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  • 【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。

  • 【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆​呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m

  • 犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の脊髄損傷の重症度評価

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の脊髄損傷の重症度評価

    この記事の内容 所見のまとめを医学用語でバチっと表す 脊髄損傷の重症度 脊髄の重症度を一言で表すと まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、脊髄損傷の重症度を一言で表す方法をご紹介します。アメリカの学生は、脊髄疾患の患者さんの症例プレゼンテーションでは必ず重症度を初めに言うことを叩き込まれます。私も初めは混乱することもありましたが、しっかり理解することで獣医間のコミュニケーションが容易に、そして的確になるので慣れていきましょう。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 所見のまとめを医学用語でバチっと表す 神経学的検査の目的は、ニューロローカリゼーション(病変部の位置決定)及び、重症度を推測することです。症例について説明するときに、神経検査の結果を一つ一つ伝えると、結局何が言いたいのか分からなくなります。 この2つの情報をバチっと言えれば、「右後肢の固有位置感覚が低下」や「右前肢のホッピングが#8212;」などという解説は聞かれたとき以外は不要です。「神経検査の結果、病変部位は#8212;で、重症度が#8212;です」と言えることでシンプルに効率よく伝えることができます。 医学用語にバチっと置き換えることで、聞く側もスムーズに理解しやくすなります。 ニューロローカリゼーションに関しては、こちらのページを参照ください。 この記事では重症度に関して、どの様に評価してどの様にグレーディングするかをお伝えします。 脊髄損傷の重症度 脊髄損傷の重症度は、脊髄がどれだけ深部まで圧迫などの損傷を受けているかによります。 神経学的な異常は以下の順番で起こります。 損傷が、脊髄の外側表面だけの時。腰部の圧迫で痛みを伴うかもしれませんが、神経学的な異常が認められない場合があります。 損傷が深部に及ぶと、固有位置感覚が消失し、ナックリングが見られます。 さらに深い部位の損傷によって、自発的な運動能力が消失します。 もっともっと損傷が深くなると、浅部痛覚がなくなります。 最終的に深部痛覚がなくなり、骨をどれだけ鉗子で強く挟んでも反応がなくなります。 逆に考えると、固有位置感覚が消失していない場合は、②から下の全てが正常になるはずです。 固有位置が消失していても運動能が残っている場合は、必然的に④から下も正常です。つまり、浅部痛覚や深部痛覚の検査をする必要もないということです。 よって、神経検査でローカリゼーションが終わっている場合は、これらの項目を上から確認していき、異常が見られたレベルが直接脊髄の重症度に相関することになります。 脊髄の重症度を一言で表すと ここからは、脊髄の重症度を表す名前の紹介です。まず初めに大きく3つの分類に分けます。 麻痺なし:神経学的異常なし 不全麻痺 (paresis):固有位置感覚は低下/消失しているが自発的な動きあり 完全麻痺 (plagia):自発的な動きなし ここまでは、固有位置感覚の検査と、患者さんが歩く姿を観察することで確認できます。 さらに、重症度を細分化していきます。 不全麻痺 歩行可能 (ambulatory) 歩行不可能 (non-ambulatory)だが自力で体重を支えられる 歩行不可能 (non-ambulatory)で自立も不可 完全麻痺 痛覚正常 浅部痛覚消失 (superficial sensation) 深部痛覚消失 (deep pain) 完全麻痺の場合は、必然的に歩行は不可能です。…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】深部痛覚消失について考える

