この記事の内容
- 犬の尿道閉塞とは
- 初期安定化
- 尿道閉塞後の内科治療
- 犬の尿道閉塞解除後の治療オプション
- 役立つ英単語
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
この記事では、様々な犬の尿道閉塞についてご紹介します。尿路に何が起こっているか、どんな治療オプションにがあるかを図を用いてわかりやすく解説していきます。アメリカでご自身のペットにそのようなことが起こった時に、活用していただけたら幸いです。
[read_more id=”1″ more=”Read more” less=”Read less”]
尿道閉塞とは
尿道とは膀胱と外界を繋ぐ管のことです。腎臓でつくられた尿を膀胱から外界に排泄する機能を持ちます。
オスとメスでは尿路の解剖が異なります。
オスの尿道はメス犬の尿道に比べ、長く湾曲して、先細りになっています。よって、尿道閉塞のリスクがメス犬よりも高くなります。
尿道が閉塞する原因は様々ですが、圧倒的に多いのは、尿道結石です。尿路閉塞に関して、こちらで詳しく説明しているので、この記事では端折ります。
初期安定化
- 不整脈の治療
- K (カリウム=potassium)を下げる治療
- 膀胱穿刺
尿道閉塞は、原因が何であれ尿道の閉塞を解くことが治療のゴールとなります。しかし病態が進行しすぎていると、不整脈で亡くなってしまう可能性があります。なので、まずは処置を安全に行えるように安定化をする必要があります。
不整脈の原因となる物質はバナナなどに多く含まれる、K(カリウム=pottasium)という電解質になります。カリウムは、血液中に多すぎても少なすぎても致命的になる物質です。本来は尿として排泄されなければならないところ、尿道が閉塞してしまうことで、体内に蓄積してしまいます。
カリウムが高くなりすぎると、不整脈が出ます。細かくいうと、徐脈(心拍数が遅くなる)になり、血圧が低下して循環が保たれなくなります。よって、不整脈とカリウムをコントロールする内科治療が一番に必要になります。
膀胱穿刺
パンパンな膀胱はお腹の中でいつ破裂してしまうかわかりません。不整脈の治療と同時に、とにかく膀胱を萎ませてあげる処置を行います。
膀胱穿刺とは、お腹の皮膚から膀胱に針を進め、貯留した尿をいったん抜き取る救命処置になります。原因である尿道閉塞が解除されない限り、また尿が溜まってしまうので、膀胱穿刺は次のステップまでの時間稼ぎとして利用されます。
尿路の確保、という意味での次のステップは、尿道カテーテルの設置になります。尿道カテーテルとは、その名の通り、尿道に管を通し、膀胱から外界を直接つなぐ人工的な管です。このカテーテルをバッグに繋いでおくことで、持続的に膀胱を空にすることができます。
尿道に石が詰まっている場合、カテーテルから生理食塩水を注入し、水圧をかけて閉塞物をフラッシュしながら膀胱まで進めていきます。
バルーンカテーテルと言って、先端が膨らむタイプのカテーテルが主流になっています。カテーテルの先端が膀胱まで挿入されてからバルーンを膨らませることで、カテーテルが抜け落ちてしまうリスクを防ぎます。
ここまできたら再び尿毒症になる心配はありません。尿路が確保されたら、尿道閉塞の原因がなんだったかの診断に移ります。そして、原因に応じた治療法を選択していきます。
尿道閉塞後の内科治療
重症度にもよりますが、尿道閉塞が起こったわんちゃんは、解除後入院管理が必要になります。
尿道閉塞で臨床症状が出るほど進行した場合、「閉塞解除後利尿」と言った現象が起こります。これは、尿道や尿管が閉塞していた時間が長いほど、閉塞が解除された後に利尿がかかり、すごい量の尿が産生されるという現象です。
通常の5-10倍、もしくはそれ以上の尿が産生されます。ここで気をつけなければいけないのは、尿道閉塞を解除した後にすぐに退院して、いつもと同じ量の飲水をした場合、重度の脱水、ミネラルバランスの異常が生じるということです。
