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  • 【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。

  • 【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆​呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m

  • 犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…

  • 酸素解離曲線とは?酸素が肺胞から細胞に運搬されるまで

    酸素解離曲線とは?酸素が肺胞から細胞に運搬されるまで

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、救急集中治療の専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、酸素運搬、組織への酸素供給を理解する時に欠かせない概念である酸素解離曲線について解説します。実際の臨床現場では、理解していなくても患者さんを救うことはできるような内容ですが、バックグラウンドを理解することで、より論理的に治療法を選択することができるようになります。 PaO2とSaO2の意味をおさらい 低酸素血症が悪化した結果、組織に酸素を十分に送れなくなり、代償性に息切れや運動不耐といった症状が出ます。では、低酸素血症とはどういった状態でしょうか?簡単にいうと、「血液中の酸素濃度が低くなった時」ですね。 低酸素血症の定義 血液中の酸素量 動脈酸素分圧(PaO2) PaO2が示すものとは、動脈血中(血漿中)にどれだけの圧の酸素が含まれているかです。 酸素飽和度 (SaO2) 一方、酸素飽和度(SaO2)とはヘモグロビンに酸素がどれだけ結合しているかを示す%です。SaO2が50%であれば、50%のヘモグロビンが酸素と結合しているという意味になります 血漿中の酸素分圧によって、何%のヘモグロビンが酸素と結合できるかが異なります。ここで、「じゃあどのくらいの酸素分圧だったら何%の酸素がヘモグロビンと結合できるの?」という疑問が生まれてきます。 それを示した図が酸素ヘモグロビン解離曲線になります。 酸素ヘモグロビン解離曲線はPaO2とSaO2の関係を表す 酸素ヘモグロビン解離曲線とは、血液中の酸素分圧(PaO2)とヘ酸素と結合するヘモグロビンの割合(SaO2)の関係を表すグラフです。X軸にPaO2、Y軸にSaO2がきます。簡単にいうと、酸素分圧がxのときにヘモグロビンはどれくらい酸素と結合できるかを表しています。 私はこの概念がしっくりくるまでには時間がかかりました。 このグラフの意味が理解できるように、肺から組織への酸素運搬を、ヘモグロビンと酸素の結合に焦点を当てて解説していきます。 酸素が肺から組織に供給されるまで 空気中から気管、気管支を通って肺胞に到達した酸素がどのようにして血液中、そして組織へと運搬されるかを見ていきましょう。 肺胞内の酸素の量 息を吸って、肺胞に入った空気中には約20%の酸素が含まれています。つまり、FiO2=21%です。 吸気酸素濃度(FiO2:fraction of inspiratory oxygen)とは、吸った空気の何%を酸素を占めるかを表しています。 そして、FiO2から肺胞内酸素分圧(PAO2)に換算する場合、5×FiO2という簡略された式が用いられます。FiO2=21%の時のPAO2=105 mmHgということになります。 分圧とは、混合気体中に含まれる、ある一つの分子の圧力のことです。空気は、窒素、酸素、二酸化炭素からなる混合気体です。その中で酸素がどのくらいの圧力を持っているかを酸素分圧といいます。単位はmmHgです。 肺血管内 #8211;> 動脈血の酸素運搬 肺胞内の酸素は、肺胞の毛細血管内の血液中に拡散されます。拡散とは、肺胞上皮細胞、間質、肺の毛細血管の薄い壁を介して、酸素分圧が高い方から低い方に移動し、均等の分圧になろうとすることです。 正常な肺であれば、肺胞内の酸素分圧と、動脈血の酸素分圧はほぼ等しくなります。 拡散障害とは 肺水腫や肺炎などの、肺胞と毛細血管の間に浮腫や炎症細胞の浸潤によって肺胞内の空気と肺毛細血管が物理的に遠くなることで、酸素の拡散障害が生じます。 例えば、PAO2(肺胞中の酸素分圧)が103mmHgにもかかわらず、PaO2(動脈酸素分圧)が60mmHgだった場合、肺での拡散障害が推測されます。 肺胞内の酸素分圧と毛細血管の酸素分圧の差(PAO2-PaO2)を、A-a gradient (A-a勾配)といいます。この差が大きいほど、肺機能が低下していることが疑われます。 肺胞毛細血管 #8211;> 血漿中/ヘモグロビン いよいよ、血液中に分布する酸素について、酸素ヘモグロビン解離曲線を用いて解説していきます。 肺胞で酸素を受け取った動脈血の酸素分圧が100mmHgの時、ヘモグロビンがどれほど酸素と結合しているかを知るには、酸素ヘモグロビン解離曲線を用います。 酸素ヘモグロビン解離曲線を見ると、PaO2が100 mmHgのとき、SaO2は100%に極めて近いことがわかります。 つまり、肺胞を通過した血液のヘモグロビンはほぼ100%が酸素と結合している状態になります。言い換えると、ヘモグロビンが酸素とガッチリ結合して離しにくい状態ということです。肺胞や動脈中で酸素を手放してしまっては、組織へ運搬できないので、理にかなっていますね。 全身の毛細血管 心臓のポンプによって全身へ送り出された動脈血は、毛細血管を介してそれぞれの臓器、組織に到達します。 もう一度酸素ヘモグロビン解離曲線を見てみると、毛細血管内において酸素分圧が40mmgのとき、ヘモグロビンの酸素結合率は75%である事がわかります。 毛細血管内は、酸素分圧が低く、ヘモグロビンが酸素分子を手離しやすい状態です。つまり、動脈血中は95%のヘモグロビンが酸素と結合していましたが、毛細血管内では95-75%=20%のヘモグロビンが酸素を手放したということがわかります。 「SaO2が低くなる=ヘモグロビンが酸素を手放しやすくなる」 つまり、「ヘモグロビンが酸素を供給しやすい状態」なのです。 抹消組織での酸素運搬…