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】深部痛覚消失について考える

    この記事の内容 深部痛覚消失が意味することは 深部痛覚消失が見られた症例を前にしたとき心がけること インフォーム まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 深部痛覚の消失は超重要な神経学的検査所見です。予後、QOL、治療方針、治療費、など様々なことを考慮し、飼い主さんとディスカッションをした上で、治療方針を決定する必要があります。 この記事では、深部痛覚の消失した患者さんを診る時のキーとなるポイントをご紹介していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 深部痛覚消失が意味することは アメリカの動物病院では、Quality of Lifeという言葉が非常によく用いられます。アメリカ人の中でも人によって意見はそれぞれですが、一生後肢が動かない、改善の見込みがない、車椅子の生活、頻繁な排尿排便管理が必要になる=「安楽死を考慮するタイミング」と捉える方々をたくさん見てきました。 安楽死に対する考えに「正解」はありません。文化の違い、考え方の違い、だけでなく、動物病院の医療費の影響も大きいことは間違いありません。 私が働く病院を例に、IVDDが原因で深部痛覚消失が見られた時の流れをご紹介します。 尚、表示価格につきましては、目安になりますので、かかりつけさんにご確認ください。 後肢麻痺の患者さんがERに来院(admission fee = $170) 神経科のコンサルテーションを受ける(consultation fee = $75) 深部痛覚の消失、IVDDが疑われた:24時間以内の手術で運動機能が回復する可能性50% MRIが推奨される(MRI +/- CSF tapを足した合計 = $2500-3500) MRIでIVDDと診断され、手術に至る(surgeryを足した合計=$5000-7000) この様な場合、飼い主さんは、運動機能が改善する見込みが手術をしても50:50であるという厳しい現実を突きつけられます。手術をしなかった場合、運動機能改善の見込みは10%以下です。運動機能が改善しなかった場合、どういったケアが必要なのかが説明されます。 IVDDの診断にはMRIもしくは造影CT検査が必要になります。私が働く大学病院では、手術を考慮している場合は、IVDD以外の病気を見逃さないために、MRI検査が主流です。 診断がIVDDであれば手術で運動機能回復の見込みがありますが、IVDDでなかった場合、例えば腫瘍や炎症の時、深部痛覚が消失するほど重度な脊髄損傷と考えると運動機能回復の見込み、予後はIVDDよりも悪くなることが告げられます。 最後に、費用の話で、診断に2500-3500ドル(25-35万円)、手術をしたらトータル5000-7000ドル(50-70万円)と説明されます。 これだけ様々な要素(予後、手術までの時間、QOL、費用)が絡み合うことで、手術に進むか、緩和治療を行うか、安楽死か、という単純そうに見える3つの選択が非常に難しくなるのです。 そして、「本当に深部痛覚は消失しているのか」「シグナルメント、ヒストリーから、本当にIVDDが最も疑われるのか」といった一つ一つの情報が非常に重要になるのです。 深部痛覚消失が見られた症例を前にしたとき心がけること ここまでで説明してきた通り、「深部痛覚消失」は非常に重要な意味があります。「深部痛覚消失」と判断され大学病院に送られてきた患者さんで、実は深部痛覚消失していなかったパターン(もしくは脚がしっかり動いていたケース)というのもよく見受けられます。 的確な診断、飼い主さんへのインフォーム、素早い判断が重要になります。 的確な診断:もしも深部痛覚が消失しているかわからない場合、誰かに一緒に確認してもらう。定かではない場合、神経科に送る。 飼い主さんへのインフォーム:予後、QOL、診断及び手術にかかる費用の説明 素早い判断:いつ診断、手術に進むのか。いつ神経科に送るか。 深部痛覚が消失しているかしていないかの判断が難しいことがあります。引っ込め反射と間違えやすい時もあるので、誤った判断をするよりは「経験のある人に確認してもらう」ことをお勧めします。 深部痛覚が消失していた場合、すでに脊髄の深部に至るダメージが生じています。すぐに解除してあげないと、四肢や膀胱、肛門麻痺が不可逆的になる可能性が高く、時間との勝負になります。 自分の病院で手術ができる場合は手術の計画を建てる、紹介するのであれば紹介状と血液検査やレントゲン検査などのデータを速やかに紹介病院に送る、といった事務的な作業も重要です。 インフォーム インフォームのポイントは、今までにでも出てきた内容とかぶるところもありますが、 神経検査結果の説明…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】皮筋反射をやってみよう

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】皮筋反射をやってみよう

    この記事の内容 皮筋検査はなんのためにするか 皮筋検査はどうやるか 皮筋検査の結果の解釈方法 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、皮筋反射の検査方法と、検査結果の解釈について解説します。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 皮筋反射はなんのためにするのか 皮筋反射は、脊髄損傷部位を予測するためのヒントになります。脊髄損傷によってMRIを取られた患者さんの80%で皮筋反射が消失した位置の4椎体前までに病変が存在。48.5%が2-3椎体前に病変が存在したという結果の論文があります。 脊髄の病変の有無を疑うヒント、さらには脊髄病変のローカリゼーションにも役立つことがわかります。 皮筋反射の方法 患者さんが立位の状態で行います。 やり方は、まず触診で腸骨稜(腸骨翼のでっぱっている部分)を確認します。 腸骨稜のすぐ頭側、脊椎の棘突起から1-2cm左右に離れた部分の皮膚を鉗子で摘みます。 このあたりが、L4の位置になります。これより後方は、皮筋反射検査の感度が低いといわれているのでL4をスタート地点として、1-2cmごとに皮膚を摘んでいきます。これを両側行います。 後方から前方に進んでいき、皮筋反射がみられた時点で検査を終了します。 重要なのは、どこから皮筋反射がみられるか、というカットオフの位置になります。消失が見られた部位が何番目の椎体かを数えます。 皮膚が厚い動物、被毛が多い動物では、より強い刺激が必要かもしれません。 皮膚からの刺激はT2-L7の領域に伝わり、C8-T1の髄節で外側胸神経とシナプスして皮膚(図の青い部分)の収縮が起こります。以下の動画の最後で皮筋反射がうつります。この皮膚の動きを覚えてください。 皮筋反射の結果の解釈 皮筋反射のカットオフの部位から、だいたい2-4椎体前に病変があると言われています。 以下の例を見てみましょう。腸骨稜のすぐ前方あたりから皮筋反射がみられたとします。この場合、必然的にそこよりも前方は正常ということになるので、図の様に前方に進んでいく必要はありません。そして、この患者さんの皮筋反射は正常ということになります。 次の例では、L4のあたりから反射が消失しており、前方に移動させていくとおよそT5の部位で皮筋反射がみられました。その場合、カットオフはT6あたりということになります。 脊髄病変はカットオフの2-4椎体前なので、T2-T4が疑われる病変部位ということになります。 まとめ 皮筋反射は、脊髄に病変があるか、そしてニューロローカリゼーションに役立つ 皮筋反射のやり方と解釈方法をマスターしましょう [/read_more]

