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  • 【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    【米国獣医マッチング】2024年のスケジュールを紹介!

    この記事では、2024年のマッチングのスケジュールについて解説します。 候補者には、2回の締め切りがあります。この締め切りに何を提出するかなどをイメージして、期限前にしっかりと準備ができているようにしましょう。 2024年カレンダー 2023年9月1日プログラムエントリー 2024年のマッチは、前の年の9月から始まります。 プログラムのエントリーとは、各大学や動物病院がポジションの掲載をし始めることを指します。この間、候補者はまだこの情報を見ることはできません。 2023年10月1日プログラム検索 10月になって、初めて候補者がポジション(プログラム)を検索することができるようになります。この期間は、まだすべてのポジションが掲載されているとは限らないため、検索をし始めるのはいいですが、プログラムエントリーの締め切りまでは情報をアップデートし続ける必要があります。 2023年11月1日プログラムエントリーの期限と候補者の登録開始 ここでようやくすべてのポジション(プログラム)についての情報が出揃ったということになります。 この日から、候補者はマッチングプログラムに個人情報を登録をして、サインインできるようになります。 この期間に行わなければいけないことは大きく2つです。 ①プログラムのリサーチ プログラムに関する詳細の体外はマッチングのホームページに詳細が書いてあります。しかし、外国人の受け入れやビザの複雑な事情がある場合は、「きっとそうだろう」と仮定しないで必ず直接担当の方に問い合わせることをお勧めします。 それによって、広がる可能性もあれば、採用されないポジションに申し込んで自分の時間を無駄にすることも防げます。 ②パケット(必要書類を揃える) マッチングプログラムに必須となるパケットとは以下になります。 卒業した獣医大学の書類を集めるのに、時間がかかることもあるので、余裕を持って準備することをお勧めします。 履歴書、パーソナルステートメントを完成させるのに、私はものすごく時間を要しました。早めから取り掛かり、アメリカで獣医大学で働く先生などに添削してもらうことをお勧めします。 日本人の謙虚なステートメントは、アメリカ人からすると「自信のなさ」と捉えられてしまう可能性が高いです。よって、アメリカ人にとって見栄えの良いステートメントにするための努力が必要かもしれません。 私個人的な意見としては、このパケットの中で最も重要なのが推薦状です。そして、いい推薦状をもらうために1年間もしくはそれ以上努力をし続ける必要があります。誰に頼むかがキーとなります。大御所の先生の書いた、「弱いレター」と、無名の先生の書いた「強いレター」。おそらく後者の方が良い印象を与える可能性が高いです。「強いレター」をもらえる人から推薦状をもらうようにすることをお勧めします。 推薦状は、候補者を介さず、直接VIRMP協会へ送られることになります。よって、候補者は、自分のサインインページから、推薦状が提出されたかをみることはできますが、中身を見ることはできません。 推薦状がもしも期限ギリギリまで揃っていない場合は、書いてくれる人が忘れている可能性を考慮して、リマインドを送ることをお勧めします。もしも推薦状が申し込み締め切りまでに間に合わなければ、実質どこの学校ともマッチしない可能性が高いので気をつけましょう。 2024年1月8日申し込み締め切り この日が、上記に述べた2点(応募するプログラム及びパケット)のデッドラインになります。この2点以外にも、大学固有で必要な提出書類がある場合もあるので、しっかりと確認しましょう。 この申し込みが終わったら、次の締め切りまで何をするのでしょうか。 この間には、面接を受けたり、どのプログラムに行きたいか(もしくは行きたくないか)を決めるための情報収集を行います。 面接のオファーは大学側からくることが多いです。オファーをもらうということは、大学側があなたに興味がある証拠です。もしも面接のオファーが来なかった場合は書類で「可能性が低い」と捉えられた可能性が高いです。(ローテーティングインターンには面接を行わないことが一般的です) 日本から応募する場合、自分もそうでしたが、「どこでも良いから入れてくれ」状態になりがちです。実際そうなのですが、面接をする側としては、「どこでも良いならウチでなくてもいいな」と感じてしまう可能性が高いので、しっかりとプログラムの特徴を把握し、「このプログラムで勉強したいです」と伝えることをお勧めします。 2024年2月16日候補者のランキング締め切り マッチング最後の締め切りです。 ここでは、面接などで得た情報や感触をもとに、どの大学に行きたいかの順番を決めます。 「この大学には絶対に行きたくない」という場所があれば、その大学をランクから外すことで絶対にそこにマッチする可能性は無くなります。 また、何らかの事情によってマッチングから手を引きたい場合(来年から働けなくなる、など)はここで「withdraw」することで、どこにもランクしていない状態にすることができるので、ペナルティなくマッチを中断することができます。 万が一、マッチしてしまった大学で働けなくなった、という状況が起こった場合、マッチングプログラムに次から3年間申し込みすることができなくなる「ペナルティ」が課されることになるので注意しましょう。 2024年3月4日マッチ結果発表 候補者のランキングの後に、大学側の候補者のランキングが行われます。これによって、マッチングのアルゴリズムに沿ってだれがどこの大学のプログラムに入るかが決定することになります。 もしもマッチできなかった場合、スクランブルと言って、マッチできなかった候補者とマッチできなかった大学の個々の採用が始まります。スクランブルは、もはや早いもの勝ちと言ってもおかしくないシステムなので、自分から大学に積極的に連絡をとりに行く必要があります。 また、連絡が来る可能性もあるので、電話やメールにすぐに対応できるようにしましょう。 2024年3月18日情報開示 ここで、定員割れしたポジションの情報が、マッチングに申し込んだ人以外にも開示されることになります。誰でもあいたポジションを狙いにいける期間ということです。 終わりに この記事でマッチングのシステム(どの時期に何をしなければいけないか)を理解していただけたでしょうか。候補者としてやらなければいけないことはそこまで多くありません。ただ、様々な情報が飛び交ったり、他の人の話に流されたりと、とてもストレスがかかる時期と言ってまちがいないでしょう。 準備をしっかりすることで、少しでもチャンスが大きくなる可能性があります。寒い時期で辛いですが、みなさん頑張ってチャンスを掴んでください。

  • 【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【犬猫呼吸困難の原因11種類】病態から理解する犬猫の病気

    【呼吸困難の原因】についてのインスタグラムの投稿です。 呼吸困難は11種類の病態に分けることができます。 解剖学的にどこに問題があるかで、安定化のアプローチが異なってきます。 これらを呼吸様式や聴診、身体検査、TFASTからこれらを分類することで、命の危険がある状態の患者さんの安定化方法が見えてきます。 安定化後のさらなる検査によって診断を絞っていきます。病態による分類ごとの鑑別疾患リストがあれば、どんな検査が必要になるかもプランが立てやすくなります。 11種類も多い!と思われるかもしれせんが、一つ一つ病態を理解すれば、どうして神経系の病気と呼吸器の異常がつながるか、などがわかるようになります。 View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) View this post on Instagram A post shared by みけ🇺🇸と学ぶ ER/ICU動物看護 (@eccvet_mike) \この記事のハイライト/☆​呼吸困難の原因を11種類に分類する☆各分類に含まれる疾患をイメージする \関連記事/☆呼吸困難の原因11種類(前編)☆上部気道疾患☆下部気道疾患☆神経原性呼吸困難☆胸腔内の疾患☆胸壁の疾患(後編)☆胸腔外の疾患☆肺実質 ☆心原性☆肺血栓 ☆血管系 今回の投稿がためになった!面白かった!という方は見返せるようにインスタグラムで保存やいいね!もよろしくお願いしますm(_ _)m

