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イラストで学ぶ生理学と病気

【今更でもいいからとにかく学ぶ】猫の特発性膀胱炎(FIC)の内科治療

猫の特発性膀胱炎

この記事の内容

  • 猫の特発性膀胱炎とは
  • 診断方法
  • 様々な内科治療
  • まとめ

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。

この記事では、猫の特発性膀胱炎に関する内科治療について、以下のレビューを参考にして書いています。猫の尿道閉塞で来院した患者さんが、尿道狭窄にFICが合併が診断され、自分が担当したのですが、治療に大変苦労しました。これがFIC治療について学ぶきっかけとなり、案外知らない方法もあるんだなと思ったのでこの記事にまとめてみようと思いました。

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元の記事を読めばより理解を深められるはずですので、余裕のある方はチャレンジしてみてください。

Feline Idiopathic Cystitis

猫の特発性膀胱炎とは

猫の特発性膀胱炎は英語でFeline Idiopathic cystitis =FICと言われています。原因不明の膀胱炎の総称です。

FICの原因として考えられているのは、環境因子、ストレス、膀胱の神経線維の異常、副腎機能などですが、いまだに明らかなメカニズムは解明されていません。さらに、他の臓器の病気、例えば胃腸障害、吸気障害、皮膚、中枢神経障害、免疫機能などとの関連性も示唆されるようになったことから、“Pandora syndrome.”というタームが用いられるようになりました。

FICはLower Urinary Tract (LUT) signの原因の一つで、結果として尿道閉塞を生じます。FICを理解する意義とは、猫の下部尿路疾患の鑑別診断に必ず挙がってくるという点です。

例えば、頻尿、血尿でトイレでしんどそうにしている猫ちゃん。もしくは、尿道閉塞に苦しむ猫ちゃん。安定化の後の、尿検査、尿培養、画像検査にてなんの異常も出てこなかったとき。抗生剤でもない、膀胱切開と言った外科的介入でもない、いやいや、どう治療したらいいんじゃい。ってなりますよね。何の検査にも引っかからないのに、しんどそうにしている。これぞ「特発性」という分類に当てはめ、ブラックボックスに入れられることになります。

幸い、このブラックボックスでどうしたら良いか悩んでいるのは、他の獣医さん方も同じです。このブラックボックスを解き明かすための研究や、これに対する対処法が様々な角度から研究されているのです。

ちなみにFICは、尿道閉塞がない場合は治療なしでも1-7日で自然治癒すると言われています。しかし、65%で1-2年以内に再発が見られrます。15%ほどのFICは慢性化し、数週間や数ヶ月症状が続きます。

診断方法

FICの診断は除外診断になります。他の臓器の病気で「特発性」と呼ばれるものと同様です。例えば、「特発性てんかん」では代謝的な異常やMRIで脳の器質的な異常がないにもかかわらず発作が起こります。「特発性乳び鏡」では心臓や循環に異常がないにもかかわらず乳びが産生される状態です。

これと同様、FICは、膀胱結石、膀胱腫瘍、尿感染などの明らかな原因がないにもかかわらず、膀胱炎症状を示す病態です。よって、除外診断で行うべき項目としては、

  • 尿検査
  • 尿培養(細菌感染の除外)
  • レントゲン検査(結石の除外)
  • 腹部超音波検査(レントゲンに写らない石の検出や膀胱腫瘍、ポリープなどの検出)

になります。また、Pandora syndromeと呼ぶには、以下の項目を満たす必要があります。

  • 下部尿路の臨床症状と他の臓器異常
  • ストレス因子によって間欠的に現れる臨床症状
  • 環境の改善に反応する臨床症状

様々な内科治療

さて、本題の内科治療に移ります。

初めにお話ししたように、私は基本的に重症患者に対する救急集中治療を専門として働いているため、長期的な内科管理にはそこまで精通していません。なのになぜこのテーマで記事を書いているかというと、尿道閉塞で来院した猫ちゃんの管理でどうしてもFICを入院中に改善させる必要があったため勉強したのです。その猫ちゃんについて、簡潔にいうと尿道近位で狭窄があり、FICによって尿道閉塞を繰り返していたのです。尿道狭窄の位置から、FICの内科治療で尿道閉塞が再発しないようにしてあげなければ、手術やステント治療といった超高額かつリスクの高い治療に進む必要性があったからです。

