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イラストで学ぶ生理学と病気

壊死性筋膜炎(NF: Necrotizing fasciitis)/アメリカ獣医レジデント備忘録

はじめに

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。

壊死性筋膜炎とは、筋膜に生じる感染のことで、非常に伝播が早く外科的介入がなければ救えないと考えられる緊急性の高い疾患になります。この記事では日本では珍しいこの病気について、病態生理と実際の症例と共にご紹介します。

Necrotizing fasciitis(壊死性筋膜炎)

壊死性筋膜炎とは、筋膜に生じる感染のことで、非常に伝播が早く外科的介入がなければ救命が難しい、と考えられる緊急性の高い疾患です。診断が難しいことから、早期外科的介入を行うかどうかの判断も非常に困難になります。

獣医療では、壊死性筋膜炎の病態、診断方法、治療法についての十分な情報はありません。人医療でも、手術のタイミングの決定が難しいのと同様、もしくはそれ以上に獣医療では早期診断及び治療、救命が難しい病気と考えられます。

このように獣医療で報告が稀な病気に関しては、人医療のレクチャーなどからなるべく多くの情報を集め、獣医療でわかっていることを把握するところに落とし込むようにしています。

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概要

壊死性筋膜炎は、蜂巣織炎(蜂窩織炎)と類似する病態です。蜂巣織炎とは、皮膚とその下の組織に細菌が感染し、炎症が起こる病気です。まずは蜂巣織炎と壊死性筋膜炎の違いを見ていきましょう。

蜂窩織炎 vs 壊死性筋膜炎

  • 蜂巣織炎: 壊死を伴わない、より表層
  • 壊死性筋膜炎: 感染が重度で、組織の壊死を伴う、灰色から紫に変色、数時間で拡大、全身的な臨床症状

最も重要な違いは、全身症状に発展するかどうかです。

発症の原因

  • 最近の手術
  • 貫通性の外傷
  • 開放骨折
  • 膿瘍
  • 慢性の外傷、潰瘍
  • 特発性

鑑別診断

  • 蜂巣織炎
  • 膿瘍
  • 深部静脈血栓
  • 感染性関節炎

人医療では壊死性筋膜炎の中でもタイプ1-4まであり、原因となる微生物、経過、治療法が異なるため、早期にタイプを同定することが重要になります。

治療法

治療方法は、壊死部の外科的完全切除、培養、抗生剤、高圧酸素治療、IVIG、血液浄化などが挙げられています。外科的な介入がなされなかった場合、死亡率が100%だったという報告もあります。

血液浄化に関してはこの記事で詳しく説明しています。興味のある方はこちらもあわせてご覧ください。

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獣医療での報告

獣医療での報告は多くはありませんが、2005年と2010年にそれぞれNecrotizing Fasciitis (NF)のレビューと、治療に成功したケースレポートが存在します。

痛み止めとして、NSAIDsを選択しがちですが、この論文によると、もしかしたら状態を深刻化する可能性があることから投与は推奨されていません。また、バイトリルも原因菌のミューテーションに起因する可能性があるということで、使用が推奨されていません。

人医療ではペニシリン、アミノグリコシド、クリンダマイシンもしくはメトロニダゾールの3つの抗生剤投与が選択されます。獣医療では、クリンダマイシンが第一選択になるといわれています。

外科的介入について

外科的介入の手段に関しては、ドレナージ及び十分な洗浄(温存)vs 断脚(四肢に限局していれば)という選択肢があります。

アメリカの医療ドラマ、グレイズアナトミーで、この疾患が疑われた患者さんの断脚を行うか、という選択を迫られているシーンがあったのを覚えています。

温存することのメリットは、四肢を残せるという点ですが、デメリットは感染が体幹に広がるリスクです。断脚するメリットは、全身的な感染に発展することを防げる点ですが、診断が100%でない限り、必要のない断脚になる可能性もあるという点です。QOLや命に関わる問題なので、十分に吟味する必要があります。

人医療においても、外科的介入のタイミングについて、たくさんの研究が行われています。ここで取り上げておきたい内容は2点です。一つ目は、手術を行った21%で、診断が壊死性筋膜炎とは異なるものだったということです。そのうちのほとんどは、壊死を伴わない蜂窩織炎だったのです。もう一つは、早期手術で救命率が上がったという点です。早期手術の定義は論文によって異なりますが、6時間と12時間で設定された時に、早期に行うほど死亡率が下がったという結論になっていたのです。

命を救うためには、壊死性筋膜炎でない可能性を理解しつつも手術に進ざるを得ないこともあるかもしれませんが、飼い主さんへのインフォームも非常に重要になってくることがわかります。

症例

私が過去に経験した、壊死性筋膜炎が疑われた3症例についてご紹介します。私が働いた各施設で1度は診ているので、1年に1度出会うかどうかというところでしょうか。残念ながら、3例とも、飼い主さんの意向により、外科手術及び病理学的診断は行われませんでした。

症例1 体幹部の”皮下出血”?

