この記事の内容
- 一般的な触診
- 骨の評価
- 関節の評価
- まとめ
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医研修医をしています。
自分が知らないものに対処している時、私たちは自信を持つことができません。自信がないまま診察をするのは非常にストレスフルです。一方、患者さんの身体について知り尽くしている場合、自信に溢れ、診察が楽しくなります。
この記事では、整形分野に苦手意識のある先生に、知り尽くすとまでは言わなくても、ここまでの情報が集められたら大丈夫!というポイントをお伝えしていきたいと思います。
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一般的な触診
まずは日常の診察で行うような、一般的な触診をしていきましょう。
ここでも、整形疾患以外を見つけるためにくまなく情報収集します。触診方法は、左右の対称性を確認するためにも、患者さんの後ろから両手を使って、左右同時に触診していきましょう。
慢性の疾患の場合、患肢の筋肉が萎縮します。左右どちらか一方に筋萎縮がないかを探します。また、明らかな関節の腫脹や熱感、リンパ節の腫大、皮膚の浮腫を探していきます。
視診の記事でも触れましたが、表面からみえる異常、咬傷、傷、膿瘍などを見過ごさないように「何かあると思いながら」意図的に探すようにしましょう。
骨の評価
次に、骨の評価に移ります。
恥ずかしい話ですが、骨の評価方法は、私自信、アメリカに来て初めてちゃんと教わりました。
このテストを教わったのは、成長期の大型犬が跛行で来院した時です。この患者さんは、跛行だけではなく食欲低下と身体検査上発熱が見られました。歩行検査では、どこか痛そうだけど四肢は均等に負重がありました。
私が頭を悩ませ、どこか痛そうだけど特定できない!と専門医の先生に相談しにいきました。骨の評価はちゃんとした?と聞かれ、全部触ったけど全部嫌そうだった。ともなんとも曖昧な答えをすると、患者さんを前に、骨の触診方法をしっかりと教えてくれました。
人差し指から薬指の3本を用いて、骨の深部を圧迫するように末端から全ての骨を触診します。軽度の圧迫では大した反応をしなかった患者さんが、深部の圧迫によって明らかな疼痛を示しました。そして、この疼痛は長骨に限らず、脊椎でも同様でした。結局この患者さんは、シグナルメントと身体検査の結果から汎骨炎が疑われました。
この教訓から、跛行の症例や、調子悪い、といって来院した患者さん(成長期の大型犬は特に)には骨をくまなく触診する習慣がつきました。
骨の触診は、圧迫による痛みのみでなく、骨折があれば捻髪音や腫脹などを見つけることも重要になります。
関節の評価
関節の評価方法ですが、まずは関節液の貯留や関節の腫脹がないかを触診します。関節の腫脹は、慣れていないと判断が難しいこともあります。左右を比べた相対的な評価が有用のこともあるので、左右同時に評価するようにしましょう。
そして、全ての関節を屈伸、回転させて、痛み、可動域の異常、不安定性、捻髪音やクリック音を確認していきます。もしも患者さんが協力的ではない場合(攻撃的になる、痛みに耐えられない)は鎮静や鎮痛薬を投与した後に、詳細な検査に移る必要があります。
どの関節でも基本は同じですが、膝関節の特異的な検査に関しては特定の病気の検出に特定の検査が必要になります。
膝関節に特異的な触診
- ミディアルバトレス:膝関節の内側で触知される線維化のサイン(慢性経過であることを示唆)
- 膝蓋骨脱臼の有無/グレーディング
- ドロワーテスト:前十字靭帯の損傷を評価
- 脛骨前方推進力(Cranial Tibial Thrust: CrTT):前十字靭帯の損傷を評価
以下の動画は、英語ですが膝関節の触診方法や上記のテストの方法を説明した動画です。とてもわかりやすいので参考までに。
まとめ
- 一般的な触診では主に筋肉の萎縮やリンパ節の腫脹、皮膚に外傷がないかを確認します。
- 骨の評価では、骨の深部を圧迫により疼痛を示すかを確認します。
- 関節の評価では、腫脹、痛み、可動域、不安定性、捻髪音に着目して触診していきます。
- 問診から触診までの情報を収集しました。ここからは鑑別診断を考え、次に必要な診断はなにかを考えていくことになります。
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