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】具体的に学ぶ!排尿管理について

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】具体的に学ぶ!排尿管理について

    この記事の内容 排尿管理を理解するための2つのおすすめレビュー 排尿管理とは 膀胱サイズの測定 膀胱を空にする手法 メディカルマネージメント まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 排尿管理は、横臥や脊髄疾患の患者さんには非常に重要な概念です。日本で獣医をしていたときにはあまりちゃんと習ったことがありませんでした。大型犬が多いアメリカで学ぶうちに、横臥の患者さんへ、いかに合併症を減らせるかということもICU管理で重要な要素だということに気がつきました。 この記事では、排尿管理の概念の理解と、実際にどのようにマネージメントするかということをご紹介していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 排尿管理を理解するための2つのおすすめレビュー この記事は、2つのレビューを参考にしました。英語で読む気力がある方は、これを読むか、推奨ガイドラインのテーブルを見てみることをお勧めします。 ACVIMのレビューでは、排尿をコントロールする神経についての図が非常にわかりやすく記されています。 排尿の神経支配は複雑で、何度覚えてもすぐに忘れてしまっていました。このレビューに載っている生理学を理解するための図は非常に簡潔でわかりやすいです。自分でわかりやすくイラストを作ってこちらのページでご紹介していますが、後からこのレビューに出会い、こっちの方がわかりやすいかも。と思いました。ぜひこの論文も読んで見てください。 Frontiers in Veterinary Scienceでは、実際にどのように膀胱ケアを行うかというガイドラインが載っていてわかりやすいです。 膀胱ケアとは 排尿管理(bladder management)は入院管理を考えるのに非常に重要な要素になります。横臥ケアが必要になる病態としては、脊髄損傷、骨折、筋肉の虚弱など様々ですが、横臥の原因が何であれ、合併症として起こりうることは共通します。排尿管理の一番の目的は、感染を予防することです。 排尿能が損なわれることで、膀胱内の残尿が尿路感染(urinary tract infection:UTI)の原因となり、上行性の腎盂腎炎、さらには全身性の感染、敗血症、死亡の原因になります。 排尿能は大きく二つの能力に分かれます。蓄尿能(storage)と排尿能(voiding)です。 そして、正常な排尿能が損なわれたときにどんな弊害が生じるかを示したチャートがこちらです。 どちらが損なわれても、最終的にUTI、抗生剤の耐性、上部尿路疾患、QULの低下、寿命低下につながることになります。 これが、「なぜ膀胱ケア、排尿管理が重要なのか」の根本の理由になります。できる限りこれらを避けるために獣医師としてできることが推奨ガイドラインとして2つ目の論文で紹介されています。 膀胱サイズの測定 4時間おきにサイズの確認、毛が尿で覆われていないかを確認 方法:超音波を使った実測が推奨される 圧迫排尿を行うタイミング:膀胱内の尿量が10ml/kg以上になった場合 膀胱が膨満することは大きく二つの弊害があります。一つは先ほども出てきましたが、尿路感染の原因となるためです。もう一つの理由は、膀胱の平滑筋が尿の貯留によって圧を受け続けることで、膀胱アトニーを引き起こすためです。膀胱アトニーとは、たとえ中枢神経や排尿に携わる神経が正常に機能していたとしても膀胱平滑筋が収縮できなくなる状況です。 膀胱サイズから、量を推測する計算式があります。このグラフに載っているのは3Dの断面を利用した計算法になりますが、煩雑なので2Dでの計算方法を提案する論文もあります。 実際にアメリカの大学病院で、4時間おきにこの尿量を計算して圧迫排尿をするかを決めることはあまりありません。経験的に、このくらいの大きさの患者さんならこのくらいの膀胱のサイズを超えたら圧迫排尿しようかというようなかんじで行っています。大型犬なら、超音波の1断面で、7cm x 7cmを超えたら、小型犬なら5cm x 5 cmを超えたら、という具合です。 膀胱を空にする手法 8時間おきに必要に応じて排尿を促す 圧迫排尿gt;尿カテーテルの設置gt;毎回尿カテーテルを通して膀胱を空にする 尿の匂い、白血球の数、発熱によってUTIが疑われたら培養、抗生剤を開始 圧迫排尿が推奨されない場合:軟部組織の損傷、痛み、スタッフに技術がない、urine leakageによるpressure soreが懸念される場合は尿カテーテルを設置することが推奨される ある論文では、尿カテーテルの設置と尿路感染の関係を調べています。この論文によると、患者さんの年齢、尿カテーテルの設置日数、選別されていない抗生剤の使用が尿路感染のリスクになると結論づけられています。よって、尿カテーテルを設置した場合は、不要な抗生剤の使用は避け、最短で抜去することが重要と考えられます。 メディカルマネージメント…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】2種類の膀胱麻痺について考える