  • 犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    犬・猫の呼吸困難②11カテゴリーに分けて考える

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、新人獣医さんに向けて、呼吸困難の症例がきた時の診断までの思考プロセスをご紹介します。このプロセスをしっかりと理解し、鑑別疾患を上げて順序立てて診断を組み立てて行く事で、呼吸困難患者さんに向き合うのが怖くなくなります。 犬・猫の呼吸困難①では、なぜ診察の際に「ちゃんと考える事が大事か」を説明しました。犬・猫の呼吸困難②では呼吸困難の原因11つのカテゴリーをご紹介します。このカテゴリーに当てはめる事で、患者さんをどう安定させるかのヒントを得る事ができます。臨床現場で直結して役に立つ内容を、アメリカのトレーニングで学んだ事や経験を盛り込みながら解説します。①-④まで最後までご覧ください。 呼吸困難患者さんの診察のゴール 呼吸困難総論の最初の記事なので、最初に獣医師の仕事としてのゴールについて書きます。 私たちのゴールは、3つです。 アメリカの救急集中治療科の役割は、主に①になります。そして②と③は内科が専門とする領域になります。 全ての呼吸困難は、11つのカテゴリーに分類する事ができます。①は、呼吸困難の原因をこの11のカテゴリーのどれにあたるのかを即座に判断し、それに応じた安定化を行うという工程になります。 さていよいよ、11カテゴリーをご紹介していきます。 頻呼吸を11カテゴリーに分けて考える 呼吸が速い、努力呼吸の原因はこれら11個のカテゴリーに分類できます。最後のlook-alikeとは、痛み、酸塩基のバランスの乱れ、興奮、敗血症、など、呼吸器や換気以外の原因が含まれます。 呼吸器の症例を見たときに、最初のゴールはこの11個のカテゴリーのどれに当てはまるかを推測することになります。 このカテゴリーの中に、様々な病態が含まれます。具体的な疾患を診断する前に、11つのうちどれに当てはまるかを分類する事で、次のステップ、診断(どこにフォーカスを当てるか)や安定化の方法が異なります。 上部気道、下部気道、肺実質のおさらい それでは、11個を上から順に説明して行く前に、上部気道、下部気道、肺実質のおさらいだけしておきます。 呼吸器は、上部気道、下部気道、肺実質の3つで構成されます。呼吸困難の全てがこの3つに分類できれば簡単なのですが、呼吸器以外の疾患によっても呼吸困難が生じるので、11カテゴリー全ての可能性を考慮する事が重要です。 それではいよいよ、①からざっくりとカバーしていきます。もっと詳しく勉強したい方は、リンクからその疾患に特化したページもご用意しているので、ご覧ください。 ①上部気道閉塞: upper airway 上部気道閉塞の異常で代表的なのは、短頭種気道症候群です。外鼻孔狭窄、軟口蓋過長、気管低形成とといった、気管支手前までの気道が狭くなる病気の総称です。(短頭種気道症候群に関してはこちらのページで詳しく解説しているのでご参照ください) 他には、鼻腔内ポリープ、腫瘍、異物、喉頭麻痺、喉頭虚脱、気管虚脱などの病気があります。 上部気道閉塞を患った患者さんは特徴的な呼吸をします。聴診器を使わずにも聴こえる、ストライダーやスターターという異常呼吸音を出します。呼吸様式、聴診に関してはこちらの記事で解説しています。 上部気道閉塞を引き起こす代表的な疾患 ②下部気道閉塞: lower airway 下部気道疾患の代表的な疾患 肺胞に入るまでの細い気管支に炎症などの異常が起こることで呼気努力が生じるのが特徴的です。お腹で押すように、吐く時に力を入れます。呼吸様式は、吸う時間に比べ吐く時間が長くなることも特徴的です。聴診では、笛の音の様なウィーズが一般的に聞こえます。 猫は喘息が重症になると開口呼吸をします。 慢性気管支炎や猫喘息の原因は様々です。環境的な要因が関与していることもあります。 ③肺実質疾患: parenchymal diseases 肺実質の異常に含まれる代表的な疾患 誤嚥性肺炎やケンネルコフなどの肺炎がよく見られる代表疾患です。他には、ARDSやALIなどの肺炎、寄生虫やカビ感染、異物の混入などによる肺炎、免疫疾患である好酸球性肺炎などもあります。 呼気吸気にかかわらず呼吸数が速くなることが多いです。感染性の場合、呼吸様式の変化だけでなく、湿性の咳をしたり、発熱などの他の症状を呈することもあります。酸素化機能が低下するため、重度の場合、チアノーゼが見られることもあります。 ④胸腔内の異常: pleural diseases 胸腔内の異常に含まれる代表的な疾患 胸腔内で何かが大きくなる/増えることで肺が広がるスペースがなくなり、換気不全になります。うまく換気できないことで体内にCO2が蓄積することから呼吸数が上昇します。 猫では、胸水によってparadoxical componentといって、胸とお腹の動きが相反するような呼吸をすることが多いといわれています。 胸水の原因も様々で、腫瘍、出血、感染、乳糜、心臓病(犬では右心不全、猫では左心不全でも生じる)、特発性などがあります。また、気胸と言って、胸腔内に空気がたまる病態、胸腔内の腫瘍の増大においても肺がうまく膨らめないことによって頻呼吸が生じます。 胸腔内疾患に関してはこちらで解説していきます。 これらの異常は、患者さんにストレスをかけてレントゲンを撮影する前に、FASTスキャンができれば簡単に検出することができます。必要に応じて治療的胸水抜去を行い、安定化してからレントゲンを撮れば、患者さんが急変するリスクを減少できます。 ⑤胸腔外の異常 胸腔外の異常とは、例えば腹部の腫瘍が増大/GDV/腹水などで腹部から胸腔を圧迫、肺が拡がれなくなるような場合を指します。お腹からの圧力が原因の場合は、GDVであれば減圧、腹水であれば腹水抜去などそちらの原因除去を優先させます。 しかし、呼吸器の病気を合併している場合もあるので、原因と思われたものが解除された後の再評価も非常に重要です。 ⑥胸壁の異常: body wall 胸壁の異常の代表疾患…

