-
【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!
この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。
-
【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気
【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけと学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけと学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m
-
犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…
-
【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について④触診編
この記事の内容 一般的な触診 骨の評価 関節の評価 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 一般的な触診 まずは日常の診察で行うような、一般的な触診をしていきましょう。 ここでも、整形疾患以外を見つけるためにくまなく情報収集します。触診方法は、左右の対称性を確認するためにも、患者さんの後ろから両手を使って、左右同時に触診していきましょう。 慢性の疾患の場合、患肢の筋肉が萎縮します。左右どちらか一方に筋萎縮がないかを探します。また、明らかな関節の腫脹や熱感、リンパ節の腫大、皮膚の浮腫を探していきます。 視診の記事でも触れましたが、表面からみえる異常、咬傷、傷、膿瘍などを見過ごさないように「何かあると思いながら」意図的に探すようにしましょう。 骨の評価 次に、骨の評価に移ります。 恥ずかしい話ですが、骨の評価方法は、私自信、アメリカに来て初めてちゃんと教わりました。 このテストを教わったのは、成長期の大型犬が跛行で来院した時です。この患者さんは、跛行だけではなく食欲低下と身体検査上発熱が見られました。歩行検査では、どこか痛そうだけど四肢は均等に負重がありました。 私が頭を悩ませ、どこか痛そうだけど特定できない!と専門医の先生に相談しにいきました。骨の評価はちゃんとした?と聞かれ、全部触ったけど全部嫌そうだった。ともなんとも曖昧な答えをすると、患者さんを前に、骨の触診方法をしっかりと教えてくれました。 人差し指から薬指の3本を用いて、骨の深部を圧迫するように末端から全ての骨を触診します。軽度の圧迫では大した反応をしなかった患者さんが、深部の圧迫によって明らかな疼痛を示しました。そして、この疼痛は長骨に限らず、脊椎でも同様でした。結局この患者さんは、シグナルメントと身体検査の結果から汎骨炎が疑われました。 この教訓から、跛行の症例や、調子悪い、といって来院した患者さん(成長期の大型犬は特に)には骨をくまなく触診する習慣がつきました。 骨の触診は、圧迫による痛みのみでなく、骨折があれば捻髪音や腫脹などを見つけることも重要になります。 関節の評価 関節の評価方法ですが、まずは関節液の貯留や関節の腫脹がないかを触診します。関節の腫脹は、慣れていないと判断が難しいこともあります。左右を比べた相対的な評価が有用のこともあるので、左右同時に評価するようにしましょう。 そして、全ての関節を屈伸、回転させて、痛み、可動域の異常、不安定性、捻髪音やクリック音を確認していきます。もしも患者さんが協力的ではない場合(攻撃的になる、痛みに耐えられない)は鎮静や鎮痛薬を投与した後に、詳細な検査に移る必要があります。 どの関節でも基本は同じですが、膝関節の特異的な検査に関しては特定の病気の検出に特定の検査が必要になります。 膝関節に特異的な触診 ミディアルバトレス:膝関節の内側で触知される線維化のサイン(慢性経過であることを示唆) 膝蓋骨脱臼の有無/グレーディング ドロワーテスト:前十字靭帯の損傷を評価 脛骨前方推進力(Cranial Tibial Thrust: CrTT):前十字靭帯の損傷を評価 以下の動画は、英語ですが膝関節の触診方法や上記のテストの方法を説明した動画です。とてもわかりやすいので参考までに。 まとめ 一般的な触診では主に筋肉の萎縮やリンパ節の腫脹、皮膚に外傷がないかを確認します。 骨の評価では、骨の深部を圧迫により疼痛を示すかを確認します。 関節の評価では、腫脹、痛み、可動域、不安定性、捻髪音に着目して触診していきます。 問診から触診までの情報を収集しました。ここからは鑑別診断を考え、次に必要な診断はなにかを考えていくことになります。 [/read_more]
-
【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について③視診編