  • 犬の気管虚脱 安定化とその後/わかれば怖くない呼吸器疾患

    犬の気管虚脱 安定化とその後/わかれば怖くない呼吸器疾患

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、犬の気管虚脱の病態、そして安定化とその後について解説します。呼吸器疾患の救急症例の診察は、常に生死に関わる、緊張感の走るものとなります。この記事をしっかり理解して要所を押さえれば緊急疾患の診察も怖くない事をお伝えします。 呼吸器疾患患者さんの診察に役立つ情報が盛り込まれた、こちらの記事(①-④まであります)も併せてご覧ください。 気管虚脱とは 気管虚脱とは、その名の通り気管が虚脱することです。空気の通り道を確保するために、気管は喉頭から気管支を繋ぐパイプの役割をしています。そのパイプがなんらかの原因で潰れてしまい、空気が気管支まで送られにくくなる状態を気管虚脱と言います。 「百聞は一見にしかず」なので、まずは気管虚脱の症例の咳や呼吸をYouTubeで見てみましょう。 どれだけ気管がへしゃげているかでグレーディングされることがあります。以下の動画で実際にへしゃげた気管を中から見ることができます。 一度弾力を失った気管は、気管の性質が元に戻ることはありません。 気管虚脱患者さんの緊急事態とは エマージェンシーとして、気管虚脱の患者さんが来院した時の想像をしてみましょう。 この疾患は慢性的に徐々に進行する疾患です。では、どんな状況で救急として駆け込んでくるのでしょうか。 この様な状況では、上の動画の様に、患者さんも飼い主さんも落ち着いてはいられないはずですね、おそらく、呼吸数の増加(もしくは呼吸筋疲労により低下)、吸気努力、ガチョウの様な大きな呼吸音、低酸素によるチアノーゼ、体温の上昇が認められるはずです。 気管虚脱を疑う症例が緊急来院 この様な状況では、じっくりと鑑別リストを立てて、レントゲンをとって、としていられません。まずは患者さんが死んでしまわない様に、安定化に努めます。 どう安定化のプランを立てるかは、まずは気管虚脱である予測をつけなければいけません。もしも予測が見当違いであった場合、 #8220;小型犬で心雑音が聞こえたから、フロセミどを投与して酸素室に入れて効果が出るのを待った#8221; という事が起こりかねません。普段からレントゲンに頼りきらず、視診や聴診で最大限の情報を得られる様になる事が重要です。 安定化 緊急症例をみるときに重要なことは、患者さんが急変して死んでしまうとしたらどんなシナリオが考えられるか、をイメージすることです。そのシナリオに備える事が、何よりも最優先事項になります。 気管虚脱の患者さんが急変して、死んでしまうとしたらどの様な状況があるでしょうか。 これらの事態はすでに起こっている可能性が高いです。そして、これら全てを助長するのが興奮です。まずは患者さんの呼吸を落ち着かせるために安全に用いられる鎮静剤(ブトルファノールなど)を使用し、酸素供給を行います。 アセプロマジンは低血圧の患者さんには禁忌です。患者さんに併せた鎮静剤の選択が重要です。気管挿管の準備をした上で、プロポフォールをゆっくりタイトレートすることも効果的です。 上部気道の炎症を引かせるために、抗炎症量のステロイド静脈注射も使用可能です。副作用には注意が必要です。 気管挿管が直ちに必要な状況 気管挿管が必要になるのは、患者さんが限界を迎えている状態で、気道を確保しないと死んでしまう可能性が高い場合です。 瞬時の遅れが患者さんの命を左右します。一刻も早く、呼吸困難及び気道閉塞の悪循環を断ち切るために気管挿管を躊躇してはいけません。 ①低酸素 低酸素に対しては酸素供給をします。酸素供給には様々な方法があります。フローバイによって酸素化が改善される場合はいいですが、それで酸素化が改善されない場合は、より侵襲的な酸素供給を行う必要があります。 酸素化についてはこちらの記事を併せてご覧ください。 ②低換気 ②に対しては、①同様、酸素投与によって緩和することもできますが、重度の場合は気管挿管が必要になります。自発呼吸がある場合は、気道を確保するだけでも換気が改善する可能性もありますが、高炭酸血症が重度の場合は、換気補助が必要になることもあります。 ③呼吸筋の疲労 呼吸筋の疲労がある場合は、呼吸筋が回復するまで、気管挿管に加え人工換気が必要になります。気管チューブを長く設置するほど、上部気道の浮腫が悪化するため、呼吸筋が回復次第なるべく早く抜管をします。 ④熱中症 気道閉塞によって、熱が蒸散されないことから、熱中症が起こることがあります。来院した患者さんの体温を測定し、必要に応じて冷却します。 また、熱中症の合併症として、凝固機能異常や、臓器不全が起こる可能性があります。安定後も全身状態をしっかりとモニターします。 安定化の後 気管挿管されていた場合、抜管して患者さんが安定していることを確認します。気管虚脱の診断及び、治療プランを立てます。他の疾患が合併して、気道閉塞が悪化していないかを確認する必要があります。 例えば、軟口蓋過長症が合併している場合、軟口蓋を短縮する手術をすることで、生活の質が保たれる可能性があります。 気管虚脱は基本的には内科治療です。飼い主さんは、内科治療で気管がよくなることはない、と理解しておく必要があります。最後の手段として外科が選択されることもあります。 すぐに外科に飛びつくのではなく、内科治療でできることはないかを最大限考慮した上で、専門医と相談の上適応を確認します。 気管虚脱の内科治療 いかなる気管の圧迫(首回りの脂肪含め)も咳の原因になります。咳によって気管に炎症が起こることでさらに、胸腔内の陰圧が悪化し、咳が助長される、という悪循環に陥ります。よって、咳の悪循環を断つことが内科治療のゴールとなります。 気管虚脱の外科治療 内科治療に反応しない場合、気管ステントが適応になります。しかし、全ての気管虚脱の患者さんが気管ステントの適応になるとは限りません。例えば、重度な慢性気管支炎を合併している場合は不適応となります。 この手術は侵襲性が高く、一度設置したら取り出せないため、最後の手段として行われる手術です。外科療法は、内科治療を全て試したけれども効果がない、生活の質が向上しない場合に選択される治療法になります。 まとめ この記事では、気管虚脱の病態及び、緊急時の安定化についてご紹介しました。安定化に関しては、気管虚脱だと気が付く事ができるか。そして安定化後では、気管虚脱以外の病態を除外する事が重要になります。 そして、この様な緊急症例は、看護師さんとの連携が欠かせません。看護師さん様の記事も併せてご覧ください。