  • 【アメリカでペットと暮らす方へ】短頭種の呼吸に関するエマージェンシー②

    【アメリカでペットと暮らす方へ】短頭種の呼吸に関するエマージェンシー②

    この記事の内容 上部気道閉塞とは エマージェンシーでの対応 エマージェンシーでのゴール 短頭種気道症候群の手術 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。これまでに短頭種のわんちゃんの呼吸器の病気をたくさんみてきました。 短頭種であるがゆえに呼吸がうまくできず、残念ながらなくなってしまうわんちゃんも少なくありません。この記事では、救急病院で動物たちの命を救うために、緊急事態にどんな措置が行われるかについてご紹介します。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 上部気道閉塞とは 上部気道閉塞とは、鼻から入った空気が肺までうまく到達できず、結果として体内で酸素が欠乏してしまう病態です。短頭種気道症候群とは、短頭種がかかりやすい4つの上部気道閉塞の病気の総称です。詳しい病態に関してはこちらの記事を参考にしてください。 上部気道閉塞が起こった場合、呼吸はストライダーといって、上部の気道の狭窄によって生ずるヒー・ヒーといった比較的高音で耳に近く聞こえる喘鳴音が生じます。 エマージェンシーでの対応 エマージェンシーに上部気道閉塞の患者さんがきた場合、病院ではどのような処置が行われるかご紹介して行きます。本当に最初の最初にすることは以下の3つになります。これと同時に、瞬時に上部気道閉塞であることを判断し、次のステップに進みます。 酸素供給 鎮静 冷却 酸素をすぐにかがせますが、いくら外から酸素を送ったところで肺に届けないと意味がないので、気道を確保するための次のステップが必須になります。 興奮によって、呼吸が早くなると喉が炎症を起こし、腫れます。喉が腫れるとさらに気道が狭くなるという悪循環が起こるため、興奮を抑えるために鎮静剤を投与します。 上部気道閉塞によって、体内の熱が呼吸によって蒸散されないと、体内に熱がこもってしまい、熱中症になる恐れがあります。体温が高い場合は直ちに冷却を行います。 次のステップのゴールは「肺に空気を届けること」になります。上部気道に問題がある場合は以下の方法で空気を肺へ届けます。 気管チューブ挿管 鼻気管チューブ設置 気管穿刺 気管切開チューブ挿管 気管チューブ 気管チューブは、口から喉頭を通って気管まで到達するチューブです。メリットはメスで組織を切る必要がないのでもっとも簡単な方法になります。デメリットは、気管チューブによる喉の刺激によって、喉がさらに腫れる可能性があります。一度患者さんが落ち着いたら、なるべく早くチューブを抜く必要があります。 軟口蓋が長い、喉頭が腫れている、などで気管チューブが挿管できない場合は次の方法気道を確保します。 鼻気管チューブ設置 鼻気管チューブ設置は、鼻から細めの管を気管まで通して気道を確保する方法です。患者さんが完全に寝ていないと、設置が難しいので、第一や第二選択にはなりません。落ち着いた患者さんの気管チューブを抜く時に、念のため設置しておくといった用途になります。 気管穿刺 気管に針を刺します。針穴から換気を行うことになります。穴が小さすぎるようにも見えますが、太めの留置針を刺しておけば、十分換気は行われます。 長期的な管理はできないため、一時凌ぎとして穿刺を行った後に、落ち着いて気管挿管や気管切開などに進みます。 気管切開/気管切開チューブ挿管 気管切開とは、メスで皮膚と気管を切って穴を開けることです。穴を開けた後には、気管切開チューブと言って、直接気管に差し込める管を通します。 侵襲性が高く、合併症も起こりやすいため、この処置は最後の手段になります。 エマージェンシーでのゴール ゴールは2つです。 設置したデバイスをなるべく早く抜く 患者さんが目を覚ましても呼吸状態が悪化しない 上記の処置は、鎮静をかけて眠ってもらっている状態で行っています。大体の場合、興奮が落ち着き、喉の腫れが引くと自分で呼吸ができるようになるので、設置したデバイスをなるべく早く抜きます。なるべく早く抜きたい理由は、デバイスによる気道の刺激によって、炎症/腫れが生じ気道がさらに狭くなる可能性があるからです。 目を覚ますと、病院でパニックを起こす患者さんも少なくないので、ある程度は鎮静によって眠っていてもらいます。目が覚めても呼吸が悪化しなければ退院となります。 設置したデバイスを抜くと症状が悪化し、管を抜けない場合は、そのまま手術が必要になることもあります。その場合に必要になる手術を以下で説明します。 短頭種気道症候群の手術 短頭種気道症候群の手術は以下になります。 外鼻孔を広げる手術 軟口蓋を短くする手術 反転した喉頭小嚢を切除する手術 これらによって、必要に応じて気道をなるべく広げてあげてから覚醒をすることもあります。大体が内科治療で回復するので、エマージェンシーで緊急手術になることはあまり多くはありません。しかし、どうしても管が抜けない場合などは検討する必要があります。 詳しい手術方法についてはこちらを参照してください。…

  • 【アメリカでペットと暮らす方へ】短頭種の呼吸に関するエマージェンシー①

    【アメリカでペットと暮らす方へ】短頭種の呼吸に関するエマージェンシー①

    この記事の内容 こんなサインを見たら要注意 サインを見たときにとるべき行動 このような事態を予防するための方法 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。これまでに短頭種のわんちゃんの呼吸器の病気をたくさんみてきました。 短頭種であるがゆえに呼吸がうまくできず、残念ながら亡くなってしまうわんちゃんも少なくありません。そんな悲しい事態を避けるために、この記事では、飼い主さんにはぜひ知っておいて頂きたいエマージェンシーのサインをご説明していきます。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] こんなサインを見たら要注意 結論からお伝えします。もっとも危険なサインは以下になります。 舌の色が青/紫になる 意識レベルの低下 犬座姿勢(前足を開き首を伸ばす/苦しくて座れない) 熱がある このサインを1つでも見たら、もっとも近い動物病院にすぐに連れていくようにしてください。なぜなら、そのまま亡くなってしまう可能性があるとても危険な状態だからです。 舌の色の変化は、酸素が足りないことを表します。舌の色が変化しているということは、体内の酸素濃度がかなり下がっていて、とても危険な状態です。 意識レベルの低下も、体内の酸素不足からくるものと考えられます。呼吸に一生懸命になって周囲の環境に反応しないことも危険なサインです。 犬座姿勢とは、前足を開き首を伸ばす/苦しくて座れないといった状況です。動物は呼吸が苦しい時にこのような姿勢をとることが特徴的です。 犬は、体温を調節するためにパンティングを行い、熱を蒸散させます。空気の通り道が狭くなり、呼吸がうまくできないと、熱を体外に放出できず熱中症になってしまうこともあります。 サインを見たときにとるべき行動 すぐにもっとも近い動物病院に連れていくというのが非常に重要なのですが、ここで何点か注意点があります。 熱中症#8211;gt;常温の水道水をかける、団扇で仰ぐ 興奮による悪化#8211;gt;興奮させない、改善傾向なら獣医師に電話 呼吸ができないことで、熱を体外に出せず、熱中症になってしまう可能性があります。体温を下げるのにもっともいい方法は常温の水道水をかける、団扇で仰ぐの2点になります。冷たすぎる水をかけると、体表の血管が縮まり、熱を発散しにくくなるので、常温水が推奨されています。冷たいタオルで体表を覆うことも、体表からの蒸散を妨げると言われているので、水をかけ、団扇で仰ぐことが勧められます。 車に乗せる、などの興奮によって悪化してしまう場合もあります。もしも自宅で冷やすことで改善が見られているのであれば、動かさない方がいい場合もあるので、判断が難しい場合はかかりつけの獣医さんに状況を伝え、指示を仰ぎましょう。 予防方法 ダイエット 首輪ではなくハーネスを使用する 予防的な手術 興奮させない 夏は常に室内でクーラーの効いた部屋にいる ダイエット 首周囲の脂肪によって、元々狭い気道がさらに圧迫されてしまう可能性があります。肥満気味である場合は、適切な体型を目指してダイエットをしましょう。 首輪ではなくハーネスを使用する 首の圧迫は気道を狭くするので、ハーネスに変更しましょう。 予防的な手術 緊急事態が起こる前に、予防的な手術を推奨します。短頭種気道症候群は気道が狭くなる4つの病気の総称です。4つのうちのどれに当てはまるかを診断した上で、手術によって気道を広げ、上部気道閉塞のリスクを減らしましょう。 興奮させない 興奮すると、犬はパンティングをし、空気の出入りによる抵抗で喉が炎症を起こし、腫れてしまいます。喉が腫れると、気道がさらに狭くなるのでもっと苦しくなり、努力呼吸をするようになります。この悪循環によって、上部気道閉塞が悪化することがあるので、興奮させないということは非常に重要になります。 車でどこかに行くなど、興奮させてしまう可能性がある場合は、予め獣医さんに相談の上、鎮静剤などの薬の使用も検討しましょう。 夏は常に室内でクーラーの効いた部屋にいる 暑さは短頭種の敵です。犬は、パンティングによって熱を蒸散させ、体温が高くなりすぎないようにコントロールします。短頭種も同じようにパンテイングによって熱を体外へ蒸散させようとしますが、呼吸数が早くなることで喉の炎症が起こりやすくなります。興奮した時と同様に、炎症によって喉が腫れ、上部気道閉塞が悪化します。 さらに、熱がうまく体外に出ていかないので、同時に熱中症のリスクが高くなります。よって、短頭種のわんちゃんは、散歩は涼しくなった夜にいきましょう。夏場は特に、日中はクーラーの効いた室内で過ごすようにしましょう。 まとめ 短頭種のわんちゃんは上部気道閉塞によって命を落とすリスクが高い 舌の色、意識レベル、犬座姿勢、熱に着目し、素早い行動を心がけましょう 上部気道閉塞のリスクを減らすための予防に努めましょう [/read_more]