  1. ストレス因子の排除
  2. 猫のフェロモン剤
  3. サプリメント
  4. ウェットフードで水分摂取量を増やす
  5. 猫の下部尿路疾患用のフードに変更する
  6. グリコサミノグリカン
  7. 痛み止め(ブプレノルフィンやNSAIDs)

猫のフェロモン剤

フェリウェイは代表的な猫のフェロモン剤です。個体差があるようなので、エビデンスレベルとしては十分ではありませんが、害になるものではなさそうなので試してみる価値はあると思います。

サプリメント

L-トリプトファン(12.5mg/kg) +/-  α-カソゼピン(15mg/kg)

ウシのミルクに含まれる成分がヒトやネズミのストレスや不安を取り除くということがわかっています。明確な機序はわかっていませんが、Milk protein hydrolysateが関与しています。この成分(α-カセゾピン)が商品化されたものがジルケーンになります。

ジルケーンはアメリカではたくさんのワンちゃんや猫ちゃんが、分離不安や興奮を抑制するために常用しているサプリメントです。カプセルですが、開けてご飯に振りかけても使用できるので簡単に投薬できます。

ウェットフード

水分摂取量を増加させることで、原因となる膀胱炎物質を希釈する効果を期待した治療です。重要なのは、急な食事の変化がストレスにならないように、可能であればという点と、徐々にフードを切り替えるという点です。

食事の変更を考慮する場合は、どんなウェットフードに切り替えるかもこの記事を最後まで読んで検討してみてください。

猫の下部尿路疾患用のフードに変更する

下部尿路疾患用のフードのメリットは大きいのではないかと思います。

以下のテーブルは、ヒルズのc/d multicareと市販のフードの成分を比較したものになります。

タンパク、カルシウム、リン、マグネシウムは尿結石やクリスタルを産生しやすいため、少ない方がよく、また、ビタミンE、オメガ3 EPAやDHAなどの抗酸化物質の含有量が多いフードの長期的な摂取が推奨されていることから、c/dなどのフードへの変更も治療の一つとして挙げられています。

猫の尿路ケアフードと一般食の栄養比較表

グリコサミノグリカン

グリコサミノグリカン(GAG)は、膀胱の上皮細胞をカバーする層で、病原因子から保護する機能がある可能性が示唆されています。

人では、尿道カテーテルから膀胱内への直接のGAGの投与が間質性膀胱炎に効果がある可能性が示唆されています。猫へのグリコサミノグリカンの膀胱内投与に関するエビデンスはしっかりしたものではありません。しかし、近年、膀胱内に直接注入するタイプの薬がアメリカでは発売されています。

GAG製剤

JFMSのIntravesical glycosaminoglycans for obstructive feline idiopathic cystitis

パイロットスタディではありますが、論文があります。FICによる尿道閉塞を示した猫の7日以内の再発率を、プラセボvs A-CYSTの膀胱内への注入した群で比較したものです。3/7のプラセボ猫で7日以内に尿道閉塞を再発。A-CYSTを注入された猫9頭では7日以内の尿道閉塞再発率は0といった結果になりました。

パイロットスタディなので、まだエビデンスが十分とは言えませんが、絶望的な患者さんには試してみる価値はあるかもしれません。

ちなみに、GAGの経口投与の実験もいくつかありますが、GAGの血中濃度は上昇しても、尿中濃度が上がらないという点から明確な有用性は示されていません。

痛み止め

特発性膀胱炎に対するNSAIDs使用の臨床研究はありません。しかし、多くの病院で経験的に使用されていることは間違いありません。

痛みを止めてあげることでストレスも減少する可能性が高いので、痛み止めの使用は推奨されています。

NSAIDsの使用は注意が必要で、水和状態や腎臓数値に問題がない場合、またステロイドの投与などが数日以内にない場合に限り使用を検討してください。

まとめ

FICの治療は非常にチャレンジングです。理由としては、そもそも原因がわかっていないから。そして原因がわかっていないものに手探りで治療法を探している形だから。です。

やれる限りの治療をしたいという場合は、まずは環境の改善から。そして害のない程度に上記の内科治療を試してみるようにしてください。

参考文献

  1. Allison M Bradley, Michael R Lappin. Intravesical glycosaminoglycans for obstructive feline idiopathic cystitis: a pilot study. J Feline Med Surg. 2014 Jun;16(6):504-6.

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みけ
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