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について⑤鑑別診断・膝関節編

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について⑤鑑別診断・膝関節編

    この記事の内容 鑑別診断を挙げる重要性 膝関節の病気 炎症性の疾患 膝関節靭帯の疾患 関節疾患の鑑別に常につきまとう疾患 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 鑑別診断を挙げる重要性 鑑別診断は、アメリカでは非常に重視されます。いい臨床医は、鑑別診断リストをいい精度で作れる獣医師だといっていた先生もいます。 実際には、鑑別診断をしっかり挙げなくても、「多分この病気だろう。」といって治療を始め、うまくいくことが多いです。しかし、「経過がいつもと少し違う。なんか変だ。」という状況が起こったとしましょう。例えば、前十字靭帯の断裂による跛行だと思っていたが、治療をしていくうちに一般状態も悪くなって、、、。といったケースを想定してみます。 こんな時、鑑別リストを作らず、「とりあえず痛み止めで様子見てみましょう。」という治療をしていた場合、状況の把握が遅れるばかりでなく、飼い主さんにも説明がつきません。 一方、最初の段階で鑑別リストをしっかり作り、「A, B, Cという病気の可能性があります。Aの可能性が高いですが、B, Cの可能性は血液検査やレントゲンを取らないと除外できません。今は全身状態も良好なので、痛み止めと安静から始めてみましょう。検査を急ぐ必要はないですが、調子が悪くなったらこれらの検査が必要になります。」という説明ができていたとしたらどうでしょうか。 おそらく飼い主さんの心の準備もできていて、調子が悪くなったら、再診まで待たずに早期に連れてきてくれる可能性があります。そして、検査にスムーズに進むことができ、「初めの段階で見逃していたんですか?!」なんていうストレスフルな会話に発展せずにすみます。 よって、最初の段階でしっかりと鑑別リストを作り、それを除外するための検査を考えておくことが重要になります。さらに、飼い主さんへのインフォームもしっかりできることになるので、獣医師への信頼度も保たれます。 膝関節の病気 今までで集めた情報を全て使って、可能性の高いものから順番に鑑別診断を挙げていきます。 おさらいですが、問診で得られる重要な情報として以下が含まれます。 シグナルメント(成長期vs成犬、小型犬vs大型犬) 急性 vs 慢性 悪化傾向 vs 悪化なし さてここで、視診、触診によって、膝関節が原因で跛行していることがわかりました。 ようやく、ここから、膝関節の鑑別疾患を挙げていきましょう。鑑別診断を考える時、膝関節はどんな組織で構成されているかを考えます。膝関節は、軟骨、関節液、膝蓋靭帯、前十字靭帯、で構成されています。これらの組織が侵される病気を考えていきましょう。 炎症性の疾患 まずは炎症性の疾患が挙げられます。なぜ関節に炎症が生じるのでしょうか。病態としては、大きく3つに分けられます。また、ここには挙げていませんが、常に腫瘍は鑑別診断に入ってくるので注意が必要です。 感染性 免疫介在性 変性性 例えば、感染性の関節炎だった場合、跛行以外の症状として生じうる臨床症状はなんでしょうか。発熱、元気の消失、食欲低下などが起こり得ます。 それでは、免疫介在性だった場合はどうでしょうか。感染性と同様に、発熱や元気消失などの一般状態の変化が現れることが予測できます。 最後に、変性性の場合はこれらの全身症状を示すでしょうか。別の疾患が合併していない限り、全身症状を示すことは稀になります。 この時点で、問診や身体検査をしっかり行っていれば、これら3つの鑑別診断の順位は自ずと見えてくるはずです。一般状態の悪化を伴うのであれば、上位1, 2には感染性/免疫介在性がきて、変性性は最後になります。逆に跛行以外の症状が一切ない場合は順位は逆になります。 次のステップとして、感染性と免疫介在性を区別するにはどんな追加の検査が必要か考えていきます。 全身的な炎症性の変化を調べるには、CBCおよびCRPが有用です。もしも炎症が重度であれば、白血球数や左方移動、CRPの増加が予測されます。一般状態の悪化を伴う場合、各臓器の評価および疼痛管理のプランニングのために生化学検査が有用です。 そして、膝関節に腫瘍や重度のDJDなどがないかを調べるために、膝関節のレントゲンを取ります。最後に、決定的な診断の助けになるのは関節穿刺と関節液の分析です。 これらの検査を今すぐにするか、とりあえず疼痛管理で様子を見るか、という方向づけは患者さんの全体像を見て判断します。患者さんの具合が悪い場合は、すぐに検査に進むことを推奨するべきです。 膝関節靭帯の病気 王道の病気は以下になります。 膝蓋骨脱臼…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について④触診編

