はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデント(研修医)をしています。
この記事では、大きな二次病院ならではの、画期的な病院のシステムをご紹介します。大きな病院内でのコミュニケーションの取り方、検査の回し方、入院管理など、今まで日本では経験したことのないことばかりだったので、この記事でシェアしたいと思いました。
病院内でのコミュニケーション
一次病院に比べると、アメリカの獣医大学病院は病院の箱が大きく、常に連絡が取れるためのツールが必要になります。今まで働いたことのある、3つの大学病院でそれぞれコミュニケーション方法が異なっていたので、ご紹介していきます。
1年目の病院では、研修医にiPhoneが貸し出しされました。そして、ワークフォンと呼ばれる仕事用のiPhoneを用いて、コミュニケーションツールであるMicrosoft Teams(後述)というアプリが用いられていました。そして飼い主さんとの電話は、ワークフォンを用います。
2年目の病院でもiPhoneが研修医にiPhoneが貸し出しされました。Microsoft Teamsは使われていなかったため、基本的にコミュニケーションはテキスト、電話、メールでした。
3年目の病院では、iPhoneの支給はなく、自分の携帯からMicrosoft Teamsをダウンロードしてコミュニケーションをとるというシステムでした。仕事用携帯がないので、病院内の電話であれば自分の携帯から。オフィスには一人1台固定電話があるので、飼い主さんへの電話は固定電話を用います。
Microsoft Teamsとは
Microsoft Teamsとは、業務に必要なあらゆるリソースと繋がったチャットツールです。このアプリでできることは、チャット、掲示板、通話、ビデオ通話、ファイルの共有、などです。
病院内の関係者、学生、看護師さん含め全ての人がアカウントを持っており、誰とでも個人的にチャットが可能です。グループを作ることで、2週間ごとに入れ替わる学生の間でグループチャットができる様にもなります。
そして、掲示板の機能を使うと、例えばエマージェンシーに患者さんが来院するという情報が入った時に、受付のスタッフがエマージェンシー科の掲示板に、患者さんの情報を貼り付けます。その患者さんのスレッドができることになるので、患者さんが実際に来院した時に掲示板を使って知らせることができる様になります。
また、獣医師からフロントへ、飼い主さんから内金をXXXドル受け取って欲しい、というコミュニケーションも同様のスレッドを用いて行うことができます。
そして、チームの掲示板では、ファイルを共有することができます。例えば、ECCで学生に共有したい論文や写真があればPDF, JPEGを添付することもできます。Google spread sheetを用いて、研修医やファカルティのスケジュール管理も行えるのです。
ビデオチャットによって、複数人が参加するオリエンテーションを行うこともできます。
大学自体が広いので、全てのコミュニケーションを歩き回って直接尋ねているわけにはいきません。この様な情報交換のプラットフォームがあることで、病院での診察が円滑になります。
アメリカの獣医大学のすごいテクノロジー
- 入院患者さんへの薬の処方
- 病院内では、パソコン必須
- 電子カルテ
- 手術動画
- コロナの時期の授業は、全てZOOM
入院患者さんへの薬の処方
入院患者さんへの薬の処方をするときに、日本で見たことがなかったシステムに驚きました。外来患者さんへの薬の処方と違い、入院患者さんには、注射液何mlとってすぐに投薬することが多いため、処方が記録されなかったり、お会計に反映されないという事故が起こりやすいです。
麻薬指定の薬に関してこの様なことが起こると、深刻な自体に発展します。この様なことが起こらない様に、ICUの部屋には、CUBEXやOmnicellといった、電子カルテと繋がっている薬を収納する機械があります。
これらの機械は、獣医師及び特定のテクニシャンそして薬局スタッフのみが触れるもので、誰が何時に使用したかが全て記載されます。また、麻薬指定の薬を取り扱うため、監視カメラも設置されています。
電子カルテの情報とつながっているため、患者さんのアカウントから、薬を取り出すことができます。薬を取り出すと、自動的にカルテに処方が入り、お会計にも反映されることになります。