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】2種類の膀胱麻痺について考える

    この記事の内容 2種類の膀胱麻痺 UMN性膀胱麻痺 LMN性膀胱麻痺 臨床現場に応用 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 【今更でもいいからとにかく学ぶ】膀胱/尿道の神経支配についてで理解した膀胱の神経支配の知識を生かして、膀胱麻痺について理解を深めるための記事です。膀胱麻痺は脊髄疾患によって生じ、時に深刻な問題に発展します。この記事では、膀胱麻痺の二種類の病態をイラストを用いて解説していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 2種類の膀胱麻痺 膀胱麻痺には、大きく2種類あります。 UMN性膀胱麻痺 LMN性膀胱麻痺 UMNとは、Upper motor neuron、LMNとはLower motor neuronのアブリビエーションで、日本語では上位/下位運動ニューロンという意味です。 この概念が、神経学的位置決定には最も重要なので、簡単に例をあげて説明します。 前肢の神経を支配する脊髄分節はC6-T2です。病変部、例えば椎間板ヘルニアがC4-C5で生じた場合、この病変は前肢にとってはUMN、後肢にとってもUMNです。UMNでは、筋肉の緊張が亢進し、反射は正常から亢進します。 つまり、前肢も後肢も、筋肉の緊張が顕著になり、足を滑らかに曲げて歩くことができなくなり、行進しているかの様な歩き方になります。脊髄反射の検査を行うと、前肢も後肢も引っ込め反射や膝蓋腱反射などは正常/亢進します。 もしも病変がC6-T2だった場合、前肢にとってはLMNとなり、後肢にとってはUMNということになります。C4-C5の病変とは異なり、LMNの前肢では筋肉は弛緩し、反射も消失/減少します。UMNの後肢は先ほどの緊張した歩様や正常から亢進した脊髄反射が同様に見られることになります。 今度は病変がT3-L3だった時。前肢は影響を受けませんが後肢がUMNになります。 最後に、L4-S3の病変では、前肢は影響を受けませんが、後肢がLMNになります。前肢のLMNの様に、筋肉が弛緩し、脊髄反射の低下が見られることになります。 この様に、UMNとLMNとは、着目している神経からみて病変が上位にあるか、もしくは病変部がその神経を支配している基部(下位)かという意味です。この概念は、膀胱麻痺にも同様に適応できます。 膀胱の機能は尿を貯留し、必要なタイミングで排尿するということになります。これを考えると、UMN性の膀胱麻痺では、尿を貯留する機能が亢進し尿が出せなくなる病態。LMN性の膀胱麻痺では、尿を貯留できなくなり、漏れ出てしまう状態、ということが推測できるでしょうか。 UMN性の膀胱麻痺 UMN性の膀胱麻痺の特徴は以下になります。 尿貯留 膀胱拡大 膀胱緊張 圧迫排尿困難 随意排尿不可 これらを確認するには、腹部の触診が非常に重要になります。以下の点を意識して確認する必要があります。 膀胱が拡大しているかどうか 膀胱壁を容易に触診できるほど、膀胱壁が緊張しているか 圧迫排尿が容易か困難か ただ腹部をなんとなく触診するだけではこれらの情報を全て収集することができません。脊髄疾患疑いの患者さんの身体検査では特に腹部の触診を意識して行う必要があります。 【今更でもいいからとにかく学ぶ】膀胱/尿道の神経支配についてにて、これらを理解するのに必要な情報を説明してい流ので、よければご参照ください。 さらっと解説すると、膀胱を支配しているのは大きく以下の3つの神経です。 これらの神経はそれぞれ、異なる機能を持ちます。 下腹神経は交感神経で、尿貯留(膀胱括約筋の弛緩、尿道括約筋の緊張) 骨盤神経は副交感神経で、膨満感の伝達と排尿筋を収縮させて排尿を開始 陰部神経は反射および随意によって外尿道括約筋を収縮 病変部がL7より上位の場合、骨盤神経と陰部神経にとってUMNとなることがわかります。UMNによって、排尿筋の収縮と外尿道括約筋の収縮が過剰になります。 さらに、骨盤神経は膀胱の膨満感を脳に伝達する役割がありますが、その経路が途絶えるので、排尿をコントロールできなくなります。 よって、腹部触診の話に戻りますが、自力排尿ができないことで尿貯留が顕著になり、膀胱壁の緊張が触知され、尿道の収縮によって圧迫排尿が困難になります。 また、問診において、飼い主さんが「尿が漏れ出ている」「尿失禁」といった表現をされることもあります。この解釈には注意が必要で、尿貯留によって膀胱のスペースがなくなり、オーバーフローで漏れ出ているのか、尿道括約筋の弛緩によって本当に尿失禁しているのかを区別する必要があります。 漏れ出ているのに、圧迫排尿が容易でなければ、UMNということになります。 LMN性膀胱麻痺…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の膀胱/尿道の神経支配について

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の膀胱/尿道の神経支配について

    この記事の内容 下部尿路の神経支配 下腹神経 骨盤神経 陰部神経 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、膀胱の神経支配について解説します。交通事故、椎間板ヘルニアの術後などの脊髄疾患を持つ患者さんでは、入院中、排尿のケアをする必要があります。脊髄疾患の診断および、入院管理の治療方法の決定に役立つ知識になります。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 下部尿路の神経支配 膀胱の神経支配は、下腹神経(L1-L4)、骨盤神経(L7-S3)、陰部神経(L7-S3)の3つが重要になります。 これらの神経支配を理解することが重要になる理由は以下の点です。 神経学的病変部の位置決定に役立つ 病気の進行を推測できる 排尿管理の治療薬決定に役立つ この記事では、下部尿路の神経支配に焦点を絞って解説しますが、次の記事で位置決定に関して解説していきます。 なんだややこしそうだな。と思われるかもしれません。私も苦手意識がありました。臨床に役立てられる様に、なるべく単純化して一つずつの神経について解説していきます。 下腹神経: hypogastric nerve 下腹神経は、L1-L4から分岐する交感神経です。 「交感神経=戦闘モード」ということを習った記憶があるでしょうか。戦闘モードの時は排尿している場合ではないので、排尿の抑制に働き、結果尿を貯留することになります。 下腹神経には、アルファアドレナリン作動性の神経線維と、ベータアドレナリン作動性の神経線維の2種類があります。排尿を抑制するには、膀胱の平滑筋が緩み、出口である尿道括約筋が収縮する必要があります。アルファは尿道を閉める働き、ベータは膀胱を緩める働きがあります。 骨盤神経: pelvic nerve 骨盤神経は大きく二つの機能を持つ副交感神経です。アセチルコリンによるM3(ムスカリン)受容体の刺激によって排尿筋収縮が生じます。自律神経なので随意的にコントロールすることはできません。 膀胱の膨満感を脳に伝える 排尿筋を収縮させ、排尿を開始させる L7-S3から分岐します。 副交感神経を刺激するベタネコールなどが排尿のコントロールに用いられることがありますが、骨盤神経を刺激し排尿筋の収縮を促すというメカニズムです。 排尿をコントロールする薬に関しては、こちらの記事で解説しています。 陰部神経: pudendal nerve 陰部神経は、L7-S3から分岐する、外尿道括約筋の随意運動をコントロールします。 また、単シナプスを形成することで排尿時に尿道を広げ、排尿しやすくする反射を引き起こします。 外尿道括約筋は横紋筋(随意運動が可能な筋)なので、陰部神経によって、排尿中に自分の意志で排尿を止めることができます。 ここまでで、排尿に関する神経支配を解説してきました。これらを理解することは、神経学的位置決定や、排尿管理の際の治療法選択、病気の進行を理解する上で役に立ちます。次の記事では、臨床現場で役に立つ様な知識につなげていきますので、ご参照ください。 まとめ 下部尿路の神経支配は下腹神経、骨盤神経、陰部神経の3つ 下腹神経は交感神経 骨盤神経は副交感神経 陰部神経は随意運動と単シナプスに関与 おまけ:英語で学ぶのに最適なYouTubeを添付しておきます。多少人と犬猫の違いはありますが、単語のおさらいもかねて興味がある方は見てみてください。 [/read_more]