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について④触診編

    この記事の内容 一般的な触診 骨の評価 関節の評価 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 一般的な触診 まずは日常の診察で行うような、一般的な触診をしていきましょう。 ここでも、整形疾患以外を見つけるためにくまなく情報収集します。触診方法は、左右の対称性を確認するためにも、患者さんの後ろから両手を使って、左右同時に触診していきましょう。 慢性の疾患の場合、患肢の筋肉が萎縮します。左右どちらか一方に筋萎縮がないかを探します。また、明らかな関節の腫脹や熱感、リンパ節の腫大、皮膚の浮腫を探していきます。 視診の記事でも触れましたが、表面からみえる異常、咬傷、傷、膿瘍などを見過ごさないように「何かあると思いながら」意図的に探すようにしましょう。 骨の評価 次に、骨の評価に移ります。 恥ずかしい話ですが、骨の評価方法は、私自信、アメリカに来て初めてちゃんと教わりました。 このテストを教わったのは、成長期の大型犬が跛行で来院した時です。この患者さんは、跛行だけではなく食欲低下と身体検査上発熱が見られました。歩行検査では、どこか痛そうだけど四肢は均等に負重がありました。 私が頭を悩ませ、どこか痛そうだけど特定できない!と専門医の先生に相談しにいきました。骨の評価はちゃんとした?と聞かれ、全部触ったけど全部嫌そうだった。ともなんとも曖昧な答えをすると、患者さんを前に、骨の触診方法をしっかりと教えてくれました。 人差し指から薬指の3本を用いて、骨の深部を圧迫するように末端から全ての骨を触診します。軽度の圧迫では大した反応をしなかった患者さんが、深部の圧迫によって明らかな疼痛を示しました。そして、この疼痛は長骨に限らず、脊椎でも同様でした。結局この患者さんは、シグナルメントと身体検査の結果から汎骨炎が疑われました。 この教訓から、跛行の症例や、調子悪い、といって来院した患者さん(成長期の大型犬は特に)には骨をくまなく触診する習慣がつきました。 骨の触診は、圧迫による痛みのみでなく、骨折があれば捻髪音や腫脹などを見つけることも重要になります。 関節の評価 関節の評価方法ですが、まずは関節液の貯留や関節の腫脹がないかを触診します。関節の腫脹は、慣れていないと判断が難しいこともあります。左右を比べた相対的な評価が有用のこともあるので、左右同時に評価するようにしましょう。 そして、全ての関節を屈伸、回転させて、痛み、可動域の異常、不安定性、捻髪音やクリック音を確認していきます。もしも患者さんが協力的ではない場合(攻撃的になる、痛みに耐えられない)は鎮静や鎮痛薬を投与した後に、詳細な検査に移る必要があります。 どの関節でも基本は同じですが、膝関節の特異的な検査に関しては特定の病気の検出に特定の検査が必要になります。 膝関節に特異的な触診 ミディアルバトレス:膝関節の内側で触知される線維化のサイン(慢性経過であることを示唆) 膝蓋骨脱臼の有無/グレーディング ドロワーテスト:前十字靭帯の損傷を評価 脛骨前方推進力(Cranial Tibial Thrust: CrTT):前十字靭帯の損傷を評価 以下の動画は、英語ですが膝関節の触診方法や上記のテストの方法を説明した動画です。とてもわかりやすいので参考までに。 まとめ 一般的な触診では主に筋肉の萎縮やリンパ節の腫脹、皮膚に外傷がないかを確認します。 骨の評価では、骨の深部を圧迫により疼痛を示すかを確認します。 関節の評価では、腫脹、痛み、可動域、不安定性、捻髪音に着目して触診していきます。 問診から触診までの情報を収集しました。ここからは鑑別診断を考え、次に必要な診断はなにかを考えていくことになります。 [/read_more]

