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イラストで学ぶ生理学と病気

【今更でもいいからとにかく学ぶ】犬の跛行について①基礎

この記事の内容

  • 整形専門ではない先生にとっての跛行診断のゴール
  • 整形の先生に相談する前に最低でも集めるべき情報
  • 情報の集め方
  • まとめ

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。

自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。

この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。

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整形専門でない先生にとっての跛行診断のゴール

整形疾患鑑別

整形専門ではない先生が跛行診断をするときの一番のゴールは、極端にいうと「整形疾患じゃないパターンをキャッチする」ことだと思います。

整形疾患だった場合、治療の選択肢は大きく、痛みのコントロール、もしくは手術の二択になります。

一般病院で勤務する限り、高い整形の手術スキルは求められません。よって、手術適応だと判断された場合、もしくは手術適応かどうかの判断を含めて専門家の意見を聞きたい場合は、整形を得意としている病院に紹介することが得策です。

つまり、一般病院に務める先生には、「本当の整形症例を的確な情報とともに整形の先生に紹介する」スキルが求められます。なぜこのような周りくどい言い方をするかというと、以下のようなことがあると、紹介を受けた整形の先生も、紹介された患者さんやオーナーさんも困ってしまうことになるからです。

  • 状態がかなり悪い患者さんをパテラの手術のために整形科に紹介
  • 実は感染性関節炎だった症例を前十字靭帯断裂と診断して整形科に紹介
  • 神経疾患の症例を跛行として整形科に紹介

想像しただけでもゾワっとしますね。状態が悪い患者さんが歩けないのをパテラのせいだ、として整形の先生に送った場合、本当の病気の治療の遅れにつながります。感染性関節炎だった場合は、内科症例になります。また、神経性の運動失調だった場合には整形科から神経科へさらなる転科が必要になってしまいます。

これらの事態を避けるために、最初の門戸である獣医さんがしっかりと病気をふるいにかけて、患者さんにとって何が必要で何がベストかという方向付けをしてあげることが非常に重要になります。

ここからは、このようなゾワっとすることを避けるために「最低でも集めるべきな重要な情報」を説明していきます。

整形の先生に相談する前に最低でも集めるべき重要な情報

以下に集めるべき情報を一覧にします。そして、これらがなぜ重要かという話をした後に、どう判断していくかという話に移ります。

  • 一般状態
  • 緊急性
  • 本当に整形症例かを判断
  • 原因部位の同定(どの足のどの部位か)
  • 鑑別診断をあげる
  • 除外するために必要な診断のプランを建てる
  • 患肢の神経機能、患肢以外の足の評価
  • 自信を持って整形の専門医に紹介
一般状態の確認が重要な理由
  • 一般状態を優先して治療するべきかもしれない
  • 跛行の原因が実は肢のせいではなく、一般状態の悪化によるものかもしれない
  • 感染性関節炎など、一般状態の悪化と跛行が関連しているかもしれない

整形の本にもよく一般状態の確認を優先させましょう、と記載があるかと思います。実際に、優先させるべき事項を見誤るということは残念ながらよく起こることだと思います。これらは、どんな症例にも漏れのない情報収集を行うことで防ぐことができます。

必ず、患者さんの全体像を見て、TPR、バイタルを確認するようにしましょう。

緊急性を把握する

整形の症例は手術を「待てる症例」「ある程度は待てる症例」「待てない症例」と別れます。多くの跛行症例は前十字靭帯断裂、パテラ、など、待てる症例に当てはめられます。では、「待てない症例」とはどう言った場合でしょうか。

  • 開放骨折
  • 複雑骨折
  • 骨盤内出血がコントロールできない場合

これらの場合、緊急手術、もしくは早急な手術プランを建てる必要があります。緊急である節を明確にさせることは、スムーズなコミュニケーションに重要です。

本当に整形疾患かを判断することが重要な理由

跛行を主訴に来た場合、中にはフェイクが混ざっています。飼い主さんの表現を鵜呑みにして、跛行と疑っていなかったが運動失調だった、なんてことがあると厄介ですよね。そして整形疾患かどうかを明らかにすることが重要な理由は、紹介するべき科が変わってくるからです。

  • 神経疾患(運動失調)
  • 内科疾患(感染性関節炎)
  • 腫瘍科疾患(骨肉腫など)
原因部位の同定

跛行の原因が骨なのか、関節なのか、それとも筋肉なのかで方向性はさらに変わってきます。同定方法に関しては、次の記事に説明をしていきますが、鑑別診断が全く異なるものになりかねないので、どこが原因かを突き止めることが重要です。

鑑別診断をあげる

鑑別診断をあげることで、最悪の事態、予期せぬ事態を除外するためのプランを建てることができるようになります。例えば、感染性関節炎が鑑別診断に含まれた場合、それを除外/診断するためにはどんな検査が必要になるでしょうか。

血液検査や、関節穿刺、そして関節液の細胞診が必要になってきますね。そして、検査に進む前に、感染性関節炎をサポートする身体検査所見があるかどうか、身体検査にもう一度立ち返ってみることが重要です。

感染性関節炎を疑っていなかったときには、軽度の高体温は興奮のせいだろうと思っていたかもしれません。感染性関節炎が鑑別に入ってきた場合、「この体温は単なる興奮じゃなくて、発熱なのか?」という解釈に変わる可能性があります。

このように、あらゆる可能性を考慮することで、身体検査結果の見方や、プランが異なってくるため、鑑別診断をあげて整形疾患フェイクを見逃さないことが非常に重要になります。

除外のためのプランを建てる

上記でも取り上げましたが、感染性関節炎が疑われた場合は、血液検査や、関節穿刺、そして関節液の細胞診などの追加検査が必要になります。

別の例を用いるとすると、腫瘍が鑑別診断に入ってきた場合はどうでしょう。レントゲンで一応確認しておきたくなりますよね。

鑑別診断+除外のための検査をセットで考えることで、整形疾患フェイクをキャッチできる可能性を上げていきます。

患肢の神経機能、患肢患肢以外の足の評価がなぜ必要か

患肢の神経機能が重要なのは、整形疾患を直したところで神経的な異常が残っていたら、整形外科手術に何十万円欠けたところで正常の歩行に戻らない可能性があるからです。

そして、患肢以外の足の評価が重要な理由は、整形疾患の最後の手段である断脚は、患肢以外の3本で歩ける場合に適応される手術だからです。

自信を持って整形の先生に紹介する

これらの情報を全て集めることができて初めて、自信を持って整形の先生に症例をスムーズに紹介することができるのではないかと思っています。

整形疾患

情報の集め方

【今更でもいいからとにかく学ぶ】跛行症例と向き合う②では、ここまでで説明してきた重要な情報の集め方をご説明していきます。

まとめ

  • 跛行症例を見たときの最初のゴールは「整形疾患じゃないパターンをキャッチする」こと
  • 集められる重要な情報をしっかり網羅した上で、症例の診断、治療、紹介に進みましょう

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みけ
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