この記事の内容 本当に整形症例かを判断するために必要なこと 一般身体検査 視診から始める 歩行テスト お座りテスト 身体の細部をくまなくチェック まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 本当に整形症例かを判断するために必要なこと 実は整形症例ではない跛行を主訴に来院する患者さんが混ざっていることはよくあります。そして、整形疾患か神経疾患か判断がどうしてもつかない場合もあります。 整形症例かどうかを判断するには、問診、視診、触診の要素全てが必要になることが多く、簡単そうに聞こえて実は高度なスキルだったりします。 問診で重要なことは例を用いて【今更でもいいからとにかく学ぶ】跛行症例と向き合う②で詳しく解説しました。そそしてようやく、患者さんの登場です。まずは患者さんのコンディションを確認するために一般身体検査を行います。 患者さんの一般状態が確認されたら、視診、及び触診にうつります。鑑別診断がイメージできていないと、神経疾患を除外するために必要な検査をしそびれてしまったりすることになります。「他の病気を除外する気持ち」を強く持って検査を進めていくようにしましょう。 視診から始める 視診で何を見るか。まずは歩行しているところ、お座りしているところの2点です。 整形疾患の場合、患者さんが協力的で忍耐強い場合でない限り、鎮静処置が必要になることが多いです。鎮静をかけてしまうと、これらの検査ができなくなってしまいます。必要な覚醒下でできる検査を済ませてから、鎮静下の検査に進みましょう。視診を忘れずに行うことが重要です。 歩行テスト 立位の時点で挙上しているか 歩行可能か 患肢はどの肢か 歩様異常を描写する 患肢に体重の負重はあるか 歩幅は正常か 運動失調はないか(固有位置感覚性 vs 前庭性) 歩行テストは、特に患肢がどれかを判断することと、神経性の運動失調を見極めるために非常に有用です。廊下を20-30m、くるくると何度か歩いてもらうだけなので、簡単です。また、自分の視診に自信がない場合は、動画に収めて先輩に見てもらう、という手段も有用です。 見慣れることが重要なので、YouTubeなどで「dog+病名(英語)」で検索するのがおすすめです。この疾患ではこんな歩き方をする、ということがわかると思います。 歩行可能か 神経の異常の場合は特に重要なのが、歩けるか、歩けないかです。歩ける=運動機能ありとなり、一秒一刻を争う事態ではないだろう、と判断されることが多いからです。 また、整形疾患の場合でも、歩行不可=排尿排便のサポートが必要となるため、緊急性が高まります。 患肢がどの肢か 飼い主さんから伝えられるヒストリーと照らし合わせて、どの肢に問題があるかを歩行テストで検討をつけます。立っている時に体重負荷を避けようとしている、挙上している肢、もしくは歩行時に爪先だけ軽くチョンとつけて歩いている場合は、その肢が患肢ということになります。 患肢は、健康な肢に比べ、歩行時に体重をかける時間が短く、歩幅も短くなります。 歩幅は正常か 歩幅が小さくなる:脊髄(アッパーモーターニューロン)の異常か、両側の痛み 歩幅が大きくなる:小脳の異常に関連する測定過大 痛みを伴う短側の肢では歩幅が小さくなり、負重している時間が短くなります。一方、両側に問題が同時に生じている場合は、チョコチョコと慎重に歩くように、歩幅が小さくなります。 歩様異常を描写する 完全挙上:全く患肢を地面につけない 免重:患肢が地面につくのを防ごうとしているが負重は可能 次に重要なのが、患肢への体重の負重があるかどうかです。骨折している場合、体重を一切かけず3本脚で歩くことが特徴的です。この場合、「完全挙上」という表現をします。一方、全体重でなくても負重をかけられている場合はおそらく骨折ではないだろうな、と予測できます。負重が完全でないことを「免重」といいます。 余談ですが、英語ではtoe touching weight bearingと言って、爪先で体重を支えるという表現をします。…
-
【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について②問診編
【今更でもいいからとにかく学ぶ】跛行症例と向き合う①の続きになります。②では、意外と軽視されがちな問診について説明していきます。 この記事の内容 跛行症例の問診で必ず抑えたいポイント 医学用語に置き換える まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 問診で必ず抑えたいポイント 一般状態 その跛行、いつ始まった?きっかけは? 跛行し始めた最初の日から今まで経過は? 跛行に対して何か薬を始めた?その薬の効果は? 家でどう管理していた? 基礎疾患、投薬歴 これらの情報は最低限必要になります。これらは、飼い主さんが自分から言いださなくても、獣医さんが聞き出さなければいけない情報になります。 アメリカの獣医大学では、まずは学生が問診を最初にとります。それを身体検査所見とともに研修医にプレゼンテーションするのですが、「跛行が始まってから症状はどう変化したの?」と聞くと、「飼い主さんは特に何も言っていなかった」と答える学生がいます。「飼い主さんに、症状の変化があったか自分から質問した?」と聞くと大抵「自分からは聞いてない」という答えが返ってきます。 問診は受け身になっていては効率的に情報収集をすることができません。キーとなる情報をピンポイントで聞き出すことが重要になります。 では、これらの情報がなぜ大事かという理由を以下に説明していきます。 