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イラストで学ぶ生理学と病気

【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について⑤鑑別診断・膝関節編

この記事の内容

  • 鑑別診断を挙げる重要性
  • 膝関節の病気
  • 炎症性の疾患
  • 膝関節靭帯の疾患
  • 関節疾患の鑑別に常につきまとう疾患
  • まとめ

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。

自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。

この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。

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鑑別診断を挙げる重要性

鑑別診断は、アメリカでは非常に重視されます。いい臨床医は、鑑別診断リストをいい精度で作れる獣医師だといっていた先生もいます。

実際には、鑑別診断をしっかり挙げなくても、「多分この病気だろう。」といって治療を始め、うまくいくことが多いです。しかし、「経過がいつもと少し違う。なんか変だ。」という状況が起こったとしましょう。例えば、前十字靭帯の断裂による跛行だと思っていたが、治療をしていくうちに一般状態も悪くなって、、、。といったケースを想定してみます。

こんな時、鑑別リストを作らず、「とりあえず痛み止めで様子見てみましょう。」という治療をしていた場合、状況の把握が遅れるばかりでなく、飼い主さんにも説明がつきません。

一方、最初の段階で鑑別リストをしっかり作り、「A, B, Cという病気の可能性があります。Aの可能性が高いですが、B, Cの可能性は血液検査やレントゲンを取らないと除外できません。今は全身状態も良好なので、痛み止めと安静から始めてみましょう。検査を急ぐ必要はないですが、調子が悪くなったらこれらの検査が必要になります。」という説明ができていたとしたらどうでしょうか。

おそらく飼い主さんの心の準備もできていて、調子が悪くなったら、再診まで待たずに早期に連れてきてくれる可能性があります。そして、検査にスムーズに進むことができ、「初めの段階で見逃していたんですか?!」なんていうストレスフルな会話に発展せずにすみます。

よって、最初の段階でしっかりと鑑別リストを作り、それを除外するための検査を考えておくことが重要になります。さらに、飼い主さんへのインフォームもしっかりできることになるので、獣医師への信頼度も保たれます。

膝関節の病気

今までで集めた情報を全て使って、可能性の高いものから順番に鑑別診断を挙げていきます。

おさらいですが、問診で得られる重要な情報として以下が含まれます。

  • シグナルメント(成長期vs成犬、小型犬vs大型犬)
  • 急性 vs 慢性
  • 悪化傾向 vs 悪化なし

さてここで、視診、触診によって、膝関節が原因で跛行していることがわかりました。

ようやく、ここから、膝関節の鑑別疾患を挙げていきましょう。鑑別診断を考える時、膝関節はどんな組織で構成されているかを考えます。膝関節は、軟骨、関節液、膝蓋靭帯、前十字靭帯、で構成されています。これらの組織が侵される病気を考えていきましょう。

炎症性の疾患

まずは炎症性の疾患が挙げられます。なぜ関節に炎症が生じるのでしょうか。病態としては、大きく3つに分けられます。また、ここには挙げていませんが、常に腫瘍は鑑別診断に入ってくるので注意が必要です。

  • 感染性
  • 免疫介在性
  • 変性性

例えば、感染性の関節炎だった場合、跛行以外の症状として生じうる臨床症状はなんでしょうか。発熱、元気の消失、食欲低下などが起こり得ます。

それでは、免疫介在性だった場合はどうでしょうか。感染性と同様に、発熱や元気消失などの一般状態の変化が現れることが予測できます。

最後に、変性性の場合はこれらの全身症状を示すでしょうか。別の疾患が合併していない限り、全身症状を示すことは稀になります。

犬、膝関節、炎症、免疫界財政、変性性、DJD

この時点で、問診や身体検査をしっかり行っていれば、これら3つの鑑別診断の順位は自ずと見えてくるはずです。一般状態の悪化を伴うのであれば、上位1, 2には感染性/免疫介在性がきて、変性性は最後になります。逆に跛行以外の症状が一切ない場合は順位は逆になります。

次のステップとして、感染性と免疫介在性を区別するにはどんな追加の検査が必要か考えていきます。

全身的な炎症性の変化を調べるには、CBCおよびCRPが有用です。もしも炎症が重度であれば、白血球数や左方移動、CRPの増加が予測されます。一般状態の悪化を伴う場合、各臓器の評価および疼痛管理のプランニングのために生化学検査が有用です。

そして、膝関節に腫瘍や重度のDJDなどがないかを調べるために、膝関節のレントゲンを取ります。最後に、決定的な診断の助けになるのは関節穿刺と関節液の分析です。

これらの検査を今すぐにするか、とりあえず疼痛管理で様子を見るか、という方向づけは患者さんの全体像を見て判断します。患者さんの具合が悪い場合は、すぐに検査に進むことを推奨するべきです。

膝関節靭帯の病気

王道の病気は以下になります。

  • 膝蓋骨脱臼
  • 前十字靭帯+/-半月板の損傷

あまりにも王道なので、小型犬の跛行–>パテラ、大型犬の跛行–>前十字靭帯!と単純に考えられているパターンが多くあります。大半の確率でうまくいくかもしれませんが、この発想に陥ると、これらじゃなかったパターンで痛い目にあう可能性があるので、初めにしっかり鑑別診断をリストアップすることが重要です。

犬、膝関節靭帯、膝蓋骨脱臼、前十字靭帯損傷、半月板損傷

もちろん、膝関節が疑われた段階で、上記に述べた炎症性、腫瘍性の疾患は鑑別診断に入ってきます。リストの順位は、身体検査所見によって異なりますが、追加検査なしではどの病気も完全に除外することができません。可能性が低くても、これらの病気は鑑別診断リストの下の方にはまだいるということを頭の片隅に置いておきましょう。

膝関節靭帯の疾患が疑われた場合、次のステップはなんでしょうか。整形学的検査によって、脱臼のグレーディング、もしくは関節の不安定性を評価します。この時に、鎮静下での評価が必要になる場合もあります。そして、重度なDJDや腫瘍性の病変をキャッチするためには、レントゲン検査が必要になります。

犬、膝、触診
犬、ドローワーテスト、drawer test
犬、tibial compression test

関節疾患の鑑別に常につきまとう疾患

  • 変性性関節炎による骨増殖/関節鼠
  • 腫瘍(骨肉腫/滑膜肉腫/滑膜腫/その他)

これらを可視化するには、レントゲン検査が必要になります。

間のプロセスを飛ばして、跛行–>レントゲン!と先走るよりも、「これらの疾患を除外するためにレントゲン検査に進みましょう」という根拠に基づいて診断に進みましょう。

ここまできて初めて、整形外科の先生に紹介、もしくは内科治療から始める、といった治療のプランニングに進むことができます。

このようなプロセスを踏むことで、自分がやっていることにも自信が持て、日々の診察が楽しくなるはずです。

まとめ

  • 以下のプロセスで治療方針を建ててみましょう
  • 問診から身体検査で必要な情報がそろえる
  • 鑑別診断をリストアップ
  • 可能性の高い順番に並べる
  • 鑑別リストの疾患を除外していくための診断プランを建てる
  • 診断に基づいた治療プランを建てる

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みけ
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