる
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務し、2022年現在、アメリカの獣医大学で救急集中治療(ECC)の専門医を目指してレジデントをしています。 この記事は、以前の研修医プログラムをどう比較するか、に引き続き、大学病院をどう比較するか、という点にフォーカスを当てた内容になります。マッチングやアメリカの獣医大学へビジティングを検討している先生が対象の記事となります。 大学病院の違い 私はアメリカに来てから3つの大学で働く経験をしました。毎回、新しい環境に慣れるまでには、時間とストレスがかかります。というのも、各大学で大学のシステムが全く異なるからです。 この記事では、大学のシステムの違いにフォーカスを当ててお話ししていきます。コアな内容にはなりますが、実際に働くことをイメージしながら読んでもらえたら嬉しいです。 電子カルテと紙カルテの違いについて 私が働いた大学では、以下のカルテを経験しました。 1校目:電子カルテ(Vet View) 2校目:紙カルテ 3校目:電子カルテ(Corner Stone) 電子カルテの性能や使い勝手はメーカーによって大きく異なります。レントゲンシステムと連携しているか、精算システムと連動しているか、血液検査の結果などが電子カルテで読み込めるかなど大きな違いがあり、好みにもよりますが、私個人としては、この3つの経験の中でVet Viewが最も使いやすいシステムだったと思います。 患者情報、お会計、レントゲンなどのリクエスト、血液検査などの各種検査結果、discharge summaryなど診療の上で必要な情報全てがVet Viewを介して管理されてるからです。 違う管理ソフトを開いて調べて、とか、こっちの検査は紙で確認してといった作業をする必要がないのは、情報共有のしやすさや、作業効率を考えると格段に良かったです。 2校目では、今だに紙カルテを使用しているアメリカの大学病院があるのか。と正直驚きました。紙カルテのデメリットは、研究およびリモートワークがしにくいということです。InternshipやResidencyの間に、回顧的研究を行う機会などが多くありますが、紙カルテでデータを集めるとなると非常に手間がかかります。 カルテの違いで大学を選ぶことはないかもしれませんが、大学のテクノロジーがアップデートされているかをみる指標となるかもしれません。 3校目のCorner Stoneは、患者さんの情報や検査結果、そしてお会計がリンクしているため、紙カルテよりも格段に便利ではありますが、Vet Viewと比較すると、検査結果をマニュアルでアップロードする形のため、ファイルが引き出しにくい点(時間がかかる)、画像診断とのリンクができていない点などにおいて少し劣っているように感じます。 入院カルテ 入院カルテとは、入院患者の治療内容を記入するシートのことです。このシートがあることで、他の獣医師や動物看護師さんと入院患者情報、治療方針が共有でき、各患者さんへの治療をスムーズに行うことができます。 このシートの違いに関しては、以下のものを経験しました。 電子入院カルテであるInstinctは、入院患者さんの治療内容やバイタル変化などを記録するソフトになります。これは、私的に非常に便利で、獣医さんと看護師さんの分業がしっかりしている大学病院では、私たち獣医師がこのTreatment Sheetに治療内容をオーダー入力することで、看護師さんがこの内容を確認して、この指示通りに治療や処置を行ってくれます。また、トリートメントに入力された投薬やモニターなどをもとに、入院費用も自動的に計算してくれるなど、電子カルテの全ての役割を担うことができるそうです。 そして、Instinctには、獣医で使用される薬剤の教科書Plumbが導入されています。これによって、薬剤について調べることはもちろんのこと、入院カルテを作る時に、mg/kgを入力することで患者さんの体重に合わせて投与量の計算までしてくれます。さらには、医療事故防止のために、万が一投与予定量がPlumbに記載される値から大きく外れていると、アラートが表示される機能もあります。 私は、2校目のインターンでInstinctの使い方にある程度慣れていたので、3校目の大学で同じシステムが使われていることを知った時は、とても嬉しかったです。 このようにとても便利なInstinctですが、オーダー方法や各病院が行っている”当たり前”を知らないと、看護師さんに迷惑をかけてしまうこともあります。例えば、入院患者数が多いので、1日2回の投薬なら7amと7pmに設定するなどtreatmentの時間をそろえることが暗黙の了解になっているのです。 郷に入っては郷に従えという言葉のように、務める病院の風土に合わせて、いかにスタッフの方々とストレスなく、助け合い、最善の医療を提供できるかがとても重要だと思いました。 動物看護師との連携について 日本では馴染みのなかった、テクニカルサポートという言葉の意味を学びました。診療補助という意味ですが、これは、動物看護師が、診療の中でどれだけの範囲、役割を担うのか、どこからどこまでを任せるのか、という意味でもあります。 アメリカの看護師さんは、こんなことまで看護師さんができるの?!ということまでやってくれます。大学によりますが、現在の私が所属するICUの看護師さんは非常に優秀で、入院カルテにオーダーを記入しておけば、看護師間で以下の内容も獣医師なしにできてしまいます。 どこまでが動物看護師の仕事で、どこからが獣医師の仕事か。特にECCで働く場合は、この役割分担がとても重要なポイントになります。全部獣医がやらなければいけない場合、時間外の仕事が増えてしまい、学ぶことが本業の研修医として、学びの機会を失ってしまう可能性があるからです。もちろん助け合いは、大切なことですが、仕組み自体に問題があるのであれば、改善しなければならないことだと思います。 また、当然のことかもしれませんが、医療レベル、強みのある分野も大学によってかなり異なります。私もテクニカルサポートに関して、今までの経験上、大学による大きな違いを感じました。 例えば、 A大学:ER専属の動物看護師が基本いないので、全ての処置、検査を獣医師が行う。動物看護師は入院看護のみ。 B大学:ER専属の動物看護師というポジションがないため、手が空いていれば手伝ってもらえる。入院看護でさえも基本人手不足のため獣医師も行う。 