この記事の内容
- 輸血前の血液型/クロスマッチの意義
- 猫の血液型
- 赤血球の輸血
- 血漿輸血
- クロスマッチ主反応/副反応
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
この記事では、輸血前に必須と言える血液型検査とクロスマッチの意義を解説していきます。意義を知らなくても必要だ、ということは誰しもわかっていることかもしれませんが、この記事を読むことで実際に何を評価しているのか、という理解を深めていただけたら嬉しいです。
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輸血前の血液型/クロスマッチの意義
輸血前に血液型とクロスマッチを確認するのは、ずばりなぜでしょうか?
答えは、適合するドナーの血液を選択することで、急性溶血性輸血反応のリスクを防ぐためです。
急性溶血性輸血反応に関する詳しい解説はこちらをご覧ください。簡単にまとめると、レシピエントの抗体が輸血した赤血球を溶血、もしくはドナーの血液中に含まれる抗体がレシピエントの赤血球を溶血することで合併症が起こります。
合併症は軽度で済むものから新たな輸血が必要になるほどの溶血が起こったり、DICに至るような重度なものまで様々です。輸血を必要とするような重症な患者さんに、これ以上の合併症が起こるのは正直、勘弁ですよね。
そこでこの輸血反応をなるべく起こさないためにできることの一つに、血液型を合わせることとクロスマッチがあります。
血液型は、赤血球の表面についている抗原に名前をつけたものになります。血液型をマッチさせることで、輸血による代表的な抗原(猫ではA型、B型、AB型)抗体反応を防ぐことができます。
しかし、赤血球の表面に発現する抗原は、A型、B型、AB型と呼ばれるものだけではありません。新たに発見され始めている抗原もあります。2007年のJournal of Veterinary Medicineでは、新たなMikと呼ばれる赤血球表面の抗原が見つかりました。そしていまだに発見されていないような抗原も必ずあるはずです。
メジャーではないかもしれませんが、これらを全て輸血前に調べるというのは現実的ではありません。よって、猫のA型、B型、AB型以外の抗原抗体反応を予測するために、スライドの上で実験してみよう、というのがクロスマッチになります。
それでは、猫の血液型から順に解説していきます。
猫の血液型
猫の血液型には、A型、B型、AB型があります。そして新たに発見されたMikが新たに加わりますが、病院の簡易的な血液型検査ではMik抗原の有無を調べることはできません。ここではA型、B型、AB型に絞って解説します。
- A型の猫:赤血球表面にA抗原を持つ、B抗原に対する自然抗体を持つ
- B型の猫:赤血球表面にB抗原を持つ、A抗原に対する非常に強い自然抗体を持つ
- AB型の猫:赤血球表面に、AとBの抗原を持つ、どちらに対する自然抗体も持たない
上記の図から、A型B型のミスマッチの輸血が危険であることはお分かりいただけるかと思います。
赤血球の輸血
赤血球の輸血を考えてみましょう。それぞれ何が起こるでしょうか。
- A型の猫がB型の赤血球の輸血を受ける:レシピエントの抗B抗体とドナーのB抗原反応による溶血
- B型の猫がA型の赤血球の輸血を受ける:レシピエントの抗A抗体とドナーのA抗原反応による溶血
AB型の猫はどちらの自然抗体も持たないため、どちらの血液の輸血も検討できます。
血漿輸血
次に、血漿輸血を考えてみましょう。血漿の輸血もこのセオリーから行くと血液型が適合する必要がありそうですね。その通りです。
抗体の入った血漿を放り込むことになるので、レシピエントの赤血球が溶血するリスクがあります。
- A型の猫がB型の血漿輸血を受ける:ドナーの抗A抗体とレシピエントのA抗原反応による溶血
- B型の猫がA型の血漿輸血を受ける:ドナーの抗B抗体とレシピエントのB抗原反応による溶血
クロスマッチ主反応/副反応
クロスマッチの意義については最初にお話ししました。ここからは、主反応、副反応に関して解説します。
日本では、濃厚赤血球や血漿の輸血というのはあまりメジャーではないかもしれません。必要に応じてドナー登録猫に来ていただき、全血輸血という形が多いのかと思います。
アメリカでは、猫の赤血球製剤、血漿製剤が販売されています。そして、私が働く大学では輸血に従事する看護師さんや獣医さんがいて、定期的にドナーを呼び、常に血液バンクに血液製剤をストックするシステムが確立しています。
これらをストックしておくことで輸血が必要なごとにドナーを呼ぶ必要がなく、必要な成分だけを必要に応じて輸血可能になります。
日本で私が働いていた時は、必要に応じてドナー登録犬に来ていただき、全血輸血というのがメジャーでした。
なぜこの話をしたかというと、クロスマッチの主反応は濃厚赤血球の輸血、副反応は血漿輸血の反応を予測するものになるためです。全血を輸血する場合、どちらの反応も重要になります。
- 主反応は、ドナーの赤血球と、レシピエントの血漿の反応
- 副反応は、ドナーの血漿と、レシピエントの赤血球の反応
掛け合わせたものを顕微鏡で見たときに、凝集反応を確認します。もしも抗原抗体反応があった場合、赤血球がくっつきあって固まりを作るようになります。これが見られた場合、実際に患者さんに輸血をしたとき溶血反応のリスクがあると言えるので、この組み合わせの輸血は避けるべきです。
まとめ
猫の輸血前の血液型とクロスマッチについて解説しました。実際にあなたの症例で輸血が必要になった場合、これらの意義を考えながら血液を選択することが、普段の診察の自信につながります。
可愛らしいイラストを用いながら、これからも一緒に勉強していきましょう。
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