はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。
この記事では、アメリカ獣医大学の勉強会(Journal ClubやBook Reading)についてご紹介します。大学によって、勉強会のペースやファカルティがどれだけ関与するかは異なります。勉強会の質も、どの大学で研修をしたいか選択する時のポイントにもなります。
アメリカのレジデント生活に興味がある方、マッチングのランク付けで、どの様な視点でプログラムを比較するか悩んでいる方向けの記事です。
https://veccblog.com/レジデント1ヶ月目残り35ヶ月part-1-8月の学習内容を公/ECC専門医試験を受けるための必須条件
ECCのレジデントは3年間の研修医プログラムになります。3年間のうちに、ACVECCというアメリカのECC協会が決めた水準に満たすようなトレーニングを受けます。そして3年後の試験に合格すれば晴れて専門医の資格を獲得することができます。このトレーニングの一環としてJournal ClubやBook Clubがあります。
Journal Club
Journal Clubとは、最新の論文についてディスカッションをする時間になります。論文の構成や、研究の仕方まで読み解く様なジャーナルクラブから、論文の要約、内容共有のみのものまで、やり方は様々です。
ECCの専門医試験は、過去3年間の規定された論文から出題されるため、専門医の資格を取得する上でも必須の知識となります。すべての論文を網羅することはほぼ不可能なほど大量の論文が出題範囲となります。
試験勉強に関しては、論文を深く読み込む必要はなく、アブストラクト程度の知識で十分という話を聞いたことがあります。
今の大学では、レジデント(私を含め3人)とファカルティ の2人、合計5人の小規模なもので、隔週でJournal ClubとBook Club(後に説明します)を交互に行います。よって2週間に4つの論文をディスカッションすることになります。
このスケジュールでは、割と時間に余裕があるので、事前に引用論文や教科書をしっかりと読み込むことができます。どんなことをディスカッションしたいか、事前に準備することができて私は満足しています。
また、別の大学のレジデントの話を聞くと、研究デザインに踏み込んだ解釈をする方針、もしくは、ファカルティが専門医試験対策としてクイズを準備してきてくれる場所などがある様です。大学による勉強会の質は大きく異なるので、マッチングの際にどんな環境が自分に最適かを調べることが重要です。
Book Club
Book Clubとは、ECC専門医試験で出題される各分野の参考書をみんなで読んで、内容を理解していくというものです。規定されている教科書は、その分野におけるバイブル的な存在の参考書ばかりなので、とても勉強になります。
私の大学では、年間スケジュールが決まっています。試験問題となりやすい内容をカバーする教材、どの程度のペースで読んでいくかというペース配分が長期的に決められているので、自分で勉強するにもありがたいです。
レジデント1ヶ月目の現在は、呼吸生理学を勉強しています。呼吸器が終わると、電解質、腎臓の生理学、そして循環器生理学がテーマになります。3年かけて専門医試験の範囲をカバーしていくことになります。
呼吸器生理学では、Dr. Westが書かれている『Respiratory Physiology』という参考書を扱っています。こちらの本は、ECCや麻酔科でも長く活用されているもので、著者であるDr. Westの講義が、YouTube動画でフルに閲覧可能です。
Dr. Westの講義動画
動画は、教科書に沿った内容なので、私はBook clubの準備の際には、必ずこちらの動画を見るようにしています。本からは読み取れない著者の伝えたいことを理解することができます。
この本はチャプター10からなる薄い本ですが、名著なので、日本語に翻訳された本が今でも出版されています。
『田中竜馬先生の血ガス白熱講義150分』という本は呼吸生理学がわかりやすく解説されているため、『Respiratory Physiology』を読み始める前に読んでいたのが非常に役に立ちました。
A-a gradient(A-a勾配)などの式が専門医の試験には頻出になりますので、英語で学ぶとなると苦労したであろう内容も、『田中竜馬先生の血ガス白熱講義150分』を読んでいたことによってスッと頭に入ってきました。田中竜馬先生の本は、本当におすすめです。
また、Book Clubでは、読んでくるchapterが決められており、そのchapterから専門医試験に出てきそうなクイズを自分たちで作り、レジデント同士でクイズを出し合うということをします。ファカルティもクイズに参加するので、「ここはテストに頻出だよ。」といったアドバイスをしてくださいます。
勉強法
試験が3年後ということもあり、今やってもきっと忘れてしまうだろうということを前提に、自分でもまとめノートを作ることにしました。以下のような感じでChapterごとにまとめてノートを作っています。
このノートを見れば、重要ポイントを教科書をすべて読み直さずに思い出せるように、という目的で作っています。イラストをコピーアンドペーストしてノートに貼り付けることで、1枚のノートが目次のような役割も果たしています。
この教科書だけではよくわからないな、という点は特にグーグルの画像検索を駆使してノートに貼り付けるようにしています。iPadのアプリ、GoodNotesがこのようなノートを作るのに非常に便利です。
視覚を利用することで理解が一気に深まります。
この本は、チャプター10までと薄い本ですが、先に進むにつれて1チャプターの内容が重くなっていきます。1ヶ月で、チャプター1-5まで進みました。このペースでどんどん進んでいきます。
まとめ
レジデントの専門医になるには、プログラムの要項に沿って日々を過ごすことと、3年後の専門医試験を見越した準備が必要になります。これをこなすだけでも、毎日かなりの勉強量が自ずとついてくることになります。
この様な仕組みがよくわかっていない時は、レジデント=ゴールと思っていました。今ではレジデントになってからがスタートだ、ということを痛感しています。