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について③視診編

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について③視診編

    この記事の内容 本当に整形症例かを判断するために必要なこと 一般身体検査 視診から始める 歩行テスト お座りテスト 身体の細部をくまなくチェック まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 本当に整形症例かを判断するために必要なこと 実は整形症例ではない跛行を主訴に来院する患者さんが混ざっていることはよくあります。そして、整形疾患か神経疾患か判断がどうしてもつかない場合もあります。 整形症例かどうかを判断するには、問診、視診、触診の要素全てが必要になることが多く、簡単そうに聞こえて実は高度なスキルだったりします。 問診で重要なことは例を用いて【今更でもいいからとにかく学ぶ】跛行症例と向き合う②で詳しく解説しました。そそしてようやく、患者さんの登場です。まずは患者さんのコンディションを確認するために一般身体検査を行います。 患者さんの一般状態が確認されたら、視診、及び触診にうつります。鑑別診断がイメージできていないと、神経疾患を除外するために必要な検査をしそびれてしまったりすることになります。「他の病気を除外する気持ち」を強く持って検査を進めていくようにしましょう。 視診から始める 視診で何を見るか。まずは歩行しているところ、お座りしているところの2点です。 整形疾患の場合、患者さんが協力的で忍耐強い場合でない限り、鎮静処置が必要になることが多いです。鎮静をかけてしまうと、これらの検査ができなくなってしまいます。必要な覚醒下でできる検査を済ませてから、鎮静下の検査に進みましょう。視診を忘れずに行うことが重要です。 歩行テスト 立位の時点で挙上しているか 歩行可能か 患肢はどの肢か 歩様異常を描写する 患肢に体重の負重はあるか 歩幅は正常か 運動失調はないか(固有位置感覚性 vs 前庭性) 歩行テストは、特に患肢がどれかを判断することと、神経性の運動失調を見極めるために非常に有用です。廊下を20-30m、くるくると何度か歩いてもらうだけなので、簡単です。また、自分の視診に自信がない場合は、動画に収めて先輩に見てもらう、という手段も有用です。 見慣れることが重要なので、YouTubeなどで「dog+病名(英語)」で検索するのがおすすめです。この疾患ではこんな歩き方をする、ということがわかると思います。 歩行可能か 神経の異常の場合は特に重要なのが、歩けるか、歩けないかです。歩ける=運動機能ありとなり、一秒一刻を争う事態ではないだろう、と判断されることが多いからです。 また、整形疾患の場合でも、歩行不可=排尿排便のサポートが必要となるため、緊急性が高まります。 患肢がどの肢か 飼い主さんから伝えられるヒストリーと照らし合わせて、どの肢に問題があるかを歩行テストで検討をつけます。立っている時に体重負荷を避けようとしている、挙上している肢、もしくは歩行時に爪先だけ軽くチョンとつけて歩いている場合は、その肢が患肢ということになります。 患肢は、健康な肢に比べ、歩行時に体重をかける時間が短く、歩幅も短くなります。 歩幅は正常か 歩幅が小さくなる:脊髄(アッパーモーターニューロン)の異常か、両側の痛み 歩幅が大きくなる:小脳の異常に関連する測定過大 痛みを伴う短側の肢では歩幅が小さくなり、負重している時間が短くなります。一方、両側に問題が同時に生じている場合は、チョコチョコと慎重に歩くように、歩幅が小さくなります。 歩様異常を描写する 完全挙上:全く患肢を地面につけない 免重:患肢が地面につくのを防ごうとしているが負重は可能 次に重要なのが、患肢への体重の負重があるかどうかです。骨折している場合、体重を一切かけず3本脚で歩くことが特徴的です。この場合、「完全挙上」という表現をします。一方、全体重でなくても負重をかけられている場合はおそらく骨折ではないだろうな、と予測できます。負重が完全でないことを「免重」といいます。 余談ですが、英語ではtoe touching weight bearingと言って、爪先で体重を支えるという表現をします。…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について②問診編

