はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2023年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。
この記事では、胸腔穿刺の方法を解説します。胸腔穿刺は、エマージェンシーの現場で必須の手技で、ときに命を救う手技になります。
2種類の胸腔穿刺(胸水抜去)
胸腔穿刺を行う目的は、大きく二つあります。
- 診断的目的
- 治療的目的
患者さんが胸水や気胸によって、命を脅かされる状況でない場合、臨床症状が出ていない場合は、診断的目的の胸水抜去を行います。診断的胸水抜去では、診断に必要なだけの胸水を抜去すればいいため、5mlもあれば十分です。
もちろん、合併症について飼い主さんにお話しする必要がありますが、針とシリンジを用いて簡単に行う事ができます。
臨床症状(呼吸困難など)が出ていて、できれば全ての胸水(空気)を抜去したい時は、治療的胸水抜去を行います。この記事では、治療的胸腔穿刺の手技について解説します。
不適応
凝固異常によって、胸腔内出血が生じている場合は、胸腔穿刺によって、出血を助長する可能性があります。原因追求(凝固検査など)の後に、凝固治療が優先されることもあります。
胸腔穿刺の準備
しっかりと準備を整えてから、患者さんをテーブルに乗せて、手技をはじめましょう。以下が準備するもののチェックリストになります。
胸水を抜去したら、必ず性状検査を行います。そのためのサンプリングチューブの種類は以下になります。
胸腔穿刺の手技
ランドマーク
肋間の血管や神経が肋骨のすぐ後ろに走行しているため、肋骨の頭側がわを刺すようにします。
気胸
- 第8-9肋間
- 肋軟関節と脊髄の間
胸水
- 第7-8肋間
- 肋軟関節のやや上部
胸水は、超音波で一番大きなポケットが見られる場所を目掛けてさすことも多いです。
手技
超音波でどのあたりを穿刺するかを決めたら、毛刈り、洗浄を行います。
必要に応じて、鎮静薬を使用します。酸素のフローバイ、ECGモニターを行います。
どのあたりを狙うかをマーカーで印をつけておくとわかりやすいです。
リドカインなどの局所麻酔を皮下に投与します。
胸腔穿刺を行う人は、滅菌グローブを装着し、延長チューブと針、三方活栓、シリンジを組み立てます。
サクションを行う人に、シリンジを渡します。
穿刺はゆっくり行います。針先が皮膚を貫通したら、サクションを開始します。最初は陰圧がかかりますが、針先が肋間筋を貫通し、胸腔に入れば、液体もしくは空気が抜けてくるはずです。
液体および空気が抜けてくる位置を維持したまま、サクションを続けます。大きな陰圧をかけすぎると、針先で胸壁やフィブリンを吸引してしまう可能性があるため、ゆっくりと優しい力で陰圧をかけます。
採取された胸水は採材用のチューブに無菌的に移します。
採材が完了したら、残りの胸水は計量カップなどに移し、最終的に何ml抜けたかを計測します。これ以上抜けないという状況になったら、陰圧をかけながら針を抜去します。
動画
みた事がない手技に備えろ、というのは難しいので、英語ではありますが、以下の動画でどのような事が行われるかをみて、イメージトレーニングをしてみてください。
この猫の胸腔穿刺は、三方活栓を使用していません。胸腔への重度な出血が疑われたため、この採取した血液を血管内に輸血(自己輸血)するため、常に新しいシリンジで胸水を採材しています。
アメリカの経験ある動物看護師さんは、獣医の監督下でこの処置を行う事ができます。
合併症
この手技は、ここに記された手順に従えば、非常に安全な手技です。
一般的に起こりうる合併症は、医原性の肺裂傷です。もしも針が肺を貫通した場合、胸水を抜いていたはずが空気が抜けてくる、もしくは胸水が血様に変化するという事が起こります。
上の図から分かるように、液体が抜けてきた時点で針の挿入を止めれば、肺を傷つける可能性は低いです。
まとめ
この記事では、胸腔穿刺の方法をご説明しました。チーム全体がやることを理解していると、これらの救命に繋がる手技がスムーズに行えます。この記事が、獣医さんおよび看護師さんの手技の理解につながれば嬉しいです。