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抗血栓薬に関するガイドライン(CURATIVE)とは/アメリカ獣医レジデント備忘録

はじめに

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。

この記事では、抗血栓薬に関するガイドライン(CURATIVE)についてご紹介します。

CURATIVEとは

CURATIVEとは、Consensus on the Rational Use of Antithrombotics inVeterinary Critical Care の略で、獣医療における抗血栓薬の使用に関するレビューです。Journal of Vet Emerg Crit Careの論文になります。

獣医療では、2019年まで人医療の様に抗血栓薬に関するガイドラインがなく、血栓傾向である患者さんに対しては手探り状態で血栓予防をしていました。

そこで、クリティカリストや内科の専門医が集まり、既存の論文データベースをもとに薬の適応に関するコンセンサスとして作られたのがCURATIVEガイドラインになります。

残念ながら、獣医療ではまだまだエビデンスに乏しく、ガイドラインのなかにもThere is insufficient evidence to make recommendationという記載が多くあります。

CURATIVEガイドラインの6つのドメイン

CURATIVEガイドラインには6つのドメインがあります。6つそれぞれの論文として出版されています。どこに何が書いてあるかがわかりにくいので、以下にまとめます。

ドメイン1:血栓リスクのある病気の定義

2019年 JVECC

ドメイン1では、どの様な病気が血栓リスクを伴うか、そしてその病気の診断とともに抗血栓薬を始めるべきか、というPICOを用いた問いに答えています。検討された病気は以下になります。

  • IMHA(犬)
  • PLE(タンパク漏出性腸炎)
  • 重度膵炎(犬)
  • ステロイドの投与
  • クッシング症候群
  • 腫瘍
  • 敗血症
  • 頭蓋内疾患
  • 心臓病

結論として、血栓症のリスクが高い病気は犬でIMHAとPLN。猫の心臓病。犬と猫で、2個以上の決戦リスクのある病気が存在する場合(例えば、膵炎と敗血症など)。

中程度の血栓症リスクのある病気として、犬と猫で上記に挙げられた病気1つが存在する場合が含まれています。

ドメイン2:抗血栓薬の合理的な使用方法

2019年JVECC

ドメイン2では、抗血栓症の合理的な使用方法についての記載があります。血栓症を、静脈血栓と動脈血栓に分類、そして抗血栓薬を抗血小板薬、抗凝固因子に分けて既存のエビデンスをまとめています。

理論的には効くはずの薬も、実際の臨床研究で効果が思う様にみられていない様なものもあります。

ドメイン3:抗血栓薬の投与方法

ドメイン3では、実際に薬の使用方法がまとめられています。獣医療でのエビデンスが多くない中、既存の論文を元に投薬用量がまとめられてるので、投薬を検討している場合には便利な論文になります。

ドメイン4:モニタリング方法

ドメイン4では、抗血栓治療を開始してからのモニタリング方法が記載されています。血小板の機能検査など、どこの病院ででも可能な検査ではありません。しかし、長期的な使用になる場合は特に、投薬量が適正かを確認することが重要です。

ドメイン5:抗血栓薬の中止方法

ドメイン5では、始めた抗血栓薬をどの様に中止するか、ということが書かれています。手術前に投薬を中止したい場合、または基礎疾患の治癒によって血栓傾向が改善された場合に、どの様にして治療薬を止めるかが議論されています。

ドメイン6:血栓溶解薬(2022年にアップデート)

急性の血栓塞栓症、例えば猫の大動脈血栓塞栓症や犬の肺血栓塞栓症で、獣医療における血栓溶解薬のエビデンスが記されています。

猫の大動脈血栓塞栓症に対する血栓溶解薬の使用

猫の大動脈血栓塞栓症(以下、ATE)症例がERに来院した際、血栓溶解薬の使用に関しての情報をまとめるきっかけとなったので、最後にご紹介します。

ATEに対してのアプローチには、血栓溶解薬である組織プラスミノーゲン活性化因子(以下、t-PA)や抗凝固剤のダルテパリンやエノキサパリン、そして抗血小板薬であるクロピドグレル等があります。

2022年のThrombolytics(血栓溶解薬)に関するCURATIVEガイドラインのレビューには、犬猫の急性の血栓塞栓症に対しての治療法が、既存のエビデンスをもとに解説されています。

日本ではt-PA製剤(特にThird generationのモンテプラーゼ)が、アメリカの獣医療に比べると、高頻度で使用されている印象がありましたが、利益とリスクを総合的に考えた時に実際のところどうなのかという疑問がありました。というのも、t-PA製剤はアメリカでは、ほとんど使われておらず、出血リスクが勝るという判断の元、使用しない専門医が多いからです。

そこで、CURATIVEガイドラインを確認しました。今回、私が特に注目した部分は、

3.8 PICO question: Thrombolysis in arterial thrombosis (cats) In cats with suspected or confirmed arterial thrombosis (P), does use of a thrombolytic agent (I) compared to no thrombolytic agent (C) improve any outcomes (O)?

2022 Update of the Consensus on the Rational Use of Antithrombotics and Thrombolytics in Veterinary Critical Care (CURATIVE) Domain 6: Defining rational use of thrombolytics. J Vet Emerg Crit Care, 2022.

猫のATEに対する血栓溶解剤の使用は、は治療成績をあげるか?という問いに対する答えを、エビデンスに基づいて、このメンバーが考察します。

No evidence-based recommendations can be made regarding the use of systemic or catheter-directed thrombolytic agents for treatment of acute (<6 h) arterial thromboembolism in cats.

2022 Update of the Consensus on the Rational Use of Antithrombotics and Thrombolytics in Veterinary Critical Care (CURATIVE) Domain 6: Defining rational use of thrombolytics. J Vet Emerg Crit Care, 2022.

「t-PA製剤の投与を支持する論文(抗凝固薬や抗血栓薬と比較してメリットが大きいことを示した論文)はない。」とエビデンスに基づく答えは出せない、と宣言した上で、発症後6時間以内であれば、t-PAの投薬を考慮するという形で、投薬を”recommend”(推奨)ではなく”suggest”するという内容でした。まだまだこれからのデータの蓄積が必要なようです。

なるほど、エビデンスを重視するアメリカで働い経験からすると、出血のリスクを侵して”推奨”されているわけではない治療を行いたがらないアメリカ専門医の気持ちがなんとなくわかる気がしました。どちらが正しいというわけではありませんが、積極的な血栓の溶解薬の使用に関するどちらのアプローチも納得できます。

以下は、私のまとめノートです。

まとめ

この記事では、CURATIVEガイドラインについてざっくり説明しました。凝固系は勉強し始めると非常に奥が深い分野です。そして敗血症や外傷など、様々な病態と関連しています。血栓傾向はモニターが難しく、尚且つ急性な血栓症が起こりうるため、投薬の判断が非常に難しいです。これらのガイドラインを有効活用することで治療の助けになれば嬉しいです。

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