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について②問診編

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】跛行症例と向き合う①の続きになります。②では、意外と軽視されがちな問診について説明していきます。 この記事の内容 跛行症例の問診で必ず抑えたいポイント 医学用語に置き換える まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 問診で必ず抑えたいポイント 一般状態 その跛行、いつ始まった?きっかけは? 跛行し始めた最初の日から今まで経過は? 跛行に対して何か薬を始めた?その薬の効果は? 家でどう管理していた? 基礎疾患、投薬歴 これらの情報は最低限必要になります。これらは、飼い主さんが自分から言いださなくても、獣医さんが聞き出さなければいけない情報になります。 アメリカの獣医大学では、まずは学生が問診を最初にとります。それを身体検査所見とともに研修医にプレゼンテーションするのですが、「跛行が始まってから症状はどう変化したの?」と聞くと、「飼い主さんは特に何も言っていなかった」と答える学生がいます。「飼い主さんに、症状の変化があったか自分から質問した?」と聞くと大抵「自分からは聞いてない」という答えが返ってきます。 問診は受け身になっていては効率的に情報収集をすることができません。キーとなる情報をピンポイントで聞き出すことが重要になります。 では、これらの情報がなぜ大事かという理由を以下に説明していきます。 一般状態 一般状態が悪い場合、以下の可能性があります。 一般状態の悪化、虚弱によって元々基礎疾患がある患肢が助長された 一般状態と跛行が関連している(感染性関節炎/多発性関節炎/汎骨炎/腫瘍など) 一般状態が深刻 投薬による副作用が生じている 跛行よりも優先して治療しないといけない病態が隠れている場合、跛行と一般状態の悪化が関連している場合などがあるので、元気、食欲、嘔吐、排便、排尿はしっかりと確認するようにしましょう。 跛行に対して、実はステロイドやNSAIDsを飼い主さんが独自の判断で投薬していたりすることがあります。用量、用法を理解せずに利用されている場合、実は血便やメレナが続いているなどという情報はあらかじめ知っておきたいですね。 積極的に、特異的な質問をしていきましょう。 その跛行、いつ始まった?きっかけは? 何月何日から始まったか、跛行のきっかけがあったかどうかをしっかりと聞き出しましょう。これに関しても、あえて質問しないと聞き出せない情報だったりしがちです。飼い主さんに思い当たることがないか、考えてもらうことが大切になります。 跛行が始まる前に外傷があった ベッドから飛び降りてから始まった 実はずっと前から痛がっていた そして、この情報を手に入れたら、医学用語に置き換えます。前者二つであれば、急性。後者であれば慢性。もしも中間であるような場合は亜急性ということができます。 急性:急にある日突然、始まる跛行 慢性:いつから急にということなく、数週間患っている跛行 跛行し始めた最初の日から今まで経過は? 経過を把握することが重要な理由は、鑑別診断を可能性の順番に並べるのに役立つからです。 例えば、腫瘍であれば慢性経過を辿り、徐々に悪化傾向になるはずです。感染性関節炎や多発性関節炎なども、適切な治療が行われなかった場合、患肢も一般状態も悪化していくはずです。 もしくは、急にギャンといって跛行が始まって、1週間経って、少しマシになってきている/変わっていない。などです。 悪化傾向 改善傾向 変化なし 跛行に対して何か薬を始めた?その薬の用量、効果は? もしも問診で十分な情報を聞き出せず、以下の情報が欠けていたらどうでしょうか。 実はステロイドの投薬によって一時的に症状がマシになった 実はステロイドを高用量で2週間以上投与している 実はステロイドを投薬したことがあったが悪化したので投薬を中止していた 実は投薬中のNSAIDsの用量が推奨用量以下で、痛みのコントロールができていない…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について①基礎

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について①基礎

    この記事の内容 整形専門ではない先生にとっての跛行診断のゴール 整形の先生に相談する前に最低でも集めるべき情報 情報の集め方 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 整形専門でない先生にとっての跛行診断のゴール 整形専門ではない先生が跛行診断をするときの一番のゴールは、極端にいうと「整形疾患じゃないパターンをキャッチする」ことだと思います。 整形疾患だった場合、治療の選択肢は大きく、痛みのコントロール、もしくは手術の二択になります。 一般病院で勤務する限り、高い整形の手術スキルは求められません。よって、手術適応だと判断された場合、もしくは手術適応かどうかの判断を含めて専門家の意見を聞きたい場合は、整形を得意としている病院に紹介することが得策です。 つまり、一般病院に務める先生には、「本当の整形症例を的確な情報とともに整形の先生に紹介する」スキルが求められます。なぜこのような周りくどい言い方をするかというと、以下のようなことがあると、紹介を受けた整形の先生も、紹介された患者さんやオーナーさんも困ってしまうことになるからです。 状態がかなり悪い患者さんをパテラの手術のために整形科に紹介 実は感染性関節炎だった症例を前十字靭帯断裂と診断して整形科に紹介 神経疾患の症例を跛行として整形科に紹介 想像しただけでもゾワっとしますね。状態が悪い患者さんが歩けないのをパテラのせいだ、として整形の先生に送った場合、本当の病気の治療の遅れにつながります。感染性関節炎だった場合は、内科症例になります。また、神経性の運動失調だった場合には整形科から神経科へさらなる転科が必要になってしまいます。 これらの事態を避けるために、最初の門戸である獣医さんがしっかりと病気をふるいにかけて、患者さんにとって何が必要で何がベストかという方向付けをしてあげることが非常に重要になります。 ここからは、このようなゾワっとすることを避けるために「最低でも集めるべきな重要な情報」を説明していきます。 整形の先生に相談する前に最低でも集めるべき重要な情報 以下に集めるべき情報を一覧にします。そして、これらがなぜ重要かという話をした後に、どう判断していくかという話に移ります。 一般状態 緊急性 本当に整形症例かを判断 原因部位の同定(どの足のどの部位か) 鑑別診断をあげる 除外するために必要な診断のプランを建てる 患肢の神経機能、患肢以外の足の評価 自信を持って整形の専門医に紹介 一般状態の確認が重要な理由 一般状態を優先して治療するべきかもしれない 跛行の原因が実は肢のせいではなく、一般状態の悪化によるものかもしれない 感染性関節炎など、一般状態の悪化と跛行が関連しているかもしれない 整形の本にもよく一般状態の確認を優先させましょう、と記載があるかと思います。実際に、優先させるべき事項を見誤るということは残念ながらよく起こることだと思います。これらは、どんな症例にも漏れのない情報収集を行うことで防ぐことができます。 必ず、患者さんの全体像を見て、TPR、バイタルを確認するようにしましょう。 緊急性を把握する 整形の症例は手術を「待てる症例」「ある程度は待てる症例」「待てない症例」と別れます。多くの跛行症例は前十字靭帯断裂、パテラ、など、待てる症例に当てはめられます。では、「待てない症例」とはどう言った場合でしょうか。 開放骨折 複雑骨折 骨盤内出血がコントロールできない場合 これらの場合、緊急手術、もしくは早急な手術プランを建てる必要があります。緊急である節を明確にさせることは、スムーズなコミュニケーションに重要です。 本当に整形疾患かを判断することが重要な理由 跛行を主訴に来た場合、中にはフェイクが混ざっています。飼い主さんの表現を鵜呑みにして、跛行と疑っていなかったが運動失調だった、なんてことがあると厄介ですよね。そして整形疾患かどうかを明らかにすることが重要な理由は、紹介するべき科が変わってくるからです。 神経疾患(運動失調) 内科疾患(感染性関節炎) 腫瘍科疾患(骨肉腫など) 原因部位の同定 跛行の原因が骨なのか、関節なのか、それとも筋肉なのかで方向性はさらに変わってきます。同定方法に関しては、次の記事に説明をしていきますが、鑑別診断が全く異なるものになりかねないので、どこが原因かを突き止めることが重要です。 鑑別診断をあげる…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】もう悩まない!イオン化カルシウムとは

