はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。
2022年でアメリカ大学病院生活3年目になります。レジデント生活が2022年7月後半に始まり、もう1ヶ月が経とうとしています。レジデントとしての生活を記録に残したいと思い、今回からシリーズで記事を書くことにしました。
題して、『36ヶ月後にECC専門医になる私‼︎』です。
レジデントプログラムでどの様なトレーニングができるか興味のある方が対象になります。主な内容は、専門医になるための日々のトレーニングをご紹介するものです。アメリカの教育システム、研修医ならではの生活、そして日々学んだこと等を中心にご紹介していきます。
ダイジェスト形式で載せていくので、興味があればリンクから記事をご覧ください。
ECCレジデントプログラムの内容
ECCのレジデントは3年間の研修医プログラムになります。3年間のうちに、ACVECCというアメリカのECC協会が決めた水準に満たすようなトレーニングを受けます。そして3年後の試験に合格すれば晴れて専門医の資格を獲得することができます。
3年間のレジデント活動内容を、分類すると大きく3つに分けることができます。
大学病院の仕事
日々の診察(ERやCritical Care)で、飼い主さんと話したり、インターンや学生に教育をすることが含まれます。そして専門医であるファカルティと毎日ディスカッションをします。
専門医試験を受けるために必要な要件
ECCのレジデントは3年間の研修医プログラムになります。3年間のうちに、ACVECC(American College of Veterinary Emergency and Critical Care)というアメリカのECC協会が決めた水準に満たすようなトレーニングを受けます。その水準を満たすことで、3年後の専門医試験で試験会場に着席できることになります。そして試験に合格すれば晴れて専門医の資格を獲得することができます。
症例から学ぶ
症例やプレゼンテーションのために、論文をあさったり教科書を読み知識を深める時間はレジデントをする中で非常に重要な時間です。日々の診察を振り返って、最新の知見をリサーチを日常的に行っています。
ここからは、最初の1ヶ月の進捗状況およびどんなことを学んだかをご紹介するダイジェストに移ります。リンクを貼っているので、興味のある内容はそちらの記事も併せてご覧ください。
2022年8月 主なレジデント活動内容
3つの活動内容に沿って、一ヶ月をダイジェストしていきます。
①大学病院の仕事
アメリカ獣医インターンとレジデントの違いとは
レジデントとして新生活が始まり、大学のシステムや臨床現場で一人でできることが増えた一方、求められることや責任が大きくなったと感じます。この記事では、インターン時代を振り返りながら、同じ研修医という立場のレジデントとインターンで、何が大きく異なるかをご紹介しています。
私は、自分の経験値を増やし、より良いECCの専門医を目指してインターンを2年行いました。2つの大学でインターン、そしてまた別の病院でのレジデント生活を経験していることから、それぞれのポジションの特徴を理解しています。最終的にはなんのゴールのために研修医というトレーニングを行うか、というところに焦点を当てて記事を書いていますので、興味のある方はご覧ください。
夜間オンコールの仕事
レジデントにはオンコールという、重大な役割があります。レジデントが始まり、すぐにこの役割が割り当てられました。
インターンの指導はレジデントの仕事です。インターンは学生を卒業して間もないことが多いので、右も左もわからないということが珍しくありません。アフターアワー(営業時間外)には、レジデントもファカルティも大学病院にはいませんので、どうしたらいいのかわからなくなった場合、オンコールの獣医師(レジデント)に連絡することができるのです。
この記事では、オンコールのシステムを解説しています。
②ECC専門医試験を受けるために必要な要項
Journal ClubとBook Club
専門医試験を受けるために必要な項目の中に、「セミナー」があります。1年間に100時間、専門医が開催するセミナーに参加したことを証明する必要があります。
セミナーには、Journal ClubやBook Clubなどが含まれます。
この記事では、私の大学のJournal ClubとBook Clubという週に一度行われる勉強会についてご紹介しています。アメリカ獣医大学の勉強会がどのようなものかに興味がある方はぜひみてみてください。
ローテーティング 麻酔科編
ACVECC(The American College of Veterinary Emergency and Critical Care いわゆる専門医を認定する協会)のリクアイアメントに、ECCだけでなく、他科をローテーティングしなければならないという要項があります。
ACVECCのプログラムに参加すると、個人のアカウントが設けられ、以下の様なトレーニングを記録していくことになります。ここでは、どの科でどのくらいの時間トレーニングをしなければならないかが書いてあります。3年間で2-6週間、内科、外科、麻酔科、循環器科、画像科、神経科、眼科で研修を行うことになります。
8月には、麻酔科にて2週間のローテーションを行ったので、その経験に関してもご紹介しています。
③症例から学んだこと
血漿交換(TPE: Therapeutic plasma exchange)とは
この記事では、手動で血漿交換を行った症例を紹介しています。10歳、去勢オス、ヨークシャテリア。重度の膵炎に伴う胆管閉塞によってビリルビンが45まで上がった症例で、高ビリルビン血症による神経症状(ビリルビン25以上で高いリスク)を防ぐために血漿交換を行うことになった症例です。
ビリルビン血症による神経症状は、核黄疸と呼ばれ、人医療では一般的に認識されている病態になります。高ビリルビン血症によって、不可逆的な脳損傷が生じる可能性があるため、緊急的にビリルビン濃度を下げることが推奨されています。
血漿交換の原理や適応について解説しています。
抗血栓薬に関するガイドライン(CURATIVE)とは
猫の大動脈血栓塞栓症の症例を診た時に、血栓溶解薬に対する日本の獣医さんとアメリカの獣医さんではアプローチが異なることに気がついたので、どんな既存のエビデンスがあるのかを調べた際にまとめたものになります。
獣医療では、2019年まで人医療の様に抗血栓薬に関するガイドラインがなく、血栓傾向である患者さんに対しては手探り状態で血栓予防をしていました。
そこで、クリティカリストや内科の専門医が集まり、既存の論文データベースをもとに薬の適応に関するコンセンサスとして作られたのがCURATIVEガイドラインになります。
壊死性筋膜炎(NF: Necrotizing fasciitis)
壊死性筋膜炎が疑われた症例をコンサルティングしたことから、壊死性筋膜炎に関しての情報をまとめました。
日本では診たことのない病気だったので、こんな恐ろしい病気があるのか、と勉強になりました。
急性呼吸促迫症候群(ARDS: Acute Respiratory Distress Syndrome)とは
ARDSが疑われた症例を2日連続で診たことから、ARDSの病態、定義、治療法に関してまとめるきっかけとなりました。この記事では、人医療のガイドラインの歴史や、獣医療への適応、そして私が診た症例に関しても紹介しています。
まとめ
2022年8月のダイジェストになります。ぜひこれらの記事をご覧ください。来月もお楽しみに!