はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。
この記事では、ショックの記事をここまで読んでくださった方に、もう少し実践的な内容を交えてトレーニングしてもらえるような内容にしていきます。様々な病態は、酸素運搬量を決定するどの要素に落とし込む事ができ、それに応じた治療を行うことで、患者さんの究明につながります。
ショックとは
上記の記事を読んでいただいた方にはおさらいの内容になりますが、ショックとは、エネルギーの供給が需要に追いつかない状態です。
そして、体でエネルギーを産生するために最も重要なのがグルコースと酸素になります。
ショックを言い換えると、
- グルコースが利用できない状況
- 酸素の供給が需要を下回る
①については診断がとても簡単なので、この記事では②にフォーカスを当てて説明します。
ショックの見つけ方はこちらの記事に詳しく説明しています。
ショックの種類
全てのショックには原因があります。ショックとは、ある病気の成れの果てに陥る、死の直前に陥る病態です。
ここでは、どのような病気がどのようなショックを引き起こすかを示します。それが理解できれば、どのような安定化治療が適切かがみえてくるはずです。
酸素運搬量を決定する要素をこちらのイラストで示します。
低酸素血症性ショック
血液に酸素が取り込まれない状態です。原因は以下の病態が上げられます。
- 換気不全
- 上部気道閉塞
- 呼吸筋を支配する神経の異常
- 呼吸筋の異常
- 肺機能不全
そしてこの病態の成れの果てに何が起こるかというと、PaO2(動脈酸素分圧)とSaO2(ヘモグロビンの酸素飽和度)が減少します。
結果的に、血液1dlに含まれる酸素の量が減少、酸素運搬量が減少してショックに陥ります。
では治療はどうするべきか?といえば、原因が酸素化であるのであれば、原因に合わせた酸素化を改善するような治療(気道確保、酸素供給、ときにベンチレーションなど)を行います。
循環性ショック
循環性ショックには大きく、徐脈性、循環血液量減少性、心原性、血液分布不均等性の4つのカテゴリーがあります。
- 不整脈性:重度な徐脈、頻脈によって、心臓がうまく血液を送り出せない
- AVブロック(心臓疾患、薬の副作用)
- 高カリウム血症
- 頻脈性不整脈(VPC, VT)
- 循環血液量減少性:血管の中が空っぽ
- 出血(体表面からの出血、体腔内、腸管内)
- 心原性:心臓の収縮力減少により一回拍出量が減少
- DCM
- 僧帽弁閉鎖不全症
- 血液分布不均等性:血管拡張によって相対的な血液量の減少によって一回拍出量が減少
- 敗血症
- アナフィラキシーショック
Tree of lifeに戻ってみると、いずれの原因によっても、心拍出量が減少し、酸素運搬量が減少することになります。
原因の同定と、安定化の方法は、以下のようになります。
不整脈性では、不整脈を同定する必要があるので、心電図が必須の検査になります。電解質の異常によって不整脈が出る事があるので、血液検査も必要です。抗不整脈薬や電解質の正常化が安定化に必要になります。
循環血液量減少性ショックでは、どこから血液が失われていることを同定する必要がありますが、安定化には輸液治療が必要になります。
心原性では、どのような心臓病かを同定する必要がありますが、心収縮力を補うための強心剤、また、うっ血性心不全の場合は利尿薬が安定化に必要になります。
血液分布不均等性では、血管拡張が(血管に対して)相対的な血液量の減少が原因で拍出量が減少することになります。よって、輸液治療で血管内用量を補った後、血管収縮薬の使用を考慮します。
貧血性ショック
貧血による組織の低酸素は、肺の酸素化能、循環にも問題がないけれども、血液中に酸素を運ぶキャパシティが足りないという状態です。
- 血液産生の減少:骨髄の疾患
- 破壊:溶血
- 血液喪失:出血
原因が何であれ、貧血によるヘモグロビンの減少のけっか、動脈の酸素含有量が減少し、酸素運搬量が減少します。
貧血性ショックを疑った場合、溶血や出血の証拠を探します。そして、安定化の手段としては赤血球の輸血になります。
組織毒性性組織低酸素
これは、酸素が組織まで届けられているのにもかかわらず、細胞が膜異常などによって酸素を正常に活用できない状態です。動物ではエチレングリコール中毒によって生じます。
診断が非常に難しく、上記の全てを除外して初めて疑われます。この場合、明らかに有用なショック治療法はわかっていません。
代謝性ショック
これは、酸素の需要が大きくなることで、供給が追いつかなくなるショックです。
組織での酸素の消費が増加することで酸素の供給が追いつかなくなる状態です。
高体温、発作、甲状腺機能亢進によって組織の低酸素が生じます。
原因の除去(冷却や発作を止める)および、酸素運搬量を最大化する事が救命につながります。
まとめ
ここまで理解できたみなさま、お疲れ様でした。なんだかショックが怖くなくなった気がしませんか?原因がわからずどうしていいかわからないと、恐怖を伴いますが、ここまでしっかりとショックを理解してしまえば、緊急対応も怖くなくなります。とにかく安定化させた上で、じっくりとプランを立てればいいのですから。
みけぶろぐにのせたショックの内容は、私がエマージェンシー科とICU科に実習にくる獣医学生に必ず行う内容になります。この科の核とも言える大事な知識です。このブログを通して、日本の皆さんにもうまくシェアできたら嬉しいと思っています。