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】もう悩まない!イオン化カルシウムとは

    この記事の内容 イオン化カルシウムとは イオン化カルシウムを測定する意義とは 総カルシウム値からイオン化カルシウム値に補正可能か まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、総カルシウム値に異常があったときに、イオン化カルシウムを測定する必要がある理由を簡単にご説明します。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] イオン化カルシウムとは カルシウムは、大きく3つの形態で血中に存在します。 イオン化カルシウムとは、生理的に活性を有する、3種類の中で最も重要な要素です。 イオン化カルシウム: 55% タンパク質と結合カルシウム:35% カルシウム複合体:10% ドライケム等の血液生化学で測定しているのは、この3つの合計の濃度です。そして、血液ガス分析などの機械で測定できるのがイオン化カルシウム濃度です。 イオン化カルシウムを測定する意義とは イオン化カルシウムとは生理的に活性を有する形態 骨格筋の収縮、心筋および平滑筋の興奮-収縮連関 アドレナリン、グルカゴン、バソプレシン、セクレチン、コレシストキニンなどのホルモンに対する細胞応答を媒介 イオン化カルシウムの濃度が必ずしも血清総カルシウム濃度と相関するとは限らない イオン化カルシウムと違い、他の分子と結合したカルシウムの複合体は生理活性を持ちません。これらのカルシウム複合体の濃度はアルブミンの濃度や、リンや乳酸、シトレートなどによって変化します。よって、イオン化カルシウムが同じでも、カルシウムと結合する分子の濃度によって総カルシウム濃度が変化してしまします。 よって、総カルシウムレベルよりもイオン化カルシウムの血中濃度が最も重要になります。 総カルシウム値からイオン化カルシウム値に補正可能か 人間の医療では、総カルシウム値からイオン化カルシウム値を予測的するための補正式があります。もちろん、重要なファクターになるのはアルブミンなので、アルブミンが補正式に組み込まれます。 この補正式は人と同様に犬猫にも使えるのでしょうか? 犬、猫で補正式を用いて総カルシウム濃度からイオン化カルシウム濃度を予測した研究があります。結果は、それぞれ17%、29%でしかうまく予測できなかったというものでした。 人医療と違い、犬猫ではイオン化カルシウム濃度を知るには、現段階では血液ガス分析が必要のようです。血液ガス分析の機械をお持ちの病院さんもあれば、外注で検査を以来する病院さんもあると思います。 総カルシウム濃度が異常値の場合は、イオン化カルシウム濃度を測定して実際に低カルシウム血症/高カルシウム血症の診断に進むようにしましょう。 まとめ カルシウムは血中で3つの形態で存在 生理活性があるのはイオン化カルシウムのみ 生化学で測定できるのは総カルシウム濃度 犬猫では総カルシウム濃度からイオン化カルシウムを予測するための補正式は使えない 総カルシウム濃度が異常であればイオン化カルシウムを測定する こちらも併せてご覧ください。 [/read_more]

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の低カルシウム血症の診断からアプローチまでわかりやすく解説!

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の低カルシウム血症の診断からアプローチまでわかりやすく解説!

