この記事の内容
- 猫の尿道閉塞とは
- 初期安定化
- 尿道閉塞後の内科治療
- 猫の尿道閉塞解除後の治療オプション
- 会陰尿道瘻形成術とは
- 会陰尿道瘻形成術に進むタイミング
- 役立つ英単語
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。この記事では、様々な猫の尿道閉塞についてご紹介します。尿路に何が起こっているか、どんな治療オプションにがあるかを図を用いてわかりやすく解説していきます。アメリカでご自身のペットにそのようなことが起こった時に、活用していただけたら幸いです。
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尿道閉塞とは
尿道とは膀胱と外界を繋ぐ管のことです。腎臓でつくられた尿を膀胱から外界に排泄する機能を持ちます。
オスとメスでは尿路の解剖が異なります。それについてはこちらのページでまとめたのでご参照ください。
オスの尿道はメス猫の尿道に比べ、細くて湾曲しています。よって、尿道閉塞のリスクがメス猫よりも高くなります。
尿道が閉塞する原因は様々ですが、圧倒的に多いのは、尿道結石と尿道栓子(プラグ)です。尿路閉塞に関して、こちらで詳しく説明しているので、この記事では端折ります。
初期安定化
- 不整脈の治療
- K (カリウム=potassium)を下げる治療
- 膀胱穿刺
尿道閉塞は、原因が何であれ尿道の閉塞を解くことが治療のゴールとなります。しかし病態が進行しすぎていると、不整脈でなくなってしまう可能性があります。なので、まずは処置を安全に行えるように安定化をする必要があります。
不整脈の原因となる物質はバナナなどに多く含まれる、K(カリウム=pottasium)という電解質になります。カリウムは、血液中に多すぎても少なすぎても致命的になる物質です。本来は尿として排泄されなければならないところ、尿道が閉塞してしまうことで、体内に蓄積してしまいます。
カリウムが高くなりすぎると、不整脈が出ます。細かくいうと、徐脈(心拍数が遅くなる)になり、血圧が低下して循環が保たれなくなります。よって、不整脈とカリウムをコントロールする内科治療が一番に必要になります。
膀胱穿刺
パンパンな膀胱はお腹の中でいつ破裂してしまうかわかりません。不整脈の治療と同時に、とにかく膀胱を萎ませてあげる処置を行います。
膀胱穿刺とは、お腹の皮膚から膀胱に針を進め、貯留した尿をいったん抜き取る救命処置になります。原因である尿道閉塞が解除されない限り、また尿が溜まってしまうので、膀胱穿刺は次のステップまでの時間稼ぎとして利用されます。
尿路の確保、という意味での次のステップは、尿道カテーテルの設置になります。尿道カテーテルとは、その名の通り、尿道に管を通し、膀胱から外界を直接人工的な管です。このカテーテルをバッグに繋いでおくことで、持続的に膀胱を空にすることができます。
尿道に石やプラグが詰まっている場合、カテーテルから生理食塩水を注入し、水圧をかけて閉塞物をフラッシュしながら膀胱まで進めていきます。バルーンカテーテルと言って、先端が膨らむタイプのカテーテルが主流になっています。カテーテルの先端が膀胱まで挿入されてからバルーンを膨らませることで、カテーテルが抜け落ちてしまうリスクを防ぎます。
この尿道カテーテルを留置することで、大体3-4日間ほどかけて、炎症で腫れ上がってしまった尿道を休める働きがあります。
ここまできたら再び尿毒症になる心配はありません。尿路が確保されたら、尿道閉塞の原因がなんだったかの診断に移ります。そして、原因に応じた治療法を選択していきます。
尿道閉塞後の内科治療
重症度にもよりますが、尿道閉塞が起こった猫ちゃんは、解除後入院管理が必要になります。
尿道閉塞で臨床症状が出るほど進行した場合、「閉塞解除後利尿」と言った現象が起こります。これは、尿道や尿管が閉塞していた時間が長いほど、閉塞が解除された後に利尿がかかり、すごい量の尿が産生されるという現象です。
通常の5-10倍、もしくはそれ以上の尿が産生されます。ここで気をつけなければいけないのは、尿道閉塞を解除した後にすぐに退院して、いつもと同じ量の飲水をした場合、重度の脱水、ミネラルバランスの異常が生じるということです。
せっかく尿道閉塞が解除されたのに、脱水やミネラルバランスの異常でまた具合が悪くなっては元も子もないですね。
よって、尿道閉塞解除後は数日間、入院をして、尿量に合わせた点滴やミネラルの補充が必要になります。
猫の尿道閉塞解除後の治療オプション
- 膀胱切開
- 内科治療
- 会陰尿道瘻形成術
なぜ尿道閉塞が起こったか、がレントゲンや超音波検査によって判明したら、原因治療に進みます。
膀胱切開(原因が結石の場合)
結石の場合、カテーテルを通した時点で結石は膀胱内に落ちているはずなので、膀胱結石の治療をすればいいということになります。
結石の性質(ストルバイト)によっては、食事療法で溶けてくれます。しかし、結石が膀胱内にある限り、尿道閉塞が再び起こる可能性があります。
