この記事の内容
- 喉頭麻痺とは
- エマージェンシーでの対応
- エマージェンシーでのゴール
- 喉頭麻痺の手術
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。これまでに喉頭麻痺を患う患者さんをたくさんみてきました。
喉頭麻痺によって呼吸がうまくできず、残念ながら亡くなってしまうわんちゃんも少なくありません。この記事では、救急病院で動物たちの命を救うために、緊急事態にどんな措置が行われるかについてご紹介します。
この記事の内容は、「短頭種の呼吸に関するエマージェンシー」とほとんど同じになります。上部気道閉塞の緊急対応のゴールは、原因疾患がなんであれまずは肺に酸素を送り込む、というところにあるからです。
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喉頭麻痺とは
上部気道閉塞とは、鼻から入った空気が肺までうまく到達できず、結果として体内で酸素が欠乏してしまう病態です。喉頭麻痺とは、気管の入り口である喉頭の動きが麻痺することで、空気を肺側まで送り込むことができなくなり、結果的に低酸素を引き起こしてしまう病気です。詳しい病態に関してはこちらの記事を参考にしてください。
上部気道閉塞が起こった場合、呼吸はストライダーといって、上部の気道の狭窄によって生ずるヒー・ヒーといった比較的高音で耳に近く聞こえる喘鳴音が生じます。
エマージェンシーでの対応
エマージェンシーに上部気道閉塞の患者さんがきた場合、病院ではどのような処置が行われるかご紹介して行きます。本当に最初の最初にすることは以下の3つになります。これと同時に、瞬時に上部気道閉塞であることを判断し、次のステップに進みます。
- 酸素供給
- 鎮静
- 冷却
酸素をすぐにかがせますが、いくら外から酸素を送ったところで肺に届かないと意味がないですので、気道を確保するための次のステップが必須になります。
興奮によって、呼吸が早くなると喉が炎症を起こし、腫れます。喉が腫れるとさらに気道が狭くなるという悪循環があるので、興奮を抑えるために鎮静剤を投与します。
上部気道閉塞によって、体内の熱が呼吸によって蒸散されないと、熱がこもってしまい熱中症になる恐れがあります。体温が高い場合は直ちに冷却を行います。
次のステップのゴールは「肺に空気を届けること」になります。上部気道に問題がある場合は以下の方法で空気を肺へ届けます。
- 気管チューブ挿管
- 鼻気管チューブ設置
- 気管穿刺
- 気管切開チューブ挿管
気管チューブ
気管チューブは、口から喉頭を通って気管まで到達するチューブです。メリットはメスで組織を切る必要がないのでもっとも簡単な方法になります。デメリットは、気管チューブによる喉の刺激によって、喉がさらに腫れる可能性があります。一度患者さんが落ち着いたら、なるべく早くチューブを抜く必要があります。
軟口蓋が長い、喉頭が腫れている、などで気管チューブが挿管できない場合は、次の方法で気道を確保します。
鼻気管チューブ設置
鼻気管チューブ設置は、鼻から細めの管を気管まで通して気道を確保する方法です。患者さんが完全に寝ていないと、設置が難しいので、第一や第二選択にはなりません。落ち着いた患者さんの気管チューブを抜く時に、念のため設置しておくといった用途になります。
気管穿刺
気管に針を刺します。針穴から換気を行うことになります。穴が小さすぎるようにも見えますが、太めの留置針を刺しておけば、十分換気は行われます。
長期的な管理はできないため、一時凌ぎとして穿刺を行った後に、落ち着いて気管挿管や気管切開などに進みます。
気管切開/気管切開チューブ挿管
気管切開とは、メスで皮膚と気管を切って穴を開けることです。穴を開けた後には、気管切開チューブと言って、直接気管に差し込める管を通します。
侵襲性が高く、合併症も起こりやすいため、この処置は最後の手段になります。
エマージェンシーでのゴール
ゴールは2つです。
- 設置したデバイスをなるべく早く抜く
- 患者さんが目を覚ましても呼吸状態が悪化しない
上記の処置は、鎮静をかけて眠ってもらっている状態で行っています。大体の場合、興奮が落ち着き、喉の腫れが引くと自分で呼吸ができるようになるので、設置したデバイスをなるべく早く抜きます。なるべく早く抜きたい理由は、デバイスによる気道の刺激によって、炎症/腫れが生じ気道がさらに狭くなる可能性があるからです。
目を覚ますと、病院でパニックを起こす患者さんも少なくないので、ある程度は鎮静によって眠っていてもらいます。目が覚めても呼吸が悪化しなければ退院となります。
設置したデバイスを抜くと症状が悪化し、管を抜けない場合は、そのまま手術が必要になることもあります。その場合に必要になる手術を以下で説明します。
喉頭麻痺の手術
喉頭麻痺の手術の主流は「タイバック」と言われる手術になります。
タイバックとは、喉頭を形成する軟骨の一部を別の軟骨と結び合わせ、気道の邪魔をしている部分を外向きに固定する手術になります。これらによって、必要に応じて気道をなるべく広げてあげてから覚醒をすることもあります。大体が内科治療で回復するので、エマージェンシーで緊急手術になることはあまり多くはありません。しかし、どうしても設置した管が抜けない場合(目を覚ますと呼吸が速くなる場合)などは検討する必要があります。
詳しい手術方法についてはこちらを参照してください。
まとめ
- 上部気道閉塞とは、空気が鼻、喉、気管を通ってうまく肺まで到達しない状態
- エマージェンシーでは、とにかく空気を肺に送り込むための安定化が行われる
- 気管までのアプローチには様々な方法がある
- 緊急的な外科手術が必要になる場合もある
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