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】理解しよう!抗体検査と抗原検査の違い

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】理解しよう!抗体検査と抗原検査の違い

    この記事の内容 謎の神経症状、貧血、血小板減少症、関節炎の鑑別診断 感染症の診断ツール 抗体検査(エライザ) 抗原検査(PCR) まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。この記事では、感染症の診断を行う時の基礎知識を解説していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 謎の神経症状、貧血、血小板減少症、関節炎の鑑別診断 まずは感染症を疑えるかというところから全てが始まります。アメリカでは特に、日本で教科書でみた程度の病気が普通に鑑別診断にあがります。 日本で、ジステンパー、狂犬病、ダニ媒介性感染症は存在は知っていても実際に疑って検査を考慮する頻度は高くありません。日本が狂犬病清浄国であること、また日本のワクチンの接種率の高さからかと思います。 しかし、謎の神経症状はジステンパー、狂犬病、またIMHAやITP、関節炎、謎の発熱などの鑑別にダニ媒介性感染症はつきもの言っても過言ではありません。 ジステンパーや狂犬病は、神経症状によって凶暴になり、正気を失ってしまったような犬に対して疑うことが多いです。ワクチンの接種歴や、野生動物との干渉、ジステンパーでは他の犬の暴露、呼吸器症状歴が重要なヒストリーになります。 患者さんの主訴とヒストリーを聞いたときに、この二つの疾患を疑えるかが非常に重要になります。なぜなら、ジステンパーの場合他の患者さんに感染する危険があるためです。狂犬病は日本で注意する必要性は低いと思いますが、人間が噛まれたときのリスクを考慮することが重要です。 ダニ媒介性、血液媒介性の感染症は、抗体産生を刺激することから全身性の炎症が誘発されます。その結果、特定の症状というよりは全身症状を示すことになります。 抗体産生や全身炎症の結果として起こる臨床症状としては、発熱、リンパ節の腫脹、関節炎(人が風邪を引いたときに節々が痛いというのと似たような感覚でしょうか)、抗体産生によって、免疫介在性疾患(IMHAやITP, PIMA)が誘発される、抗原抗体の尿細管への沈着によって蛋白尿、腎不全があります。 感染症の診断ツール 私は日本で働いていたときは、検査会社の推奨するがままに検査に出して、あまり深い意味を考慮したことがありませんでした。この記事では、どのタイミングでどのテストをするかが重要になるということを強調するために、エライザの抗体検査とPCRの抗原検査について解説して行きます。 感染症の診断を行う際に重要なステップは以下になります。 感染症を疑えるか 感染が生じたタイミングを推測する 検査方法を選択する 正しいサンプルを検査会社に送る 解釈に注意する その感染症を疑えるかは、きちんと鑑別診断を挙げられるかがポイントになります。先ほど例に挙げたように、謎の神経症状、謎の貧血、、、などの鑑別診断に感染症が入れられるかはが最初のポイントです。 次に、感染が生じたタイミングを考慮して検査方法を選択する必要があります。 検査方法は大きく抗体検査(エライザ)と抗原検査(PCR)に分かれます。4DXや6DXのスナップテストは抗体検査になります。PCRは基本的には外注になることが多いです。最近では、院内でPCRの機械を備えているところもあるのかもしれませんが、いまはまだ外注が基本なのかと思います。 PCRで見るのは、病原体です。実際に細菌がいるかを調べる検査になります。 ここから、なぜ検査のタイミングと検査方法、サンプリングが重要かという話に移ります。上記はYouTubeでエーリッヒアの検査方法に関してのウェビナーです。すごくわかりやすく解説してくれているので、英語で学ぶ気力のある方はこちらの動画はおすすめです。 抗体検査 抗体検査が陽性を示した=抗体がある=病原体に暴露されたことがある 抗体検査が陽性を示した≠感染している 抗体検査が陽性を示した=ワクチンの影響 抗体検査が陰性を示した=抗体が産生されていない=病原体に暴露されたことがない、もしくはまだ抗体産生が始まっていない 抗体検査が陰性を示した≠感染していない 抗体検査はあくまでスクリーニングとしての機能を果たします。ワクチンの影響や過去の病原体への暴露の結果陽性になることもあります。 病原体によって、IgMかIgGを検出できるかは異なります。IgMが早期に産生される抗体で、IgGは血液中濃度が上昇するのにIgMよりも時間がかかりますが、一度産生されると数年先も残留します。 この図から、どのタイミングでIgMの検査をするかIgGの検査をするかの重要性が読み取れます。 例えば、疑わしい臨床症状があり、IgMの上昇がみられた場合、その患者さんが感染している可能性は高いと言えますが、IgGの一点の上昇が見られた場合、これが数年前の感染による抗体価の上昇なのか、今まさに感染が成立しているのかの判断はできません。 このことから、IgGの抗体価の測定は、数日の時間を開けた2点で行うことが推奨されます。これをペア血清といい、もしも2点間で抗体価が上昇していた場合、感染が高い確率で疑われます。 先ほどもお示ししましたが、血清の検査ではワクチンによる抗体産生かどうかの区別はできません。よって例えば感謝さんが数日前にジステンパーのワクチンをうち、呼吸器症状や神経症状を呈した場合、もしもペア血清でIgG濃度に差が出たとしても、感染による抗体産生かワクチンによるものかがわからないということになります。 そんなときに、確実に病原体をキャッチするための検査が次のテーマのPCRになります。 抗原検査(PCR検査) PCR検査は、以下の図の黄色い部分で病原体を検出できる検査です。 PCR検査は、何をサンプリングするかが重要です。 例えば、血液で増殖する病原体、エーリッヒアの場合を考えてみましょう。急性期の場合、血液で増殖するため、血液のPCRによって病原体が検出される可能性が高いです。この時点で、脾臓や骨髄をサンプリングしても、まだそこまで病原体が及んでいない可能性があります。 次に、症状が出ていないsubclinicalもしくは慢性的なフェーズでは、脾臓や骨髄のPCRによって検出できる可能性も高くなります。 よって、PCR検査では何をサンプリングするか(結膜のスワブ、尿、脳脊髄液など)、どのタイミングでサンプリングするのか、が重要になります。 まとめ…