C大学:ER専属の動物看護師が基本的に全て担う。入院カルテにオーダーをすれば、全て動物看護師によって処置が完了する。 何を目的に渡米して獣医大学に入り、何を学びたいのか、もちろん個々の性格もあってどれが正解ということはありませんが、このような違いがあるということをイメージした上で、仕事環境を選べると有意義な時間を過ごせるのではないかなと思いました。 4. 他科との連携について ECCという科は、他科(外科や循環器科、神経科、画像科など)とのコミュニケーションを図る機会が最も多い科です。 例えば、腸穿孔に伴う腹膜炎や腸閉塞,胃拡張胃捻転などの緊急手術が必要になる症例が来た場合は、外科や画像科チームとのコミュニケーションがとても重要になります。また、椎間板ヘルニア疑いや神経症状、発作の患者がERに来院した場合は、神経科とのコミュニケーションが必要で、このようにERだけで完結する場合もあれば、他科と協力して最善の治療法を提案しなければならない場合も多くあるのです。 これだけの科が関わると、ECC側の意見と、他科の意見が一致しないことも珍しくありません。例えば、私が1校目の時に注意されたのは、他科の先生に言われたことを鵜呑みにしすぎてしまっていたという点でした。専門医が言っているのだから正しいはずだ、と思っていたのです。しかし、あくまで主導権は、主治医であり、画像診断医が治療に関してコメントをしたとしても最終判断は、主治医である私が行わなければならない、ということを2校目、3校目と経験することで理解できるようになりました。 どこの病院にも多少のぶつかり合いはあります。最初に各科がECCとどんなスタンス、関係性にあるのかを察することがとても重要だと思います。 自分自身がどのような立場で、どのような診療方針のもと学びをしたいのか、こういった観点からも判断することは、せっかく来たアメリカで過ごす上でとても重要な判断材料になるかと思います。 州によって異なる医療用麻薬の取り扱いについて 今までの内容と比べると少々細かいですが、コントロールドラッグ(麻薬)についてです。日本と同様に麻薬指定薬は、取り扱いがとても厳しく、簡単に放置、廃棄することができません。 処方する際には、多くのプロセスを経なくてはならないため、指定薬かどうかで、診療のスピード感が異なってきます。例えば、1校目に働いていた州では、ガバペンチン(痛み止め)がコントロールドラッグだったので、処方の時も扱いが厳重でしたが、2校目、3校目ではコントロールドラッグではないため、簡単に処方できます。何がコントロールドラッグか、そうでないか、を把握しておくことも診療効率を考える上で大事なことだと思いましたのでご紹介しました。 まとめ 大学を、テクノロジー、テクニカルサポート(看護師さんができる範囲)、州の法律による視点から見る機会はあまりないと思います。そして、私自身、これらの点をマッチングの際に自身の参加したいプログラムのランキングづけに活用しようとは、想像もしませんでした。…
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急性呼吸促迫症候群(ARDS: Acute Respiratory Distress Syndrome)とは/アメリカ獣医レジデント備忘録
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 急性呼吸促迫症候群(以下ARDS)とは、さまざまな原因によって肺の血管透過性が亢進した結果、非心原性に肺水腫が引き起こされる病態です。人医療でも生存率が低い病気です。この記事では、ARDSに関して解説します。 ARDSとは ARDSとは、さまざまな原因によって肺の血管透過性が亢進した結果、非心原性に肺水腫を起こす症候群です。時間とともに病態が進行するため、確定診断が難しく、人医療でも致死率の高い疾患です。 病態 肺胞上皮の障害 病態の要になるのは、肺胞上皮の障害です。二次性に引き起こされた肺胞上皮の障害が、ARDSを進行させることになります。肺胞上皮の障害は、様々な原因、例えば肺炎や膵炎などの重度な全身性の炎症に起因すると考えられています。 肺胞上皮の障害による弊害 間質と肺胞内に滲出液が貯留、さらには、肺胞の虚脱や無気肺によって、酸素や二酸化炭素の拡散障害が起こります。つまり、酸素が血液中に運ばれにくくなり、低酸素血症になります(PaO2やSpO2の低下)。 そして、肺胞の虚脱によって換気も妨げられるため、二酸化炭素が排出できなくなり、高二酸化炭素血症になります(PaCO2の増加)。 また、肺胞上皮のバリア機能が低下するため、細菌感染が起こりやすくなります。最終的には、肺の重度な炎症から、線維化の経過を辿り、肺機能が失われることになります。 肺胞障害の3つのステージ 滲出期:急性炎症による肺胞構造の破壊、滲出液が肺胞・間質に貯留、滲出液に含まれる成分が析出し硝子膜形成、間質浮腫が起こる。 増殖期:元の構造へ戻ろうと、Ⅱ型細胞増殖する。DIC伴う場合、肺動脈内血栓の器質化がすすみ肺高血圧症を招く。 線維化期:線維芽細胞による硝子膜の線維化が進む。 人医療でのARDSの歴史 人医療においてARDSの診断基準が定められたのは1994年になります。ここでは、重度の低酸素血症をARDS、そして中程度の低酸素血症をALI(Acute lung injury)と名前を分けていました。 そして、2007年にこの人医療のARDSの定義を元に獣医療でもコンセンサスの診断基準が設けられました。1994年の定義をもとに作られているため、Vet ARDSとVet ALIという名前がつきました。 2012年になると、ベルリン定義という1994年の定義を改良した診断基準がつくられました。元の定義で曖昧だったところや、紛らわしいALIのカテゴリーが排除されました。 ARDSの定義 ベルリン定義によると、1-4を満たす病態をARDSと呼ぶことになりました。 獣医で定められた定義もベルリン定義と類似しています。 人医療でのARDS治療ガイドライン ARDSには基礎疾患が存在するはずなので、基礎疾患の治療が第一となります。そして、肺障害の悪化を防ぎながら、患者さんの酸素化、換気をサポートすることで、肺の修復を待ちます。 人医療でも死亡率の高いARDSですが、治療方針が明確にコンセンサスが得られていないものも多く存在します。 