はじめに
この記事では、胸腔チューブの設置方法を解説します。
胸腔チューブとは
胸腔チューブとは、その名の通り、胸腔へのアクセスとなるチューブの事です。気胸が持続的に生じる場合、膿胸を内科管理する場合、などに設置が考慮されます。
胸腔チューブの設置の適応
気胸の患者さん
気胸の患者さんへの胸腔チューブの設置は、命を救う処置になります。一般的な適応は以下になります。
- 緊張性気胸
- 1時間に2回以上の胸腔穿刺が必要になる場合
- 胸腔切開の術後
緊張性気胸の場合、持続的に胸腔チューブに陰圧をかけるために、サクションをつなげることもできます。
膿胸の患者さん
膿胸は犬の場合、内科管理が奏功する可能性があるとも言われています。その内科管理とは、胸腔チューブを設置して、生理食塩水やヘパリン生理食塩水で胸腔内を洗浄する、というものです。
ただし、この方法も獣医師によって意見が分かれます。
一刻も早く胸腔チューブを設置し、フラッシュして膿を希釈して胸膜炎を抑えるべきだという意見と、細いチューブを設置した場合、フラッシュした生理食塩水が回収できなくなる可能性があるため、外科的に太い胸腔チューブを入れるまで待つべきだ、という意見があります。
胸腔チューブの設置方法
必要なもの
- MILA胸腔チューブ
- 毛刈り、洗浄
- 滅菌グローブ
- ECGモニター
- リドカインなどの局所麻酔薬
- 必要であれば鎮静薬
- 縫合糸
- 三方活栓
- シリンジ
チューブのサイズは、患者さんの体の大きさに合わせます。第7-8肋間から、カテーテルの先端が第3肋間に位置するように設置します。カテーテル先の孔が全て胸腔内に入らなければいけないので、短すぎても長すぎてもいけません。
気胸の場合は太さはあまり関係ありませんが、膿胸の場合は、チューブが細いとつまり安くなるため、なるべく太いチューブを選択するべきです。
準備
- 毛刈り, スクラブ
- マーク付け
- チューブの長さ確認
第7-8肋間の最も高い位置をターゲットにします。周囲の毛刈り、洗浄を行います。
カテーテルの先端が第3肋間に位置するようにチューブの長さが適切かを確認します。
カテーテルを挿入
- 留置針にシリンジをつける
- 陰圧をかけながら留置針を挿入
- 空気が吸引されたら、カテーテルのみを挿入
この方法によって、留置針が確実に胸腔に入っている事が確認できます。
ここでのポイントは、胸腔チューブが頭側に設置されるように、カテーテルを頭側に角度をつけて設置することです。
ガイドワイヤーを挿入
カテーテルを挿入したら、内針を抜き、空気が胸腔に入らないように滅菌グローブをした手でカテーテルを塞ぎます。
ガイドワイヤーを頭側方向に挿入していきます。全て挿入する必要はありません。
カテーテルを抜去
ガイドワイヤーが挿入されたら、カテーテルを抜去します。この時、ガイドワイヤーが抜けないように注意しましょう。
ダイレーターを挿入
ダイレーターは、胸壁の穴を広げるためのものです。多少の抵抗がありますが、皮膚さえ貫通してしまえば、ダイレーターを回転させながら挿入していきます。
皮膚をなかなか貫通できない場合は、付属のメスの先端で、皮膚を少しだけ切開するとダイレーターが設置できます。
根本まで通るようにすれば、胸腔チューブはスムーズに入るはずです。
ダイレーターを抜去、胸腔チューブを挿入
ガイドワイヤーが抜けないように気をつけながら、ダイレーターを抜き、胸腔チューブを挿入します。常に、チューブが頭側に向かうように意識しながら挿入します。
抜気を確認
チューブの孔が全て胸腔内に入ったことを確認してから、シリンジで抜気します。
チューブを設置
空気がうまく抜けることを確認したら、チューブを、バタフライを介して皮膚に縫い付けます。キンクが起こらないように、自然な角度で設置します。
レントゲン撮影
設置したら、必ずレントゲンで位置を確認します。
理想は、チューブが頭側に伸びている事です。
このレントゲンで示されるように、右側のチューブが尾側に向かっていると、頭側の胸水や空気がうまく抜けない可能性があります。
チューブが機能しているかどうかで、設置のし直しが必要になることもあります。
チューブの保護
胸腔内に直接つながるチューブなので、外の環境に晒されないように、ガーゼやシャツで保護します。
この胸腔チューブを操作する時には、滅菌でなくても、グローブを装着するようにします。
動画
まとめ
胸腔チューブの設置方法について解説しました。設置自体は難しい手技ではありません。医原性の感染を避けるためにも、滅菌になるべく近い状態での設置を心がけましょう。
胸腔内疾患の緊急対応に関してはこちらの記事もご覧ください。