この記事の内容
- 所見のまとめを医学用語でバチっと表す
- 脊髄損傷の重症度
- 脊髄の重症度を一言で表すと
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
この記事では、脊髄損傷の重症度を一言で表す方法をご紹介します。アメリカの学生は、脊髄疾患の患者さんの症例プレゼンテーションでは必ず重症度を初めに言うことを叩き込まれます。私も初めは混乱することもありましたが、しっかり理解することで獣医間のコミュニケーションが容易に、そして的確になるので慣れていきましょう。
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所見のまとめを医学用語でバチっと表す
神経学的検査の目的は、ニューロローカリゼーション(病変部の位置決定)及び、重症度を推測することです。症例について説明するときに、神経検査の結果を一つ一つ伝えると、結局何が言いたいのか分からなくなります。
この2つの情報をバチっと言えれば、「右後肢の固有位置感覚が低下」や「右前肢のホッピングが—」などという解説は聞かれたとき以外は不要です。「神経検査の結果、病変部位は—で、重症度が—です」と言えることでシンプルに効率よく伝えることができます。
医学用語にバチっと置き換えることで、聞く側もスムーズに理解しやくすなります。
ニューロローカリゼーションに関しては、こちらのページを参照ください。
この記事では重症度に関して、どの様に評価してどの様にグレーディングするかをお伝えします。
脊髄損傷の重症度
脊髄損傷の重症度は、脊髄がどれだけ深部まで圧迫などの損傷を受けているかによります。
神経学的な異常は以下の順番で起こります。
- 損傷が、脊髄の外側表面だけの時。腰部の圧迫で痛みを伴うかもしれませんが、神経学的な異常が認められない場合があります。
- 損傷が深部に及ぶと、固有位置感覚が消失し、ナックリングが見られます。
- さらに深い部位の損傷によって、自発的な運動能力が消失します。
- もっともっと損傷が深くなると、浅部痛覚がなくなります。
- 最終的に深部痛覚がなくなり、骨をどれだけ鉗子で強く挟んでも反応がなくなります。
逆に考えると、固有位置感覚が消失していない場合は、②から下の全てが正常になるはずです。
固有位置が消失していても運動能が残っている場合は、必然的に④から下も正常です。つまり、浅部痛覚や深部痛覚の検査をする必要もないということです。
よって、神経検査でローカリゼーションが終わっている場合は、これらの項目を上から確認していき、異常が見られたレベルが直接脊髄の重症度に相関することになります。
脊髄の重症度を一言で表すと
ここからは、脊髄の重症度を表す名前の紹介です。まず初めに大きく3つの分類に分けます。
- 麻痺なし:神経学的異常なし
- 不全麻痺 (paresis):固有位置感覚は低下/消失しているが自発的な動きあり
- 完全麻痺 (plagia):自発的な動きなし
ここまでは、固有位置感覚の検査と、患者さんが歩く姿を観察することで確認できます。
さらに、重症度を細分化していきます。
不全麻痺
- 歩行可能 (ambulatory)
- 歩行不可能 (non-ambulatory)だが自力で体重を支えられる
- 歩行不可能 (non-ambulatory)で自立も不可
完全麻痺
- 痛覚正常
- 浅部痛覚消失 (superficial sensation)
- 深部痛覚消失 (deep pain)
完全麻痺の場合は、必然的に歩行は不可能です。
痛覚を確認するには、鉗子で摘みます。痛いので、不全麻痺とわかっている患者さんにはこの検査を行う必要はありません。浅部痛覚は趾間の皮膚をつまみます。内側と外側で支配している抹消神経が異なるので、抹消神経の損傷が疑われた場合は特に、全ての趾間で検査を行います。
深部痛覚は骨を摘みます。おやつを与えてみて、摘んでいるときに夢中で食べ続けたら痛覚が消失していることは明らかです。
これらの言葉を、ローカリゼーションと組み合わせることで、神経の先生は一言で患者さんの神経学的状態が理解できます。
例えば、
- 両側 歩行不可能な後肢不全麻痺
- 右側 深部痛覚消失した後肢完全麻痺
- 浅部痛覚ありの四肢完全麻痺
などです。これを言われただけで、神経学的な重症度が想像できるはずです。
まとめ
- 脊髄損傷の重症度を一言で表すことで、より効率的な獣医間のコミュニケーションが可能になる
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