はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で、救急集中治療の専門医になるためのレジデントをしています。
この記事では、患者さんの生死を左右するショックについて解説します。緊急患者さんの命を救うのに最も重要な基礎知識です。ショックとは何か?という解説をこちらの記事で行いました。
今回の記事では、ショックの患者さんをどう見極めるかについてご紹介します。
ショックの患者さんの同定はなぜ重要か
私が働く大学では、救急治療科の実習初期に学生にショックのレクチャーを行い、ERに来院した患者さんを前にして、「この患者さんはショック?それともショックじゃない?」という質問をします。
頭でショックが何かをわかっていても、実際に患者さんがショックかどうかを判断できなければ治療を行う事ができません。
6つの血液灌流パラメーター
患者さんがショックかどうかを見極めるために重要なパラメーター6つをお示しします。これは、特別なデバイスがなくても視診と触診によってできます。
- 意識レベル
- 心拍数
- 脈質
- CRT
- 可視粘膜色
- 四肢末端の冷たさ
これらのほとんどは、ショックの際にみられる体の代償反応の結果みられる所見です。
意識レベル
最初の意識レベルに関しては、体に酸素が足りていない状況なので、意識が朦朧とするのは想像がつくかと思います。
心拍数
心拍数は、犬では頻脈、猫では徐脈になります。頻脈は、酸素運搬効率をあげるための代償反応です。猫で徐脈になることは特徴的です。猫で心拍数が180以下(特に病院のストレスフルな環境で)になるのは異常です。
脈質
脈質とは、股脈を触ったときにどれだけ強く触れられるか、もしくはほとんど触知されないほど弱いか、です。
血液の循環が悪い場合は脈質が落ちることになります。
CRT
CRTは正常2秒以下です。
抹消循環が悪いと、圧迫後にピンク色に戻るのに2-3秒以上かかります。もしくは、敗血症などで抹消血管拡張がある場合は圧迫後瞬時に色が戻ることになります。
可視粘膜色
循環の悪い患者さんは、粘膜などの主要臓器への血液供給をなるべく減らし、より重要な臓器、例えば脳や心臓に血液供給を優先させます。
交感神経の活性によって、抹消血管が収縮し、その結果、可視粘膜が蒼白することになります。
四肢末端の冷たさ
可視粘膜と同じ理由ですが、ショックの患者さんは、重要でない臓器に血液を送る余裕がありません。四肢への血流を極力減らすことで、主要臓器への血流を増やします。その結果、四肢が冷たくなります。
いかがでしたか。この6つのパラメーターを測定できない人はいませんね。この簡単な評価で、患者さんのショックを疑う事ができ、治療を早期に開始する事ができるとは、とてもコスパがいいですね。
ショックだとわかったら
ショックだと疑ったら、その他のベッドサイドの検査を素早く行いつつ、安定化を同時にはじめます。
ベッドサイドの検査には素早く結果が得られる以下のようなものが含まれます。
ここから得られた情報を元に、ショックの鑑別を一つ一つ潰していきます。
- ECG –> 頻脈性不整脈の除外
- PCV, TP –> 貧血性ショックの除外
- 血糖値 –> 代謝性ショックの除外
- 乳酸値 –> どのくらい組織の低酸素が起こっているか客観的な指標
- 血液ガス検査(電解質) –> 不整脈の原因になる電解質異常を除外(KやCa)
- AFAST, TFAST –> 心臓の収縮、胸水、腹水
アメリカの獣医大学では、以下の検査がER診察費用に含まれていたので、ルーチンとして行われていました。獣医師がECGの評価、身体検査、AFAST/TFASTを行っている間に、看護師さんが留置を入れ、同時に血液検査を回してくれます。
獣医師と看護師で息を合わせる事で、とても効率よく安定化につなげる事ができます。
この記事でショックの病態及び、鑑別について解説をしています。
この検査が全て揃う頃には、どのタイプのショックであるか、予測がついているはずです。チームプレーによって、ここまで5分ほどで終わらせる事ができます。
最初の安定化
ここまでの病態の当てがつけれれば、安定化につなげる事ができます。
そして、飼い主さんからしっかりと問診をとり、プロブレムリスト、鑑別リストの作成、診断プラン、治療プランを組み立てていきます。
ショックの患者さんに対する全ての詳細な診断は、(例えば神経検査、整形学的検査など)患者さんが安定してから進みます。レントゲンなど安定化に必要な検査以外は、焦らず患者さんの容態を優先させましょう。
まとめ
この記事では、ショックの見つけ方についてお話ししました。この内容は、アメリカの獣医学生がエマージェンシーの科に実習にくる際に必ずカバーする内容になります。患者さんの生死に直結する知識なので、しっかり身に付けましょう。