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イラストで学ぶ生理学と病気

血漿交換(TPE: Therapeutic plasma exchange)とは/アメリカ獣医レジデント備忘録

はじめに

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。

この記事では、重度高ビリルビン血症に対して、手動で血漿交換を行った例についてご紹介します。血漿交換とは何か?という基本的なところからイラストを用いてわかりやすく解説します。

血漿交換とは

血漿交換とは、血漿中の大きな分子の物質を取り除きたい時に、患者の血漿を取り除いて、ドナーの血漿で置換する治療です。

様々な方法がありますが、基本的な原理は、患者さんの血液を脱血、赤血球と血漿成分に分離します。そして、取り除きたい物質が含まれる血漿成分を処分し、赤血球を患者さんに戻します。患者さんから血漿成分を抜き取るので、抜き取った分の血漿をドナーの血漿を輸血することで補います。

血液浄化に関してはこの記事で詳しく説明しています。興味のある方はこちらもあわせてご覧ください。

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二種類の血漿交換方法

血漿交換の方法は主に機械を用いたものと、手動の大きく二つに分けられます。さらに、機械を用いる場合は、フィルター法と遠心法があります。

機械を用いた血漿交換の原理

目的は患者さんの血漿を取り除き、ドナーの血漿で置換するということになります。

特殊な機械(CRRT)と患者さんの中心静脈カテーテルをつないで体外循環を行うことで、血漿交換を行うことができます。

機械を用いた方法では、患者さんの頸静脈から透析用のカテーテル(太くて、ダブルルーメンになっているもの)を設置します。ダブルルーメンになっている片方は脱血用、もう片方は返血用です。脱血された血液は機械を通り、血液成分が分離され、返血されます。

機械を使うと、圧倒的に少ない労力で、さらに短時間で処置を行うことができます。欠点としては、特殊な機械が必要なこと、部分的に体外循環を行うことになるので、小さい患者さんでは大量の血液が体外に出ていくことが致命的なリスクになりかねないということです。

機械を用いた血漿交換に関してはこちらの記事もご参照ください【リンク】

手動血漿交換

小型犬や猫の場合、安全に血漿交換を行うには手動血症交換が勧められます。上に記したように、機械と患者さんを繋ぐ、ラインを満たすための血液は患者さんの体外へと運び込まれることになります。よって、小さい患者さんから大量の血液を抜かざるを得なくなり、血行動態が不安定になます。

この改善策として用いられるのが、手動血漿交換です。この方法では、特殊な機械を用いません。太めのサンプリングライン(中心静脈ライン)を設置し、シリンジで血液を抜去し、手動で遠心分離し、血球成分を患者さんに戻し、血漿成分を廃棄します。

血漿交換のプロセス

簡単に具体的なプロセスを説明すると、以下の通りになります。
(※下記画像を添付)

  1. 患者の血液を15ml/kgほど(患者さんのコンディションに合わせて)抜く
  2. 遠心機で血球と血漿を分離する
  3. 血球は、患者に戻し(濃厚赤血球自己輸血)、血漿を捨てる
  4. 捨てた分の血漿をドナーの血漿で補う(血漿輸血)
  5. ①〜④の工程を繰り返す

最終的には、治療ターゲットとなる量の血漿が交換されるまで繰り返します。

手動血漿交換は、教科書に典型的な方法が載っているわけではなく、ゴールドスタンダードな手法がありません。そのため細かい部分は文献をかき集めながら行わなければならないのが現状です。

case reportには手技が詳細に書いてあることが多いので、いくつか参考にしながら私の症例に当てはめて治療計画を立てました。

このとき役立ったのは、以前読んでまとめていたcase reportでした。自分で症例をみた時のイメージをしながら、処方方法を確認していたため、いざ症例がきた時にすぐに記憶が引き出せるようになっていました。

症例紹介

10歳、去勢オス、ヨークシャテリア。重度の膵炎に伴う胆管閉塞によってビリルビンが45まで上がった症例で、高ビリルビン血症による神経症状(ビリルビン25以上で高いリスク)を防ぐために血漿交換を行うことになった症例です。

ビリルビン血症による神経症状は、核黄疸と呼ばれ、人医療では一般的に認識されている病態になります。高ビリルビン血症によって、不可逆的な脳損傷が生じる可能性があるため、緊急的にビリルビン濃度を下げることが推奨されています。

体重8kgのヨークシャテリアと、比較的小型の犬として(アメリカでは)カテゴリーされるサイズでした。10kg以下では、機械を用いた血漿交換が勧められないため、マニュアルで行うことになりました。

体重及び、手技直前のPCV, TPを元にどのくらいのセッションを何回行うかを計算します。そして、しっかりと血行動態をモニターしながら脱血、分離、赤血球の返血を繰り返します。

最終的に、大きな合併症はなく無事終了し、翌日にはビリルビンが10まで下がってくれました。もしかしたら単純に胆管閉塞が解除されただけである可能性もありますが、治療が奏功し、こういった経験ができたことで、大きな自信にもつながりました。

プロトコール作成

血漿交換を行うにあたって、処方と実際の手順の両方の説明が必要になります。

処方とは、血漿交換を合計何ml(全血漿当たり何%)を行うか、一度に何mlの脱血で何回行うか、そして輸血と輸液のプラン立てになります。体重10kg、ヘマトクリット30%の患者さんに対する処方の例が以下になります。

新しい手技に関しては、常に同僚及び看護師さんとの共通の理解が必要になります。そのため、プロトコールを作成しておくことで、自分もすぐに記憶からよび起こせるだけでなく、看護師さんの協力を得られやすくなります。

このように写真を盛り込んだ図説が、初めての人でもイメージしやすくなると思います。

血液分離、返血

おわりに

この記事では、血漿交換の基礎的な原理を解説し、実際の症例をご紹介しました。近年では、血漿交換に関連する論文がたくさん出てきています。適応を見極めることと、詳細な手順を確認した上で、患者さんごとに適応させると、治療の幅が広がるはずです。

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