はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2022年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデント(研修医)をしています。
この記事では、アメリカ獣医大学における、看護師さんの仕事についてご紹介します。アメリカで看護師さんになるにはどんな資格があるか、アメリカの獣医大学にはどんなポジションがあるのか、看護師さんは一般的にどんなスキルを持っているか、に興味がある方を対象に書いた記事です。
アメリカの看護師さんは、獣医学部4年生に教えることも仕事のうちの一つにです。学生がどの様なことに興味がある方は是非こちらの記事もあわせてご覧ください。
- アメリカ獣医大学病院の専門科
- テクニシャンとアシスタントの違い
- Veterinary technician vs Veterinary assistant
- アメリカ獣医大学での看護師さんの配属
- 看護師さんの仕事
- 救急集中治療科(エマージェンシー科)で看護師さんができること
- まとめ
アメリカ獣医大学病院の専門科
アメリカ獣医大学は、スペシャリティホスピタル(専門科が集まる病院)とも言われる様に、様々な科にそれぞれの専門医が働いています。
人医療の、総合病院をイメージしてもらうとわかりやすいでしょうか。専門医や研修医が、それぞれの専門の科で働くのと同様、看護師さんも所属する科を決めます。
アメリカの大学病院には、どの様な科があるか、以下に示します。
- エマージェンシー:Emergency and Critical Care
- 歯科:Dental
- 内科:Internal Medicine
- 麻酔科:Anesthesia and Analgesia
- 診療病理科:Clinical Pathology
- 一般診療科:Clinical Practice
- 皮膚科:Dermatology
- リハビリ科:Physical Rehabilitation
- 栄養科:Veterinary Nutrition
- 眼科:Ophthalmology
- 外科:Surgical
- 画像科:Diagnostic Imaging
- 神経科:Neurology
- 循環器科:Cardiology
- 腫瘍科:Oncology
このうち、上から12(画像科)までは看護師さんの専門家ライセンスがあります。こちらの記事をご覧ください。
Veterinary technicianとVeterinary assistantの違い
日本では、「看護師さん」と一括りにされている職業ですが、アメリカでは、Veterinary technician(テクニシャン:技術者)とVeterinary assistant(アシスタント:助手)に分かれています。
AVMAアメリカの獣医非営利団体のホームページに、テクニシャンとアシスタントの違いが描かれています。
テクニシャン:Veterinary technician
テクニシャンは獣医師の監督下で様々な医療行為を行うことができます。テクニシャンになるには、ライセンスが必要です。ライセンスを取得するには、高校卒業後の2-4年間の准学士号もしくは学士号の学位が必要になり、試験に合格する必要があります。
そしてライセンスを取得した後も、ライセンス維持のためには、最新の獣医学をアップデートしていると言う証明のために、セミナーの受講などが必須になります。
アメリカに来て1年目の研修医をしていた頃は、このライセンスを持っているテクニシャンが1人しかいませんでした。忙しいエマージェンシーの科では、テクニシャンが即戦力になるため、常にこのポジションで働く看護師さんを募集していました。
アシスタントとして働きながらテクニシャンの資格を取ろうと頑張っている看護師さんもたくさんいました。それだけテクニシャンの需要が大きいということです。
アシスタント:Veterinary Assistant
アシスタントは主に患者さんの保定やケージの掃除などがメインの仕事になります。看護師国家資格が始まる前の日本の看護師さんの仕事に近いイメージです。
州によって、アシスタントがどこまでしていいか、というルールの厳しさが異なります。ある州ではアシスタントは大概のことを行なっていたため、私からしたら誰がテクニシャン誰がアシスタントかわからない、という経験もしました。ある州では、ルールがすごく厳しく、アシスタントはABCの仕事はできないので、研修医はアシスタントに頼んだらダメ、と言われていました。
アメリカ獣医大学におけるテクニシャンの配属
それぞれの科に、テクニシャンが働いています。ポジションの数は大学や科によって異なりますが、内科、外科、画像科などには2人ほど常勤で働いていることが一般的です。一方、麻酔科はマンパワーが必要になるので、多くのテクニシャンが働いています。
実際の選考方法は大学によって異なりますが、一般的にはポジションに空きがあれば、希望が通りやすそうです。専門の科への専属を決める前に、「フローター」と言って、様々な科をローテーションするポジションもあります。ある程度経験を積んだら、興味のある分野の専属になるのです。
エマージェンシーは、看護師さんのトレーニングにもうってつけの場所になるため、フローターがたくさん働く科でもあります。一度所属したら、そこで必要な知識や技術をひたすら学ぶことになります。
その科に専属で働くテクニシャンは、獣医師とも良好な関係を保っていることが多く、長く働ける環境の様です。50歳、60歳近くになってもテクニシャンとしてバリバリ働いている女性はたくさんいます。
アシスタントには若い女性が多いです。テクニシャンは、男性よりも女性の方が多いですが、男性のテクニシャンも珍しくありません。そして、テクニシャンの平均年齢はアシスタントよりも高い様に思われます。(2022年現在)
テクニシャンの仕事
専属する科によって、看護師さんの仕事は異なりますが、基本的には患者さんの保定はもちろんのこと、採血、穿刺採尿、静脈留置、入院管理などの基本的な手技はテクニシャンの仕事です。
獣医大学病院では、患者さんの治療方針を決定すること、そしてそのプロセスを学生に教えるのが獣医師の仕事です。それ以外のほとんどが、テクニシャンとアシスタントに任されることになります。その中でも、テクニシャンはより専門的な手技を使う仕事に徹し、アシスタントや学生への指導にも携わります。
このシステムによって、診察の効率は格段に上がります。獣医師は、獣医師にしかできないこと、もしくは学生教育に費やすことができるのです。テクニシャンは、経験を積むほど、できることが増えて、いろいろな仕事を任される様になり、やりがいが生まれます。最終的な目標は、チームとして患者さんをうまく治療することなので、分業がうまく行けば普段の診察に好循環が生まれることは間違いありません。
もちろん、獣医師とテクニシャンの信頼関係も重要です。誰かが偉そうに、礼節が足りない行動をしたときにはこれらのチームワークは成り立たなくなります。
獣医学生および研修医よりも長い臨床経験があるテクニシャンが多いため、学生や研修医に教えたりアドバイスをしたりできる看護師さんもいます。今私が働いているアメリカ獣医大学の看護師さんは、獣医学生の3年生に、模型を使ってメス犬の尿カテ留置のテクニックを教えたりしています。
まとめ
この記事では、あまり馴染みのない動物看護アシスタントとテクニシャンの違いについて解説しました。そして、アメリカの獣医大学病院において、テクニシャンはどの様な役割を果たしているかについてご理解いただけたかと思います。
忙しい研修医として、このシステムは非常にありがたく、毎日テクニシャンがハイスペックなお陰で自分がトレーニングに集中できているのだ、と感謝の気持ちでいっぱいなのです。
私のお気に入り、救急集中治療科の看護師さんの仕事は別の記事に書いたので、こちらも是非ご覧ください。