はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。
この記事では、気管虚脱が診断されたペットの飼い主さんに向けて、緊急事態とその対処法をご紹介します。獣医さんに連れて行くタイミングや、動物病院ではどんなことをするか、自宅でのモニター方法、を解説します。
気管虚脱とは
気管虚脱とは、その名の通り気管が虚脱する(へこむ)ことです。気管は、空気の通り道を確保するための、喉頭から気管支を繋ぐパイプです。パイプが潰れてしまい、空気が気管支まで送られにくくなる状態を気管虚脱と言います。
気管虚脱の患者さんは、特徴的な呼吸音や咳をします。「百聞は一見にしかず」なので、まずは気管虚脱の症例の咳や呼吸をYouTubeで見てみましょう。
このガチョウの泣き声の様な咳をする事が特徴できです。
気管が潰れる=酸素が肺に到達できないため、低酸素になります。
また、気管がどれだけ潰れるかによって、重症度や症状が異なります。
どんなときに急変する可能性がある?
気管虚脱が診断されたからと行って、必ずしも緊急的な事態が起こるわけではありません。気管虚脱は、慢性的に進行する病気です。急激に症状を表す場合は何らかの理由があるはずです。
例えば、
- 興奮、パンティングによって喉が腫れる
- 暑さでパンティングして喉が腫れる
- 咳が悪化することで喉が腫れる
- 嘔吐、誤嚥によって肺疾患が伴う
といった引き金になるものがあるはずです。例えば来客で興奮して、長時間猛暑の中散歩して、といった状況です。
いつ救急動物病院に連れて行けばいい?
病院に連れていくべきタイミングは以下です。
- 苦しそう
- よだれを垂らしている
- 暑そう
- 体を使って/首を伸ばして呼吸している
- 舌の色が紫色(綺麗なピンクではない)
- 虚脱、意識レベルが低い
これらは危険信号です。急変する可能性があるため、これらのサインが見られたらすぐに病院に連れていきましょう。
動物病院に行く前にできる事
- 刺激を最小限に
- 涼しいところに行く
- 体を冷やす
- 鎮静薬(動物用)を投与
- 体全体の動画をとり、獣医師に相談
引き金になったものを取り除きましょう。例えば、来客による興奮が原因の場合は、なるべく静かな、刺激のないところに連れていきましょう。暑い中外を散歩させていた場合は、涼しいところに連れていき、水道水をかけて扇風機を当ててあげましょう。
気道閉塞から熱中症になることもあります。暑そうにしている場合は同様に体を冷やしてあげましょう。
もしもペット用に処方された鎮静薬があれば投与してあげましょう。
病院に連れて行くか迷った際は、ペットの呼吸をビデオに収め、救急病院に電話、状況を説明して動画を獣医さんに見てもらいましょう。
動物救急病院ではどんなことをする?
動物病院ではこの様な緊急事態にどの様に対応するのでしょうか。ゴールは、致命的な気道閉塞を解除してあげることです。
酸素不足に陥っているので、酸素を供給します。
興奮による悪循環を取り除くために、鎮静薬を注射で投与します。
適切な温度に達するまで、患者さんを冷やします。
脱水状態になっている場合は点滴をします。
ときに、これらの処置で安定化できないほど重症な場合もあります。その場合、気管に管を入れ、換気を補助する処置が必要になることもあります。これは一刻を争う救命処置になります。
熱中症に発展した場合、数時間後に全身的な臓器障害が生じる可能性があります。その場合は、数日間の入院が勧められます。
自宅での管理
気管虚脱は、基本的にはお薬で管理する病気です。
- 体重管理
- 頸部の圧迫を避ける
- 興奮させない
- 咳のコントロール
気管虚脱自体が良くなる事はありませんが、進行を防ぎ、より良い生活を送るために大切な管理になります。
まとめ
この記事では、気管虚脱を持つペットの緊急事態についてご紹介しました。緊急時の対応に役立ててれば幸いです。