一般状態 一般状態が悪い場合、以下の可能性があります。 一般状態の悪化、虚弱によって元々基礎疾患がある患肢が助長された 一般状態と跛行が関連している(感染性関節炎/多発性関節炎/汎骨炎/腫瘍など) 一般状態が深刻 投薬による副作用が生じている 跛行よりも優先して治療しないといけない病態が隠れている場合、跛行と一般状態の悪化が関連している場合などがあるので、元気、食欲、嘔吐、排便、排尿はしっかりと確認するようにしましょう。 跛行に対して、実はステロイドやNSAIDsを飼い主さんが独自の判断で投薬していたりすることがあります。用量、用法を理解せずに利用されている場合、実は血便やメレナが続いているなどという情報はあらかじめ知っておきたいですね。 積極的に、特異的な質問をしていきましょう。 その跛行、いつ始まった?きっかけは? 何月何日から始まったか、跛行のきっかけがあったかどうかをしっかりと聞き出しましょう。これに関しても、あえて質問しないと聞き出せない情報だったりしがちです。飼い主さんに思い当たることがないか、考えてもらうことが大切になります。 跛行が始まる前に外傷があった ベッドから飛び降りてから始まった 実はずっと前から痛がっていた そして、この情報を手に入れたら、医学用語に置き換えます。前者二つであれば、急性。後者であれば慢性。もしも中間であるような場合は亜急性ということができます。 急性:急にある日突然、始まる跛行 慢性:いつから急にということなく、数週間患っている跛行 跛行し始めた最初の日から今まで経過は? 経過を把握することが重要な理由は、鑑別診断を可能性の順番に並べるのに役立つからです。 例えば、腫瘍であれば慢性経過を辿り、徐々に悪化傾向になるはずです。感染性関節炎や多発性関節炎なども、適切な治療が行われなかった場合、患肢も一般状態も悪化していくはずです。 もしくは、急にギャンといって跛行が始まって、1週間経って、少しマシになってきている/変わっていない。などです。 悪化傾向 改善傾向 変化なし 跛行に対して何か薬を始めた?その薬の用量、効果は? もしも問診で十分な情報を聞き出せず、以下の情報が欠けていたらどうでしょうか。 実はステロイドの投薬によって一時的に症状がマシになった 実はステロイドを高用量で2週間以上投与している 実はステロイドを投薬したことがあったが悪化したので投薬を中止していた 実は投薬中のNSAIDsの用量が推奨用量以下で、痛みのコントロールができていない…
-
【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について①基礎
この記事の内容 整形専門ではない先生にとっての跛行診断のゴール 整形の先生に相談する前に最低でも集めるべき情報 情報の集め方 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。 この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 整形専門でない先生にとっての跛行診断のゴール 整形専門ではない先生が跛行診断をするときの一番のゴールは、極端にいうと「整形疾患じゃないパターンをキャッチする」ことだと思います。 整形疾患だった場合、治療の選択肢は大きく、痛みのコントロール、もしくは手術の二択になります。 一般病院で勤務する限り、高い整形の手術スキルは求められません。よって、手術適応だと判断された場合、もしくは手術適応かどうかの判断を含めて専門家の意見を聞きたい場合は、整形を得意としている病院に紹介することが得策です。 つまり、一般病院に務める先生には、「本当の整形症例を的確な情報とともに整形の先生に紹介する」スキルが求められます。なぜこのような周りくどい言い方をするかというと、以下のようなことがあると、紹介を受けた整形の先生も、紹介された患者さんやオーナーさんも困ってしまうことになるからです。 状態がかなり悪い患者さんをパテラの手術のために整形科に紹介 実は感染性関節炎だった症例を前十字靭帯断裂と診断して整形科に紹介 神経疾患の症例を跛行として整形科に紹介 想像しただけでもゾワっとしますね。状態が悪い患者さんが歩けないのをパテラのせいだ、として整形の先生に送った場合、本当の病気の治療の遅れにつながります。感染性関節炎だった場合は、内科症例になります。また、神経性の運動失調だった場合には整形科から神経科へさらなる転科が必要になってしまいます。 これらの事態を避けるために、最初の門戸である獣医さんがしっかりと病気をふるいにかけて、患者さんにとって何が必要で何がベストかという方向付けをしてあげることが非常に重要になります。 ここからは、このようなゾワっとすることを避けるために「最低でも集めるべきな重要な情報」を説明していきます。 整形の先生に相談する前に最低でも集めるべき重要な情報 以下に集めるべき情報を一覧にします。そして、これらがなぜ重要かという話をした後に、どう判断していくかという話に移ります。 