はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務し、2022年現在、アメリカの獣医大学で救急集中治療(ECC)の専門医を目指してレジデントをしています。
この記事では、アメリカで獣医師として働くためにはどんな形があるかをご紹介します。アメリカで獣医師として働くことに興味がある方のための記事です。それぞれのポジションに必要になる資格なども合わせて解説します。
アメリカで獣医師として働く方法
日本人の獣医さんがアメリカで働く時に、準備が必要になる可能性のあるものは、移民ビザ、アメリカで通用する獣医師免許、州の免許、公式の英語試験のスコアです。
どのポジションで働くかによって、必要になるものが異なります。
大学病院で研修医になる
研修医には、インターンとレジデントのポジションがあります。アメリカの獣医大学の研修医について興味がある方はこちらの記事もご覧ください。
アメリカで研修医に申し込むために、基本的な必要なものは以下になります。
- ビザ(学生ビザ、就労ビザ)
- 場所によっては英語のテストスコア(IELTSかTOFLE)
- 日本の獣医大学卒業証明書及び成績表
- Veterinary State Board(州のライセンス)
ビザは、アメリカにとって外国人である私の様な人には大きな問題になります。すべてのアメリカ獣医大学が外国人にビザを発給してくれるわけではありません。
外国人にビザを提供している大学を探し、採用される必要があります。昔と比べると、ビザを発行する大学が減っている様です。さらに、2020年に爆発的に流行したコロナの影響を受け、多くの大学が外国人を取らない方針に変えた、というのが2021年の現状です。
学生ビザ(F1ビザ)を使ってアメリカに滞在する場合、大学に入学する形になるので、英語のスコアを提出する必要があります。場所によっては免除されることもあるので、これがないと絶対に働けないというわけではないかもしれません。
就労ビザ(H1Bビザ)は普通の大学では研修医には発行されません。普通はH1Bが発行されるのは、最低でも所得が約90,000ドル以上ある必要があります。しかし、特殊な学校で例外がある様です。
マッチングに関しては別記事でガッツリと説明しているのでこちらもご覧ください。
Veterinary State board(州のライセンス)
Veterinary State boardとは、州で働くライセンスになります。獣医学の知識だけではなく州の法律について理解しているかを調べるための試験のことです。必要ない州もあり、難易度も様々です。オープンブック、解答用紙をメールするだけのところもあれば、きっちりテストされるところもあります。
このライセンスに関しては、ポジションが決まり働く直前に取得すればいいので、基本的には心配する必要はありません。採用が決まってしまえば、この試験に落ちても採用が取り消されるということは、まずないはずです。
以下、AVMAのホームページから各州の情報リンク一覧にアクセスできます。
https://www.avma.org/advocacy/state-and-local-advocacy/veterinary-state-board-websites
専門医を取得後、大学病院でファカルティとして働く
アメリカ獣医大学病院でファカルティとして働くには以下が必要になります。
- 専門医の資格
- ビザ(就労ビザ、研究者ビザ)もしくはグリーンカード
- Veterinary State board(週のライセンス)
専門医を取得してしまえば、大学ではアメリカの獣医ライセンスがなくても働くことができます。「専門医」として働くので、専門外の獣医医療行為をすることはできません。
ビザに関しては、専門医の資格があれば大学のファカルティとしては取りやすくなります。研修医として外国人にビザを発行しない大学でも、ファカルティには発行することが一般的です。
H1ビザというビザは、ある程度の所得(2022年現在90,000ドル)がある人のみに適応されるビザですが、専門医になればH1ビザが適応されるだけのお給料がもらえることが多いそうです。
一般病院(private practice)で働く
大学の外で獣医として働くには、ビザに加え、アメリカで働ける獣医師資格、アメリカの国家資格、及び州のライセンスが必要になります。
- 就労ビザ、グリーンカード
- アメリカで働ける獣医師資格(ECFVGもしくはPAVE)
- アメリカの国家資格NAVLE
- Veterinary State Board
一般病院で勤める場合、病院からビザのサポートをしてもらう必要があります。就労ビザかグリーンカードになります。上記の2-4を取得していたとしても、働きたい病院からビザの発行がサポートされないということもあります。
すでにスタッフと顔見知りでビザをサポートしてでも採用したい、と言う要望を得るか、もしくは、アメリカの獣医大学での研修医として経験があると、外国人として一般病院で働くのに有利に働きます。
アメリカのライセンスを取得するには、ECFVGかPAVEのどちらかの方法を選びます。
ECFVGは4つのステップからなる試験で、獣医大学卒業の証明、英語、筆記、実技試験をクリアすると取得できます。申し込み、それぞれの試験に費用がかかり、すべてクリアするのに100万円くらい必要になります。
PAVEとは、実技試験を回避するための別の方法で、アメリカの獣医4年生に混ざって、1年間の臨床のプログラムに参加します。臨床トレーニングを終えれば、実技の試験は必要ありません。このプログラムに参加するためにかかる費用は州外の学生の1年分の学費と同様になります。1年間で、約1000万円(州外からの獣医学生と同じ学費に加え、1年間のアメリカでの生活費が必要)ほどかかるそうです。
ECFVGを取得しただけでは、アメリカの一般病院で働くことはできません。次のステップとして(同時にもできますが)、アメリカの国家試験であるNAVLE(ナブリ)を取得する必要があります。
NAVLEはアメリカ出身の獣医学生も必要になるライセンスです。日本の獣医国家試験のようなものと思ってもらえたらいいと思います。出題範囲は法律から大動物、魚まで、幅広いです。この試験費用は7万円ほど。11月と4月の年に2回チャンスがあります。
フェローシップ
フェローシップとは、大学内で自分の好きな分野を研究したり研究したりできるポジションです。お給料は出ても少額のことが多いです。ビザを発給してくれるところもあれば、自分でビザを取得しないといけないところもあります。
自分でビザを取得するには一般的にはOPT(Optional Practical Training)というビザが必要です。
F1の学生ビザで1年間就学していると、翌年のアメリカでの滞在及び就労の延長ができるのがOPTです。この場合、滞在先の施設がビザを発給してくれなくても、OPTのビザで最長1年滞在することができます。以下のサイトがわかりやすくOPTを説明しているのでご参考にしてください。
学生が専攻した分野と関連のある職種で、企業研修を行うことができるビザです。私の知り合いのインターンは、ローテーティングインターンを別の大学で行い、ECCのスペシャリティインターンをOPTを使って過ごしていました。
マスタープログラムに参加する
お給料は出ませんが、大学のマスターというポジションで学生をするというのも、アメリカに滞在するための一つの手段になります。大学にコネクションがある場合はこのようなポジションがないかを確認するのもいいかもしれません。2年間学生ビザで滞在できることになります。
私の友達は、アメリカで研修医をするために、2年間マスターとして動物病院に出入りして経験を積んだそうです。
アメリカで無給のなか生活する資金がある場合はこの選択肢もありかもしれません。マスターを2年間した後は、OPTで1年間滞在するビザが獲得できます。さらに、OPT extensionといって、1年間の滞在を最長3年まで伸ばすことができる場合もあります。
これを使えば、ビザを発給してくれない施設への応募が可能になります。
まとめ
- アメリカでポジションを見つけるには、ビザが大きな障壁となる
- アメリカで獣医師として働く方法をご紹介しました
- どのようなポジションでも、必要な手続きを理解して計画を立てることが重要