    この記事の内容 低カルシウム血症をいつ疑う? 低カルシウム血症をいつ治療する? 低カルシウム血症の急性期の治療法 低カルシウム血症の鑑別診断 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、低カルシウム血症による症状を示している患者さんに対するアプローチをご紹介していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 低カルシウム血症をいつ疑う? 低カルシウム血症のメジャーな症状は、震せん、筋肉の痙攣、顔をかく行動です。「発作」と「筋肉の痙攣」の区別をつけるのが重要です。なぜなら、低カルシウム血症で筋肉の痙攣が起こっている場合、抗けいれん薬は効かないことが多いからです。 低カルシウム血症によって、発作が起こることもあります。筋肉の痙攣よりは頻度が低いです。 筋肉の痙攣を見たことがない場合はYoutubeで検索してみましょう。 低カルシウム血症を疑う時 筋肉の痙攣 顔をかく異常行動 オーナーさんが「発作」と表現した場合 妊娠中/出産後 飼い主さんによっては筋肉の痙攣が「発作」と表現されることがあります。問診で本当に発作かを疑うことが重要です。しかし、実際に獣医師が見ても発作か筋肉の痙攣かの判断が難しいことがあります。問診では、以下のことを確認するようにしましょう。 発作 vs 筋肉痙攣 発作後状態 意識はあるか 尿、便のコントロール 判断が難しい時は、抗けいれん薬を素早く入れることは間違いではありません。しかし、全く効果がなかった時に、何かおかしいと疑って、低カルシウム血症を鑑別診断に入れられるかが重要です。 低カルシウム血症をいつ緊急治療する? 症状があってイオン化カルシウムが低い場合 症状:痙攣、顔面の掻痒、歩様や行動の異常、発作、発熱、頻脈 イオン化カルシウムlt;1 mmol/l、総カルシウムlt;6.5 mg/dlになるまで症状が出ないことがあります。 イオン化カルシウムで判断することが理想ですが、院内で測定できない場合は、総カルシウム濃度を目安にします。このときに、できればカルシウム剤を投与する前に採血をしておくことをおすすめします。イオン化カルシウムやPTHの測定ができるようにサンプルを採取してから治療薬を入れることを考慮しましょう。 患者さんが、ピンピンして尻尾を振っている場合、カルシウム濃度が低くても静脈注射による治療に進まないこともあります。 私が今までに急性期の治療に至った患者さんは以下の症状がありました。 筋肉の痙攣、発熱、頻脈(イオン化カルシウム0.68mmol/l) 発作、横臥(イオン化カルシウム0.62mmol/l) 低カルシウム血症の急性期の治療法 静脈からグルコン酸カルシウムの投与が推奨されます。 10%のグルコン酸カルシウム0.5-1.5ml/kg 緊急の場合は希釈は不要 10分以上かける ECGをモニター 徐脈がみられたら投与を止める 様子を見ながら遅いスピードで投与再開 症状の改善には30分から1時間かかることがあります。投与後にカルシウム濃度を再度確認するか、症状の改善を確認します。もしも足りない場合は追加投与します。 急性期を脱した場合、亜急性期の治療が必要になることがあります。治療によって改善されたカルシウム濃度がすぐに再び下がってきてしまう場合です。 その場合はECGモニター下で、グルコン酸カルシウムのCRIが必要になります。また、ビタミンDの投与を同時にスタートします。ビタミンDが効果を示すまでに数日かかるためです。 低カルシウム血症の鑑別診断 急性期を乗り越えたら、原因疾患を探っていきます。基礎疾患を放置してしまうと、カルシウムのコントロールがなかなかできなかったり、患者さんの容態が悪化していく可能性があるので、しっかりと鑑別診断を考えた上診断に進みましょう。…

  • 【アメリカでペットと暮らす方へ】犬がキシリトール入りガムを食べた⁉︎とっても怖いその理由とは!

    【アメリカでペットと暮らす方へ】犬がキシリトール入りガムを食べた⁉︎とっても怖いその理由とは!

    この記事の内容 キシリトール中毒とは キシリトールが含まれる可能性がある食べ物 キシリトール誤食を目撃した時にとるべき行動 救急病院で行われること キシリトール中毒の治療の基本 猫のキシリトール誤食 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、キシリトールの含まれるガム、お菓子をペットが誤食した時に起こりうること、目撃した時にとるべき行動を解説していきます。 キシリトール中毒とは 犬は、キシリトールを食べると、中毒症状を呈します。人間が食べれるキシリトールの量よりも、はるかに少量のキシリトールによって、体に以下のような反応が起こります。 犬がキシリトールを食べると30分で吸収される キシリトールによって膵臓が刺激され、インスリンが放出される グルコース(糖分)が細胞内に入り込み、低血糖になる 肝臓障害が生じる 肝障害によって、凝固障害が生じる(出血しやすくなる) 低血糖が出る中毒量は、0.1g/kg (100mg/kg)、肝障害が出る量は0.5g/kg (500mg/kg)と言われていますが、それ以上誤食した患者さんが肝障害を示さないということもあり、実際のところはっきりした数値はわかっていません。しかし、低血糖や肝障害で残念ながら死に至ってしまうこともあるので、慎重な判断が重要になります。 以下に、症状及び症状が出る可能性のあるタイムフレームを示します。 低血糖:元気消失、運動失調、失神、発作などの症状(誤食から1時間以内-最大症状が出るまでに最大2日) 肝障害による症状:肝障害による凝固系の異常(症状が出るまでに最大3日) 凝固障害による症状:点状出血、皮下出血、血便(症状が出るまでに最大3日) キシリトールが含まれる可能性のある食べ物 sugar-free gum:砂糖不使用のガム sugar-free candies:砂糖不使用のアメ breath mints:ミント baked goods:焼き菓子 peanut butter:ピーナッツバター pudding snacks:プリン cough syrup:咳止め chewable or gummy vitamins:チュアブルタイプのガムやビタミン剤 supplements or over the counter medications:サプリメントや市販の薬 mouthwash:マウスウォッシュ toothpaste:歯磨き粉 シュガーフリーの甘味が用いられる加工食品には、キシリトールが含有しています。人間の食べ物を誤って誤食した後、急にペットの調子がおかしくなった場合は、キシリトール中毒が疑われます。ごく少量でも中毒症状を示す可能性が高いため、「たかが人間の食べ物を食べたくらいで」と軽視しないようにしてください。 キシリトール誤食を目撃した時にとるべき行動 何をどのくらいの量食べたのかを明確にする わからなければ成分表の載ったパッケージを持参する…