一般状態 緊急性 本当に整形症例かを判断 原因部位の同定(どの足のどの部位か) 鑑別診断をあげる 除外するために必要な診断のプランを建てる 患肢の神経機能、患肢以外の足の評価 自信を持って整形の専門医に紹介 一般状態の確認が重要な理由 一般状態を優先して治療するべきかもしれない 跛行の原因が実は肢のせいではなく、一般状態の悪化によるものかもしれない 感染性関節炎など、一般状態の悪化と跛行が関連しているかもしれない 整形の本にもよく一般状態の確認を優先させましょう、と記載があるかと思います。実際に、優先させるべき事項を見誤るということは残念ながらよく起こることだと思います。これらは、どんな症例にも漏れのない情報収集を行うことで防ぐことができます。 必ず、患者さんの全体像を見て、TPR、バイタルを確認するようにしましょう。 緊急性を把握する 整形の症例は手術を「待てる症例」「ある程度は待てる症例」「待てない症例」と別れます。多くの跛行症例は前十字靭帯断裂、パテラ、など、待てる症例に当てはめられます。では、「待てない症例」とはどう言った場合でしょうか。 開放骨折 複雑骨折 骨盤内出血がコントロールできない場合 これらの場合、緊急手術、もしくは早急な手術プランを建てる必要があります。緊急である節を明確にさせることは、スムーズなコミュニケーションに重要です。 本当に整形疾患かを判断することが重要な理由 跛行を主訴に来た場合、中にはフェイクが混ざっています。飼い主さんの表現を鵜呑みにして、跛行と疑っていなかったが運動失調だった、なんてことがあると厄介ですよね。そして整形疾患かどうかを明らかにすることが重要な理由は、紹介するべき科が変わってくるからです。 神経疾患(運動失調) 内科疾患(感染性関節炎) 腫瘍科疾患(骨肉腫など) 原因部位の同定 跛行の原因が骨なのか、関節なのか、それとも筋肉なのかで方向性はさらに変わってきます。同定方法に関しては、次の記事に説明をしていきますが、鑑別診断が全く異なるものになりかねないので、どこが原因かを突き止めることが重要です。 鑑別診断をあげる…
-
【今更でもいいからとにかく学ぶ】もう悩まない!イオン化カルシウムとは
この記事の内容 イオン化カルシウムとは イオン化カルシウムを測定する意義とは 総カルシウム値からイオン化カルシウム値に補正可能か まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、総カルシウム値に異常があったときに、イオン化カルシウムを測定する必要がある理由を簡単にご説明します。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] イオン化カルシウムとは カルシウムは、大きく3つの形態で血中に存在します。 イオン化カルシウムとは、生理的に活性を有する、3種類の中で最も重要な要素です。 イオン化カルシウム: 55% タンパク質と結合カルシウム:35% カルシウム複合体:10% ドライケム等の血液生化学で測定しているのは、この3つの合計の濃度です。そして、血液ガス分析などの機械で測定できるのがイオン化カルシウム濃度です。 イオン化カルシウムを測定する意義とは イオン化カルシウムとは生理的に活性を有する形態 骨格筋の収縮、心筋および平滑筋の興奮-収縮連関 アドレナリン、グルカゴン、バソプレシン、セクレチン、コレシストキニンなどのホルモンに対する細胞応答を媒介 イオン化カルシウムの濃度が必ずしも血清総カルシウム濃度と相関するとは限らない イオン化カルシウムと違い、他の分子と結合したカルシウムの複合体は生理活性を持ちません。これらのカルシウム複合体の濃度はアルブミンの濃度や、リンや乳酸、シトレートなどによって変化します。よって、イオン化カルシウムが同じでも、カルシウムと結合する分子の濃度によって総カルシウム濃度が変化してしまします。 よって、総カルシウムレベルよりもイオン化カルシウムの血中濃度が最も重要になります。 総カルシウム値からイオン化カルシウム値に補正可能か 人間の医療では、総カルシウム値からイオン化カルシウム値を予測的するための補正式があります。もちろん、重要なファクターになるのはアルブミンなので、アルブミンが補正式に組み込まれます。 この補正式は人と同様に犬猫にも使えるのでしょうか? 犬、猫で補正式を用いて総カルシウム濃度からイオン化カルシウム濃度を予測した研究があります。結果は、それぞれ17%、29%でしかうまく予測できなかったというものでした。 人医療と違い、犬猫ではイオン化カルシウム濃度を知るには、現段階では血液ガス分析が必要のようです。血液ガス分析の機械をお持ちの病院さんもあれば、外注で検査を以来する病院さんもあると思います。 総カルシウム濃度が異常値の場合は、イオン化カルシウム濃度を測定して実際に低カルシウム血症/高カルシウム血症の診断に進むようにしましょう。 まとめ カルシウムは血中で3つの形態で存在 生理活性があるのはイオン化カルシウムのみ 生化学で測定できるのは総カルシウム濃度 犬猫では総カルシウム濃度からイオン化カルシウムを予測するための補正式は使えない 総カルシウム濃度が異常であればイオン化カルシウムを測定する こちらも併せてご覧ください。 [/read_more]
-
【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の低カルシウム血症の診断からアプローチまでわかりやすく解説!