  • 【アメリカでペットと暮らす方へ】夜間救急に電話をかけるときの心構え

    【アメリカでペットと暮らす方へ】夜間救急に電話をかけるときの心構え

    この記事の内容 夜間救急に電話をかけるときに必要な情報 夜間救急の電話対応マニュアル 状況に応じた情報収集 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、夜間救急動物病院に電話したときにどのようなアシスタントが得られるかについてご紹介します。この記事を書こうと思ったきっかけは、研修医中に電話対応マニュアルを学ぶ機会があったからです。エマージェンシーに電話をかけるようなシチュエーションでは、飼い主さんはおそらく、焦りや、不安など様々な感情が入り乱れていると思います。 普段なら聞こえる英語も、焦ると聞こえなくなることは私の身にもよく起こります。そんなことが起きた時を想定して、予めどんな情報を伝えられる可能性が高いかを理解しておくと、実際に電話しなければいけなくなったときの助けになると思います。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 夜間救急に電話をかけるときに必要な情報 ペットに何か異常が起こり、救急病院に電話をかけるとき、必要な情報を予め準備しておくことをお勧めします。必ずと言っていいほど聞かれることは、以下になります。 ペットの年齢 性別/避妊去勢の有無 犬種/猫種 病院までどのくらいの距離にいるか 何が起こったか ペットの意識はあるか ペットは呼吸をしているか 呼吸は苦しそうか いつからその問題が続いているか 既往歴(今までに診断された病気) 投薬歴(現在どんな薬をあげているか、どのくらいの用量で、どのくらいの頻度であげているか) 最後の投薬時間 夜間救急の電話対応マニュアル また、下記のような指示やアドバイスが伝えられることがあります。 痛みのあるペットは噛む可能性があるので注意 マズル、ブランケット、タオルなどを使って噛まれないようにする すぐに病院に連れて行くよう指示をする場合 中毒の可能性がある場合 食べたもののボトル、パッケージを持参してもらう もしもパッケージがなければ吐物でもいいので持参してもらう 何を食べたかにもよりますが、電話で獣医師に確認したときに連れてくるように勧められた場合は、なるべく早く来院するようにしてください。誤食から3時間以内であれば、催吐する(吐き戻して体外に出させる)ことができる可能性があるので、来院は早ければ早いほどいいです。中毒物質が胃から腸に流れてしまった場合は、取り出すことができないので、入院点滴・投薬をしたり麻酔をかけて手術で取り出すなど、より集中的な治療が必要になります。 何を食べたか、どんな成分か、ということが非常に重要になります。例えば、アメリカでは殺鼠剤中毒が非常に多いです。殺鼠剤にも大きく3種類あり、種類によって生じうる症状、治療方法、予後が異なります。ボトルやパッケージが重要な情報を与えてくれるので、必ず持参するようにしてください。 呼吸に問題がある場合 舌の色を確認(#8211;gt;青や紫の場合は危険) 失神のエピソードを確認(#8211;gt;失神がある場合は危険) もっとも近い病院に行くように指示 呼吸に問題がある場合、状況は深刻な可能性が高いです。数分の差が命取りになる可能性があるため、かかりつけではなく、もっとも近くの開いている病院に連れて行くことがお勧めされます。 特に、舌の色が変化している場合、失神などの症状がある場合は移動中に亡くなってしまう可能性もある深刻な状況です。 発作 口の周囲を触らない(#8211;gt;噛まれる可能性がある) 発作が5分以上続いた場合、24時間以内に2回以上の発作が起こった場合は来院 初発の発作の場合は夜間にでも来院が推奨される 発作を起こしているペットは、意識がありません。そのつもりがなくても、口の周りの物に噛み付いてしまう可能性があります。くれぐれも口の周囲を触らないようにしてください。 5分以上続く発作は重積発作と呼ばれ、発作による二次的な脳の傷害が起こる可能性がある危険な状況です。すぐに発作を止める必要があります。24時間以内に2回以上の発作が起こることを群発発作と言います。どちらも、発作によって重篤な合併症が出る可能性がある危険な状況なので、すぐに病院に連れていくことが推奨されます。 初発の発作の場合、原因がわかっていないので、発作の基礎疾患を調べること、ペットが安定していることを確認するためにも来院が勧められます。 心肺停止 口の中に気道を閉塞するものがないか確認 心臓マッサージを開始する(心臓を1分間に100-120回の速さで圧迫) 鼻へ人工呼吸をする(6秒に1回空気を送る)…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】猫のゆり中毒について

