この記事の内容
- 細胞膜と血管内皮が区切るものとは
- 何が通れて何が通れない?
- 物質の移動に対する水の移動
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
Emergency and Critical Careの分野では、輸液治療の知識が非常に重要になります。ICUに入院する患者さんのほとんどは輸液治療を受けています。入院管理では、それぞれの患者さんに、どの輸液製剤をどのくらいの速度でどれくらいの期間投与する予定なのかという輸液プランが必要になります。
輸液についてというシリーズでは、輸液治療について生理学から勉強しなおせるように、イラストを使って、わかりやすい言葉で解説していこうと思っています。
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細胞膜と血管内皮が区切るものとは
体の中には3つの区画(コンパートメント)があります。
- 細胞内
- 間質
- 血管内
水分はこの3つの区画を行き来します。この区画は、それぞれ細胞膜、血管内皮という仕切りによって区切られています。
Emergency and Critical Careの分野において、この区画を理解することが大事な大きな理由として、ショック治療が挙げられます。ショックの主な原因に、循環血液量の減少があります。循環血液量の減少は「脱水」としっかりと区別する必要があります。
- 循環血液量の減少は血管内の水分の減少
- 脱水は間質における水分の減少
輸液治療を行う際、どの区画に水を届けるかというターゲットが異なります。体内の区画、及び水がどのように移動するかを理解することで、正しい輸液製剤の選択、及び輸液プランがたてられるようになります。
何が通れて何が通れない?
さて、次に考えたいことは、3つの区画を仕切る膜の性質についてです。
水分はこの3つの区画を自由に移動します。つまり、水はこれらの仕切りを通過することができます。
水が自分たちの意思で行きたいところに行くのではなく、しっかりとした法則に従い体内のホメオスタシスを保ちます。この水がどのように区画を移動するかは、体液中に含まれる分子の分布の影響を受けます。
それでは、体液中にどんな分子が存在するかを考え、どの物質はどの仕切りを通れるかを考えていきましょう。
体液中には大きく電解質(水に溶けると電気を通す物質)と電解質以外があります。
- 電解質=細胞膜はポンプがないと通れないが、血管内皮は自由に通れる
- タンパク質(アルブミン/グロブリン)=細胞膜も血管内皮も通れない
- 尿素=細胞膜も血管内皮も自由に通れる
- 水=細胞膜も血管内皮も自由に通れる
細胞膜を通過できるもの
- 水と尿素
細胞膜を通過できないもの
- 電解質
- タンパク質
- 大きな分子の物質
血管内皮が通すもの通さないもの
血管内皮を通過できるもの
- 電解質
- 水と尿素
血管内皮を通過できないもの
- タンパク質
- 分子が大きな物質
体液中の物質の分布が、水の分布に影響を及ぼすと説明しました。それでは、これらの物質の分布がどのように水の分布に影響するかを考えていきましょう。
物質の移動に対する水の移動
輸液治療は、血管内から電解質などを含んだ液体を投与することになりますが、入れた輸液全てが血管内に止まるわけではありません。物質の移動に伴い、水が3つの区画に再分布することになります。
水がどう移動するかは、物質の移動に影響を受けます。物質の移動は、その物質が膜を通過できる/できない問題があります。膜を自由に通過できる物質であれば、膜によって仕切られる区画に満遍なく行き渡ることになります。
そして、3つの区画の浸透圧が等しくなるように水分が移動することになります。これを、水の再分布といいます。水の移動、輸液を学ぶためには、浸透圧を理解する必要があります。
まとめ
- 水分の分布を3つの体の区画(コンパートメント)で考える
- 細胞膜と血管内皮によって細胞内、間質、血管内の区画に仕切られる
- 細胞膜は水と尿素以外は通さない
- 血管内皮は水と尿素と電解質を通すが、大きな分子(タンパク質など)は通さない
- 物質の移動に伴い、水が移動することを再分布という
- 再分布に影響を与えるのは浸透圧
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