この記事の内容
- 本当に整形症例かを判断するために必要なこと
- 一般身体検査
- 視診から始める
- 歩行テスト
- お座りテスト
- 身体の細部をくまなくチェック
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。
この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。
[read_more id=”1″ more=”Read more” less=”Read less”]
本当に整形症例かを判断するために必要なこと
実は整形症例ではない跛行を主訴に来院する患者さんが混ざっていることはよくあります。そして、整形疾患か神経疾患か判断がどうしてもつかない場合もあります。
整形症例かどうかを判断するには、問診、視診、触診の要素全てが必要になることが多く、簡単そうに聞こえて実は高度なスキルだったりします。
問診で重要なことは例を用いて【今更でもいいからとにかく学ぶ】跛行症例と向き合う②で詳しく解説しました。そそしてようやく、患者さんの登場です。まずは患者さんのコンディションを確認するために一般身体検査を行います。
患者さんの一般状態が確認されたら、視診、及び触診にうつります。鑑別診断がイメージできていないと、神経疾患を除外するために必要な検査をしそびれてしまったりすることになります。「他の病気を除外する気持ち」を強く持って検査を進めていくようにしましょう。
視診から始める
視診で何を見るか。まずは歩行しているところ、お座りしているところの2点です。
整形疾患の場合、患者さんが協力的で忍耐強い場合でない限り、鎮静処置が必要になることが多いです。鎮静をかけてしまうと、これらの検査ができなくなってしまいます。必要な覚醒下でできる検査を済ませてから、鎮静下の検査に進みましょう。視診を忘れずに行うことが重要です。
歩行テスト
- 立位の時点で挙上しているか
- 歩行可能か
- 患肢はどの肢か
- 歩様異常を描写する
- 患肢に体重の負重はあるか
- 歩幅は正常か
- 運動失調はないか(固有位置感覚性 vs 前庭性)
歩行テストは、特に患肢がどれかを判断することと、神経性の運動失調を見極めるために非常に有用です。廊下を20-30m、くるくると何度か歩いてもらうだけなので、簡単です。また、自分の視診に自信がない場合は、動画に収めて先輩に見てもらう、という手段も有用です。
見慣れることが重要なので、YouTubeなどで「dog+病名(英語)」で検索するのがおすすめです。この疾患ではこんな歩き方をする、ということがわかると思います。
歩行可能か
神経の異常の場合は特に重要なのが、歩けるか、歩けないかです。歩ける=運動機能ありとなり、一秒一刻を争う事態ではないだろう、と判断されることが多いからです。
また、整形疾患の場合でも、歩行不可=排尿排便のサポートが必要となるため、緊急性が高まります。
患肢がどの肢か
飼い主さんから伝えられるヒストリーと照らし合わせて、どの肢に問題があるかを歩行テストで検討をつけます。立っている時に体重負荷を避けようとしている、挙上している肢、もしくは歩行時に爪先だけ軽くチョンとつけて歩いている場合は、その肢が患肢ということになります。
患肢は、健康な肢に比べ、歩行時に体重をかける時間が短く、歩幅も短くなります。
歩幅は正常か
- 歩幅が小さくなる:脊髄(アッパーモーターニューロン)の異常か、両側の痛み
- 歩幅が大きくなる:小脳の異常に関連する測定過大
痛みを伴う短側の肢では歩幅が小さくなり、負重している時間が短くなります。一方、両側に問題が同時に生じている場合は、チョコチョコと慎重に歩くように、歩幅が小さくなります。
歩様異常を描写する
- 完全挙上:全く患肢を地面につけない
- 免重:患肢が地面につくのを防ごうとしているが負重は可能
次に重要なのが、患肢への体重の負重があるかどうかです。骨折している場合、体重を一切かけず3本脚で歩くことが特徴的です。この場合、「完全挙上」という表現をします。一方、全体重でなくても負重をかけられている場合はおそらく骨折ではないだろうな、と予測できます。負重が完全でないことを「免重」といいます。
余談ですが、英語ではtoe touching weight bearingと言って、爪先で体重を支えるという表現をします。
運動失調 (固有位置感覚性 vs 前庭性 vs 小脳)
- 固有位置感覚性:ナックリング
- 前庭性:水平感覚の異常、左右どちらかにバランスを崩す
- 小脳:歩幅が異常、測定過大
ナックリングをしたり、バランスを崩したり、痛みによる跛行ではない場合、運動失調と呼びます。運動失調には以下の3種類があり、これらを見たら、鎮静をかけた整形学的検査に進む前に、神経検査が必要になります。
お座りテスト
- 正常:正面から見た時に長方形に収まる
- 異常:座るのを躊躇う、患肢側に肢を投げ出す(曲げられない) 、長方形に収まらない
これは大型犬の、ACLやCCLなどでよく見られる異常所見です。CLLのみならず、股関節の痛みによってもこのような異常な座り方になります。
以下のYoutubeはACLの犬の動画になります。ゆーーっくり座る姿勢になっていっていることと、左後肢を外側に投げ出すように座っていることがわかるかと思います。
身体の細部をくまなくチェック
視診の最後ですが、皮膚や筋肉に異常がないかを見渡します。
実はこれも、整形疾患以外をキャッチする重要な情報です。
跛行している。お、右前肢が腫れてるな。毛を刈ってよく見てみよう。—>お!ヘビに噛まれた跡発見!
なんてことがあったりします。時に、バリカンで毛をからないと見えないような隠れた傷もあります。整形疾患以外を除外するという大きな使命のために、集められる情報全てを集めましょう。
まとめ
- 整形疾患と決めつけずに、鎮静をかける検査の前にじっくり視診から始めましょう。
- 歩行検査、お座り検査、体表面をくまなくチェックして、整形以外の疾患をキャッチしましょう。
- 【今更でもいいからとにかく学ぶ】跛行症例と向き合う④では、触診の方法について説明していきます。
[/read_more]