この記事の内容 低カルシウム血症をいつ疑う? 低カルシウム血症をいつ治療する? 低カルシウム血症の急性期の治療法 低カルシウム血症の鑑別診断 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、低カルシウム血症による症状を示している患者さんに対するアプローチをご紹介していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 低カルシウム血症をいつ疑う? 低カルシウム血症のメジャーな症状は、震せん、筋肉の痙攣、顔をかく行動です。「発作」と「筋肉の痙攣」の区別をつけるのが重要です。なぜなら、低カルシウム血症で筋肉の痙攣が起こっている場合、抗けいれん薬は効かないことが多いからです。 低カルシウム血症によって、発作が起こることもあります。筋肉の痙攣よりは頻度が低いです。 筋肉の痙攣を見たことがない場合はYoutubeで検索してみましょう。 低カルシウム血症を疑う時 筋肉の痙攣 顔をかく異常行動 オーナーさんが「発作」と表現した場合 妊娠中/出産後 飼い主さんによっては筋肉の痙攣が「発作」と表現されることがあります。問診で本当に発作かを疑うことが重要です。しかし、実際に獣医師が見ても発作か筋肉の痙攣かの判断が難しいことがあります。問診では、以下のことを確認するようにしましょう。 発作 vs 筋肉痙攣 発作後状態 意識はあるか 尿、便のコントロール 判断が難しい時は、抗けいれん薬を素早く入れることは間違いではありません。しかし、全く効果がなかった時に、何かおかしいと疑って、低カルシウム血症を鑑別診断に入れられるかが重要です。 低カルシウム血症をいつ緊急治療する? 症状があってイオン化カルシウムが低い場合 症状:痙攣、顔面の掻痒、歩様や行動の異常、発作、発熱、頻脈 イオン化カルシウムlt;1 mmol/l、総カルシウムlt;6.5 mg/dlになるまで症状が出ないことがあります。 イオン化カルシウムで判断することが理想ですが、院内で測定できない場合は、総カルシウム濃度を目安にします。このときに、できればカルシウム剤を投与する前に採血をしておくことをおすすめします。イオン化カルシウムやPTHの測定ができるようにサンプルを採取してから治療薬を入れることを考慮しましょう。 患者さんが、ピンピンして尻尾を振っている場合、カルシウム濃度が低くても静脈注射による治療に進まないこともあります。 私が今までに急性期の治療に至った患者さんは以下の症状がありました。 筋肉の痙攣、発熱、頻脈(イオン化カルシウム0.68mmol/l) 発作、横臥(イオン化カルシウム0.62mmol/l) 低カルシウム血症の急性期の治療法 静脈からグルコン酸カルシウムの投与が推奨されます。 10%のグルコン酸カルシウム0.5-1.5ml/kg 緊急の場合は希釈は不要 10分以上かける ECGをモニター 徐脈がみられたら投与を止める 様子を見ながら遅いスピードで投与再開 症状の改善には30分から1時間かかることがあります。投与後にカルシウム濃度を再度確認するか、症状の改善を確認します。もしも足りない場合は追加投与します。 急性期を脱した場合、亜急性期の治療が必要になることがあります。治療によって改善されたカルシウム濃度がすぐに再び下がってきてしまう場合です。 その場合はECGモニター下で、グルコン酸カルシウムのCRIが必要になります。また、ビタミンDの投与を同時にスタートします。ビタミンDが効果を示すまでに数日かかるためです。 低カルシウム血症の鑑別診断 急性期を乗り越えたら、原因疾患を探っていきます。基礎疾患を放置してしまうと、カルシウムのコントロールがなかなかできなかったり、患者さんの容態が悪化していく可能性があるので、しっかりと鑑別診断を考えた上診断に進みましょう。…
-
【アメリカでペットと暮らす方へ】犬がキシリトール入りガムを食べた⁉︎とっても怖いその理由とは!