  • 【アメリカでペットと暮らす方へ】猫の尿管閉塞を図でわかりやすく解説②

    【アメリカでペットと暮らす方へ】猫の尿管閉塞を図でわかりやすく解説②

    この記事の内容 猫の尿管閉塞とは 初期安定化 猫の尿管閉塞の治療オプション 役立つ英単語 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、様々な猫の尿管閉塞についてご紹介します。尿路に何が起こっているか、どんな治療オプションにがあるかを図を用いてわかりやすく解説していきます。アメリカでご自身のペットにそのようなことが起こった時に、活用していただけたら幸いです。 【アメリカでペットと暮らす方へ】猫の尿管閉塞を図でわかりやすく解説①の続きで、3つの手術オプションに関してメリットデメリットを説明していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 結石をとる 単純にいうと、お腹を開けて、尿管を切って、閉塞している結石を取り出す手術です。取り出した後は切った尿管をつなぎ合わせて閉腹します。 明らかに結石が閉塞を生じていることが確認された場合に適応になります。もしプラグや腫瘍が原因だった場合はこの方法は適応できません。 メリットデメリットをご紹介します。 メリット 他の二つの方法は体内に異物(デバイス)を入れる手術になります。人工物を体に埋め込むと、異物反応や感染などのリスクがつきものになってきます。よって、この手術ではデバイスを使わないため、これらの合併症の心配はありません。 デメリット デバイスを使わなくて済むのは非常に大きな利点にはなりますが、また結石が新たに生じた時に、同じように詰まってしまう可能性があります。内科治療を始めていくことが非常に重要になりますが、残念ながら結石を100%予防することはできません。再発した場合は同様の手術が必要になってきます。 猫の尿管は髪の毛のように細い臓器です。これを切開して、縫い合わせるのは至難の技です。誰でもできるわけではありません。漏れが生じたりする合併症が出ることもあり得ます。 尿管ステント設置 尿管とは、尿管の中に管を通して、尿路を確保する手技になります。基本的には、結石をとった後にステントを設置することになります。 メリット 尿管ステントのメリットは、ただ石をとって尿管を縫い合わせる手術に比べると、再発のリスクが減ることです。なぜなら、結石が尿管に落ちたとしても、ステント内の尿の流れは確保されるからです。 尿管ステントのデバイスによる合併症は、SUBシステムによるものと比べると、少ないです。なぜなら、異物の大きさ、長さ、複雑さが違うからです。尿管ステントは、1本の細い管なのに対して、SUBシステムのデバイスは複雑で表面積も大きいです。 SUBシステムと違うところは、定期的なデバイスのメンテナンスが必要ないというところです。一度設置して安定してしまえば、3ヶ月に1回くらいの定期的なチェックで済むことが多いです。 デメリット ステントが閉塞する、という合併症もあります。しかし、ステントを通しておくことでステントの脇である側路を尿が通過できる可能性もあるので、必ずしもステントが機能してないからといって再手術が必要になるわけではありません。 異物による合併症はどうしてもつきものです。ステントの閉塞、感染、ずれは100%防ぐことはできません。 SUBシステム設置 SUBシステムとは、Subcutaneous Ureteral Bypassの略です。尿管に詰まった結石やプラグなどは放っておいて、新たに尿を腎臓から膀胱に送る経路(バイパス)を作るシステムのことです。尿管の役割を果たす人工的な管を体内に設置する、と言ったところでしょうか。 Subcutaneousというのは皮下という意味で、腎臓から皮下を介して膀胱に管をつなげます。皮下にはポートが設置され、外から管の中身を洗浄できるような仕組みになっています。 メリット メリットは、手術中、髪の毛並みの細さの尿管をいじらなくていいので、手技は他の2つの方法よりは簡単で、手術時間も短くなります。尿管閉塞の原因が何であれこの人工的な管を入れてしまうことで尿路を確保することができます。 実はこの管、皮下にポートを埋め込むような設計になっています。この皮下に設置したポートによって、管がつまりそうな時に外から生理食塩水などでフラッシュ(つまりを流す)することができます。 デメリット 異物による合併症が最も高い可能性で出ます。感染、再閉塞、ずれなどです。 私が経験した症例では、SUBシステムを入れてから、怒りやすくなったり、食欲が低下したりと性格の変化が出たのです。最終的に、本人の尿管が機能しだしたことが確認できたので、SUBシステムを抜く手術を行ったところ、体重も増え、絶好調に戻ったという症例でした。調子が悪かった期間、尿の流れには問題がなかったのですが、やはり異物による違和感があったのでしょうか。 もう一つ、大きなデメリットとしては、デバイスのメンテナンスが必要になります。具体的にいうと、皮下のポートを定期的に洗浄しなくてはなりません。 大人しい猫ちゃんの場合は鎮静などの処置は必要ありませんが、耐えられない猫ちゃんには軽い鎮静が必要になります。仰向けになってもらい、お腹のポートに針を指します。その針を介して生理食塩水と尿の出し入れをして管の中を流していきます。 約1ヶ月に1回に頻度でこの処置が必要になります。システムの中が再閉塞しないようにするための予防措置です。これをしっかり行っていたとしても、残念ながら再閉塞してしまう場合も少なくありません。 役立つ英単語 urinary tract: 尿路 ureter: 尿管 obstruction: 閉塞…