上記のテーブルは、Guidelines of the management of acute respiratory distress syndrome という論文から引用したものですが、10個の治療方法に関して推奨レベルを示したものになります。 赤字のStrong recommendationというものが多くのコミティーのコンセンサスが得られたものになりますが、10このうち2つのみ。エビデンスが乏しいという理由から、他の治療法は一般的に推奨されていません。 獣医療でのARDS治療法と予後 獣医療では、人医療のようなガイドラインがありません。換気不全、拡散不全が重度になり、数日間のベンチレーションが必要になることが一般的です。人医療のストラテジーと同様、肺保護するようなベンチレーションのセッティングで、なるべく肺を休ませて修復を待ちます。 獣医学でのARDSの予後は不良で、最も最近の回顧的研究では、犬で死亡率86%(37/43)、そして猫では100%(5/5)という報告があります。安楽死された患者さんも含まれているため、実際の予後はわかりませんが、決して予後がいいものではないということが明らかです。 症例 誤嚥性肺炎から敗血症性ショックに進行した症例を、連日で2症例経験しました。どちらも3歳、4歳と若い症例で、かかりつけ病院で誤嚥性肺炎と診断され、当施設に転院されてきました。 両症例とも来院時には発熱、呼吸促迫、努力呼吸が認められました。血行動態は安定していました。SpO2は酸素供給によって改善されました。レントゲン及びTFAST(胸部迅速簡易超音波検査法)では、右肺中葉のconsolidationが見受けられ、他の葉では、特に病変が認められませんでした。 3歳の症例は、翌日に血圧が低下し、敗血症性ショックへと進行してしまいました。レントゲンで肺野を再撮影したところ、わずかな病変の拡大が認められました。FiO2 40%においてPaO2(動脈血酸素分圧)が70mmHg、呼吸症状の悪化が見られたため、High flow oxygen(High flow oxygen therapyについてはこちらを参照)の適応を飼い主さんと相談したところ、費用の関係で、これ以上の治療は希望されず、安楽死となりました。…
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抗血栓薬に関するガイドライン(CURATIVE)とは/アメリカ獣医レジデント備忘録
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、抗血栓薬に関するガイドライン(CURATIVE)についてご紹介します。 CURATIVEとは CURATIVEとは、Consensus on the Rational Use of Antithrombotics inVeterinary Critical Care の略で、獣医療における抗血栓薬の使用に関するレビューです。Journal of Vet Emerg Crit Careの論文になります。 獣医療では、2019年まで人医療の様に抗血栓薬に関するガイドラインがなく、血栓傾向である患者さんに対しては手探り状態で血栓予防をしていました。 そこで、クリティカリストや内科の専門医が集まり、既存の論文データベースをもとに薬の適応に関するコンセンサスとして作られたのがCURATIVEガイドラインになります。 残念ながら、獣医療ではまだまだエビデンスに乏しく、ガイドラインのなかにもThere is insufficient evidence to make recommendationという記載が多くあります。 CURATIVEガイドラインの6つのドメイン CURATIVEガイドラインには6つのドメインがあります。6つそれぞれの論文として出版されています。どこに何が書いてあるかがわかりにくいので、以下にまとめます。 ドメイン1:血栓リスクのある病気の定義 ドメイン1では、どの様な病気が血栓リスクを伴うか、そしてその病気の診断とともに抗血栓薬を始めるべきか、というPICOを用いた問いに答えています。検討された病気は以下になります。 結論として、血栓症のリスクが高い病気は犬でIMHAとPLN。猫の心臓病。犬と猫で、2個以上の決戦リスクのある病気が存在する場合(例えば、膵炎と敗血症など)。 中程度の血栓症リスクのある病気として、犬と猫で上記に挙げられた病気1つが存在する場合が含まれています。 ドメイン2:抗血栓薬の合理的な使用方法 ドメイン2では、抗血栓症の合理的な使用方法についての記載があります。血栓症を、静脈血栓と動脈血栓に分類、そして抗血栓薬を抗血小板薬、抗凝固因子に分けて既存のエビデンスをまとめています。 理論的には効くはずの薬も、実際の臨床研究で効果が思う様にみられていない様なものもあります。 ドメイン3:抗血栓薬の投与方法 ドメイン3では、実際に薬の使用方法がまとめられています。獣医療でのエビデンスが多くない中、既存の論文を元に投薬用量がまとめられてるので、投薬を検討している場合には便利な論文になります。 ドメイン4:モニタリング方法 ドメイン4では、抗血栓治療を開始してからのモニタリング方法が記載されています。血小板の機能検査など、どこの病院ででも可能な検査ではありません。しかし、長期的な使用になる場合は特に、投薬量が適正かを確認することが重要です。 ドメイン5:抗血栓薬の中止方法 ドメイン5では、始めた抗血栓薬をどの様に中止するか、ということが書かれています。手術前に投薬を中止したい場合、または基礎疾患の治癒によって血栓傾向が改善された場合に、どの様にして治療薬を止めるかが議論されています。 ドメイン6:血栓溶解薬(2022年にアップデート) 急性の血栓塞栓症、例えば猫の大動脈血栓塞栓症や犬の肺血栓塞栓症で、獣医療における血栓溶解薬のエビデンスが記されています。 猫の大動脈血栓塞栓症に対する血栓溶解薬の使用 猫の大動脈血栓塞栓症(以下、ATE)症例がERに来院した際、血栓溶解薬の使用に関しての情報をまとめるきっかけとなったので、最後にご紹介します。 ATEに対してのアプローチには、血栓溶解薬である組織プラスミノーゲン活性化因子(以下、t-PA)や抗凝固剤のダルテパリンやエノキサパリン、そして抗血小板薬であるクロピドグレル等があります。 2022年のThrombolytics(血栓溶解薬)に関するCURATIVEガイドラインのレビューには、犬猫の急性の血栓塞栓症に対しての治療法が、既存のエビデンスをもとに解説されています。 日本ではt-PA製剤(特にThird generationのモンテプラーゼ)が、アメリカの獣医療に比べると、高頻度で使用されている印象がありましたが、利益とリスクを総合的に考えた時に実際のところどうなのかという疑問がありました。というのも、t-PA製剤はアメリカでは、ほとんど使われておらず、出血リスクが勝るという判断の元、使用しない専門医が多いからです。 そこで、CURATIVEガイドラインを確認しました。今回、私が特に注目した部分は、 3.8 PICO…