この記事の内容 キシリトール中毒とは キシリトールが含まれる可能性がある食べ物 キシリトール誤食を目撃した時にとるべき行動 救急病院で行われること キシリトール中毒の治療の基本 猫のキシリトール誤食 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、キシリトールの含まれるガム、お菓子をペットが誤食した時に起こりうること、目撃した時にとるべき行動を解説していきます。 キシリトール中毒とは 犬は、キシリトールを食べると、中毒症状を呈します。人間が食べれるキシリトールの量よりも、はるかに少量のキシリトールによって、体に以下のような反応が起こります。 犬がキシリトールを食べると30分で吸収される キシリトールによって膵臓が刺激され、インスリンが放出される グルコース(糖分)が細胞内に入り込み、低血糖になる 肝臓障害が生じる 肝障害によって、凝固障害が生じる(出血しやすくなる) 低血糖が出る中毒量は、0.1g/kg (100mg/kg)、肝障害が出る量は0.5g/kg (500mg/kg)と言われていますが、それ以上誤食した患者さんが肝障害を示さないということもあり、実際のところはっきりした数値はわかっていません。しかし、低血糖や肝障害で残念ながら死に至ってしまうこともあるので、慎重な判断が重要になります。 以下に、症状及び症状が出る可能性のあるタイムフレームを示します。 低血糖:元気消失、運動失調、失神、発作などの症状(誤食から1時間以内-最大症状が出るまでに最大2日) 肝障害による症状:肝障害による凝固系の異常(症状が出るまでに最大3日) 凝固障害による症状:点状出血、皮下出血、血便(症状が出るまでに最大3日) キシリトールが含まれる可能性のある食べ物 sugar-free gum:砂糖不使用のガム sugar-free candies:砂糖不使用のアメ breath mints:ミント baked goods:焼き菓子 peanut butter:ピーナッツバター pudding snacks:プリン cough syrup:咳止め chewable or gummy vitamins:チュアブルタイプのガムやビタミン剤 supplements or over the counter medications:サプリメントや市販の薬 mouthwash:マウスウォッシュ toothpaste:歯磨き粉 シュガーフリーの甘味が用いられる加工食品には、キシリトールが含有しています。人間の食べ物を誤って誤食した後、急にペットの調子がおかしくなった場合は、キシリトール中毒が疑われます。ごく少量でも中毒症状を示す可能性が高いため、「たかが人間の食べ物を食べたくらいで」と軽視しないようにしてください。 キシリトール誤食を目撃した時にとるべき行動 何をどのくらいの量食べたのかを明確にする わからなければ成分表の載ったパッケージを持参する…
-
【アメリカでペットと暮らす方へ】犬の咳、ケンネルコフとは
この記事の内容 ケンネルコフとは ケンネルコフの患者さんの症状 ケンネルコフの治療法 ケンネルコフの予防法/蔓延防止方法 動物病院にて まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、ケンネルコフについて説明します。アメリカではケンネルコフは、ペットホテルで蔓延していることがあり、ホテルに預けた後に咳の症状で来院される患者さんで強く疑われます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] ケンネルコフとは ケンネルコフとは、伝染性気管支炎とも呼ばれる、伝染性の呼吸器の病気です。その名の通り、犬同士の飛沫で感染します。犬がたくさんいる施設で蔓延しやすく、ホテル、ドッグラン、トレーニングセンターで感染が成立してしまうことが多いです。 ケンネルコフの原因 ボルデテラ(細菌) パラインフルエンザ(ウィルス) アデノウィルス マイコプラズマ これらの微生物の感染によって、気管支炎(気管支の炎症)を引き起こし、強い咳といった症状を示すようになります。 基本的には自然に治る病気ですが、免疫力の弱い6ヶ月以内のわんちゃんに感染すると、重症化することがあります。 infectious tracheobronchitis:感染性の気管気管支炎 boarding and daycare facilities:ペットホテル dog parks:ドッグラン contagious:伝染性の ケンネルコフの症状 ケンネルコフの症状は、英語でhonking coughと表される、ガチョウの鳴き声のような乾いた咳が特徴です。 a strong cough “honking” sound runny nose sneezing lethargy loss of appetite 咳を特徴とする病気は他にも、ジステンパーウィルス、犬インフルエンザ、気管虚脱、心臓病、喘息などがあります。前者2つの感染は、重症化する可能性が高く、さらに伝染性なので、ケンネルコフとの区別が重要です。 canine distemper virus:ジステンパーウィルス canine influenza virus:犬インフルエンザウィルス…