一度結石で閉塞を起こした場合は、また同じように尿道が結石によって閉塞する可能性があります。閉塞が解除されている限り緊急手術は必要ありませんが、速やかな手術計画を建てることが推奨されます。
手術は至ってシンプルで、お腹、膀胱を切開(メスで切る)して全ての結石を取り除き、切った膀胱とお腹を閉める、というものです。
ここで重要になってくるのは、一度結石ができる猫ちゃんは、残念ながら何もしないとまたできてしまします。なので、手術と合わせて、その後の結石予防(食事療法)が非常に重要になります。
内科治療(膀胱炎が原因の場合)
尿道栓子とは、結石になる一歩手前の結晶や炎症細胞、膀胱の上皮細胞が剥がれ落ちたカスが集積して、細い尿道に栓を形成してしまうことです。太い尿道を持ったメス猫では栓子による閉塞はかなり稀です。
結晶に対する治療
結晶に対する治療は、食事療法になります。どんな性質の結晶かによって、与えるべき食事が異なります。
食事療法を行う際の注意点としては、療法食の徹底です。療法食は、マグネシウムやカルシウムなどの結晶の成分となる要素をできる限り減らして作られています。なのでオヤツを与えたりすることでそれらの成分を補ってしまうと、全く療法食の効果はなくなります。
食事によっては、結石を溶かすために一時的に与えるべき療法食もあります。結石が溶けたら維持食に戻す必要がある場合もありますので、獣医さんとしっかり相談した上で食事の管理を行ってください。
炎症細胞に対する治療
炎症細胞が増加する原因として、感染、結石や無菌性膀胱炎が挙げられます。
アメリカでは、FLUTDというアブリビエーションが一般的に使われており、Feline lower urinary tract diseaseの略です。これは猫の下部尿路疾患を総称する言葉で、特発性膀胱炎、感染性膀胱炎、膀胱結石、腫瘍などが含まれます。
感染性の膀胱炎というのは、尿の中で細菌が繁殖していることです。もしも細菌感染が悪さをしていた場合、内科治療の適応になります。まず抗生剤によって、菌を除去し、膀胱炎を落ち着けることが最優先となります。
結石がある場合には、食事療法、もしくは外科的摘出が必要です。
FLUTDの中でも、オス猫で最も多いとされているのが、特発性膀胱炎です。特発性膀胱炎とは、明らかな原因(結石や尿感染など)が検出されないのにもかかわらず、膀胱炎の症状(血尿や頻尿)を生じる病態です。ストレスや環境因子が原因と考えられています。
炎症細胞や膀胱粘膜の細胞が剥がれ落ちプラグを形成し、尿道閉塞を引き起こす可能性があります。いかなるストレスをなくし、頻繁な飲水、排尿を促す、といった予防方法が挙げられます。
残念ながら、うまく治療に反応しない場合、何度も尿道閉塞を繰り返してしまいます。
猫の排尿異常は、飼い主さんにとってもみていて辛いものがあると思います。さらに、閉塞を繰り返し、病院に何度も緊急でいかなければならないとなると、みんなにとってストレスになります。
そこで、再発リスクを格段に減らす唯一の手段としては、「会陰尿道瘻形成術」という手術があります。
細い尿道を切り取る手術、会陰尿道瘻形成術(PU surgery)
以下の図のように、手術で解剖学的に細い部分の尿道と陰茎を切り取って、太い尿道部と会陰をつなげると言った手術になります。perineal urethrostomy surgeryの略で、PU surgeryとよく呼ばれます。
尿道カテーテルが設置不可能だった場合、膀胱穿刺で尿を抜いて、そのまま会陰尿道瘻形成術の手術が必要になることもあります。
長くなってきたので、会陰尿道瘻形成術の話から、【アメリカでペットと暮らす方へ】猫の尿道閉塞を図でわかりやすく解説②につなぎます。
役立つ英単語
- urinary tract: 尿路
- urethra: 尿道
- obstruction: 閉塞
- urethral obstruction: 尿道閉塞
- struvite: ストラバイト
- calcium oxalate: シュウ酸カルシウム
- crystal: 結晶
- plug: 栓子
- cast: カス
- cancer/tumor/neoplasia: 腫瘍
- clot: 血の塊
- inflammation: 炎症
- bacteria: 細菌
- bacterial infection: 細菌感染
- stabilization: 安定化
- arrhythmia: 不整脈
- bradycardia: 徐脈
- antiarrhythmic medication: 抗不整脈薬
- potassium: カリウム
- cystocentesis: 膀胱穿刺
- urinary catheter: 尿カテーテル
- urethral catheter: 尿道カテーテル
- ultrasound guide: 超音波下で
- perineum: 会陰
- perineal urethrostomy surgery (PU surgery): 会陰尿道瘻形成術
発音がトリッキーな単語を以下に載せたのでご活用ください。
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