この様なシステムによって、麻薬指定の薬の残量が合わない、といったことが起こらない様に管理されています。
病院内は、パソコン必須
私が数年前visitingでとある大学を見学した時(2015年)に、まず初めに驚いたのは学生全員がパソコンで授業のノートをとっていたことでした。今でこそ日本でも多くの学生がパソコンでノートをとるようになってきていますが、当時の私にとってはすごいことでした。
パソコン持っていない人、パソコンができない人はどうするんだろう、と思っていましたが、1年目に研修医をした大学では、最初に指定のパソコンを買わされるそうです。パソコンの充電がなくなった、壊れた、などのアクシデントが起ころうものなら、一大事です。
病院内には、ITサービスがあり、全てのITをコントロールしています。大学の電子カルテの不具合や、電話、ネットワークの不具合が起こったときに機能します。Teamsもたまにうまく動かなくなることがありますが、ITに相談することで解決します。
個人のパソコンが壊れた場合でも対応してもらえます。病院内にテクノロジー科があるのは驚きでしたが、確かに今思えば忙しい獣医さんがそんなことまで管理していられないので、分業化されていることはとても効率的です。
電子カルテ
病院内では、電子カルテで全ての作業が行われるため、アクセスできないと何もできなくなってしまいます。血液検査のリクエストをしたり、レントゲンや超音波の予約を入れたり、検査結果を確認したりするのも、全て電子カルテが必要になります。
1年目に働いていた動物病院の電子カルテ、VetViewは非常に便利で、全ての患者情報は瞬時に検索でき、とても使いやすかったです。たまに電子カルテの点検があり、数時間程度、機能しなくなるのですが、そうなるとレントゲンや血液検査のリクエストができなくなったり、薬が処方できなかったり、と一緒に病院の動きも止まります。
また、入院カルテに関しては、たくさんの大学がこのシステムを使用し始めています。とても使い心地のいいものです。
電子カルテに関してはこちらの記事でもうすこし詳しく書いているので、こちらも合わせてご覧ください。
手術動画
また、学生は全ての手術動画にアクセスできます。外科にローテーティングしている学生は、患者さんの担当になったら手術室に入れますが、手術室に全員入れるわけではないので、その時はLIVEのビデオがラウンドルームで流されて、オンタイムで手術が見れるようになっています。
もちろん録画されているので、この手術でどんなことが起こったのか、何をしたのかなどを確認したければ自分の家からでもみることができます。
コロナの時期の授業は全てZOOM
2020年コロナの時期、学生は病院、教室にいかれなかったため、全ての授業はズームで行われていました。授業だけでなく、普段は小さな教室で対面で行われているラウンドも、ZOOMで行われ、麻酔科であれば自分の症例がある時以外は、自宅待機というかたちでした。
画像科のラウンドでも、ZOOMのコントロール権利を他者に譲る、という機能を用いて学生にレントゲン所見を答えさせてfacultyが解説する、という形をとっていました。
試験はどうするのか、というと、これも自宅から遠隔試験になります。カンニングチェックもカメラ内で疑わしい動きをしていないか、厳しくチェックされた様です。
オンライン上のクラウドは学習リソースの宝庫
学習に必要な教材は、クラウド上で全ての学生に共有されていて、各科で必要な教材がまとめられています。
専門医や研修医がそれらの教材や参考文献などをまとめているので、学生は自分のケースに関連した資料をそこから集めることもできれば、先生にリクエストすることで教材をアップロードしてもらうことも可能です。
アメリカの大学では、教材を出し惜しみなくみんなシェアしてくれます。そして、シェアするためのツールも整っているので、やる気があればあるほどいろんなことを学べます。
非常にやる気のある学生がローテーションでもいるので、私も学生に負けないように、モチベーションも常にキープされます。
まとめ
この記事では、アメリカの獣医大学で働きはじめて、感心したことをご紹介しました。日本の1つの病院で働いていたら、知ることもなかった世界が見られるというのも、アメリカ留学の醍醐味でもあります。世界観が広がります。興味がある方は、ぜひビジティングからでも体験してみることをお勧めします。