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】猫のゆり中毒について

    この記事の内容 この記事では、猫のゆり中毒について簡単にまとめていきます。 猫のゆり中毒では、腎不全を引き起こすことで有名ですが、この記事では、患者さんが病院に訪れた際にどの様な対応が教科書的に推奨されているかをご紹介していきます。ゆりの種類、ゆりへの暴露が起こった時間、症状によって、考慮するべきポイントをまとめていきます。 また、原因不明の急性の腎数値の上昇がみられた際に、ゆり中毒を鑑別に入れられることがすごく重要になります。 ゆりの種類 暴露 臨床症状 診断 モニター 治療 予後 まとめ [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] ゆりの種類 ユリ属(Lilium)とワスレグサ属(Hemerocallis )が毒性が確認されています。ユリに似ているけれどもユリではない場合もあります。写真では判断が困難な場合も多いですが、お花屋さんに問い合わせることが可能な場合は、ゆり中毒を引き起こす可能性があるかを確認することが重要です。 Easter lily ( Lilium longifl orum) tiger lily ( L. tigrinum) rubrum lily ( L. speciosum) stargazer lily ( L. auratum) Japanese show lily ( L. lancifolimu ) Asiatic hybrid lilies ( Lilium spp)…

  • 犬猫の胸水②胸水の性状検査/鑑別疾患

    犬猫の胸水②胸水の性状検査/鑑別疾患

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では胸水の性状検査結果に基づいた鑑別診断を解説していきます。血胸、膿胸、乳び胸の鑑別疾患に関しては、こちらの記事もあわせてご覧ください。 こちらの記事では、呼吸が速い、努力呼吸、といった症状で来院された患者さんに対して、鑑別診断を11つのカテゴリーに分類して解説してます。 胸水の性状検査 胸水の性状は漏出液、変性漏出液、滲出液の3つに分類することができます。 この分類には、胸水のタンパク質濃度及び、細胞数が必要になります。 この分類をしっかりと理解する事で、胸水の原因となる疾患の診断への大きな手がかりになります。 胸水を漏出性、滲出性に分類することで、以下のように鑑別診断を絞る事ができるのです。 それでは、これらの胸水が出るメカニズムについて考えてみましょう。 漏出性胸水 低アルブミン血症による膠質浸透圧の減少は漏出性胸水の主な原因です。以下のような機序で漏出性胸水が貯留します。 アルブミンが1.5以下で漏出性胸水や腹水が見られた場合、その原因は低アルブミン血症の可能性が高いです。 そして、低アルブミン血症の有無にかかわらず、リンパ管の閉塞によって生じる胸水も漏出性胸水の性質をもちます。 変性漏出性胸水 変性性漏出液とは、漏出液と比較した時にタンパク質の濃度が異なることが特徴です。この違いは、胸水が貯留する機序の違いによって生じます。 漏出液は血管内の膠質浸透圧の低下によって生じましたが、変性性漏出液は①血管内の静水圧上昇、もしくは②血管透過性の亢進によって血管内の血漿成分が漏れ出ることになります。血管内皮の透過性は変化しないため、細胞の漏出は多くありません。 ①静水圧(静止している液体の中の任意の面に作用する圧力)が上昇する原因は、循環系のどこかに圧力がかかった状態(血液がうっ滞した状態)です。例えば、右心不全による、後大静脈の静水圧が上昇が挙げられます。 ②血管透過性亢進は、血管からの漏出や、炎症によって生じます。血管炎、肺捻転、横隔膜ヘルニアが例です。 その他* 乳び胸や腫瘍性胸水も変性漏出性胸水に分類されることがあります。 滲出性胸水 滲出液の原因は、毛細血管内皮の透過性亢進です。これによって、細胞成分が滲出します。 滲出性胸水は、さらに感染性 vs 非感染性にカテゴリー分類することができます。 感染性の滲出液は、変性性好中球が細胞成分を占めます。 細菌感染の原因 非感染性の滲出液の細胞成分の特徴 まとめ 胸水が生じるメカニズムを理解すると、胸水の性状の分類についての理解が深まります。そして、それが原因疾患の大きな手がかりになる事がご理解頂けたでしょうか。 エマージェンシーの現場では、少ない手がかりから、以下に多くの情報を得るかどうかがキーになります。身体検査、FASTスキャン、胸水の性状検査といった、非常に安価な検査のみでも大体の病気の見当がつくのです。飼い主さんの経済的な状況を考慮しなければいけない時などにも非常に有用な知識になるので、この記事が臨床現場で働く獣医さんのお役に立てれば嬉しいです。

  • 犬猫の胸水①血胸、膿胸、乳び胸/鑑別疾患

    犬猫の胸水①血胸、膿胸、乳び胸/鑑別疾患

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、血胸、膿胸、乳び胸の定義および、鑑別診断について説明していきます。胸水の性状検査についてはこちらの記事もご覧ください。 こちらの記事では、呼吸が速い、努力呼吸、といった症状で来院された患者さんに対して、鑑別診断を11つのカテゴリーに分類して解説してます。 血胸 血胸とは、胸水中に赤血球が混ざった状態を示します。 ほんの数%の血液の混入によっても、肉眼的にサンプルが赤く見えることがあるので、実際にPCVを確認することが重要です。 血胸の定義 血胸の定義は以下になります。 例えば、胸腔内の腫瘤が破裂し、出血による血胸が生じたとします。しかし、正常な止血機構によって胸腔内出血が治ったとします。すると、胸水中の血漿成分が再吸収されるにつれて赤血球の濃度が濃く、つまりPCVが増加することになります。 胸腔内にどれだけの時間、胸水が存在していたかによっても、胸水の性状が変わりうるということを念頭におくことが重要です。一方、PCVが末梢血よりも高い胸水を見た場合、慢性的、もしくは過去の出血による胸水であることが予測できます。 逆に、PCVが10%以下の場合は、血液のコンタミネーションが起こっていることが予測されます。 腫瘍の出血による胸水は、止血機構によって、末梢血中の血小板や凝固因子が消費されているため、サンプル採取後にも凝固しません。急性の出血や、医原性に起こった血液の混入の場合、サンプルに血小板が含まれ、採取後にすぐに凝固します。 血胸の鑑別診断 血液性状によって、胸水が血液であるとわかったら鑑別診断を上げていきます。 血胸の原因でもっとも多いのは、胸腔内出血です。出血する原因としては以下が挙げられます。 まずは、胸腔内手術の術後ではないか、外傷がないかをスクリーニングします。 そしてもっとも重要な鑑別の一つは、凝固異常です。アメリカでは、殺鼠剤中毒が非常に多いため、特に注意する必要があります。PT, APTTによって凝固因子のスクリーニングを行います。 凝固異常が除外されたら、初めてどこかしらの出血点(腫瘍や外傷)をさらなる検査によって探す必要があります。レントゲン、CT検査、心臓エコー検査などの検査に進みます。 膿胸 農協とは、その名の通り、膿が胸腔に貯留することです。 膿とは、炎症を起こした部位が化膿して生じる黄白色または黄緑色の不透明な粘液で、主に白血球と血清からなり、その他壊死した組織や死んだ細菌などが含まれています。 液体の性状は滲出性で、顕微鏡で覗いてみると、変性好中球や壊死細胞、細菌などが見られます。 膿胸の定義 膿胸の定義とは、膿性の胸水の貯留です。膿性とは、好中球の残骸を指します。 膿胸の鑑別診断 膿胸/感染性胸水の鑑別は以下になります。 獣医師によって、膿胸へのアプローチは異なります。ここでは詳しくは触れませんが、2つのアメリカの大学で膿胸の症例を何例か見てきましたが、初期対応、どこに転科させるか、という点は毎回少しこじれる印象です。 (外科介入に進む前の)初期対応に関しては、一刻も早く胸腔チューブを設置し、フラッシュして膿を希釈して胸膜炎を抑えるべきだという意見と、細いチューブを設置した場合、フラッシュした生理食塩水が回収できなくなる可能性があるため、外科的に太い胸腔チューブを入れるまで待つべきだ、という意見があります。 胸腔チューブの設置についてはこちらの記事も合わせてご覧ください。 乳び胸 乳びは白からピンク(ストロベリーミルクシェイク)色をしています。胸水中のトリグリセリドが gt;100 mg/dの場合に特徴的な色が観察されます。 細胞は、基本的には小型リンパ球が占めますが、複数回の胸腔穿刺によって非変性性好中球が増加することもあります。 乳び胸の定義 乳び胸の鑑別診断 以前、乳び胸の猫がERに来院した際、心臓の超音波検査でHCMが診断され、心原性の乳び胸が診断されたことがあります。そして、胸水を抜いて、心臓に対する治療を開始し、元気に退院していきました。 ところが数週間後に、その患者さんは胸水を主訴にERに返ってきました。飼い主さんによると、かかりつけの病院で「心臓の病気が原因で乳び胸にはならない」と言われ、心臓の薬を投薬するのをやめた。とのことでした。 猫で最も多い乳び胸の原因は、HCMと言われています。いかに鑑別診断をしっかり考えることが重要かが分かります。 まとめ この記事では、胸腔内の異常に関する鑑別診断を挙げていきました。鑑別診断リストを作り、どの可能性が最も高いかを考え、そして診断プラン(心臓の超音波なのか、CTなのか、超音波なのか)を立てていくことで、見逃しなく診断にたどり着ける可能性が高くなります。

