この記事の内容
この記事では、猫のゆり中毒について簡単にまとめていきます。
猫のゆり中毒では、腎不全を引き起こすことで有名ですが、この記事では、患者さんが病院に訪れた際にどの様な対応が教科書的に推奨されているかをご紹介していきます。ゆりの種類、ゆりへの暴露が起こった時間、症状によって、考慮するべきポイントをまとめていきます。
また、原因不明の急性の腎数値の上昇がみられた際に、ゆり中毒を鑑別に入れられることがすごく重要になります。
- ゆりの種類
- 暴露
- 臨床症状
- 診断
- モニター
- 治療
- 予後
- まとめ
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ゆりの種類
ユリ属(Lilium)とワスレグサ属(Hemerocallis )が毒性が確認されています。ユリに似ているけれどもユリではない場合もあります。写真では判断が困難な場合も多いですが、お花屋さんに問い合わせることが可能な場合は、ゆり中毒を引き起こす可能性があるかを確認することが重要です。
- Easter lily ( Lilium longifl orum)
- tiger lily ( L. tigrinum)
- rubrum lily ( L. speciosum)
- stargazer lily ( L. auratum)
- Japanese show lily ( L. lancifolimu )
- Asiatic hybrid lilies ( Lilium spp)
- red lily ( L. umbellantum)
- Western lily ( L. umbellantum)
- wood lily (L. umbellantum)
- daylily ( Hemerocallis spp)
暴露
ゆりのどの部位をどのくら食べたら中毒症状が出るかご存知でしょうか。
実は、花粉、花弁、茎、葉、球根のどの部分の誤食でも中毒症状が起こる可能性があります。
そのため、花粉が顔や毛に付着していた場合、猫が毛繕いをして花粉を誤食している可能性を考慮した治療プランを立てるべきです。
私はアメリカで、経験したユリ誤食の来院理由はそれぞれでした。
- ユリの花弁を食べた
- ユリの花弁にかじった後を見つけた
- ユリの花粉が口の周りについていた
臨床症状
臨床症状
- 6-12時間:急性腎不全による嘔吐、食欲不振
- 多飲多尿 –> 乏尿 –> 無尿
- 神経症状(運動失調、ヘッドプレス、振戦、発作)
診断
似たような鑑別には、エチレングリコール、ブドウ中毒、NSAIDsが挙げられます。腎臓にダメージを与えるような中毒はヒストリーをしっかりと確認することが重要です。
- 18-24時間:血液検査における腎数値の上昇、急性腎不全(BUN, Creaの上昇)*
- 12時間:尿検査による尿細管上皮細胞の脱落(沈渣でキャスト(尿円柱)が確認される)
急性腎不全は、IRISの分類によって、クレアチニンの0.3以上の上昇と定義されています。つまり、クレアチニンが正常の場合もAKIは除外できないということです。例えば、Grade1(クレアチニン<1.6)であっても、48時間以内に0.3 mg/dlの上昇があった場合は、nonazotemic AKIと分類されます。
そのため、AKIをいち早くキャッチするためにも経時的な腎数値のモニターが重要なのです。
*注意が必要なのは、点滴をしているのにクレアチニンが0.2上昇した、などの場合です。点滴で血液を希釈した場合、BUNもクレアチニンも低下するはずです。それでもクレアチニンが上昇している場合は慎重なモニタリングが推奨されます。
モニター
基本的には、ベースライン、24時間、48時間後に腎数値をチェックすることが推奨されています。ベースラインを測定する理由は、元々腎不全に罹患していないかどうかを確認するためです。
想像してみてください。もしも腎不全が隠れていた患者さんが、ゆりの誤食で来院したとしましょう。ベースラインを測定せずに24時間後に腎数値を測定してクレアチニン3.0だった時。これはもともとのCKDのせいか、ゆり中毒のせいかわかりません。
