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イラストで学ぶ生理学と病気

犬猫の下部気道疾患のエマージェンシー/わかれば怖くない呼吸器疾患

はじめに

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。

この記事では、犬猫の下部気道疾患の緊急対応について解説します。呼吸器疾患の救急症例の診察は、常に生死に関わる、緊張感の走るものとなります。この記事をしっかり理解して要所を押さえれば緊急疾患の診察も怖くない事をお伝えします。

下部気道疾患とは

下部気道疾患とは、気管支や細気管支を中心とした病気の総称です。犬猫では、犬で慢性気管支炎、猫で猫喘息といった病気が代表的です。

エマージェンシーのバイブルでもあるSilversteinの教科書(Small animal emergency and critical care)では、この病気を、アレルギー性気道疾患と総称して一つのチャプターとして解説しています。

  1. 寄生虫性アレルギー性気道疾患
  2. アレルギー性気管支炎(好酸球性気管支肺炎)
  3. 猫喘息
  4. 好酸球浸潤性肺疾患(好酸球性の炎症を伴う気管支肺炎の総称)

下部気道疾患には様々な種類の病気が含まれます。その中で多少の違いはあれど、臨床症状、緊急時の対処法、そして確定診断に必要な検査が類似していることから、呼吸器を11つのカテゴリーにわけて考える際に一括りにしています。

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病態

気管支炎の原因が何であれ、結果として生じる事は、気管支の狭窄です。

正常であれば、胸腔内の陰圧によって空気が肺胞内に流れ込み、陽圧によって空気が肺胞から押し出されます。

気管支の狭窄によって、胸腔の陰圧の際に空気は肺胞に流れ込むことはできるけれども、胸腔が陽圧のときに空気が肺胞にトラップされやすくなります。

呼吸様式

病態から考えると、どのような身体検査が認められるか想像がつきます。気管支(空気が肺胞から出るための出口)が炎症によって狭くなる事で、呼気に問題が起こります。

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下部気道疾患の急性増悪の原因

下部気道疾患は、慢性経過(2ヶ月以上)を辿る事が一般的です。しかし、ときにエマージェンシーで運ばれてくる事も稀ではありません。

どのようなきっかけで、下部気道疾患が急性増悪して、患者さんの命を脅かす状態になるのでしょうか。

  1. 気道の虚脱
  2. 粘液による気道閉塞
  3. 気管支拡張
  4. 感染(呼吸器の感染、全身性の感染)
  5. 肺高血圧症
  6. 肥満

気道の虚脱

下部気道疾患と、気道の虚脱の明らかな関連性は証明されていませんが、慢性気管支炎による気管軟骨や平滑筋の”ヘタリ”が原因だと考えられています。

逆に、下部気道の虚脱によって慢性気管支炎が問題になるとも考えられています。

慢性気管支炎の患者さんの緊急事、気道の虚脱の併発が疑われた場合、気管支拡張剤は推奨されません。なぜなら、気道が虚脱している場合、さらなる気管支平滑筋の弛緩は逆効果と考えられるからです。

粘液による気道閉塞

気管支炎によって、粘液産生が亢進し、気道を閉塞するとVQミスマッチが生じます。(肺胞への血液流量と換気のバランスの乱れによる低酸素血症)

粘液の蓄積による急性増悪のため、粘液の粘度を高めるような薬、例えば利尿薬やアトロピンの使用は中止します。そして、逆に粘液を希釈するようにネブライザーを行い、喀痰しやすいようにサポートします。

気管支拡張

気管支拡張は慢性気管支炎の結果、気道壁の破壊によって生じます。これによって、粘液が気管支に蓄積しやすくなり、再発性の感染が起こります。

粘液による気道閉塞と同様、粘液を排出しやすくするサポートが重要です。

感染(呼吸器の感染、全身感染)

気管支炎は喉頭の異常が併発しやすいと言われています。その結果、誤嚥するリスクが高まり、誤嚥性肺炎を併発します。誤嚥性肺炎が疑われた場合は、抗生剤の使用、そして酸の化学的刺激による気管支収縮は、気管支拡張薬によって和らげられると考えられています。

慢性気管支炎を患う患者さんの多くは、ステロイドの長期投与をされている事が多く、全身感染のリスクが高まります。早期の同定、抗生剤の使用が推奨されます。

肺高血圧症

慢性気管支炎を患う患者さんは、慢性的な低酸素血症によって肺動脈の高血圧を伴いやすいです。失神は肺高血圧の一般的な症状です。心エコーによって、肺高血圧を診断する必要があります。

治療は、酸素の供給および、重度な場合はシルデナフィルを投与します。

肥満

ステロイドの長期投与により、体重の増加が起こりやすくなります。気管支炎に加え、肥満による換気不全が生じると、慢性的な高CO2血症が起こります。これにより、脳での血中CO2濃度による換気刺激センサーの感度が弱くなります。

人では、慢性的な高CO2血症の患者さんに高濃度の酸素を供給することで、患者さんの換気コントロールシステムが完全に止まり、患者さんの呼吸が停止する、と言われています。獣医療では一般的には見られませんが、このような可能性も考慮して、供給するFiOには注意が必要です。

患者さんの呼吸が停止した場合は、気管挿管、人工換気が必要になります。

下部気道疾患が急性増悪したときの一般的な対処法

下部気道疾患が急性増悪したときの一般的な対処法は、以下の5つが含まれます。なぜ急性増悪をしたかを考え、それによって治療法を選択する事が重要です。

  1. 酸素供給
  2. 鎮静(興奮を抑制)
  3. 抗生剤の投与
  4. 気道に対する治療(ネブライザーなど)
  5. 抗炎症薬

まとめ

この記事では、下部気道疾患が急性増悪する原因とその対処法についてご紹介しました。典型的な急性増悪の可能性を知っておく事で、緊急時に素早い対応ができるようになります。

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みけ
スキマ時間にどうぶつの救急&集中治療のお勉強🐾 動物看護師さんに優しく、分かりやすく学んでもらう! をモットーに活動中😺 (もちろん獣医さんもウェルカムです😸) ためになる知識を発信していきます! アメリカ獣医 救急集中治療専門医レジデント🇺🇸 <詳しいプロフィールは、こちら> <お問い合わせは、こちら