  • 胸腔内疾患(胸水、気胸)の緊急対応/わかれば怖くない呼吸器疾患

    胸腔内疾患(胸水、気胸)の緊急対応/わかれば怖くない呼吸器疾患

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、呼吸困難で来院した患者さんの胸腔内異常の見つけ方、そして安定化までをご紹介します。鑑別診断については、こちらの記事で説明しているので、あわせてご覧ください。 緊急性の評価 呼吸困難が主訴で来院した患者さんは、基本的には緊急症例と判断します。なぜなら、呼吸困難によって患者さんが命を落とす可能性があるためです。 患者さんが病院に到着したら、まずはA(airway), B(Breathing), C (Circulation)の順に視診、触診をします。 呼吸困難を主訴に来院した患者さんでも、循環状態をあわせて評価する事が重要になります。なぜなら、呼吸困難の原因が呼吸器疾患の場合もあれば、もしくは循環不全による、代償反応による呼吸困難の可能性もあるからです。 どちらの場合でも、患者さんの緊急度は高く、素早い安定化が必要になります。 循環を評価する方法は、こちらの記事で、6つのperfusion parameterを総合的に評価する必要があるというお話をしました。 特に、胸腔内の圧が前負荷に影響するため、胸腔内疾患と循環の関連性は強いのです。ショックをより理解するための記事もご覧ください。 胸腔内疾患の病態 胸腔内の異常による呼吸器症状は、肺が膨らめなくなることが原因で生じます。病態は以下になります。 胸腔内疾患の症状 上記に示した病態の結果、以下のような呼吸様式がみられます。 奇異性呼吸 奇異性の呼吸とは、腹部の動きが、普通の呼吸で見られるものと逆になる事です。吸気時に、肋間筋が収縮して胸腔が膨らむ一方、横隔膜が頭側に引き寄せられ、腹部が凹みます。呼気時には、肋間筋によって胸腔が縮む一方、胸腔内の占拠によって横隔膜が後方に押し出されて腹部が膨らみます。 胸腔内が正常の陰圧レベルを保っていた場合、横隔膜および腹部の動きは逆になります。 猫の胸水貯留でよく見られます。犬猫で胸腔内疾患で見られる必見の所見ではありません。 首と頭を伸長、犬座姿勢、チアノーゼ  最後の5, 6, 7が見られた場合は非常に重症度が高いです。重度な低酸素血症が疑われる所見になります。一刻も早く安定化する必要があります。 胸腔内異常の検出 胸水の検出 簡易超音波はエマージェンシーの病院には必須の機械といっても過言ではありません。胸水は簡易超音波によって簡単に検出できます。レントゲンは動物にかかるストレスが大きいため、特に呼吸困難で来院している患者さんではリスクを伴います。 レントゲンよりも簡単に、緊急対応に必要な情報を手に入れる事ができるのがFAST scanです。 FAST scan (focused assessment with sonography for trauma)の目的は「2分間でfree fluidの検出」する事です。胸腔のFAST scanのことをthoracic FAST(TFAST)と言います。 FAST scanについてはこちらの記事もご覧ください。 気胸の検出 気胸もTFASTで疑う事ができます。特徴的なTFAST所見は、Glide lineの欠損です。Glide lineとは、肺と胸膜の境界が呼吸に合わせて動く事です。気胸によって、肺と胸膜の間に空気が入ることで、境界の動きが見えなくなります。 TFASTで気胸を診断するのはなかなか難しく、感度があまり高ありません。気胸を診断するには、レントゲン検査が非常に有用です。 しかし、レントゲン検査を行うリスクが高い場合、気胸が強く疑われる場合は、診断的に胸腔穿刺を行います。気胸が強く疑われる場合とは、 気胸は急速に進行して患者さんの命を脅かす病態になりかねません。疑った場合は、躊躇せずに診断的に胸腔穿刺を行いましょう。 安定化 安定化の方法は、病態を考えれば明快です。胸腔内を占拠しているもの(空気にせよ胸水にせよ)を胸腔穿刺によって取り除き、肺が膨らめるようにしてあげる事です。 胸腔穿刺には、2種類の目的があります。 胸水を治療目的で急いで抜去する必要があるかどうかは、患者さんの状態によります。呼吸困難のサイン、そして循環不全が見られた場合は治療的胸腔穿刺によって、できる限りの胸水を抜去します。…

