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アメリカで働く

ローカムの先生(気になるお給料からメリットデメリットまで)

はじめに

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。

実際レジデントって何をしているの?3年間アメリカの大学病院でどう過ごすの?といった疑問を持たれている方から、留学するつもりはないけど、アメリカの獣医生活に興味がある方まで、少しでもお力になれればと思っています。

『ローカム』とは、アメリカで常勤ではないけれども獣医師のポジションを埋めるように、非常勤で働くポジションのことを指します。ローカムの先生と働く機会があったため、ローカムについて質問してみたので、この記事でまとめていこうと思います。

ローカムの先生

ローカムとは、派遣型のドクターのことを指します。ラテン語の “locum tenens”「代替」から、代替医師を意味します。具体的にどんな役割かというと、常勤の先生の穴を埋めるような役割です。

例えば、私の大学病院には2人のfacultyが常勤で働いていますが、1人のfacultyはマタニティリーブで長期の休みに入ることになります。レジデントのプログラムには、最低2人の専門医が必要になります。そして、レジデントである私たちが、この期間ECCで働きました、という証明を専門医がしなければならないのです。

プログラムの存続のためには専門医がその穴を埋める必要があるのです。それの穴を埋めるのがローカムの仕事になります。このような状況はどこの大学、私営/企業病院でも起こりうるため、ACVECCのオンラインサイトに、ECC専門医のローカムの募集要項が掲載されます。

別の大学のfacultyがオフクリニックやバケーションを使って、1週間から数ヶ月の期間ローカムや、フリーランスという形で働いている専門医が働きに来たりします。ECCだけでなく、他の科でもローカムが働いていることはよく見かけます。特に私が働く病院では多い様に思います。

10月に、出産準備に入る専門医の先生の休み期間を埋めるために、4週間、ECCに2人のローカムが働きに来てくれたので、その経験と、その先生から伺ったローカムのあれこれをご紹介します。

気になるお給料

ローカムドクターの給料

専門医が1日いくらで働いているか、年収がいくらかは生々しい話ですが気になるところです。2022年現在、円安が進み、1ドル151円です。

ローカムの雇用形態は場所によって異なります。大学から支払われるお給料は、私営/企業病院よりもかなり安いと言われています。交通費、宿泊費は出ないところが多いそうです。

私の大学では、ローカム1日に1,400ドル(211,400円)支払っている様です。そして、週末のオンコールは一日1,000ドル(151,000円)。オンコールで大学に呼び出されることは稀です。常に電話にでる準備をしておくこと、そして万が一呼び出された時に出てこられるような場所にいることが原則となります。

そして、私営/企業病院では、ピンキリですが、大体の場所で交通費や滞在費が賄われ、お給料がいいところでは一日約2,200ドル(332,200円)と聞きました。実際に働いた時の仕事内容は、契約時に交渉するようです。

ローカムドクターのメリットデメリット

ローカムのメリット

ローカムで働く魅力をご紹介します。私が特にいいなと感じたのは、スケジュールを自由に組めるということです。全ての働き方を自分で決めれるので、休みたい時は好きなだけ休むことができるのです。

私は、人生で最も大切なのは時間だと思っています。その時間を自分でマネージメントできる素晴らしさは、ローカムならではなのではと感じます。

そして、もう一つの魅力は大学や私営/企業病院のマネージメントに影響を受けないということです。大学であれば、その科を統括する必要があります。例えば、レジデントやインターンのスケジュール管理、スタッフの教育など。そして度重なるミーティングに加え、学生へのレクチャー、研究などもfacultyの仕事になります。

私営/企業病院では、売り上げを伸ばすことが軸にあるため、売上高に応じてお給料や昇給が決まるそうです。そして売り上げが伸びないと、専門医であっても、一般獣医師とお給料が同じくらいになってしまうこともあるそうです。ECCは少なくとも、売り上げで力量が測れる科ではないので、この方針に私は強く違和感を覚えますが、現実問題このような病院がたくさんあるそうです。ローカムをすることで、自分にあったマネージメントの病院を選べることになります。

ローカムのデメリット

  • 州をまたぐ税金を自分で管理する必要がある(もちろん弁護士を雇える)
  • 契約内容を自分で確認しなければならないこと(もちろん弁護士を雇える)
  • 常に仕事の機会があるとは限らないこと
  • 行い、評判が全ての世界(メリットでもありデメリットでもある)