-
適切な酸素供給方法を選択するために
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、低酸素血症の患者さんの酸素供給方法をどう選択するかについて説明します。この記事を読めば、とりあえず酸素室に入れているけど、状態がみるみる悪化している!という場合、どのタイミングで別の酸素供給方法に切り替えるかわかるようになります。 酸素化の目的 低酸素血症の患者さんへの酸素化のゴールは、何らかの疾患に対する治療が奏功するまでの時間稼ぎです。低酸素によって患者さんが死に至らないようにすることが一番の目標です。 酸素化の方法によって、肺に到達する酸素濃度や肺胞にかかる圧を調節する事ができます。 どの程度の酸素の供給をすれば、患者さんが楽になるかは、実際にやってみないとわからないことがほとんどです。侵襲性の低い酸素化から始め、不十分であれば次のレベルへ、と徐々に侵襲性の高い、より高濃度の酸素を供給できる手段へとレベルアップしていきます。 よって、効果的な酸素化を行うためには以下の2点が非常に重要になります。 まずは酸素化が不十分の時に出る患者さんのサインを説明します。次に、そのサインが見られたときに、どのような酸素供給方法を選択するべきかを9つの酸素供給方法とともにお示しします。 なぜ酸素供給方法を学ぶのが重要か 酸素供給の手段を把握しておくことで、この方法が効かなかったら次はこれをする、といった段階的な治療を行うことができます。 例えば、酸素室でも舌が紫で呼吸が速い場合、これ以上酸素室に入れておいても改善の見込みがありません。そんな時に次のステップを想定しておくことが非常に重要になります。 この「最悪の状況を想定する」力は、呼吸器の分野以外にも非常に重要です。重積発作の患者さんなどでも、この薬が効かなかったら次はこれ。これも効かなかったらこれ。といったイメージを持っておくことで、万全の準備をした上で治療にのぞむことができます。 また、飼い主さんへのインフォームも円滑になります。あらかじめ、飼い主さんに人工換気が必要になる可能性を伝えておけば、いざ患者さんの状態が悪化したときに、慌てて人工換気に進む節を電話でお伝えしなくて済みます。 次のステップに進むタイミング 抗生剤を弱いものから始めて徐々に強めていく概念と同様、酸素供給方法にも、侵襲性の低い酸素供給から始めて、徐々に侵襲度の高い酸素供給方法にエスカレートするという概念があります。 侵襲度が高い酸素供給方法を選択するにつれ、それに伴う合併症が起こることになります。よって、患者さんが最も快適に呼吸ができる最低限の酸素供給方法を選択するべきなのです。 いつ次のステップに進むかを判断するには、「待てるか vs 待てないか」を判断します。以下のポイントをチェックしていきます。 意識レベルの低下、虚脱 意識レベルが下がっている場合や、虚脱が見られた場合、少しのストレスの負荷も命取りになります。主観的な評価になりますが、「今にも呼吸が止まりそうな見た目をしている」という感覚を大切にしましょう。 舌の色 舌の色が、青や紫になった場合、重度の低酸素状態(SpO2lt;66%)であることが示唆されます。酸素室内でこのサインが見られたら、酸素供給方法を変更します。 注意点として、舌の色がピンクだからといって、低酸素状態が除外されるわけではありません。チアノーゼ=重度の低酸素ですが、チアノーゼじゃない=大丈夫、ではありません。 喀血の有無 喀血=肺胞が水浸し、肺が溺れているサインです。これは非常に重症なサインです。直ちに挿管、人工呼吸管理を行う事が推奨されます。 努力呼吸の持続時間 「呼吸筋の疲労」とは、努力呼吸が長時間続き呼吸筋に限界がきた状態です。 低酸素血症の最初の反応は、呼吸数が増加し、換気が増加する事で血液中の二酸化炭素量は低下します。呼吸筋が疲労した場合、呼吸数は落ち、換気量が減少するため血中の二酸化炭素が減少します。 努力呼吸が長時間続き、ついに呼吸数が落ちた時には、要注意です。改善傾向なのか、悪化傾向なのかを見極めなければいけないターニングポイントになります。 ここで判断を見誤り、呼吸数の低下#8211;gt;改善と解釈してしまうと、その後呼吸停止に至る可能性があります。判断が難しい場合はPvCO2(静脈中の二酸化炭素)を血液ガス分析を用いて定量する事ができます。 血中酸素濃度 血中酸素レベルは、SpO2やPaO2によって測定することができます。SpO2はクリップで粘膜や皮膚を挟むことで経皮的に得られる酸素飽和度ですが、SpO2lt;95%は低酸素血症です。 PaO2とは、動脈血中の酸素分圧で、動脈血の採血が必要です。酸素下であれば400-500mmHg以上が普通です。酸素投与下で100mmHg以下であれば、酸素供給方法を見直す必要があります。 動脈血の採血には、テクニック及び患者さんの不動化が必要であるため、患者さんが不安定な状態では、危険を侵してまで採血する必要はありません。 酸素化の方法9つ 9つといいましたが、特別な機械がないとできない場合、適応ではない場合もあります。 自分が所属する病院でどんなオプションがあるかを知っておくことが重要です。 こちらの記事で、これら9つの酸素供給方法について解説しています。病態によって最適な酸素供給方も異なるのでどんな適応ができるかについても説明しています。 まとめ
