この記事の内容
- キシリトール中毒とは
- キシリトールが含まれる可能性がある食べ物
- キシリトール誤食を目撃した時にとるべき行動
- 救急病院で行われること
- キシリトール中毒の治療の基本
- 猫のキシリトール誤食
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
この記事では、キシリトールの含まれるガム、お菓子をペットが誤食した時に起こりうること、目撃した時にとるべき行動を解説していきます。
キシリトール中毒とは
犬は、キシリトールを食べると、中毒症状を呈します。人間が食べれるキシリトールの量よりも、はるかに少量のキシリトールによって、体に以下のような反応が起こります。
- 犬がキシリトールを食べると30分で吸収される
- キシリトールによって膵臓が刺激され、インスリンが放出される
- グルコース(糖分)が細胞内に入り込み、低血糖になる
- 肝臓障害が生じる
- 肝障害によって、凝固障害が生じる(出血しやすくなる)
低血糖が出る中毒量は、0.1g/kg (100mg/kg)、肝障害が出る量は0.5g/kg (500mg/kg)と言われていますが、それ以上誤食した患者さんが肝障害を示さないということもあり、実際のところはっきりした数値はわかっていません。しかし、低血糖や肝障害で残念ながら死に至ってしまうこともあるので、慎重な判断が重要になります。
以下に、症状及び症状が出る可能性のあるタイムフレームを示します。
- 低血糖:元気消失、運動失調、失神、発作などの症状(誤食から1時間以内-最大症状が出るまでに最大2日)
- 肝障害による症状:肝障害による凝固系の異常(症状が出るまでに最大3日)
- 凝固障害による症状:点状出血、皮下出血、血便(症状が出るまでに最大3日)
キシリトールが含まれる可能性のある食べ物
- sugar-free gum:砂糖不使用のガム
- sugar-free candies:砂糖不使用のアメ
- breath mints:ミント
- baked goods:焼き菓子
- peanut butter:ピーナッツバター
- pudding snacks:プリン
- cough syrup:咳止め
- chewable or gummy vitamins:チュアブルタイプのガムやビタミン剤
- supplements or over the counter medications:サプリメントや市販の薬
- mouthwash:マウスウォッシュ
- toothpaste:歯磨き粉
シュガーフリーの甘味が用いられる加工食品には、キシリトールが含有しています。人間の食べ物を誤って誤食した後、急にペットの調子がおかしくなった場合は、キシリトール中毒が疑われます。ごく少量でも中毒症状を示す可能性が高いため、「たかが人間の食べ物を食べたくらいで」と軽視しないようにしてください。
キシリトール誤食を目撃した時にとるべき行動
- 何をどのくらいの量食べたのかを明確にする
- わからなければ成分表の載ったパッケージを持参する
- 急いでAnimal Poison Control/エマージェンシーの動物病院に連絡する
- 最短で行けるエマージェンシーに連れていく
キシリトール中毒は、誤食から1時間以内で重篤な低血糖を引き起こすことがあります。キシリトールが腸から吸収される前に催吐(嘔吐を引き起こすこと)させることができれば、中毒症状を起こす心配もないかもしれません。
量によっては死に至るほど重篤な症状を引き起こす可能性もあります。よって、誤食が発覚してから、時間との戦いになるため、速やかな行動を心がけるようにしてください。
Animal Poison Controlはとは、ペットが何か誤食をした時に連絡をすると、どのような対応をとるべきかのアドバイスをくれる電話サービスになります。基本的には24時間対応しています。
1つのケースを相談するのに$65-70かかりますが、24時間スペシャリスト(内科、救急科、毒性学の専門医)のアドバイスを受けられます。Poison controlに電話をしても、最終的に救急動物病院に勧められることが多いです。