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壊死性筋膜炎(NF: Necrotizing fasciitis)/アメリカ獣医レジデント備忘録
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 壊死性筋膜炎とは、筋膜に生じる感染のことで、非常に伝播が早く外科的介入がなければ救えないと考えられる緊急性の高い疾患になります。この記事では日本では珍しいこの病気について、病態生理と実際の症例と共にご紹介します。 Necrotizing fasciitis(壊死性筋膜炎) 壊死性筋膜炎とは、筋膜に生じる感染のことで、非常に伝播が早く外科的介入がなければ救命が難しい、と考えられる緊急性の高い疾患です。診断が難しいことから、早期外科的介入を行うかどうかの判断も非常に困難になります。 獣医療では、壊死性筋膜炎の病態、診断方法、治療法についての十分な情報はありません。人医療でも、手術のタイミングの決定が難しいのと同様、もしくはそれ以上に獣医療では早期診断及び治療、救命が難しい病気と考えられます。 このように獣医療で報告が稀な病気に関しては、人医療のレクチャーなどからなるべく多くの情報を集め、獣医療でわかっていることを把握するところに落とし込むようにしています。 概要 壊死性筋膜炎は、蜂巣織炎(蜂窩織炎)と類似する病態です。蜂巣織炎とは、皮膚とその下の組織に細菌が感染し、炎症が起こる病気です。まずは蜂巣織炎と壊死性筋膜炎の違いを見ていきましょう。 蜂窩織炎 vs 壊死性筋膜炎 最も重要な違いは、全身症状に発展するかどうかです。 発症の原因 鑑別診断 人医療では壊死性筋膜炎の中でもタイプ1-4まであり、原因となる微生物、経過、治療法が異なるため、早期にタイプを同定することが重要になります。 治療法 治療方法は、壊死部の外科的完全切除、培養、抗生剤、高圧酸素治療、IVIG、血液浄化などが挙げられています。外科的な介入がなされなかった場合、死亡率が100%だったという報告もあります。 血液浄化に関してはこの記事で詳しく説明しています。興味のある方はこちらもあわせてご覧ください。 獣医療での報告 獣医療での報告は多くはありませんが、2005年と2010年にそれぞれNecrotizing Fasciitis (NF)のレビューと、治療に成功したケースレポートが存在します。 痛み止めとして、NSAIDsを選択しがちですが、この論文によると、もしかしたら状態を深刻化する可能性があることから投与は推奨されていません。また、バイトリルも原因菌のミューテーションに起因する可能性があるということで、使用が推奨されていません。 人医療ではペニシリン、アミノグリコシド、クリンダマイシンもしくはメトロニダゾールの3つの抗生剤投与が選択されます。獣医療では、クリンダマイシンが第一選択になるといわれています。 外科的介入について 外科的介入の手段に関しては、ドレナージ及び十分な洗浄(温存)vs 断脚(四肢に限局していれば)という選択肢があります。 アメリカの医療ドラマ、グレイズアナトミーで、この疾患が疑われた患者さんの断脚を行うか、という選択を迫られているシーンがあったのを覚えています。 温存することのメリットは、四肢を残せるという点ですが、デメリットは感染が体幹に広がるリスクです。断脚するメリットは、全身的な感染に発展することを防げる点ですが、診断が100%でない限り、必要のない断脚になる可能性もあるという点です。QOLや命に関わる問題なので、十分に吟味する必要があります。 人医療においても、外科的介入のタイミングについて、たくさんの研究が行われています。ここで取り上げておきたい内容は2点です。一つ目は、手術を行った21%で、診断が壊死性筋膜炎とは異なるものだったということです。そのうちのほとんどは、壊死を伴わない蜂窩織炎だったのです。もう一つは、早期手術で救命率が上がったという点です。早期手術の定義は論文によって異なりますが、6時間と12時間で設定された時に、早期に行うほど死亡率が下がったという結論になっていたのです。 命を救うためには、壊死性筋膜炎でない可能性を理解しつつも手術に進ざるを得ないこともあるかもしれませんが、飼い主さんへのインフォームも非常に重要になってくることがわかります。 症例 私が過去に経験した、壊死性筋膜炎が疑われた3症例についてご紹介します。私が働いた各施設で1度は診ているので、1年に1度出会うかどうかというところでしょうか。残念ながら、3例とも、飼い主さんの意向により、外科手術及び病理学的診断は行われませんでした。 症例1 体幹部の#8221;皮下出血#8221;? 最近の症例は、オンコールでのコンサルティングになります。 オンコールでインターンから伝えられた内容が以下になります。「4歳のポメラニアン、前房出血, 過剰な痛みを主訴に夜中に来院。バイタルは正常で、触診で体幹に強い痛みを示したため、毛刈りをして、傷がないかを確認したところ、左側胸部体幹に皮下出血が認められました。血液検査では、重度の白血球と血小板の軽度減少があり、赤血球は正常、凝固系はわずかにPT延長が認められた。採血するたびに血腫ができ、臨床的にも明らかな出血傾向が認められました。」 白血球および血小板の減少から、骨髄疾患、もしくは白血球の急激な消費があることが考えられ、出血傾向(前房出血、皮下出血、止血されにくい)が認められていることから、DICのような深刻な状態も想定されました。 皮下出血が大きくなっていないかを確認するために、マーカーでラインをつけてサイズをモニターするように伝えました。