最初のシステムの立ち上げまでが大変なのではないかと思います。個人経営者になって、全ての税金や契約、スケジュールを管理しなければならないため、時間は自由にコントロールできる反面、そのための仕事量は増えます。

クリティカリスト(ECC専門医)は基本的にはERと重症患者を診れるようになるトレーニングを受けています。ACVECCの要項に緊急手術や内視鏡などの技術習得は含まれていません。私のようにアカデミア(大学)でレジデンシーをした場合、他の科のサービスが充実しているため、ECCレジデントが外科手術や内視鏡のスキルを身につけるチャンスはありません。

このクリティカリストという概念がアメリカでも浸透しきっていないようで、面接にいくと、ECC専門になのに緊急手術できないの?内視鏡もできないの?と言われることも多々あると聞きました。

また、現在ローカムの需要は大きいですが、この需要がいつまでも続くとは限りません。今まで短期雇用でローカムを募集していた病院が、長期的に人を雇用すればローカムの出番はなくなります。居心地の良い病院ほど、欠員はすぐに埋まっていくはずです。このように雇用が永続的ではないことはローカムのデメリットと言えます。

最後に、獣医師業界は狭いので、一度悪い評判が流れてしまうと、あっという間に広まります。ローカムをする上で、対人関係が非常に重要になってくるので、悪い評判が立たないように気を使って臨む必要があります。

ローカムの先生と一緒に働いてみて

ローカムの先生からのレクチャー

ここからは、実際にローカムの先生(A先生)と一緒にお仕事をさせて頂いた感想を書きます。A先生は3年前にECCのレジデントプログラムを修了され、専門医試験に合格し、現在ローカムとして様々な大学や一般病院で働かれています。

A先生が経験したレジデントのプログラムは、メンターシップが非常に強く、専門医試験のためのレクチャーやジャーナルクラブに、facultyが率先して参加していたそうです。時に非常に厳しい教育を受けていた、と言っていました。

A先生にとって、教育は自分が受けてきたような、しっかりとしたメンターシップで行うべきだ、という意識が強いようで私たち、レジデントの面倒を一生懸命見てくださいました。

私たちは週に一度、facultyとresidentが集まり、ジャーナルクラブとブッククラブを行っていますが、その進め方はA先生の大学では大きく異なっていたようです。教科書のチャプターをresidentが割り当てられ、みんなの前で説明する。それをfacultyが聞いて、間違いを指摘したり新たな質問をぶつけたりと、毎週緊張感のあるテストのようだったそうです。

私たち、residentのリクエストに答え、A先生は先生が受けてきたトレーニングに似たような形で私たちに時間を使って教えてくれました。もちろん、専門医試験に必要な知識は、ベーシックな生理学であることが多いため、普段の診察で思い出しもしないであろうことばかりです。A先生は私たちのために、その分野を勉強し直し、プレゼンテーションまで準備してきてくれたのです。

A先生から学んだことは、以下の記事でご紹介しています。

凝固系発展編①(勉強会の構成) はじめに 著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専...

私たちは熱心なA先生に非常に感謝しました。そして、今回きりでなく、ZOOMのミーティングを通して、継続的にこのような勉強会を開いても良いよとオファーしてくれたのです。

一気にA先生の虜になった私たちは、A先生がまたローカムに来てくれるのを待ちわびているのです。

おわりに

この記事では、ローカムの先生と4週間一緒に働かせてもらい、いろいろなお話を聞かせてもらえたのでまとめてみました。

このように、大学病院と私営/企業病院でこんなにもお給料に違いがあるのに、どうしてあえて大学病院でも働くの?と聞いてみたところ、やはり学生に教えるのが好き、レジデントとのディスカッションしている間に情報がアップデートされるのが好き、という教育や学習へのモチベーションがあるようでした。

アメリカでの獣医師の初任給(一般獣医師)は、100,000-120,000ドルが一般的と聞いたことがあります(しかも週休3日)。ローカムで働くメリット、デメリットを考えたときに、どちらが良いかは、人によって異なると思います。これらの選択肢があることを知って、自分なりの選択肢ができるのは素晴らしいことだと思います。

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みけ
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