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アメリカで働く

アメリカ獣医大学で感心したこと/仕事の分業編

はじめに

著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、2022年現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデント(研修医)をしています。

この記事では、大きな二次病院ならではの、病院のシステムををご紹介します。大きな院内で、たくさんの人が働いている中、どの様に仕事を分担しているかについて書いていきます。アメリカの獣医大学の内情、アメリカで獣医師/看護師として働くことに興味がある方が対象になります。

分業することのメリット/デメリット

メリット

  • 学生が学業に集中できる
  • 与えられた仕事に精通できる
  • 何か起きたときに、責任の所在がはっきりする

アメリカの獣医学生、研修医が獣医大学病院にて、効率よく学ぶことができる大きな理由の一つとして、徹底した分業化が関係していると思います。

仕事の境界線が曖昧になる程、予期せぬところで時間やエネルギーが費やされてしまうことになります。

デメリット

分業には、病院の規模やスタッフの人数を十分に揃える必要があります。よってどこの施設でもできるわけではありません。

  • チームを成り立たせるには、それなりの人数が必要
  • 個人のできる仕事の幅が狭まるため、欠員が出たときにダメージが大きい

このデメリットを克服するためには、バックアップ体制を整える必要があります。例えば、シフトの人が急に来られなくなった場合に、オンコールでいつでも働ける控えを作っておく、などです。

しかし教育がメインの動物病院であれば、分業するメリットは非常に大きく、誰がどの仕事を行うか、という役割分担が教育の質を上げる鍵となると思います。

日本の一般動物病院でのスタッフ構成

私が働いていた日本の小動物病院では、役職は3つで、獣医師、動物看護師、受付で構成されていました。

日本での動物看護師さんの仕事は多岐に渡ります。病院にもよりますが、掃除、洗濯、消毒、手術道具の準備、滅菌、患者さんの保定、レントゲン補助、薬などの補充、麻酔、入院看護のケア、予約の管理、などたくさんの仕事をこなします。

全員の看護師さんがこれらの仕事をこなせるように、先輩看護師さんが教育します。このように、たくさんの仕事の負担を大勢で分配することで、勉強したいことはあるけど他の仕事に追われて手が回らない!という状況に陥る場合は少なくありません。

獣医さんも看護師さんの残業時間をなるべく少なくするために、掃除、手術準備などを行っていました。勉強する時間がなかなか取れない、帰った頃には疲れ果てて勉強する気力がわかなくなる、そんな辛い時期があったことを思い出します。

アメリカ獣医大学の役割分担

私が、アメリカの大学病院で働き出して、まず驚いたのは、しっかりと分業化がされているということです。

これは、”アメリカの動物病院”ではなく、獣医大学病院ならではです。多くの個人病院では日本と同じように人手不足の問題を抱えていますが、獣医大学病院ではそれぞれ必要な役割に応じて、たくさんの人を雇っています。

全てのポジションは、学生や研修医が効率よく学ぶために作られています。もしも1つでもポジションが少なかったら、バランスが崩れ、最大の目的である学生や研修医の『学び』が犠牲になるだろうことが容易に想像されます。

それでは、どの様なポジションがあるかご紹介してみます。

  • 掃除、洗濯をする仕事
  • 薬局の仕事
  • 物品管理の仕事
  • 看護師の仕事(ベテリナリーアシスタント、ベテリナリーテクニシャン)
  • 受付の仕事
  • 学生の仕事
  • 研修医の仕事
  • ファカルティ(専門医)の仕事
  • その他、IT関係、カルテ関係の仕事など

掃除、洗濯

掃除、洗濯だけを行うために雇われている人がいます。看護師さんは、ケージの掃除や患者さんが汚した場所などに関しては掃除をしますが、洗濯や手術の器具洗いなどは基本的には行いません。

薬局

薬局にもたくさんの人が働いています。電子カルテからリクエストが入った薬は全て薬局で処方されます。日本では受付のスタッフさんや看護師さんが薬を作ることが多いですが、特に麻薬の取り扱いが厳重なアメリカでは、薬の出し入れがしっかり管理されています。