内科的治療介入後、安定していた患者さんの#8221;皮下出血#8221;病変は、数時間後には大きく拡大し、敗血症性ショックへと悪化、進行していきました。飼い主さんの意向により、それ以上の治療及び外科的介入は望まれず、安楽死となりました。 数時間でも全身状態の悪化、そして病変部の拡大から考えると、病理診断は行えませんでしたが、壊死性筋膜炎が強く疑われる疾患でした。 症例2 後肢から波及して膿胸に? 2歳のスタンダードプードル。胸水を主訴にかかりつけ病院から紹介。胸水は膿性で、来院した時からすでに横臥状態。努力呼吸、発熱が認められましたが、来院時、血行動態は安定していました。左側後肢に圧痕性浮腫が認められましたが、皮下出血の様に皮膚の変色はありませんでした。患肢のレントゲン及び、胸部CT検査で膿瘍および膿胸となる原因は見られませんでした。 翌日にはその浮腫が体幹、前肢に広がっていきました。外科的な患肢および胸腔ドレナージが推奨されましたが、残念ながら、飼い主さんからの了承が得られませんでした。 内科管理(抗生剤、胸腔チューブ設置、洗浄)に反応せず最終的に敗血症性ショックに陥り、安楽死になりました。患肢の圧痕性浮腫からは、大量の膿が流れ出てきました。 このことから、確定診断はつきませんでしたが、左後肢から体幹、さらには胸腔、そして前肢に壊死性筋膜炎が波及したと考えられました。 症例3 膿瘍形成 4歳のピットブルミックス。外傷による創傷治療をかかりつけ病院で行われていたが、急速な後肢の腫脹を主訴に夜間に来院。来院時バイタル安定。 以下の写真のように、左後肢の重度腫脹、そして病変が右側にも波及していました。この腫脹は超音波下で明らかに液体で満たされていることがわかりました。 鎮静下で、ドレナージを行い、出来る限り排膿、洗浄を行いました。壊死性筋膜炎である可能性を飼い主さんに伝え、数日の入院管理を推奨したところ、費用制限によって退院を希望されました。 この症例のその後はわかりません。もしかしたら膿瘍の可能性もありますが、逆後肢への波及や、皮膚の壊死が重度であることから、壊死性筋膜炎の可能性は除外しきれない、という症例でした。…
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アメリカ獣医大学のJournal ClubとBook Reading/ECCレジデント生活
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、アメリカ獣医大学の勉強会(Journal ClubやBook Reading)についてご紹介します。大学によって、勉強会のペースやファカルティがどれだけ関与するかは異なります。勉強会の質も、どの大学で研修をしたいか選択する時のポイントにもなります。 アメリカのレジデント生活に興味がある方、マッチングのランク付けで、どの様な視点でプログラムを比較するか悩んでいる方向けの記事です。 ECC専門医試験を受けるための必須条件 ECCのレジデントは3年間の研修医プログラムになります。3年間のうちに、ACVECCというアメリカのECC協会が決めた水準に満たすようなトレーニングを受けます。そして3年後の試験に合格すれば晴れて専門医の資格を獲得することができます。このトレーニングの一環としてJournal ClubやBook Clubがあります。 Journal Club Journal Clubとは、最新の論文についてディスカッションをする時間になります。論文の構成や、研究の仕方まで読み解く様なジャーナルクラブから、論文の要約、内容共有のみのものまで、やり方は様々です。 ECCの専門医試験は、過去3年間の規定された論文から出題されるため、専門医の資格を取得する上でも必須の知識となります。すべての論文を網羅することはほぼ不可能なほど大量の論文が出題範囲となります。 試験勉強に関しては、論文を深く読み込む必要はなく、アブストラクト程度の知識で十分という話を聞いたことがあります。 今の大学では、レジデント(私を含め3人)とファカルティ の2人、合計5人の小規模なもので、隔週でJournal ClubとBook Club(後に説明します)を交互に行います。よって2週間に4つの論文をディスカッションすることになります。 このスケジュールでは、割と時間に余裕があるので、事前に引用論文や教科書をしっかりと読み込むことができます。どんなことをディスカッションしたいか、事前に準備することができて私は満足しています。 また、別の大学のレジデントの話を聞くと、研究デザインに踏み込んだ解釈をする方針、もしくは、ファカルティが専門医試験対策としてクイズを準備してきてくれる場所などがある様です。大学による勉強会の質は大きく異なるので、マッチングの際にどんな環境が自分に最適かを調べることが重要です。 Book Club BookClubとは、ECC専門医試験で出題される各分野の参考書をみんなで読んで、内容を理解していくというものです。規定されている教科書は、その分野におけるバイブル的な存在の参考書ばかりなので、とても勉強になります。 私の大学では、年間スケジュールが決まっています。試験問題となりやすい内容をカバーする教材、どの程度のペースで読んでいくかというペース配分が長期的に決められているので、自分で勉強するにもありがたいです。 レジデント1ヶ月目の現在は、呼吸生理学を勉強しています。呼吸器が終わると、電解質、腎臓の生理学、そして循環器生理学がテーマになります。3年かけて専門医試験の範囲をカバーしていくことになります。 呼吸器生理学では、Dr. Westが書かれている『Respiratory Physiology』という参考書を扱っています。こちらの本は、ECCや麻酔科でも長く活用されているもので、著者であるDr. Westの講義が、YouTube動画でフルに閲覧可能です。 Dr. Westの講義動画 動画は、教科書に沿った内容なので、私はBook clubの準備の際には、必ずこちらの動画を見るようにしています。本からは読み取れない著者の伝えたいことを理解することができます。 この本はチャプター10からなる薄い本ですが、名著なので、日本語に翻訳された本が今でも出版されています。 『田中竜馬先生の血ガス白熱講義150分』という本は呼吸生理学がわかりやすく解説されているため、『Respiratory Physiology』を読み始める前に読んでいたのが非常に役に立ちました。 