最近の症例は、オンコールでのコンサルティングになります。

オンコールでインターンから伝えられた内容が以下になります。「4歳のポメラニアン、前房出血, 過剰な痛みを主訴に夜中に来院。バイタルは正常で、触診で体幹に強い痛みを示したため、毛刈りをして、傷がないかを確認したところ、左側胸部体幹に皮下出血が認められました。血液検査では、重度の白血球と血小板の軽度減少があり、赤血球は正常、凝固系はわずかにPT延長が認められた。採血するたびに血腫ができ、臨床的にも明らかな出血傾向が認められました。」

白血球および血小板の減少から、骨髄疾患、もしくは白血球の急激な消費があることが考えられ、出血傾向(前房出血、皮下出血、止血されにくい)が認められていることから、DICのような深刻な状態も想定されました。

皮下出血が大きくなっていないかを確認するために、マーカーでラインをつけてサイズをモニターするように伝えました。内科的治療介入後、安定していた患者さんの”皮下出血”病変は、数時間後には大きく拡大し、敗血症性ショックへと悪化、進行していきました。飼い主さんの意向により、それ以上の治療及び外科的介入は望まれず、安楽死となりました。

数時間でも全身状態の悪化、そして病変部の拡大から考えると、病理診断は行えませんでしたが、壊死性筋膜炎が強く疑われる疾患でした。

症例2 後肢から波及して膿胸に?

2歳のスタンダードプードル。胸水を主訴にかかりつけ病院から紹介。胸水は膿性で、来院した時からすでに横臥状態。努力呼吸、発熱が認められましたが、来院時、血行動態は安定していました。左側後肢に圧痕性浮腫が認められましたが、皮下出血の様に皮膚の変色はありませんでした。患肢のレントゲン及び、胸部CT検査で膿瘍および膿胸となる原因は見られませんでした。

翌日にはその浮腫が体幹、前肢に広がっていきました。外科的な患肢および胸腔ドレナージが推奨されましたが、残念ながら、飼い主さんからの了承が得られませんでした。

内科管理(抗生剤、胸腔チューブ設置、洗浄)に反応せず最終的に敗血症性ショックに陥り、安楽死になりました。患肢の圧痕性浮腫からは、大量の膿が流れ出てきました。

このことから、確定診断はつきませんでしたが、左後肢から体幹、さらには胸腔、そして前肢に壊死性筋膜炎が波及したと考えられました。

症例3 膿瘍形成

4歳のピットブルミックス。外傷による創傷治療をかかりつけ病院で行われていたが、急速な後肢の腫脹を主訴に夜間に来院。来院時バイタル安定。

以下の写真のように、左後肢の重度腫脹、そして病変が右側にも波及していました。この腫脹は超音波下で明らかに液体で満たされていることがわかりました。

鎮静下で、ドレナージを行い、出来る限り排膿、洗浄を行いました。壊死性筋膜炎である可能性を飼い主さんに伝え、数日の入院管理を推奨したところ、費用制限によって退院を希望されました。

この症例のその後はわかりません。もしかしたら膿瘍の可能性もありますが、逆後肢への波及や、皮膚の壊死が重度であることから、壊死性筋膜炎の可能性は除外しきれない、という症例でした。

まとめ

壊死性筋膜炎という、なかなか出会うことのない病気に関してご紹介しました。このように緊急性の高い病気を認知しておくことは非常に重要で、早期の外科的介入が救命に繋がることもあります。獣医療ではまだまだ情報が不十分ではありますが、積極的な治療によって、急激な状態の変化を予防することができるかもしれません。

レジデントの生活に興味がある方は、レジデント生活の1ヶ月をダイジェストする、こちらの記事も合わせてご覧ください。

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参考文献

  1. Necrotizing fasciitis: a review. J Am Anim Hosp Assoc, 2005.
  2. Successful treatment of necrotizing fasciitis in the hind limb of a great dane. J Am Anim Hosp Assoc, 2010.
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