物品管理

物品補充の仕事に関しては、動物看護師さんが棚の整理をしますが、発注や在庫の管理などは物品を管理するcentral supplyという部署の人が行います。

看護師さん(アシスタントとテクニシャン)

看護師さんの中でも、アシスタントとテクニシャンの2種類あります。詳しい解説はこちらのページをご覧ください。簡単に解説すると、アシスタントは保定や掃除がメインの仕事になり、テクニシャンは、薬の投薬や、留置をいれる医療行為を獣医師の監督の元行うことができます。

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この分業によって、テクニシャンはより技術が必要な仕事に専念できます。

また、各サービスに専門のテクニシャンがいて、麻酔科であれば薬の準備、麻酔記録、腫瘍科なら抗癌剤の取り扱い、外科なら手術中の器具だし、など仕事内容はそれぞれ異なります。

麻酔科の中でも分業されていて、大学によっては、覚醒(リカバリー)専門のテクニシャンもいます。常に入院患者さんのケージの部屋で待機しており、麻酔後3時間のモニターを行います。リカバリーの時間が長いことがあるので、このポジションがあると、その症例の担当だった看護師さんは、リカバリーを任せて次の症例に進めることになります。

見積もりを作る、検査のリクエストや検査のサンプルを取り扱う、学生に手技を教える、他科とのコミュニケーションをとる、なども動物看護師さんの仕事になります。

基本的には、患者さんに関連する仕事がメインで、患者さんの情報を本当によく把握しています。

学生の仕事

担当した患者さんに関連することの大半は、学生の仕事です。問診をとる、身体検査をする、検査のリクエストをする、治療方針を考える、カルテの記入などです。全てのこれらの仕事は、働くに当たって重要な経験になります。頭を使うことがメインではありますが、自分の患者が汚したところを片付ける、投薬や治療を手伝うこともします。

一見負担が大きそうですが、自分の患者さんに関してのみなので、てんやわんやになるほどの状況は、まずないです。動物看護師さんは、学生が最大限に学べるように、協力してくれます。

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研修医の仕事

研修医の役割も、各科で大きく異なりますが、雑務に追われて勉強ができないという心配はまずありません。日本では、動物看護師さんが医療行為(針をさす、注射をするなど)をしてはいけないと決まっている(2021年現在)ので全ての処置を獣医さんが行う必要があります。

しかし、アメリカではテクニシャンが獣医師の監督のもと様々な医療行為を行っていいため、獣医師はテクニシャンにその様な仕事をお願いすることができます。テクニシャンのやれることが増えると、もやりがいやモチベーションも上がるとはずです。

嘔吐の患者さんが来たとしたら、動物看護師さんや学生が患者さんの身体検査を済ませ、静脈カテーテルを留置します。研修医は、学生がした問診、自らの身体検査所見をもとに、採血やレントゲンなどを行います。

学生、動物看護師さんは血液検査、レントゲンを済ませ、獣医さんは結果を見て治療方針をオーナーさんと相談します。入院が必要であれば、トリートメントシートに、入院中の薬などの情報を書き込みます。後は入院担当の動物看護師さんがトリートメントシートに沿って治療を開始していきます。

まとめると、研修医の仕事は、学生、オーナーさんとのコミュニケーション、身体検査、方針決定(検査、他の科からのコンサルテーションなどを含む)、トリートメントシートの作成、退院の書類作成をすることに集中できるのです。

これなら、頭をフル回転させないといけない症例が来たときにも、動物看護師さんが留置を入れている間に本や文献を探すなどの時間の余裕ができます。ここで実際に患者さんを治療しながら生まれるクリニカルクエスチョンを解決していくことが、大幅な知識量アップにつながります。よって、分業化によって生まれる余裕こそが、学ぶ機会を大幅に広げてくれることになります。

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まとめ

この記事では、アメリカ獣医大学に来てから関心したことを、分業という視点からまとめてみました。どんなものにもメリットデメリットがありますが、獣医学教育を学生、研修医に行うに当たってこの様な体制をとるのは、非常に理にかなっていると考えられます。

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みけ
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