A-a gradient(A-a勾配)などの式が専門医の試験には頻出になりますので、英語で学ぶとなると苦労したであろう内容も、『田中竜馬先生の血ガス白熱講義150分』を読んでいたことによってスッと頭に入ってきました。田中竜馬先生の本は、本当におすすめです。 また、BookClubでは、読んでくるchapterが決められており、そのchapterから専門医試験に出てきそうなクイズを自分たちで作り、レジデント同士でクイズを出し合うということをします。ファカルティもクイズに参加するので、「ここはテストに頻出だよ。」といったアドバイスをしてくださいます。 勉強法 試験が3年後ということもあり、今やってもきっと忘れてしまうだろうということを前提に、自分でもまとめノートを作ることにしました。以下のような感じでChapterごとにまとめてノートを作っています。 このノートを見れば、重要ポイントを教科書をすべて読み直さずに思い出せるように、という目的で作っています。イラストをコピーアンドペーストしてノートに貼り付けることで、1枚のノートが目次のような役割も果たしています。 この教科書だけではよくわからないな、という点は特にグーグルの画像検索を駆使してノートに貼り付けるようにしています。iPadのアプリ、GoodNotesがこのようなノートを作るのに非常に便利です。 視覚を利用することで理解が一気に深まります。 この本は、チャプター10までと薄い本ですが、先に進むにつれて1チャプターの内容が重くなっていきます。1ヶ月で、チャプター1-5まで進みました。このペースでどんどん進んでいきます。 まとめ レジデントの専門医になるには、プログラムの要項に沿って日々を過ごすことと、3年後の専門医試験を見越した準備が必要になります。これをこなすだけでも、毎日かなりの勉強量が自ずとついてくることになります。 この様な仕組みがよくわかっていない時は、レジデント=ゴールと思っていました。今ではレジデントになってからがスタートだ、ということを痛感しています。
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レジデント生活1ヶ月目ダイジェスト
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 2022年でアメリカ大学病院生活3年目になります。レジデント生活が2022年7月後半に始まり、もう1ヶ月が経とうとしています。レジデントとしての生活を記録に残したいと思い、今回からシリーズで記事を書くことにしました。 題して、『36ヶ月後にECC専門医になる私‼︎』です。 レジデントプログラムでどの様なトレーニングができるか興味のある方が対象になります。主な内容は、専門医になるための日々のトレーニングをご紹介するものです。アメリカの教育システム、研修医ならではの生活、そして日々学んだこと等を中心にご紹介していきます。 ダイジェスト形式で載せていくので、興味があればリンクから記事をご覧ください。 ECCレジデントプログラムの内容 ECCのレジデントは3年間の研修医プログラムになります。3年間のうちに、ACVECCというアメリカのECC協会が決めた水準に満たすようなトレーニングを受けます。そして3年後の試験に合格すれば晴れて専門医の資格を獲得することができます。 3年間のレジデント活動内容を、分類すると大きく3つに分けることができます。 大学病院の仕事 日々の診察(ERやCritical Care)で、飼い主さんと話したり、インターンや学生に教育をすることが含まれます。そして専門医であるファカルティと毎日ディスカッションをします。 専門医試験を受けるために必要な要件 ECCのレジデントは3年間の研修医プログラムになります。3年間のうちに、ACVECC(American College of Veterinary Emergency and Critical Care)というアメリカのECC協会が決めた水準に満たすようなトレーニングを受けます。その水準を満たすことで、3年後の専門医試験で試験会場に着席できることになります。そして試験に合格すれば晴れて専門医の資格を獲得することができます。 症例から学ぶ 症例やプレゼンテーションのために、論文をあさったり教科書を読み知識を深める時間はレジデントをする中で非常に重要な時間です。日々の診察を振り返って、最新の知見をリサーチを日常的に行っています。 ここからは、最初の1ヶ月の進捗状況およびどんなことを学んだかをご紹介するダイジェストに移ります。リンクを貼っているので、興味のある内容はそちらの記事も併せてご覧ください。 2022年8月 主なレジデント活動内容 3つの活動内容に沿って、一ヶ月をダイジェストしていきます。 ①大学病院の仕事 アメリカ獣医インターンとレジデントの違いとは レジデントとして新生活が始まり、大学のシステムや臨床現場で一人でできることが増えた一方、求められることや責任が大きくなったと感じます。この記事では、インターン時代を振り返りながら、同じ研修医という立場のレジデントとインターンで、何が大きく異なるかをご紹介しています。 私は、自分の経験値を増やし、より良いECCの専門医を目指してインターンを2年行いました。2つの大学でインターン、そしてまた別の病院でのレジデント生活を経験していることから、それぞれのポジションの特徴を理解しています。最終的にはなんのゴールのために研修医というトレーニングを行うか、というところに焦点を当てて記事を書いていますので、興味のある方はご覧ください。 夜間オンコールの仕事 レジデントにはオンコールという、重大な役割があります。レジデントが始まり、すぐにこの役割が割り当てられました。 インターンの指導はレジデントの仕事です。インターンは学生を卒業して間もないことが多いので、右も左もわからないということが珍しくありません。アフターアワー(営業時間外)には、レジデントもファカルティも大学病院にはいませんので、どうしたらいいのかわからなくなった場合、オンコールの獣医師(レジデント)に連絡することができるのです。 この記事では、オンコールのシステムを解説しています。 ②ECC専門医試験を受けるために必要な要項 Journal ClubとBook Club 専門医試験を受けるために必要な項目の中に、「セミナー」があります。1年間に100時間、専門医が開催するセミナーに参加したことを証明する必要があります。 セミナーには、Journal ClubやBook Clubなどが含まれます。 この記事では、私の大学のJournal ClubとBook Clubという週に一度行われる勉強会についてご紹介しています。アメリカ獣医大学の勉強会がどのようなものかに興味がある方はぜひみてみてください。 ローテーティング 麻酔科編 ACVECC(The American College of Veterinary Emergency and…