  • 【アメリカでペットと暮らす方へ】猫の尿管閉塞を図でわかりやすく解説①

    【アメリカでペットと暮らす方へ】猫の尿管閉塞を図でわかりやすく解説①

    この記事の内容 猫の尿管閉塞とは 初期安定化 猫の尿管閉塞の治療オプション 役立つ英単語 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、様々な猫の尿管閉塞についてご紹介します。尿路に何が起こっているか、どんな治療オプションにがあるかを図を用いてわかりやすく解説していきます。アメリカでご自身のペットにそのようなことが起こった時に、活用していただけたら幸いです。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 尿管閉塞とは 尿管とは何かをまず解説します。尿管とは、腎臓と膀胱を繋ぐ細い管です。腎臓でつくられた尿を膀胱に送り届ける働きがあります。 尿管閉塞とは、何らかの原因(結石、プラグ、腫瘍)によって尿管が詰まって尿が流れなくなってしまうことです。プラグとは、炎症細胞だったり、結石になる前の結晶が集積してできた粟粒状のカスでできた栓を指します。 尿管閉塞は片側の場合と両側の場合があります。片側の尿管閉塞では反対側の腎臓と尿管が機能している限り尿は出続け、臨床症状が現れることはありません。 両側の尿管閉塞が生じると、腎臓で作られた尿の行き場がどこにもなくなるので、尿が出なくなり、体に毒素がたまり臨床症状が出ます。 尿道閉塞と異なり、猫は尿を出そうと力んだり、トイレで痛がったりすることはありません。尿管閉塞で現れる臨床症状は、お腹の痛み、食欲不振、嘔吐、体重減少、元気消失などです。尿管結石は非常に痛いので、お腹を触られたりすることを嫌がります。そして体内から出されなければいけない毒素が体に蓄積されるので、気持ちが悪くなったりしんどくなります。 最終的に、閉塞が解除されないと、不整脈が出て死に至ることもあります。両側が完全に閉塞していた場合、緊急的な処置が必要になります。 ここからは、このような状態に陥ったとき、動物病院ではどんな処置が施されるかをご説明していきます。 初期安定化 不整脈の治療 K (カリウム=potassium)を下げる治療 腎瘻チューブの設置 この病気は、完全に両側の尿管が詰まっている場合には外科治療が必要です。原因が何であれ尿管の閉塞を解くことが治療のゴールとなります。しかし病態が進行しすぎていると、不整脈でなくなってしまう可能性があります。なので、まずは手術まで進めるように安定化をする必要があります。 不整脈の原因となる物質はバナナなどに多く含まれる、K(カリウム=pottasium)という電解質になります。カリウムは、血液中に多すぎても少なすぎても致命的になる物質です。本来は尿として排泄されなければならないところ、尿管が閉塞してしまうことで、体内に蓄積してしまいます。 カリウムが高くなりすぎると、不整脈が出ます。細かくいうと、徐脈(心拍数が遅くなる)になり、血圧が低下して循環が保たれなくなります。よって、不整脈とカリウムをコントロールする内科治療が一番に必要になります。 腎瘻チューブの設置 安定化が行われた後は、手術をいち早く行うことが重要です。しかし、手術が必ずしもいますぐにできる状態ではない場合もあります。例えば、かかりつけの病院では手術できる人がいないので大学病院に転院する必要がある、などです。内科治療を行ったとしても原因は除去されていないので、すぐにまた危険な状態に陥ってしまいます。 そこで、一時的に尿を腎臓から直接排泄させるための管、腎瘻チューブの設置、という手段があります。この方法では、皮膚と通して腎臓に針を進め、腎臓の尿が溜まっている部位から直接尿を抜くことができます。 腎臓に穴を開けているので、侵襲性は高く、感染や出血の合併症が生じることがあります。この処置は、手術がすぐに行える場合には必要ありません。救済処置で、手術までの時間稼ぎとして用いられる場合があります。 手術オプション 手術のオプションは、尿管閉塞の原因や患者さんの様態、獣医さんの方針、病院にある機材やデバイスの有無によって大きく異なります。 例えば、完全に両側が閉塞していない場合、内科的な治療の適応になることもあります。運がいい場合は、点滴によって排尿を促すことで、部分的に閉塞した結石などが膀胱に落ちるのを待つことができる場合もあります。 ここでは、両側の尿管が完全に閉塞した場合、一般的に大学病院で挙げられる、手術オプションをご紹介します。患者さん全てに当てはまるわけではないので、担当の獣医さんとよくご相談の上、治療方針を決定するようにしてください。 尿管閉塞の治療オプションは大きく以下の3つになります。 結石をとる=尿管切開という手術方式を用います。お腹を開け、尿管を切って、結石を取り出し、縫合によって全て下に戻していきます。 尿管ステントとは、石を取った後の尿管に管を通して、再発を予防する措置になります。 SUBシステム設置とは、腎臓から膀胱にかけて、人工的な尿管を設置して尿の迂回路を作る手技になります。 長くなったので、これらの手術に関しては【アメリカでペットと暮らす方へ】猫の尿管閉塞を図でわかりやすく解説②で詳しくご紹介していきます。 [/read_more]

