はじめに
私は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2021年現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
この記事では、普段の診察で論文、雑誌、教科書をどのように使い分けると効率よく勉強できるか、私なりの考えについてご紹介します。情報に溢れているため、私はどんなリソースを用いて勉強したら良いか迷子になることがよくありました。同じ様なご経験がある方に読んでほしい記事になります。
論文、教科書、日本語雑誌の使い分け
私が獣医師として働き始めた頃、ふとした疑問をどう勉強したら良いのか迷子になることが多かったです。病院にはたくさんの教科書や、雑誌が積まれ、パソコンには大学の授業スライドがあり、Pubmedでは無限の論文が手に入ったので、逆にどのリソースをどう使ったら良いかといった情報の使い分けが難しかったのです。
まずは自分が知りたい内容について抽象化します。その疑問が、病態生理学を理解していないためにわからないのか。それとも治療法のトレンドやゴールドスタンダードを一通り学びたいのか。それとも、珍しいケースで、どう解決したら良いかわからない疑問なのか。
私なりの答えは、
- 基礎的なことがわからない場合 ☞教科書 or 大学のスライド
- 最近のトレンドを知りたい場合 ☞論文検索(レビュー)
- 稀な疾患や特有の問題を解決したい場合 ☞ 論文検索(ケースレポート)
基礎的なことがわからない場合
例えば、低カルシウム血症の診断、治療、など普段の診察において毎日の様に会う疾患ではない場合、いくらかの経験があったとしても見逃しがないように書物で確認したいところです。こんな時は、教科書を用いて、鑑別診断、診断方法、治療方法をざっと確認していきます。
やや発展した内容の疑問が生まれたとき
次に、病気の基礎的な部分は、理解しているものの、少し発展した疑問が生じた場合。例えば、内科と外科のそれぞれの予後は?最悪の状況では何が起こりうる?最新の治療法は?など、これらのような臨床現場で生まれる疑問を『クリニカルクエスチョン』と呼びます。
この『クリニカルクエスチョン』場合、私はまずは教科書を確認します。そして、それでも記載されていない場合は、文献データベースの『PubMed』の検索に進みます。新しい論文であれば、イントロダクションを見ることで治療のトレンドなどが簡潔にまとめられています。
『PubMed』とは、世界中の文献を検索できる医学・生物学文献データベースで、インターネット上において無料で利用できるとても便利なサイトです。
以下のURLからアクセスできます。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/PubMed/
『PubMed』の検索方法に関してはこちらの記事を参考にしてください。
日本語の雑誌は、獣医師になって1-2年目の頃は、よく読んでいましたが、今思えば間違った読み方をしていたな、と感じています。雑誌はいつでもカラフルで、イラストがあって、とてもわかりやすいのですが、基礎が固まっていない状態で雑誌のみで勉強すると偏った考え方になってしまうかもしれないからです。
雑誌のイラストはとてもわかりやすいので、理解するためにとっかかりとして使用する分にはいいのですが、内容に偏りがある場合もあるので、最初は必ず教科書で基礎から理解するべきです。
なので、私個人の意見としては、『教科書で基礎固め』⇨『日本語の雑誌』の順番で学習することをおすすめします。
最近のトレンドを知りたい場合
そして、治療法がいくつもある病気などで、結局どれが主流なんだ?!ゴールドスタンダードが知りたい!というときに活用できるものが、論文のレビューです。ACVIMのコンセンサスステートメントがそれにあたります。必ず、最もアップデートされている新しい論文を見つける様にしましょう。
もしくは、回顧的研究やケースレポートのイントロダクションをみると、その病気や治療法に関するサマリーが載っているので、それも有用です。引用もとを辿れば、より元の情報に近づけます。
教科書を用いることもありますが、出版年によっては、すでに時代遅れの情報であることも多いので注意が必要です。
稀な疾患や特有の問題を解決したい場合
まれな疾患は、教科書にも情報が少ないことが一般的です。そんな時はやはり論文検索が大事になってきます。ケースレポートが有用で、珍しい症例や治療法がよく記述されています。
この様に、どんな疑問を解決したいかで、どう情報を探すかを使い分けると効率よく情報を集められます。
論文、教科書、日本語雑誌のそれぞれのメリットデメリッ
論文のメリット
- 最新のトレンドがイントロダクションで簡潔にまとまっている
- ときに写真や、細かい治療プロトコールなどの記載がある
- まだ教科書に載っていない最新の知見・情報が手に入る
- 引用文献で引用もとを辿れる
論文のデメリット
- 解釈に注意が必要
- 批判的吟味の上、自分の患者に適応できるかの判断が必要
もちろんレビュアーの審査を通って論文が発行されてはいますが、やはり解釈には注意が必要で、論文の内容を鵜呑みにするのは危険なことがあります。どのように気をつければ良いか。どのように論文を批判的に読むべきか。を学ぶためにジャーナルクラブといった論文を批判的に吟味する場も存在します。
教科書のメリット
- 意見に偏りがない
- アップデートされる
教科書のデメリット
- 発行、翻訳までに時間がかかる
- 新しい版が出るまでに論文で出される情報とのギャップが生じる
教科書は、数ある論文を専門家のみなさんが吟味して、まとめたものです。相反する意見の論文を第三者の立場から吟味しているため、最も信頼のおけるリソースだといえます。そのため、私は、一般的な知識を得るためであれば、一番に検索するものは教科書としてます。
しかし、教科書のデメリットとしては、発行までに時間がかかることです。専門家のみなさんが最新の論文を吟味し、要約して、まとめておりますが、新しい版が出るのに数年かかります。その間にアップデートされた情報は、教科書に反映されないので、時代遅れの知識になってしまうこともあり得るのです。
日本語雑誌のメリット
- 最新の知見が要約されている
- イラストや写真がたくさんのっていてわかりやすい
日本語雑誌のデメリット
- 著者の意見によるバイアスが生じる
日本語雑誌は、論文や教科書、そして著者の経験に基づいて作成されます。そのために、当然著者の意見が直接反映される形になります。このブログも雑誌と同じ立ち位置になります。よって、雑誌やこのブログを鵜呑みにしてしまうと偏った情報になりかねません。
雑誌のイラストや写真を学び初めのとっかかりとして、イメージしやすくすることは重要ですが、理解を深めるには、やはり教科書を読むことが重要です。
王道教科書を1科目につき一冊以上作る
これまでに教科書で学ぶことをおすすめしてきましたが、実際どの教科書を用いればいいか。といった疑問に至ると思います。ここでおすすめしたいのが、科目ごとに自分にとっての王道教科書を作ることが大事ということです。
臨床現場で働いていると、「なんでこの治療してるの?」と聞かれることは多々あります。そこで、「—の雑誌の—先生がこうしていたので」と答えるよりも、ちゃんとした教科書、例えば「Small animal internal medicineの—の項目にこう書いてあったので」と説明できる方がよっぽど説得力があります。
私は、必ず治療の根拠を王道教科書で探し、誰かに「なぜ?」と聞かれたときに、答えられるようにしています。こうすることで、普段の診察にも自信が持てます。
まとめ
- 基礎固めは教科書から学ぶのがおすすめ
- 最新の知見は論文から
- 論文の情報は批判的吟味の上活用する
- 日本語の雑誌および、このブログの内容は意見の偏りがあることを理解する