獣医さんにいく前に、予めPoison Controlに連絡を取っておくことで、ケースナンバーを伝えるだけで、救急動物病院の先生がPoison Controlのスタッフから具体的なアドバイスを受け取ることができるようになります。(ペットの誤食が発覚した時にとるべき行動はこちらのページでまとめています)
問診で聞かれること
シグナルメントとは、年齢、性別、犬種のことです。基礎疾患とは、元々何か病気を患っているか、投薬歴は薬を自宅で常用しているか、になります。
急に調子を崩したペットのオーナーさんに対して、エマージェンシーではペットの誤食に関して問診をすることが多いです。問診の際に、キシリトール(シュガーフリーの甘味)が含まれる加工食品を食べた可能性があるかというのは非常に重要な情報になるため、獣医さんに確実に伝えるようにしてください。
何をどのくらいの量、何時に食べたか。そして食べたもののパッケージがあれば持参するようにしてください。私たちは、体重あたりどのくらい吸収されたか、という量で中毒量かどうかを計算します。成分表があることで大きな助けとなります。
救急病院で行われること
- 身体検査、患者さんが安定しているか確認
- 誤食が30分以内であれば催吐処置(吐かせる)
- 症状が出ている場合は症状に対する治療
- 血液検査でベースラインを確認
- 点滴、血糖値のモニターを入院下で行う
- 症状や血液検査に異常がなければ、2-3日で退院
- 誤食後3日目に再度血液検査の変化がないか確認
キシリトール中毒の症状は、誤食から早くて1時間以内に現れることがあります。まずは症状が出ていないことを確認して、催吐させても安全かを判断します。
催吐処置(吐かせる)は誤食から30分以内であれば推奨されています。それ以降になると、すでに血中キシリトール濃度が上昇しています。低血糖の症状をいつ起こしてもおかしくな状態で催吐処置(吐かせる)を行うのは極めて危険なので、30分以上たっている場合は吐かせる薬を使うことは推奨されません。
低血糖性の発作や肝臓障害による下痢嘔吐などの症状が出ている場合は、安全を確認するまで入院下でモニターすることが推奨されます。
食べてすぐに血液検査上の異常が出ることは多くありませんが、ベースラインを知る、といった意味で血液検査をします。もともと肝臓に病気があった場合、中毒とは関係なく肝酵素が上昇しているかもしれませんので、その可能性を除外します。
誤食から3日後から症状や血液検査の異常がで始めることもある、と報告されています。よって、なるべく早期に肝数値の上昇をキャッチするために、ベースライン、12時間後、24時間後、48時間後の生化学検査が推奨されています。
肝障害による凝固障害の症状である、出血傾向が出た場合、ICU管理が必要になることもあります。誤食の量が多い場合には、残念ながら、全力を尽くしても助けられないこともあります。誤食を防ぐこと、誤食が発覚した時に素早い対応をすること、がペットの命を守るために重要になります。
キシリトール中毒の治療の基本
多くの場合、どのくらいの量のキシリトールが実際に腸から吸収されたかはわかりません。理由としては、催吐によって、吸収される前に毒素がいくらか吐き出されている可能性があるからです。致死的な中毒症状を示す前に処置を行えるように、24-36時間の病院でのモニターが推奨されます。
推奨されているモニター
- 血糖値のモニター2時間おき
- 肝臓数値のモニター0, 12, 24, 48時間後
- 肝数値の上昇が見られた場合は血液凝固の検査を行う
36時間のモニターによって、低血糖や肝数値の上昇傾向が見られない場合は、その後に中毒症状を示す可能性は低いと考えらます。
猫のキシリトール誤食
猫がキシリトール中毒になるか、という疑問に答えるような論文が2018年に出ました。結論は、猫はキシリトールへの感受性が犬ほど高くないので、中毒症状を起こさない、といったものでした。実験で分かったことは、犬の中毒量の10倍量食べても症状や血液検査に異常がなかったと言うものです。
とはいえ、100%安全とはいいきれないので、ペットの誤食はできる限り防ぎましょう。
まとめ
- キシリトールは犬にとって有害
- シュガーフリーの甘味が入った加工食品にはキシリトールが含まれる
- 少量の誤食でも致死的な中毒症状を示す可能性がある
- どれだけ速く病院に連れて行けるか、時間の勝負になる
- 何をどれだけ何時に食べたかをはっきりさせる
- 食べたものの成分表を持参する
[/read_more]