  • 【アメリカでペットと暮らす方へ】犬の尿管閉塞を図でわかりやすく解説②

    【アメリカでペットと暮らす方へ】犬の尿管閉塞を図でわかりやすく解説②

    この記事の内容 犬の尿管閉塞とは 初期安定化 犬の尿管閉塞の治療オプション 役立つ英単語 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、様々な犬の尿管閉塞についてご紹介します。尿路に何が起こっているか、どんな治療オプションにがあるかを図を用いてわかりやすく解説していきます。アメリカでご自身のペットにそのようなことが起こった時に、活用していただけたら幸いです。 ここでは、【アメリカでペットと暮らす方へ】犬の尿管閉塞を図でわかりやすく解説①の続きで、3つの手術オプションに関してメリットデメリットを説明していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 結石をとる 単純にいうと、お腹を開けて、尿管を切って、閉塞している結石を取り出す手術です。取り出した後は切った尿管をつなぎ合わせて閉腹します。 明らかに結石が閉塞を生じていることが確認された場合に適応になります。もしプラグや腫瘍が原因だった場合はこの方法は適応できません。 メリットデメリットをご紹介します。 メリット 他の二つの方法は体内に異物(デバイス)を入れる手術になります。人工物を体に埋め込むと、異物反応や感染などのリスクがつきものになってきます。よって、この手術ではデバイスを使わないため、これらの合併症の心配はありません。 デメリット デバイスを使わなくて済むのは非常に大きな利点にはなりますが、また結石が新たに生じた時に、同じように詰まってしまう可能性があります。内科治療を始めていくことが非常に重要になりますが、残念ながら結石を100%予防することはできません。再発した場合は同様の手術が必要になってきます。 犬の尿管は猫の尿管よりも太いので、猫ほど尿管の再建が難しくはありません。それでも、漏れが生じたりする合併症が出ることもあるので、高度な技術が必要な手術です。 尿管ステント設置 尿管ステント設置術とは、尿管の中に管を通して、尿路を確保する手技になります。基本的には、結石をとった後にステントを設置することになります。 メリット 尿管ステントのメリットは、ただ石をとって尿管を縫い合わせる手術に比べると、再発のリスクが減ることです。なぜなら、結石が尿管に落ちたとしても、ステント内の尿の流れは確保されるからです。 尿管ステントのデバイスによる合併症は、SUBシステムによるものと比べると、少ないです。なぜなら、異物の大きさ、長さ、複雑さが違うからです。尿管ステントは、1本の細い管なのに対して、SUBシステムのデバイスは複雑で表面積も大きいです。 SUBシステムと違うところは、定期的なデバイスのメンテナンスが必要ないというところです。一度設置して安定してしまえば、3ヶ月に1回くらいの定期的なチェックで済むことが多いです。 デメリット ステントが閉塞する、という合併症もあります。しかし、ステントを通しておくことでステントの脇である側路を尿が通過できる可能性もあるので、必ずしもステントが機能してないからといって再手術が必要になるわけではありません。 異物による合併症はどうしてもつきものです。ステントの閉塞、感染、ずれは100%防ぐことはできません。 SUBシステム設置 SUBシステムとは、Subcutaneous Ureteral Bypassの略です。尿管に詰まった結石やプラグなどは放っておいて、新たに尿を腎臓から膀胱に送る経路(バイパス)を作るシステムのことです。尿管の役割を果たす人工的な管を体内に設置する、と言ったところでしょうか。 Subcutaneousというのは皮下という意味で、腎臓から皮下を介して膀胱に管をつなげます。皮下にはポートが設置され、外から管の中身を洗浄できるような仕組みになっています。 犬では、このデバイスを体に埋め込むことによる副反応が猫よりも多く生じます。そして猫と比べると犬の尿管は太いので、もちろん状況によりますが、猫と比べると尿管切開やステントが適応されるケースが多いです。 メリット メリットは、手術中、髪の毛並みの細さの尿管をいじらなくていいので、手技は他の2つの方法よりは簡単で、手術時間も短くなります。尿管閉塞の原因が何であれこの人工的な管を入れてしまうことで尿路を確保することができます。 実はこの管、皮下にポートを埋め込むような設計になっています。この皮下に設置したポートによって、管がつまりそうな時に外から生理食塩水などでフラッシュ(つまりを流す)することができます。 デメリット 異物による合併症が最も高い可能性で出ます。感染、再閉塞、ずれなどです。 もう一つ、大きなデメリットとしては、デバイスのメンテナンスが必要になります。具体的にいうと、皮下のポートを定期的に洗浄しなくてはなりません。 仰向けになってもらい、お腹のポートに針を指します。その針を介して生理食塩水と尿の出し入れをして管の中を流していきます。 約1ヶ月に1回に頻度でこの処置が必要になります。システムの中か再閉塞しないようにするための予防措置です。これをしっかり行っていたとしても、残念ながら再閉塞してしまう場合も少なくありません。 役立つ英単語 urinary tract: 尿路 ureter: 尿管 obstruction: 閉塞…