  • 犬猫の上部気道閉塞への緊急対応

    犬猫の上部気道閉塞への緊急対応

    はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、救急集中治療の専門医になるためのレジデントをしています。 この記事では、上部気道閉塞のエマージェンシーに対するアプローチをご紹介していきます。上部気道閉塞の緊急処置は時間との勝負です。患者さんが来てからゆっくり本を開く時間はないので、来たときに備えてしっかりイメージトレーニングしておきましょう。 上部気道閉塞の症例の安定化のゴール 上部気道閉塞で苦しんでいる患者さんの短期の目標は、「寝かせる」ことです。 苦しくて一生懸命呼吸し、空気の摩擦によって喉がさらに腫れ上がり、さらに苦しくなって、と言う悪循環が生じます。この悪循環を断ち切るためには、気道確保し患者さんに眠ってもらい、喉の腫れが引くのを待つ必要があります。 アプローチ 患者さんが興奮している場合は、ブトルファノールなどの鎮静剤を使用し、酸素室で落ち着くかを確認しましょう。この処置で上部気道閉塞が緩和され、呼吸が落ち着けば、この先の処置に進まずにすみます。 鎮静として、ブトルファノール以外にミダゾラム、メデトミジン、アセプロマジンの使用を考慮します。 この処置によっても安定化されない場合、以下のアプローチに進みます。 挿管するかしないか、が最初の大きな判断ポイントになります。上から順番に説明していきます。 挿管のタイミング 上記3つの異常が揃わないと挿管しない、というわけではありません。総合的に評価しますが、呼吸様式を見て「やばい」と思った場合、SpO2を確認せずにすぐに挿管に進むこともあります。 どんな呼吸をしているか 呼吸様式で判断するには、少なくともどんな呼吸が「やばい」のか。主観的に「このまま放って置いたら死んでしまう」と思えることが重要です。表情や意識レベル、呼吸の姿勢などの情報を揃え、総合的な評価をしましょう。 「やばい呼吸」 ブルドッグやフレンチブルドッグやパグ、上部気道閉塞音が凄まじくても、オーナーさんに聞くと「この子にとってこの呼吸はいつもです」などと言われることもあります。患者さんによって、どこまでが正常かというのは問診が助けになることもあります。 舌の色はどうか 呼吸様式に比べると、少し客観的な目線で評価できると思います。きれいなピンクではない場合、おそらくかなり低酸素の状態です。(※チャウチャウなどの犬種による舌色の違いに注意) チアノーゼが見られたら、挿管に進みます。自分の判断に自信がない場合は、SpO2を確認してみるとさらに客観的な評価になりますが、SpO2を測定している間にも患者さんが死んでしまうリスクが上がる可能性があります。 また、貧血の患者さんは低酸素血症でもチアノーゼが見られないので、「チアノーゼがないから大丈夫」ではないので注意しましょう。 SpO2 SpO2が測れないといって、時間をかけて数値を得る必要はありません。一刻を争う状況のことが多いので、もしも測れなければ別のパラメーターで判断します。 SpO2が95%以下の場合、PaO2が80mmHg以下ということになるので、低酸素と判断します。 SpO2はあくまで機械なので100% 信用できるわけではありません。SpO2が100%を示しているのに、PaO2を測定したら60 mmHgだったという経験があります。患者さんがやばそうな呼吸をしている!と思ったら、その直感を頼りに治療方針を決めましょう。 挿管について 静脈留置を設置し、プロポフォールなどの導入薬を顎の緊張がなくなるまでゆっくり投与して挿管します。患者さんの状態が悪く、鎮静薬なしに挿管できる場合はいち早く気道確保を行いましょう。 また、気道が炎症で腫れている場合、挿管が難しいこともよくあります。予測の1-2サイズ小さい気管チューブを用います。また、気管径と同じくらいの太さ気管チューブを用いることで、喉の刺激になって炎症が悪化するので、やや小さめのが望ましいです。 鎮静薬で完全に自発が消えてしまった場合は、人工的に換気を補助してあげる必要があります。 挿管の際に喉頭周囲を観察できると、診断の助けになります。何の病気が上部気道を圧迫しているかをしっかり観察しましょう。 この動画では、軟口蓋が長い患者さんの喉頭がどの様に見えるかがよくわかります。 気管切開チューブの設置 上部気道閉塞の原因や重症度によっては、挿管が容易でない場合があります。例えば、大きな腫瘤の占拠によって、気管チューブが入らない場合です。 この場合、緊急的な気管切開チューブの設置が必要になります。 詳しくは、こちらの記事をご覧ください。 必要に応じてサクション 患者さんが誤嚥している可能性もふまえて、サクションを準備しましょう。 この場合はできる限り気道内の分泌物や誤嚥した液体を排除するために気管チューブを通してサクションします。 鎮静について 挿管をしたら、次の目標は鎮静で呼吸を落ち着かせて、なるべく早く抜管することです。 挿管だけでは呼吸数が落ち着かないことが多いので、もしも挿管して呼吸数が40gt;minであれば、追加の鎮静によってガッツリと寝かせてあげる必要があります。 鎮静剤のオプションとして、ブトルファノール、アセプロマジン、メデトミジン(またはデクスメデトミジン)、プロポフォールがあります。 基礎疾患によっても、安全に使用できる薬が異なります。患者さんごとに配慮した鎮静剤の選択をしてください。 モニター 鎮製薬の選択のみならず、いつ抜管するかの判断をするためにも、モニターは必須です。 体温 上部気道閉塞が長時間続くと、体温が上昇し(パンティングによる蒸散ができなくなるため)、熱中症になってしまうことがあります。 必ず体温をモニターし、必要に応じて冷却処置を取りましょう。目標は華氏103度以下(摂氏39.5度以下)で、冷やしすぎると逆に低体温から戻って来れなくなる可能性があるので、103度以下(摂氏39.5度以下)になったら冷却をストップし、体温を最低でも10-30分おきにはモニターするようにしましょう。 血圧 血圧の測定は、どの薬を安全に使用できるかを判断するのにも非常に重要です。血圧の低い場合(収縮期血圧lt;90mmHg)はアセプロマジンを避けましょう。 SpO2 問題が上部気道閉塞のみの場合は挿管さえしてしまえば、SpO2は正常gt;95%になるはずです。 SpO2は、呼吸不全が本当に上部気道だけか?上部気道閉塞に合併して、肺の疾患を合併していないか?を確認するために重要です。もしも誤嚥していた場合、挿管していてもSpO2が低く、抜管できない可能性があります。…

