この記事の内容
- 急性溶血性輸血反応を学ぶ
- 急性溶血性輸血反応の定義
- 急性溶血性輸血反応の原因
- 溶血の結果
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。この記事では、急性溶血性輸血反応に関する解説をしていきます。
「溶血が良くないことだとは知っているけれど、実際に何がよくないのか、変化が起こった時に何をしたらいいのかわからない!」という方のために書いた記事になります。実際に私は、シビアな輸血副反応を経験して初めて、モニタリングの重要さや、対応方法を学び、「こういうことだったのか」と理解したのを覚えています。
この記事では溶血はなぜ起こるのか、溶血が起こると何が不味いのか、どう対応するべきか、という点を解説していきます。
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急性溶血性輸血反応を学ぶ
おすすめの教材としては以下の3点になります。
- New England Journal : Hemolytic Transfusion Reaction
- TRACS Part 1-3
- YouTube: BloodBankGuy
1. New England Journal :Hemolytic Transfusion Reaction
こちらは人の論文ですが、急性溶血性輸血反応について非常によくまとまっています。私的には、2種類の溶血を説明したきれいな図がおすすめです。
2. TRACS
TRACS(Transfusion Reaction small animal Consensus Statement)とは、2021年に出版された輸血反応に関するコンセンサスステートメントです。
この論文のお勧めなポイントは、輸血反応が見られた場合の対処法がフローチャートになっているところです。目の前の患者さんがどの状況であるかを照らし合わせて、今何をするべきかが一目瞭然になります。
TRACSはPart1-3で構成されています。
- Part 1: Definitions and clinical signs(定義と臨床症状)
- Part 2: Prevention and monitoring (予防とモニタリング)
- Part 3: Diagnosis and treatment (診断と治療)
Part 1-2のバックグラウンドをもとに、Part 3で実際の対処法が記載されています。Part3の使い方に関しては輸血副反応のページで解説しているのでご参照ください。
3. YouTube: BloodBankGuy
私は学術的なこともYouTubeで学ぶのが結構好きで、何かと新しいことを学ぶときにはYouTubeを活用します。中でも、輸血反応を学ぶのにこの動画はすごくわかりやすかったのでおすすめです。
急性溶血性輸血反応の定義
TRACSのガイドラインでは定義は以下の2つを満たすものと示されています。
- 輸血後24時間以内の新たな溶血を示す証拠
- 輸血したにもかかわらずPCVの上昇が計算通りでない
溶血が起こっているかどうかを判断するポイントは以下になります。
- Hyperbilirubinemia :高ビリルビン血症
- Hemoglobinemia:ヘモグロビン 血症
- Hemoglobinuria:ヘモグロビン 尿症
- Spherocytosis in dogs:スフェロサイト(球状赤血球)
- Erythrocyte ghosts:赤血球のゴーストセル
溶血には大きく2種類あります。血管内溶血と血管外溶血があり、メカニズムと副反応が異なるので二つを区別することは重要です。しかし実際の臨床現場では必ずしもどちらかに分類できないこともあります。
血管内溶血であればヘモグロビン血症、ヘモグロビン尿症、ゴーストセル
血管外溶血であれば高ビリルビン血症、球状赤血球が特徴的です。
血管内溶血vs血管外溶血に関しては次の記事で解説しているのでご参照ください。
急性溶血性輸血反応の原因
原因は大きく二つに分けられます。免疫介在性、および、非免疫介在性です。
- 免疫介在性:血液不適合
- 非免疫介在性:血液製剤の保存状態による
免疫介在性の溶血反応である血液の不適合から見ていきましょう。
猫の例では、血液型が異なる場合、自然免疫によって溶血が起こるため輸血不適合となります。
B型の猫はA型の赤血球に対する強い自然抗体を持っています。そのため、A型の赤血球をB型の猫に入れると、輸血された赤血球が破壊され、溶血反応を示します。
犬の例では、DEA1.1 (+)のドナーからDEA1.1(-)の患者に2回目に輸血したときに、獲得免疫によって溶血が起こります。
犬の場合は、自然抗体がないと言われているので、最初の輸血(DEA1.1 (+)をDEA1.1(-)の患者に入れる)では反応が起こりません。しかし、DEA1.1(-)の患者は輸血を受けることでDEA1.1に対する獲得免疫を得るため、2回目にDEA1.1(+)の血液を入れたときに、DEA1.1に対する抗体が産生されることになります。
それによって、入れられた血液が溶血することになります。
溶血の結果
溶血の結果何が起こるのでしょうか。なぜ溶血が好ましくないのでしょうか。
もちろん、溶血によって貧血になることは望ましくありません。しかし、それ以上に溶血による合併症が患者さんに危険な状態を及ぼす可能性があるため、溶血には過敏にならなければならないのです。
溶血によって、様々なメカニズムで以下のような物質が循環血液中に放出されます。
これによって、以下のような症状が現れることになります。
- 発熱:炎症性サイトカインによる発熱
- 低血圧:炎症性サイトカイン、ブラジキニンによる血管透過性亢進、血管拡張
- 腎不全:低血圧によるGFR減少、尿細管に赤血球のカラが詰まる(右下写真)
- 肺水腫:乏尿+サポーティブケアによる輸液負荷による用量負荷
- 凝固不全、DIC:炎症性サイトカイン、血管損傷による凝固亢進、凝固因子の枯渇
溶血の結果生じる可能性があるこれらの症状は、輸血反応に限ったことではありません。例えば、IMHAやタマネギ中毒でも同じ結果になります。
人では、これらの合併症が起こるのは稀ではありません。80%で発熱、33%で腎不全、10%でDICが起こると言われています。小動物でどのくらいの割合で生じるかという報告は私が調べる限りではありませんが、決して稀ではない可能性が高いのです。
これらが起こってしまった場合は、サポーティブケアとモニタリングしかないのですが、点滴で薄める+尿量をモニターして過水和を防ぐ、凝固不全に対するFFP輸血の検討、などというのがポイントになるのではないかと思います。
まとめ
溶血性輸血反応について解説しました。溶血によって合併症が出るということは日常診察ではあまりみることはないのかな、と思います。しかし実際に溶血反応が起こったときにどんな心の準備をしておくべきかを知っておくと輸血副反応がそこまで怖くなくなるのではないかなと思います。
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