はじめに
この記事では、FAST scanで腹水を見つけたときに行うべき腹水性状検査についてご紹介します。腹水の原因が致死的な病態の可能性があるので、この致死的な状況を診断/除外するための大切な検査になります。
- 緊急対応が必要な腹水
- 腹水を採取したら行うべき検査
- 腹水の鑑別診断
- 漏出性腹水
- 変性漏出性腹水
- 滲出性腹水
- まとめ
緊急対応が必要な腹水
エマージェンシーの臨床現場で、腹水の性状検査が非常に重要になる理由は、その原因に早く対処しないと手遅れになる可能性があるからです。
例えば、感染性腹水だった場合、手術をしない限り、内科管理では患者さんの命を救う事ができません。以下の3つの腹水は、緊急的な手術が必要になります。
- 感染性腹水
- 尿腹
- 胆汁性腹膜炎
これらを素早く検出するために、腹水の性状検査が非常に有用なのです。
腹水を採取したら行うべき検査
感染性腹水の診断
- グルコース(末梢血との差)
- 乳酸(末梢血との差)
- 細胞診
グルコースは、腹水中に細菌感染がある場合、末梢血より20以上低くなります。細菌が腹水中のグルコースを食べるからです。
乳酸は、感染性腹膜炎では、末梢血よりも2.0以上高くなります。細菌が乳酸を産生するからです。
そして、細胞診では、細胞内バクテリアが検出されれば、感染性腹膜炎が診断できます。
尿腹
- カリウム(末梢血との差)
- クレアチニン(末梢血との差)
カリウムとクレアチニンとは、尿中からのみ排泄されます。つまり尿中には高濃度のカリウムとクレアチニンが含まれるのです。よって、尿腹の場合、腹水中のカリウムとクレアチニンが末梢血中に比べて非常に高くなるはずです。
胆汁性腹膜炎
- ビリルビン
胆嚢破裂の場合、胆汁が腹腔に漏れます。胆汁は黄色なので、胆汁性腹水を疑うのは簡単です。すでに黄疸がある患者さんの場合、ビリルビンの測定を行うことで胆汁性腹膜炎を診断する事ができます。
腹水の性状検査
腹水の性状は漏出液、変性漏出液、滲出液の3つに分類することができます。
この分類には、腹水のタンパク質濃度及び、細胞数が必要になります。
この分類をしっかりと理解する事で、腹水の原因となる疾患の診断への大きな手がかりになります。
腹水を漏出性、滲出性に分類することで、以下のように鑑別診断を絞る事ができるのです。
それでは、これらの腹水が出るメカニズムについて考えてみましょう。
漏出性腹水
低アルブミン血症による膠質浸透圧の減少は漏出性胸水の主な原因です。以下のような機序で漏出性胸水が貯留します。
- 血管内の膠質浸透圧の減少
- 血管内外の浸透圧格差が上昇
- 自由水がこの格差を埋めるべく血管外に漏出
アルブミンが1.5以下で漏出性胸水や腹水が見られた場合、その原因は低アルブミン血症の可能性が高いです。
そして、低アルブミン血症の有無にかかわらず、前類洞、類洞から漏れ出る水も漏出性腹水の性質をもちます。
変性漏出性腹水
変性性漏出液とは、漏出液と比較した時にタンパク質の濃度が異なることが特徴です。この違いは、腹水が貯留する機序の違いによって生じます。
漏出液は血管内の膠質浸透圧の低下によって生じましたが、変性性漏出液は①血管内の静水圧上昇、もしくは②血管透過性の亢進によって血管内の血漿成分が漏れ出ることになります。血管内皮の透過性は変化しないため、細胞の漏出は多くありません。
①静水圧(静止している液体の中の任意の面に作用する圧力)が上昇する原因は、循環系のどこかに圧力がかかった状態(血液がうっ滞した状態)です。例えば、右心不全による、後大静脈の静水圧が上昇が挙げられます。
②血管透過性亢進は、血管炎による漏出によって生じます。
滲出性胸水
滲出液の原因は、毛細血管内皮の透過性亢進です。血管内皮の透過性亢進によって、細胞成分が滲出します。
滲出性胸水は、さらに感染性 vs 非感染性にカテゴリー分類することができます。
感染性の滲出液は、変性性好中球が細胞成分を占めます。
細菌感染の原因
- 消化管の破裂
- 咬傷
- 異物の迷入
- 外傷
- 臓器感染の播種
非感染性の滲出液の細胞成分の特徴
- 非変性好中球(炎症)
- 小型リンパ球(乳び胸)
- 腫瘍細胞
まとめ
腹水が生じるメカニズムを理解すると、腹水の性状の分類についての理解が深まります。そして、それが原因疾患の大きな手がかりになる事がご理解頂けたでしょうか。
エマージェンシーの現場では、少ない手がかりから、以下に多くの情報を得るかどうかがキーになります。身体検査、FASTスキャン、胸水の性状検査といった、非常に安価な検査のみでも大体の病気の見当がつくのです。飼い主さんの経済的な状況を考慮しなければいけない時などにも非常に有用な知識になるので、この記事が臨床現場で働く獣医さんのお役に立てれば嬉しいです。