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【研修医生活】パン生地の誤食症例、外科とECCチームの衝突
この記事の内容 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 ICU管理には、ドラマがあります。アメリカの獣医医療費は、日本に比べて莫大です。費用と、予後と、QOLのバランスを考えた計画が必要になります。安楽死に対する考え方も日本とは大きく異なります。 この記事では、印象深い患者さんやシチュエーションをただつらつらと日記のように書いていこうかなと思っています。アメリカってこんなことが起こるのか、というショッキングなことなどもご紹介できると思いますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。 なるべくためになる知識も盛り込んでいこうと思っています。別の記事のリンクも添付しますので、知識の確認にもご活用ください。 誤食症例がきたときの情報収集 パン生地の毒性 初期対応、治療 ECC、外科、飼い主さんのディスカッション 最終的な治療方針 結果 まとめ [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 誤食症例がきたときの情報収集 ERのシフトの際に、電話の問い合わせがありました。 「2歳のジャーマンシェパード2頭がパン生地を誤食した。部屋を離れていた隙に5カップのパン生地がなくなっていて、どっちがどれだけ食べたかはわからない。いますぐに連れて行きたい。1-2時間前に誤食したはず。そして今のところ臨床症状は出ていない」 とのことでした。ここからは誤食についての一般的なアプローチを踏まえて今回の症例についてご紹介していきたいと思います。誤食についてはこちらの記事で詳しく説明しています。 さて、初めて出会う誤食の症例がきたら、まずは情報収集が必要です。 情報の整理:以下の情報は最低集めるようにします。 パン生地に関しては、パン生地の中にレーズンなどさらに中毒物質が含まれていないかの確認。幸にも、私の患者さんが誤食したパンにはレーズンなどは含まれていないようでした。 そして何時間すでに発酵されていたかを確認します。この症例に関しては、5時間発酵されていた状態だったそうです。 また、最後の食事が何時だったかというのも重要な情報になります。すでに嘔吐があるかどうか。症状があるか、というのも、治療方針を決定する重要な手掛かりになります。 電話があったときに、症状はなく、最後の食事は昨晩でした。この情報から、まだ症状が出ていないので、催吐可能な可能性が高いことがわかります。そして、レントゲンを撮影した場合、写ってくるのはついさっき食べたパン生地のみであろうことも予測されます。もしもご飯を食べていた場合、中毒物質なのかご飯の残渣なのかの判断が難しくなります。 初めてパン生地の誤食の問い合わせがあっとき、正直私はググるところからのスタートでした。そもそそパン生地って中毒性があるの?というレベルでした。 私の大学には、毒性学で非常に有名な先生がいて、学生にとても人気です。学生はその先生の講義の内容を非常によく覚えています。 さすがだなーと思ったのですが、いい先生が教えたことは生徒の記憶にもちゃんと定着しているようで、学生が、パン生地は胃の中で膨らんでいろんな合併症が出るんだよ、と教えてくれました。それを聞いて慌てて毒性学の教科書とパブメドでリサーチを開始。 パン生地の毒性 どうやらパン生地の誤食には2つの大きな合併症が生じうるということがわかりました。パン生地が胃の中で膨らんで物理的な胃拡張、胃腸閉塞、GDVを引き起こすことが一つ。そして胃の中で発酵することでエタノール中毒を引き起こすことが二つ目です。 Small Animal Emergency and Critical Careなどのエマージェンシーの本にはあまり詳しい情報や治療法が載っていませんでした。私が使用した情報源は、5 min toxicologyと、ちょっと古いですが2003年のPoison controlがパブリッシュしたケースレポートです。 このケースレポートは、Poison Control(ペットの誤食を毒性学の専門の先生が電話相談をするサービス)から出されたものなので、ケースの細かい情報は載っていませんが、Discussionで一般的なパン生地誤食についての情報がよくまとまっていました。 初期対応 中毒の初期対応として食べたもの(毒性物質)が腸管から吸収される前に胃腸から出す(decontamination)。ということが基本になります。 患者さんの状況を確認、そして中毒物質の特製を調べることで、decontaminationのベストな方法を調べます。そして、誤食直後には血液検査に異常はでないはずですが、ベースラインとして、サンプルを採取しておくことは非常に重要です。 decontaminationの手段は以下の3つが挙げられます。 催吐 胃洗浄 外科的摘出 ここで、パン生地のdecontaminationには、注意が必要ということを学びました。粘着力の強いパン生地を催吐させることで、胃破裂、もしくは食道閉塞、誤嚥性肺炎のリスクが大きくなります。 本によっては注意して催吐させる、といっているものもあります。facultyに相談したところ、催吐はリスクが高いのでやめましょうということになりました。 胃洗浄に関しては、メリットデメリットを考慮する必要があります。 メリットとしては、直接パン生地が取り出されなかったとしても、発酵過程で生じるエタノールを浄化すること、そしてチャコールを投与することが可能です。そして外科手術による合併症も生じません。…
