はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、エマージェンシー及びICU治療の専門医になるためのレジデントをしています。
アメリカ獣医大学では、動物看護師さんのスキルが非常に幅広いです。獣医と看護師の信頼関係によって、獣医は獣医にしかできない事、看護師は動物を扱うプロとして、看護師だからこそ得意な事に専念する事ができます。日本の看護師国家資格化によって、日本でもこの様な体制を整える事ができると信じています。
この記事では、呼吸が苦しい患者さん(酸素投与が必要な患者さん)の看護についてご紹介します。獣医師の視点から、どんな看護をしてもらえたら嬉しいかを説明していきます。
獣医師が看護師さんに求める事2つ
- 患者さんの変化に気が付き、獣医師に直ちに伝える
- 患者さんが快適に過ごせる環境を作る
患者さんの命に関わる状況の場合、獣医師が看護師さんにしてもらえたら嬉しいこの2つを、どう達成するかを解説していきます。
呼吸が苦しそうな患者さんには、酸素を供給してあげる事が鉄則です。まずはなぜ呼吸が苦しい=酸素供給なのかを考えてみましょう。
なぜ酸素が供給されているかを理解する
患者さんの呼吸が苦しくなる理由は様々です。
肺の病気(例えば肺炎、肺水腫)によって、血液中の酸素濃度が下がっている場合、喉の腫れや気管虚脱によって、空気の通りが悪くなっている場合、もしくは呼吸をするための筋肉の動きが悪くなった時などがあります。
要するに、体にうまく酸素が運ばれていないから、酸素を補ってあげましょう。ということです。
呼吸が苦しい原因によって、適切な酸素の供給方法が異なるということを理解しましょう。そして、どんな酸素の供給方法があるかを知っておくことも重要になります。
酸素供給の真の目的とは
呼吸が苦しい患者さんへの酸素供給をする目的は、何らかの基礎疾患が治るまでの時間稼ぎです。つまり、低酸素によって患者さんが死に至らないようにすることが一番の目標なのです。
どの程度の酸素の供給をすれば、患者さんが楽になるかは、実際にやってみないとわからないことがほとんどです。
なるべく安全な酸素供給方法から始め、不十分であれば次のレベルへ、と徐々に侵襲性の高い、より高濃度の酸素を供給できる手段へとレベルアップしていきます。
よって、効果的な酸素供給を行うためには、患者さんの酸欠状態が悪くなっているサインに気が付く事が非常に重要になってきます。
ここからは、酸素化が不十分の時に出る患者さんのサインを説明します。
酸素化が不十分の時に出るサイン
酸素化が不十分のときに出るサインは以下になります。これらのサインが見られたときは、気管挿管、人工換気などが必要になる可能性が高いため、獣医さんにいち早く報告します。
「こんなことでいちいち報告してこないでよ」という態度をとる獣医さんもいるかもしれませんが、これらのサインは患者さんの生死に関わる問題です。必ず獣医師が獣医師の目で確認するまで、放置してはいけません。
- 意識レベルの低下、虚脱
- 舌の色の変化
- 喀血
- 努力呼吸の持続時間/呼吸数
- SpO2の低下
意識レベルの低下、虚脱
意識レベルが下がっている場合や、虚脱が見られた場合、少しのストレスの負荷も命取りになります。主観的な評価になりますが、「今にも呼吸が止まりそうな見た目をしている」という感覚を大切にしましょう。
舌の色
舌の色が、青や紫になった場合、重度の低酸素状態(SpO2<66%)です。酸素室内でこのサインが見られたら、酸素供給方法を見直す必要があります。
注意点として、舌の色がピンクだからといって、患者さんの呼吸機能が正常とは限りません。チアノーゼ=重度の低酸素ですが、チアノーゼじゃない=大丈夫、ではありません。
酸素室に入れているのにチアノーゼが見られた場合は、直ちに獣医さんに知らせましょう。
喀血の有無
喀血(薄ピンク色の水が咳や呼吸と共に口から出てくる)=肺胞が水浸し、肺が溺れているサインです。これは非常に重症なサインです。直ちに挿管、人工呼吸管理を行う必要があるため、獣医さんにいち早く伝えるべき出来事になります。
努力呼吸の持続時間
「呼吸筋の疲労」とは、努力呼吸が長時間続き呼吸筋に限界がきた状態です。
低酸素血症の最初の反応は、一生懸命呼吸する必要があるため、呼吸数が増加し努力呼吸が増します。
その後、呼吸するための筋肉が疲労した場合、呼吸数は落ちることになります。努力呼吸が長時間続き、ついに呼吸数が落ちた時には、要注意です。
ここで判断を見誤り、呼吸数の低下–> 改善傾向と解釈してしまうと、その後呼吸停止に至る可能性があります。
SpO2の低下
血中酸素レベルは、クリップを用いたSpO2で測定する事ができます。
SpO2のセンサーは感度が良くないため、設置位置によって間違った数字が出ることも少なくありません。心拍数とパルスが一致しているかを確認した上でSpO2が本当に下がって生きていたら緊急事態です。
SpO2の正常は>95%です。もしも酸素投与下で95%以下になった場合は注意が必要です。
患者さんの看護にあたり重要なこと
酸素供給が必要な患者さんは、すこしのストレスの負荷で急変する可能性があります。
患者さんの保定や扱いには慎重になる必要があります。こればかりは、経験がものを言うので、もしも保定にまだ自信がない場合は、ベテランの看護師さんにお願いすることは恥ずかしいことではありません。
これらの患者さんには、無闇に保定したり、酸素室を何度も開け閉めして体を触ったりすることはNGです。静かなストレスの少ない環境を作ってあげる事が、獣医師の求める最も重要で基本的な看護になります。
まとめ
- 酸素化のゴールは治療が効くまでの時間稼ぎ
- 適切な酸素の濃度は実際に供給してみないとわからない
- よって患者さんが苦しそうかどうかを見極める事が適切な酸素供給の要