-
犬・猫の頻呼吸④聴診ポイントのまとめ
はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 記事③では、呼吸困難の症例が来た時に11のどれに当てはまるか、レントゲンなどの検査を行う前に予測をつけるためのツールについてお話ししました。本記事、④では聴診のポイントをご紹介します。 アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みますので、①-④まで最後までご覧ください。 聴診する際の注意点 聴診は、静かなところで行いましょう。すごく当たり前なことに聞こえるかもしれませんが、重要なことです。学生が酸素室の中で聴診をして、肺音がよく聞こえない、と相談してくることがよくあります。酸素室は、スイッチがオンになっていると実は非常にうるさいのです。心音はかろうじで聞こえるかもしれませんが、わずかな肺音の異常を聞き逃す可能性は十分にあります。 一時的にでもいいので、酸素室のスイッチをオフにして、静かな環境にしましょう。 また、外の雑音によっても大きな影響を受けます。近くでおしゃべりされているだけで、聞こえなくなることはよくあります。聴診のために環境を作る努力をするようにしてください。 また、いくら静かな環境を作れたとしても、患者さんのコンディションによって肺音をうまく評価できないこともあります。例えば、上部気道閉塞音が非常に大きい。気道に分泌物が貯留している場合などです。聞き取れないことは決して恥ずかしいことではありません。しっかりとカルテに「上部気道閉塞音により評価困難」という記載をすることが重要です。 患者さんがパンティングをしている時に特に、心音と肺音が聞き分けづらいことがあります。パンティングを心音と捉えて心雑音がある、と誤って評価されていることもあります。騙されないように、心音を探す、肺音を探す、と意識するようにしてください。 聴診のポイント 聴診のゴールは、異常音がどこから鳴っているかを聞き分け、鑑別診断をなるべく絞ることになります。 まず初めに、聴診器に手を伸ばす前に聞こえてくる音に着目してみましょう。聴診器なしでも聞こえる音は、上部気道閉塞音で、鼻から頸部気管が原因でなっている音の可能性が高いです。 次に、聴診器を用いて聴診していきます。まずは、「どんな音を探すべきか」知っておきましょう。(YouTubeで実際に探す音をこの後紹介します)漠然と聴診していても、どれが重要な音か分からなければ、鑑別診断を絞ることができません。 簡単にいうと、空気が通る異常な音が聞こえるか、プチプチと弾ける音が聞こえるか、が重要になります。そして、どこでその音が大きいかを評価していきます。 聞こえた異常呼吸音を、少なくとも以下の5パターンに分類できるようになりましょう。正確にはさらに細かく分類されることもありますが、最低でもこの5つに分類できることが重要です。 聴診音5パターン これらの明確な音を聞き分けるのは難しい事もあります。しかし、異常に気がつけるかという事が重要です。 アメリカでは、看護師さんがICU患者さんの聴診をして、異常があれば獣医師に伝えます。ベテランの看護師さんは、聴診に慣れているので、異常にいち早く気がつき知らせてくれるため、非常に助かります。 聴診器なしでも聞こえる異常音 主に吸気時に聞こえる音ですが、呼気時に聞こえることもあります。 スターターとは、口を閉じているときに聞こえる、鼻の閉塞音です。ストライダーとは、口を開けている時に聞こえるガーガー音です。 これらの音が聞こえた時には、異常音の源は以下を疑うことができます。 聴診器で空気が通る音が聴こえる 実際の動画を元に聞いてみてください。患者さんを前にしたら、この音を集中して探すようにしてください。 気管支が何らかの理由で狭くなると、肺胞から気管までの空気の通り道において、呼気時に音が出ます。高い音をウィーズ、低くガラガラと分泌物が気管支に粘着しているような音をロンカイと言います。 ウィーズが聞こえる病態は、気管支に炎症が生じて気道が狭くなる場合です。犬で多いのは、慢性気管支炎、猫に多いのは猫喘息です。 ロンカイが聴こえるのは、痰や気道粘液物質の貯留によって気管支が狭くなった時です。痰の産生が亢進するような病態、肺炎や気道粘液分泌が増加する病態で生じる音です。咳による喀痰やサクション吸引によって雑音がなくなります。 聴診でプチプチした音が聴こえる それでは実際に聞いてみましょう。ファインクラックルは、紙風船が開く音をイメージして聞いてもらうと覚えやすいと思います。コースクラックルは、バブルが弾ける音です。 ファインクラックルが聞こえるのは、間質性肺炎や肺繊維症と言った、ドライな肺病変です。コースクラックルは、肺水腫のようなウェットなイメージの肺病変になります。 この二つを実際の臨床現場で聞き分けることは難しいと思います。もし明確に聞き分けられたとしても、治療の前にはその裏付けをとるようなさらなる検査が必要になるので、分からない時はねばって患者さんにストレスを与える必要はないので、単純に「クラックル」という記載をしましょう。 まとめ