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【研修医生活】尿道閉塞の内科管理で総額約50万円かかった猫
この記事の内容 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 ICU管理には、ドラマがあります。アメリカの獣医医療費は、日本に比べて莫大です。費用と、予後と、QOLのバランスを考えた計画が必要になります。 この記事では、印象深い患者さんやシチュエーションをただつらつらと日記のように書いていこうかなと思っています。特に勉強になるようなものではありませんが、アメリカってこんなことが起こるのか、というショッキングなことなどをご紹介できると思いますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。 かかりつけ病院で尿閉解除が困難だったため紹介された猫 来院時のカリウムが8.5、不整脈、徐脈、血圧測定負荷 尿閉解除 入院時に尿カテ抜去に2回失敗 尿道造影にで尿道狭窄が診断 内科/外科/ICUの専門医での会議 退院 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] かかりつけ病院で尿閉解除が困難だったため紹介された猫 今回紹介する患者さんは、尿閉で紹介された5歳の雑種の去勢オス猫さんです。 かかりつけの動物病院で尿道閉塞が診断され、閉塞解除が試みられました。しかし、全身麻酔下でも閉塞解除が成功しなかったため、膀胱穿刺によって膀胱を空にした後、私が働く大学病院に紹介されました。 かかりつけ病院でのカリウムの値は8.3。それに対する処置は特にされていませんでした。 到着した猫ちゃんはぐったり。麻酔からまだ覚めきっていないと飼い主さんは言いましたが、流石にこの意識レベルは心配だ、、、と思い急いでICUに連れて帰りトリアージを行います。 来院時のカリウムが8.5、不整脈、徐脈、血圧測定負荷 予想通り、脈は取れず、徐脈、そして低体温。ECGを付けてみるとP波の消失、テントT波。典型的な高K血症のサインです。重度の脱水もあったため、グルコン酸カルシウムを準備している間に点滴をボーラスしました。ボーラスによって血圧が測れるようになりましたが、心臓保護のためにグルコン酸カルシウムを投与します。 POCの血液検査でカリウムが8.5という結果が出ました。 ここで選択肢としては、デキストロース、インスリン、重炭酸ナトリウムの投与がありますが、facultyの方針によりこの時点でデキストロースが投与されました。 飼い主さんに閉塞解除の際に起こる合併症を説明し、同意をもらった上で閉塞解除に進みました。 ちなみにですが、尿閉の猫ちゃんは入院管理が必要になりますが、最初の見積もりは2000-2500ドル(20-25万円)です。日本では考えられない値段かもしれませんが、アメリカは本当に医療費が高額です。残念ながら、これが許容できない場合は膀胱穿刺をして皮下点滴をして閉塞が解除されることを祈るということもありますが、常に安楽死という選択肢も見据えないといけないというのが辛い点です。 尿閉解除 尿閉解除の方法は様々です。私の働く大学では、MILAのカテーテルが主流です。中のスタイレットは外して使用します。ジェルをたっぷり塗って、カテーテルが滑りやすいようにします。フラッシュ用の生理食塩水にもジェルを混ぜます。 閉塞解除の際、陰茎の角度などが重要になります。ペニスの先を引っ張るようにして膀胱から一直線の状態にしてカテーテルを進めていくとうまくいくことが多いです。 その方法で、今回の猫ちゃんの閉塞解除は30分ほどで完了しました。 スタンダードな方法がうまくいかなかった場合に、会陰ブロックを行ったり、全身麻酔に進んだり、最終手段としてはそのまま会陰尿道瘻形成術に進む場合もあります。 入院時に尿カテ抜去に2回失敗 入院管理は途中まではとてもスムーズでした。レントゲンで結石がないことを確認して、尿検査で感染がないことを確認します。この時点で、閉塞の原因は尿中に含まれる大量のデブリからFIC (Feline Ideopathic Cystitis)猫の特発性膀胱炎であると仮診断されました。 FICに対して、なるべくストレスをなくすこと、痛みをなくすこと、などの環境に気を使った入院管理を行います。 カリウム、BUN, Crea, 尿量、猫さんの水和状態も整い、唯一の心配は尿の色(血尿)と尿中のデブリだけという状況になりました。入院3日目に、尿カテーテルを抜去して、自分で排尿できるかをトライしました。 午前中に抜去し、夜には再閉塞。。。 尿カテーテル抜去失敗に至り、再度尿カテーテルを設置して閉塞を解除します。これが2回起こったため、尿道狭窄や尿道の外傷の可能性を考慮して逆行性尿道造影を行うことになりました。 尿道造影にで尿道狭窄が診断 3度目に尿カテーテルを抜去するタイミングで尿道造影を行うことになりました。 これは、造影剤を尿道カテーテルから注入した透視画像ですが、膀胱近位の尿道で狭窄が起こっています。他の部位の尿道を見てもらうと太さが明らかに異なります。十分なプレッシャーをかけているけれども、尿道が広がることができない状況=尿道狭窄が強く疑われる所見になります。 もちろん、急性の炎症かどうかを判断するには、炎症が落ち着いたであろう頃に再度同様の検査をして、この狭窄部位が消失していることを確認する必要があります。 この猫さんは2つの問題を抱えています。一つはこの尿道狭窄。そしてもう一つ、尿道閉塞を後押しした原因となるFICです。 内科/外科/ICUの専門医での会議 さあ困った。この結果をみた私たちは、尿カテを抜いても、これではまたすぐに尿道閉塞するだろうと考え再度尿カテを留置することにしました。 何が事を複雑化させているかというと、この近位での閉塞です。尿道損傷や狭窄が尿道遠位で生じているのであれば、その部分を切除するという会陰尿道瘻の適応になります。 しかし、狭窄部位があまりに近位のため、会陰尿道瘻が単純に適応できないということが示唆されます。 そして、内科、外科、ICUの専門医が集まった会議を行いました。もしも再閉塞したときに、どんな選択肢があるのか。尿道吻合術になるのか。それとも尿道ステントが適応になるのか。競技の結果、大きく二つの選択肢があるという結論に至りました。 尿道吻合術(狭窄部位を切り取って尿道をつなげる)…