  • 【今更でもいいからとにかく学ぶ】猫の特発性膀胱炎(FIC)の内科治療

    【今更でもいいからとにかく学ぶ】猫の特発性膀胱炎(FIC)の内科治療

    この記事の内容 猫の特発性膀胱炎とは 診断方法 様々な内科治療 まとめ 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、猫の特発性膀胱炎に関する内科治療について、以下のレビューを参考にして書いています。猫の尿道閉塞で来院した患者さんが、尿道狭窄にFICが合併が診断され、自分が担当したのですが、治療に大変苦労しました。これがFIC治療について学ぶきっかけとなり、案外知らない方法もあるんだなと思ったのでこの記事にまとめてみようと思いました。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 元の記事を読めばより理解を深められるはずですので、余裕のある方はチャレンジしてみてください。 猫の特発性膀胱炎とは 猫の特発性膀胱炎は英語でFeline Idiopathic cystitis =FICと言われています。原因不明の膀胱炎の総称です。 FICの原因として考えられているのは、環境因子、ストレス、膀胱の神経線維の異常、副腎機能などですが、いまだに明らかなメカニズムは解明されていません。さらに、他の臓器の病気、例えば胃腸障害、吸気障害、皮膚、中枢神経障害、免疫機能などとの関連性も示唆されるようになったことから、“Pandora syndrome.#8221;というタームが用いられるようになりました。 FICはLower Urinary Tract (LUT) signの原因の一つで、結果として尿道閉塞を生じます。FICを理解する意義とは、猫の下部尿路疾患の鑑別診断に必ず挙がってくるという点です。 例えば、頻尿、血尿でトイレでしんどそうにしている猫ちゃん。もしくは、尿道閉塞に苦しむ猫ちゃん。安定化の後の、尿検査、尿培養、画像検査にてなんの異常も出てこなかったとき。抗生剤でもない、膀胱切開と言った外科的介入でもない、いやいや、どう治療したらいいんじゃい。ってなりますよね。何の検査にも引っかからないのに、しんどそうにしている。これぞ「特発性」という分類に当てはめ、ブラックボックスに入れられることになります。 幸い、このブラックボックスでどうしたら良いか悩んでいるのは、他の獣医さん方も同じです。このブラックボックスを解き明かすための研究や、これに対する対処法が様々な角度から研究されているのです。 ちなみにFICは、尿道閉塞がない場合は治療なしでも1-7日で自然治癒すると言われています。しかし、65%で1-2年以内に再発が見られrます。15%ほどのFICは慢性化し、数週間や数ヶ月症状が続きます。 診断方法 FICの診断は除外診断になります。他の臓器の病気で「特発性」と呼ばれるものと同様です。例えば、「特発性てんかん」では代謝的な異常やMRIで脳の器質的な異常がないにもかかわらず発作が起こります。「特発性乳び鏡」では心臓や循環に異常がないにもかかわらず乳びが産生される状態です。 これと同様、FICは、膀胱結石、膀胱腫瘍、尿感染などの明らかな原因がないにもかかわらず、膀胱炎症状を示す病態です。よって、除外診断で行うべき項目としては、 尿検査 尿培養(細菌感染の除外) レントゲン検査(結石の除外) 腹部超音波検査(レントゲンに写らない石の検出や膀胱腫瘍、ポリープなどの検出) になります。また、Pandora syndromeと呼ぶには、以下の項目を満たす必要があります。 下部尿路の臨床症状と他の臓器異常 ストレス因子によって間欠的に現れる臨床症状 環境の改善に反応する臨床症状 様々な内科治療 さて、本題の内科治療に移ります。 初めにお話ししたように、私は基本的に重症患者に対する救急集中治療を専門として働いているため、長期的な内科管理にはそこまで精通していません。なのになぜこのテーマで記事を書いているかというと、尿道閉塞で来院した猫ちゃんの管理でどうしてもFICを入院中に改善させる必要があったため勉強したのです。その猫ちゃんについて、簡潔にいうと尿道近位で狭窄があり、FICによって尿道閉塞を繰り返していたのです。尿道狭窄の位置から、FICの内科治療で尿道閉塞が再発しないようにしてあげなければ、手術やステント治療といった超高額かつリスクの高い治療に進む必要性があったからです。 ストレス因子の排除 猫のフェロモン剤 サプリメント ウェットフードで水分摂取量を増やす 猫の下部尿路疾患用のフードに変更する グリコサミノグリカン 痛み止め(ブプレノルフィンやNSAIDs) 猫のフェロモン剤 フェリウェイは代表的な猫のフェロモン剤です。個体差があるようなので、エビデンスレベルとしては十分ではありませんが、害になるものではなさそうなので試してみる価値はあると思います。 サプリメント L-トリプトファン(12.5mg/kg) +/-…

  • 【今更学ぶシリーズ】犬の除脳、除小脳固縮、シフシェリントン姿勢の見分け方

    【今更学ぶシリーズ】犬の除脳、除小脳固縮、シフシェリントン姿勢の見分け方

    この記事の内容 除脳固縮 除小脳固縮 シフシェリントン姿勢 見分け方 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。 この記事では、前肢を投げ出すような姿勢が特徴的な、除脳固縮/除小脳固縮/シフシェリントン姿勢について解説します。これらを見分けることがどうして重要かというと、緊急度、対応、予後が大きく異なるからです。 [read_more id=#8221;1#8243; more=#8221;Read more#8221; less=#8221;Read less#8221;] 除脳固縮 脳幹を延髄の上半分に至る間で切断すると,四肢・躯幹の抗重力筋に特異な強直状態がおこります。この状態が除脳固縮(Decerebrate rigidity)と呼ばれています。 延髄よりも中枢側の損傷によって起こる、四肢をのばし,頭や尾を背方にそらしのけぞるような姿勢が特徴的です。また、意識混濁あるいは昏睡状態のことが多いです。 四肢の緊張、後弓反張に加え、意識レベルが変化することが特徴的です。脳幹は心肺のコントロールを行う中枢なので、この神経機能が損なわれることは死に直結します。3つの似た姿勢のなかで最も緊急度が高い状況になります。 除小脳固縮 小脳の重度な障害によって起こる異常姿勢です。頭蓋内圧上昇によって小脳ヘルニアが生じ、この姿勢を呈することがあります。ただし、重度な小脳病変によっても起こるため、この姿勢によって小脳ヘルニアが診断できるわけではありません。 いかなる原因でも、小脳の重度な損傷を反映している結果なので、予後不良です。 私は以前、頭蓋内圧が急上昇し、除小脳固縮を呈した昏睡状態の患者さんをERで担当しました。クッシング反射、瞳孔縮瞳、対光反射の低下がみられたためマンニトール1g/kgを静脈注射して、緊急的にMRIを撮影しました。マンニトール投与後、血圧は正常に戻ったのですが、徐脈、除小脳固縮は完全に消失しませんでした。 マンニトールか、高張食塩水の投与が神経科の先生とディスカッションされましたが、重度な小脳病変による姿勢異常との判断でそのままMRIに進むことになりました。 MRIを撮ってびっくり。 小脳が頭蓋内から飛び出ようとしていました。これをみた神経科の先生は慌ててマンニトールを追加投与しました。この患者さんは、MRIとCSF検査の結果、MUE (原因不明の炎症性脳脊髄炎症)と診断されました。 MRIの撮影後は、神経科に転科されたのですが、MRIを撮影したこの晩、残念ながら息を引き取りました。 小脳の病変か、頭蓋内圧の亢進かは、他のサインを確認して判断する必要があります。頭蓋内圧上昇に関してはこちらの記事で詳しく解説しているのでみてみてください。もしも頭蓋内圧の上昇が疑わしい場合は、頭蓋内圧を低下させるための緊急処置が必要となります。 後弓反張、前肢の伸展硬直、後肢の屈曲硬直が除小脳固縮に特徴的なサインになります。意識レベルは正常と言われていますが、頭蓋内圧の亢進などを伴う場合は意識レベルにも影響します。実際、MRIに至った患者さんも、意識レベルは朦朧としていました。 シフシェリントン姿勢 最後にシフシェリントン姿勢についてです。前者2つとの大きな違いは、脊髄病変なので、意識レベルの変化は伴わないという点です。 シフシェリントン姿勢とは、T3-L3の病変によって生じる前肢の緊張、後肢の麻痺姿勢です。予後との関連は明らかにされていません。前者2つとのもう一つのちがいは、後弓反張(首が後ろに反り返る)がないという点です。 見分け方 わかりやすいように表にしてみました。 伸展硬直、後弓反張、意識レベルの変化が主な違いになります。シフシェリントン姿勢では、後肢が伸展硬直しないことが特徴的です。 まとめ 3つの姿勢異常について解説しました。 このような姿勢が見られたときに、そういえば3つの鑑別があったなあ、と思い出してもらえたら嬉しいです。そしてこの表に帰ってくることで頭蓋内の問題なのか、脊髄の問題なのかを区別できるのではないかと思います。 [/read_more]