この記事の内容
- 排尿管理を理解するための2つのおすすめレビュー
- 排尿管理とは
- 膀胱サイズの測定
- 膀胱を空にする手法
- メディカルマネージメント
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
排尿管理は、横臥や脊髄疾患の患者さんには非常に重要な概念です。日本で獣医をしていたときにはあまりちゃんと習ったことがありませんでした。大型犬が多いアメリカで学ぶうちに、横臥の患者さんへ、いかに合併症を減らせるかということもICU管理で重要な要素だということに気がつきました。
この記事では、排尿管理の概念の理解と、実際にどのようにマネージメントするかということをご紹介していきます。
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排尿管理を理解するための2つのおすすめレビュー
この記事は、2つのレビューを参考にしました。英語で読む気力がある方は、これを読むか、推奨ガイドラインのテーブルを見てみることをお勧めします。
ACVIMのレビューでは、排尿をコントロールする神経についての図が非常にわかりやすく記されています。
排尿の神経支配は複雑で、何度覚えてもすぐに忘れてしまっていました。このレビューに載っている生理学を理解するための図は非常に簡潔でわかりやすいです。自分でわかりやすくイラストを作ってこちらのページでご紹介していますが、後からこのレビューに出会い、こっちの方がわかりやすいかも。と思いました。ぜひこの論文も読んで見てください。
Frontiers in Veterinary Scienceでは、実際にどのように膀胱ケアを行うかというガイドラインが載っていてわかりやすいです。
膀胱ケアとは
排尿管理(bladder management)は入院管理を考えるのに非常に重要な要素になります。横臥ケアが必要になる病態としては、脊髄損傷、骨折、筋肉の虚弱など様々ですが、横臥の原因が何であれ、合併症として起こりうることは共通します。排尿管理の一番の目的は、感染を予防することです。
排尿能が損なわれることで、膀胱内の残尿が尿路感染(urinary tract infection:UTI)の原因となり、上行性の腎盂腎炎、さらには全身性の感染、敗血症、死亡の原因になります。
排尿能は大きく二つの能力に分かれます。蓄尿能(storage)と排尿能(voiding)です。
そして、正常な排尿能が損なわれたときにどんな弊害が生じるかを示したチャートがこちらです。
どちらが損なわれても、最終的にUTI、抗生剤の耐性、上部尿路疾患、QULの低下、寿命低下につながることになります。
これが、「なぜ膀胱ケア、排尿管理が重要なのか」の根本の理由になります。できる限りこれらを避けるために獣医師としてできることが推奨ガイドラインとして2つ目の論文で紹介されています。
膀胱サイズの測定
- 4時間おきにサイズの確認、毛が尿で覆われていないかを確認
- 方法:超音波を使った実測が推奨される
- 圧迫排尿を行うタイミング:膀胱内の尿量が10ml/kg以上になった場合
膀胱が膨満することは大きく二つの弊害があります。一つは先ほども出てきましたが、尿路感染の原因となるためです。もう一つの理由は、膀胱の平滑筋が尿の貯留によって圧を受け続けることで、膀胱アトニーを引き起こすためです。膀胱アトニーとは、たとえ中枢神経や排尿に携わる神経が正常に機能していたとしても膀胱平滑筋が収縮できなくなる状況です。
膀胱サイズから、量を推測する計算式があります。このグラフに載っているのは3Dの断面を利用した計算法になりますが、煩雑なので2Dでの計算方法を提案する論文もあります。
実際にアメリカの大学病院で、4時間おきにこの尿量を計算して圧迫排尿をするかを決めることはあまりありません。経験的に、このくらいの大きさの患者さんならこのくらいの膀胱のサイズを超えたら圧迫排尿しようかというようなかんじで行っています。大型犬なら、超音波の1断面で、7cm x 7cmを超えたら、小型犬なら5cm x 5 cmを超えたら、という具合です。
膀胱を空にする手法
- 8時間おきに必要に応じて排尿を促す
- 圧迫排尿>尿カテーテルの設置>毎回尿カテーテルを通して膀胱を空にする
- 尿の匂い、白血球の数、発熱によってUTIが疑われたら培養、抗生剤を開始
- 圧迫排尿が推奨されない場合:軟部組織の損傷、痛み、スタッフに技術がない、urine leakageによるpressure soreが懸念される場合は尿カテーテルを設置することが推奨される
ある論文では、尿カテーテルの設置と尿路感染の関係を調べています。この論文によると、患者さんの年齢、尿カテーテルの設置日数、選別されていない抗生剤の使用が尿路感染のリスクになると結論づけられています。よって、尿カテーテルを設置した場合は、不要な抗生剤の使用は避け、最短で抜去することが重要と考えられます。
メディカルマネージメント
可能性のあるメディカルマネージメントについても記されています。
ベタネコールは副交感神経を刺激し、排尿筋の収縮を促します。尿道括約筋の緊張が亢進している場合は、単独での使用は推奨されません。膀胱の平滑筋が収縮したところで、出口が塞がれていた場合は排尿ができないためです。
プラゾシンが最も頻用される薬です。α受容体を選択的に阻害することで、尿道括約筋を弛緩する効果が期待されます。
タムロジンという薬はα1aを選択的に疎外します。これによって、尿道括約筋の弛緩効果及び、血管拡張の副作用が軽減されることが期待されています。
以下のサイトは、膀胱管理の薬のまとめが載っているPDFになります。PLUM’sという獣医の薬学のまとめになりよくまとまっています。
まとめ
排尿管理について解説しました。大型犬には特に重要なテーマになるのではないかと思います。これらを意識することで、排尿管理不足による病態悪化のリスクを減らしていただけたら嬉しいです。
参考文献
- H.Z. Hu, N. Granger, and N.D. Jeffery. Pathophysiology, Clinical Importance, and Management of Neurogenic Lower Urinary Tract Dysfunction Caused by Suprasacral Spinal Cord Injury. J Vet Intern Med. 2016 Sep-Oct; 30(5): 1575–1588.
- Nicolas Granger. Bladder and Bowel Management in Dogs With Spinal Cord Injury. Front Vet Sci. 2020; 7: 583342.
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