また、点滴治療を始める前に尿検査をすることも非常に重要です。なぜなら、高窒素血症だった場合に腎前性なのか、腎性なのかがわからなくなるからです。
もう一例想像してみてください。ベースラインを測定したらクレアチニンおよびBUNが上昇していました。猫はすでに何度か家で吐いていたようです。次の日には腎数値が改善していたとしましょう。尿検査をせずに輸液を開始してしまった場合、この高窒素血症が、腎前性か腎性かわかっていませんので輸液が単なる血液希釈による数値の低下なのか、GFRの改善に伴う腎数値の正常化なのかがわからないことになります。
明らかに症状を示していない患者さんに対しては、検査結果の数値ですべてを決めることになるため、必要な検査項目やどのくらいの時間間隔で検査を行うかというプランニングが重要になります。
私が行うモニター方法は、
- 来院時のベースラインを確認
- 2 x RERの点滴を開始し、24時間後にBUN, Creaを確認
- 腎数値に応じて点滴速度を変更
- もしも腎数値が上昇しなければ、1.5 x RERに変更
- もしも腎数値の上昇がみられれば2 x RERを継続
- さらに24時間後(入院から48時間後)にBUN, Creaを確認
- 1.5 x RERの場合
- もしも腎数値が上昇しなければ、1 x RERに変更
- –> 12時間後に再度BUN, Crea確認して問題なければ退院、翌日BUN, Creaを最終確認
- もしも腎数値の上昇がみられれば2 x RERに戻す(乏尿、無尿に注意)
- 2 x RERの場合
- もしも腎数値が上昇しなければ、1.5 x RERに変更
- もしも腎数値の上昇がみられれば2 x RERを継続(乏尿、無尿に注意)
- 1.5 x RERの場合
ちょっとややこしいですが、少なくとも48時間は利尿を促進するために輸液1.5-2 RERで行います。24時間ごとにBUN, Creaの測定をしてAKIでないことを確認しながら x2–> x1.5–> x1 RERに変更していきます。
退院から24時間後、点滴が完全にストップされてもBUNとクレアチニンが上昇しないかを最終確認します。
治療
- 毛に付着した花粉などを拭き取る
- もしも食べたのが数時間以内であれば催吐を考慮
- チャコールは1回投与
- 点滴を維持量の2倍で48時間投与
- BUN、クレアチニンによって点滴を漸減していく
- 輸液を完全に止めた24時間後に腎数値の上昇がないかを最終確認
- 対症療法
チャコールの有用性は明らかにはなっていませんが、教科書によっては1回だけなら推奨されています。
催吐が成功しなかった場合、誤食された花弁を摘出するために内視鏡に進んだ症例を見たことがあります。その症例では残念ながら花弁はすでに流れていってしまっており、内視鏡は不成功に終わりました。
覚醒の前に胃洗浄、チャコールを投与して抜管。幸い、腎数値は一時的に上昇しましたが、1週間ほどの入院看護によって急性腎不全を脱し、その症例は元気に退院していきました。
点滴の目的は、GFRを増加させることで、尿細管障害を軽減、腎臓排泄を促進する効果です。よって、毒性学の教科書にも強調されていることですが、18時間以内にアグレッシブな点滴を開始することが重要です。ここで猫の場合特に、過剰輸液を医原性に引き起こさないように、心臓の基礎疾患がないかはしっかりと確認しておくようにしましょう。
対症療法は、もしも消化器保護が必要な場合はH2ブロッカー、オメプラゾール、スクラルファートなどを投与すること。もしも十分に水和された状態で無尿になったら、ラシックスの投与。透析が必要になる可能性もあるので、飼い主さんに予めインフォームしておくことも重要です。
予後
誤食から18時間以内に点滴治療を開始できた場合は比較的予後良好と考えられています。それ以降の治療介入では、腎不全に陥る可能性が高くなります。
乏尿、無尿が症状として現れた場合は予後は悪く、透析治療を視野に入れたプランニングが重要です。
急性期を脱した場合でも、CKDとして腎機能障害が永続する可能性があります。
まとめ
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