はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。
この記事では、アメリカ獣医大学病院の救急集中治療科で働く看護師さんの仕事についてご紹介します。動物の救急集中治療科に興味がある方、アメリカの動物看護師さんの仕事の興味がある方が対象です。
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- 救急集中治療科(エマージェンシー科/ICU科)とは
- 救急集中治療科(エマージェンシー科/ICU科)で看護師さんができること
- エマージェンシー科で働く看護師さんのすごいところ
- 集中治療科で働く看護師さんのすごいところ
- その他の科で働く看護師さんの特別なスキル
- 麻酔科
- 循環器科
- 神経科
- 内科
- まとめ
救急集中治療科(エマージェンシー科/ICU科)とは
人間の病院で専門科があるのと同様に、小動物医療においても、専門科があります。
まず、救急集中治療科がどの様な科かをご紹介します。救急集中治療科は、エマージェンシー科とICU科に分かれます。
エマージェンシー科は、急に具合の悪くなった患者さんが予約なしに診察を受ける場所になります。人の救急患者さんの様に、数時間点滴をして帰れる場合もあれば、さらに入院検査が必要になる場合もあります。患者さんを外来として適切な治療を施してその日にお返しするか、入院検査に進むかを判断する、入り口と考えてもらえればわかりやすいでしょうか。
そして、ICU科は、入院患者さんのケアになります。24時間体制で患者さんをモニター、投薬などを行います。ゴールは、飼い主さんが安心しておうちで管理できる様な状態にまで患者さんを安定させることです。
どちらの科の患者さんも、重症症例であることが多く、常に急変のリスクがあります。日々緊張は走りますが、その分、患者さんを死の危険から助けることができたら、目の前で結果が見えるのでやりがいは大きいです。
救急集中治療科(エマージェンシー科/ICU科)で看護師さんができること
私は、この救急集中治療科で研修医をしているので、この科で働く看護師さんがどんなことをしているかをご紹介します。私の大学では、救急(エマージェンシー)科と集中治療(ICU)科が完全に分かれているので、テクニシャンも所属が分かれます。大学によっては、この二つの科の区別がない場合もあります。看護師さんに必要なスキルは似ていますが、以下にどの様な仕事をするかを具体的に説明します。
どちらの科の看護師さんも、静脈留置、サンプリングライン、中心静脈ライン、尿カテーテル、栄養カテーテルなどを入れるプロなので、獣医さんより上手にこなしてくれます。テクニシャンが様々なことができるので、いつも関心しています。
エマージェンシー科で働く看護師さんのすごいところ
エマージェンシーで働く看護師さんは、緊急で飛び込んできた患者さんの診察に携わるので、先を読む力が素晴らしいです。私が、点滴準備してください、とお願いする頃にはすでに準備ができていたり、留置をいれる時に指示をしていなくても血液を検査用に取っておいてくれたり、細かいことを言えばキリがないくらい、とにかく仕事が早いのです。
外来の患者さんをみるのが主な仕事になるので、見積もりの作成や、(血液検査などの)検査のリクエストなど、事務的な作業も必要になります。
最近のエマージェンシーの症例では、アナフィラキシーショックに陥って、昏睡状態で運ばれてきた患者さんを救うことができました。獣医師である私が司令塔として、静脈留置の設置、輸液のボーラス、輸血などをオーダーし、エマージェンシーのテクニシャンが私がお願いしたことを素早く効率よくこなしてくれ、獣医学生が患者さんのバイタルなどをモニター、投薬記録する、というチームプレーを発揮したことで、患者さんを救うことができました。
患者さんが明らかに元気になっていく姿を見て、3人のチームでハイタッチした時には、救急集中治療科ってなんてかっこいい科なんだ!!!と改めて感じました。そしてさらに嬉しいことに、翌日その患者さんを診ていた学生は、救急専門医に興味をもち、その道に進みたいと相談してくれたのです。
エマージェンシーは常にドラマがあり、学びがあり、本当に楽しい科です。
集中治療科で働く看護師さんのすごいところ
集中治療科で働くテクニシャンはICUの入院患者さんの看護(治療、投薬やバイタルを測定するなど)が主な仕事です。ICUの患者さんは24時間の看護体制でそして入院中の患者さんの変化に敏感に気がついてくれます。
急にお腹が痛そうにしている、昨日と比べて呼吸が速くなった、などという重要な変化にいち早く気がついてもらえると、獣医師としては非常に助かります。ICUで働く看護師さんは、病院で一番患者さんと過ごす時間が長く、言葉を喋れない患者さんの代弁者とした活躍してくれます。
その他の科で働く看護師さんの特別なスキル
麻酔科の看護師さん
例えば、麻酔科の看護師さんは、静脈留置、採血に加、麻酔導入、挿管、麻酔モニタリングや管理、抜管、覚醒、そしてベテランの看護師さんでは、動脈留置を入れたり、局所麻酔を行うこともできます。
麻酔科専門医が常にバックでいつでも助けられる様に準備をしてるので、最終的な決定や責任は常に麻酔科専門医のもとにあるので看護師さんも安心して働けます。
循環器科の看護師さん
循環器の看護師さんは、循環器専門医がエコーだけ当てれれば済む様に、他の検査、例えば血圧測定、ECG、レントゲン検査など全てを終わらせておくことができます。この様な有能なテクニシャンがいることで、専門医はエコーをする、血圧、ECG、レントゲン検査の総合評価をする、そして飼い主さんと話して処方を決めると言うことに専念できるのです。
神経科の看護師さん
神経科では、椎間板ヘルニアの症例がたくさん来ますが、リハビリの方法や、自宅での管理について飼い主さんに説明することができます。自宅管理の説明は時間をゆっくり取って飼い主さんとの距離を近づけられる看護師さんの方が適任です。患者個人間で自宅管理の方法に差はないため、一般的な情報を看護師さんに説明しておいてもらって、患者さん特有に説明しなくてはならない内容を獣医がカバーすることになります。
MRIの撮影や手術の予定を調節するのも看護師さんの仕事です。
内科の看護師さん
例えば、初めて糖尿病が診断された場合、飼い主さんはたくさんのことを習得しなければいけません。どうやってインスリンを投与するか、ご飯の管理や、低血糖の症状にいち早く気が付く、などです。
この様な飼い主さんの教育に関しては、内科の看護師さんの専門分野といっても過言ではありません。基本的な自宅管理はどの患者さんでも同じなので、この様な仕事をテクニシャンにお願いすることで、テクニシャンと飼い主さんとの信頼関係が築きやすくなります。獣医は、患者さんの状態に合わせたオーダーメイドの説明をテクニシャンの説明に加えて行う必要があります。それが獣医師の専門分野となるのです。
まとめ
この様に、専門の科に所属すると、「看護師さん」と一括りにできないほど、専門分野によって持っている知識やスキルが異なるのです。分業が進んでいるため、狭く深い知識となります。私は、アメリカ獣医大学でトレーニングをしている身なので、この様な環境はすごくありがたく、毎日が充実しています。
看護師さんが専門的なスキルを習得したら、もちろんその科も有能な看護師さんを失いたくないため、看護師さんに配慮したスケジュールが組まれ、待遇もよくなるはずです。そして獣医師も看護師もお互い気持ちよく仕事ができる様に、いい仕事環境を維持する努力をすることになるのです。この好循環によって、アメリカ獣医大学の動物看護師さんは長く続けている方が多いのだと思います。