この記事の内容
- 2種類の膀胱麻痺
- UMN性膀胱麻痺
- LMN性膀胱麻痺
- 臨床現場に応用
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
【今更でもいいからとにかく学ぶ】膀胱/尿道の神経支配についてで理解した膀胱の神経支配の知識を生かして、膀胱麻痺について理解を深めるための記事です。膀胱麻痺は脊髄疾患によって生じ、時に深刻な問題に発展します。この記事では、膀胱麻痺の二種類の病態をイラストを用いて解説していきます。
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2種類の膀胱麻痺
膀胱麻痺には、大きく2種類あります。
- UMN性膀胱麻痺
- LMN性膀胱麻痺
UMNとは、Upper motor neuron、LMNとはLower motor neuronのアブリビエーションで、日本語では上位/下位運動ニューロンという意味です。
この概念が、神経学的位置決定には最も重要なので、簡単に例をあげて説明します。
前肢の神経を支配する脊髄分節はC6-T2です。病変部、例えば椎間板ヘルニアがC4-C5で生じた場合、この病変は前肢にとってはUMN、後肢にとってもUMNです。UMNでは、筋肉の緊張が亢進し、反射は正常から亢進します。
つまり、前肢も後肢も、筋肉の緊張が顕著になり、足を滑らかに曲げて歩くことができなくなり、行進しているかの様な歩き方になります。脊髄反射の検査を行うと、前肢も後肢も引っ込め反射や膝蓋腱反射などは正常/亢進します。
もしも病変がC6-T2だった場合、前肢にとってはLMNとなり、後肢にとってはUMNということになります。C4-C5の病変とは異なり、LMNの前肢では筋肉は弛緩し、反射も消失/減少します。UMNの後肢は先ほどの緊張した歩様や正常から亢進した脊髄反射が同様に見られることになります。
今度は病変がT3-L3だった時。前肢は影響を受けませんが後肢がUMNになります。
最後に、L4-S3の病変では、前肢は影響を受けませんが、後肢がLMNになります。前肢のLMNの様に、筋肉が弛緩し、脊髄反射の低下が見られることになります。
この様に、UMNとLMNとは、着目している神経からみて病変が上位にあるか、もしくは病変部がその神経を支配している基部(下位)かという意味です。この概念は、膀胱麻痺にも同様に適応できます。
膀胱の機能は尿を貯留し、必要なタイミングで排尿するということになります。これを考えると、UMN性の膀胱麻痺では、尿を貯留する機能が亢進し尿が出せなくなる病態。LMN性の膀胱麻痺では、尿を貯留できなくなり、漏れ出てしまう状態、ということが推測できるでしょうか。
UMN性の膀胱麻痺
UMN性の膀胱麻痺の特徴は以下になります。
- 尿貯留
- 膀胱拡大
- 膀胱緊張
- 圧迫排尿困難
- 随意排尿不可
これらを確認するには、腹部の触診が非常に重要になります。以下の点を意識して確認する必要があります。
- 膀胱が拡大しているかどうか
- 膀胱壁を容易に触診できるほど、膀胱壁が緊張しているか
- 圧迫排尿が容易か困難か
ただ腹部をなんとなく触診するだけではこれらの情報を全て収集することができません。脊髄疾患疑いの患者さんの身体検査では特に腹部の触診を意識して行う必要があります。
【今更でもいいからとにかく学ぶ】膀胱/尿道の神経支配についてにて、これらを理解するのに必要な情報を説明してい流ので、よければご参照ください。
さらっと解説すると、膀胱を支配しているのは大きく以下の3つの神経です。
これらの神経はそれぞれ、異なる機能を持ちます。
- 下腹神経は交感神経で、尿貯留(膀胱括約筋の弛緩、尿道括約筋の緊張)
- 骨盤神経は副交感神経で、膨満感の伝達と排尿筋を収縮させて排尿を開始
- 陰部神経は反射および随意によって外尿道括約筋を収縮
病変部がL7より上位の場合、骨盤神経と陰部神経にとってUMNとなることがわかります。UMNによって、排尿筋の収縮と外尿道括約筋の収縮が過剰になります。
さらに、骨盤神経は膀胱の膨満感を脳に伝達する役割がありますが、その経路が途絶えるので、排尿をコントロールできなくなります。
よって、腹部触診の話に戻りますが、自力排尿ができないことで尿貯留が顕著になり、膀胱壁の緊張が触知され、尿道の収縮によって圧迫排尿が困難になります。
また、問診において、飼い主さんが「尿が漏れ出ている」「尿失禁」といった表現をされることもあります。この解釈には注意が必要で、尿貯留によって膀胱のスペースがなくなり、オーバーフローで漏れ出ているのか、尿道括約筋の弛緩によって本当に尿失禁しているのかを区別する必要があります。
漏れ出ているのに、圧迫排尿が容易でなければ、UMNということになります。
LMN性膀胱麻痺
LMN性の膀胱麻痺の特徴は以下になります。
- 尿失禁
- 膀胱は拡大/縮小
- 膀胱壁弛緩
- 圧迫排尿容易
- 随意排尿不可
UMNの時と同様、身体検査でこれらを確認するのが重要です。
LMN性の膀胱麻痺の場合、下腹神経は正常に機能することになるので、ベータ刺激によって排尿筋が弛緩します。骨盤神経および陰部神経がLMNになります。よって、排尿筋、尿道括約筋が弛緩し、尿が貯留できなくなります。
また、骨盤神経の膀胱の膨満感伝達もできなくなるので、随意排尿もできません。
身体検査所見では、尿の失禁が見られ、膀胱壁は弛緩しているので膀胱の触診は困難、尿が少しでも貯留していれば圧迫排尿は容易。となります。
臨床現場に応用
これらの知識を臨床現場に生かしてみましょう。
初診で、患者さんで椎間板ヘルニアが疑われた場合。もちろん、脊髄反射の検査も含めての評価が必要ですが、膀胱に関してUMN性の麻痺が疑われた場合、即座に病変部はL7より上位ということがわかりますね。逆に、LMN性の麻痺の場合、L7-S3が疑われます。
L5-L6周囲の脊髄腫瘍が疑われた患者さんで、元々UMNだった膀胱麻痺が、LMN性に変化した場合。腫瘍が下部に浸潤していることが予測されます。
また、後肢の脊髄反射と合わせて考慮することも重要です。
もしも、後肢の深部痛覚が数週間以上ないという場合。自力で排尿するのはもちろん不可能ですし、いくら手術をしても後肢の深部痛覚が回復しないのと同様、膀胱の麻痺も回復することはありません。
患者さんの後肢のモーターがある場合(自力で動かすことができる)、骨盤神経も陰部神経も機能が残っていることになるので、原因が解除されれば、排尿能の回復が期待されます。
ここまでで、膀胱麻痺について解説してきました。身体検査でのチェックポイントを意識して普段の診察に活用していただけたら嬉しいです。治療に関しては、次の記事に続きます。これらの基礎知識を生かすことで「なぜその治療をするのか」が理解していただけると思いますので、ぜひご参照ください。
まとめ
- 神経疾患を理解するにはUMNとLMNの概念が重要
- 膀胱麻痺にはUMN性とLMN性の2種類がある
- UMNかLMNかを評価するには身体検査がキー
- UMNかLMNか見極めることで、神経学的異常の位置決定や病気の進行を推測できる
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