せっかく尿道閉塞が解除されたのに、脱水やミネラルバランスの異常でまた具合が悪くなっては元も子もないですね。
よって、尿道閉塞解除後は数日間、入院をして、尿量に合わせた点滴やミネラルの補充が必要になります。
犬の尿道閉塞解除後の治療オプション
- 膀胱切開(膀胱内の結石を取り出す)
- 尿道切開(尿道の結石)
- 内科治療
- 尿道瘻形成術
なぜ尿道閉塞が起こったか、がレントゲンや超音波検査によって判明したら、原因治療に進みます。結石が原因の場合、尿道内に結石があるかないかで、必要な手術が異なります。
膀胱切開(膀胱内の結石を取り出す)
結石の場合、カテーテルを通した時点で結石は膀胱内に落ちているはずなので、膀胱結石の治療をすればいいということになります。
結石の性質(ストルバイト)によっては、食事療法で溶けてくれます。しかし、結石が膀胱内にある限り、尿道閉塞が再び起こる可能性があります。
一度結石で閉塞を起こした場合は、また同じように尿道が結石によって閉塞する可能性があります。閉塞が解除されている限り緊急手術は必要ありませんが、速やかな手術計画を建てることが推奨されます。
手術は至ってシンプルで、お腹、膀胱を切開(メスで切る)して全ての結石を取り除き、切った膀胱とお腹を閉める、というものです。
ここで重要になってくるのは、一度結石ができたワンちゃんは、残念ながら何もしないとまたできてしまします。なので、手術と合わせて、その後の結石予防(食事療法)が非常に重要になります。
尿道切開
結石が強固に尿道内に固着している場合に、尿道カテーテルを設置できないことがあります。その場合、膀胱穿刺で膀胱内の尿を定期的に吸引し、時間稼ぎをしている間に、できるだけ早く結石を取り出す手術を行います。基本的には緊急的な手術になります。
膀胱結石を取り出すには、お腹を開けて、膀胱を切って、石を取り出すといった手術になりますが、尿道切開の場合は、石が詰まっている部分の尿道を切って石を取り出して閉じることになります。(尿道は腹腔の外を通るので開腹の必要はありせん)
尿道瘻形成術(尿路変更術)
結石が尿道に強固に固着している場合、もしくは腫瘍による尿道の閉塞の場合、原因を取り除けたとしても術後に尿道がうまく機能しない可能性があります。
その場合、尿路を変更する手術、簡単に言うと尿道の一部を切り取って別の排泄口を作るといった手術が必要になります。同時に去勢をして、包皮(精巣の袋)に排泄口を作り開口させます。
役立つ英単語
発音がトリッキーな単語を以下に載せたのでご活用ください。
- urinary tract: 尿路
- urethra: 尿道
- obstruction: 閉塞
- urethral obstruction: 尿道閉塞
- struvite: ストラバイト
- calcium oxalate: シュウ酸カルシウム
- crystal: 結晶
- plug: 栓子
- cast: カス
- cancer/tumor/neoplasia: 腫瘍
- clot: 血の塊
- inflammation: 炎症
- bacteria: 細菌
- bacterial infection: 細菌感染
- stabilization: 安定化
- arrhythmia: 不整脈
- bradycardia: 徐脈
- antiarrhythmic medication: 抗不整脈薬
- potassium: カリウム
- cystocentesis: 膀胱穿刺
- urinary catheter: 尿カテーテル
- urethral catheter: 尿道カテーテル
- ultrasound guide: 超音波下で
- perineum: 会陰
- perineal urethrostomy surgery (PU surgery): 会陰尿道瘻形成術
まとめ
- オス犬の尿路を解説
- 尿道閉塞はエマージェンシー
- 閉塞解除後には、内科治療および外科手術が必要
[/read_more]