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イラストで学ぶ生理学と病気

凝固系検査・Viscoelastic coagulation test

はじめに

この記事では、Viscoelastic coagulation testについての解説をしていきます。

この検査は、凝固系の3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)を反映してくれる、素晴らしい検査です。TEG, ROTEM, VCMなどの様々な検査機器に反映されますが、原理は同じなので、この記事で原理、及び汎用性についてご紹介したいと思います。

もくじ
  1. Viscoelastic coagulation testの知名度
  2. どんな検査か
  3. 凝固系の基礎
    • 一次止血
    • 二次止血
    • 線溶系
  4. 従来の凝固検査
  5. Viscoelastic test
    • 原理
    • 同様の原理を用いた様々な機械
    • 結果の解釈
    • 治療への応用
  6. まとめ

どれくらいメジャーな検査か

日本では、この検査について聞いたことがありませんでした。

アメリカでも、一般の動物病院にはないと思いますが、今まで働いた3つのアメリカの大学病院では、ラボやPOC(Point of Care)で測定することができました。こちらでは、メジャーな検査の様です。

どんな検査か

Viscoelastic coagulation testは、凝固系機能を計測する血液検査です。

一番の特徴は、この検査一つで、血液凝固の3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)を反映してくれます。

例えば、日本では出血傾向のある患者さんをみた場合、凝固系パネルといって、PT, APTTを測定することがメジャーです。PT, APTTが教えてくれる情報は、凝固因子が十分あるかないか、ということです。なので、除外できる病気としては、殺鼠剤中毒(PTの重度な上昇)、肝不全によるビタミンK依存性凝固因子の枯渇などがあります。

これ以上の情報、例えば、血小板の機能異常(NSAIDs, 高窒素血症など)、線溶系亢進(外傷性凝固異常、DIC、ヘビ毒など)による出血かどうかはわからないということです。

血液凝固の3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)が測定できるというメリットは、PT, APTTだけでは検出できない病態を検出することができるという点です。

凝固系の基礎

この検査の特徴を理解するためには、凝固系の病態生理学の知識が必要です。

何度も出てきている様に、凝固系には3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)があります。まずは止血に関する一次止血、二次止血を見ていきましょう。

一次止血と二次止血
一次止血と二次止血

一次止血

一次止血とは、血管に損傷が起こったときに血小板が小さな損傷を埋めるフェーズです。

この段階でできる血栓は、フィブリンによる強固が行われていないため、非常に脆いです。この脆い血栓を強固にするのが二次止血のフェーズになります。

一次止血の異常は大きく二つに分類することができ、一つは血小板数の減少、もう一つは血小板の機能不全です。血小板減少の原因は、骨髄による産生低下、出血による喪失、血管の損傷による消費、免疫介在性疾患の様な破壊、に分類されます。機能不全は、遺伝性疾患、NSAIDs中毒などが挙げられます。

一次止血がうまくいかないと、どんな臨床症状や徴候が現れるでしょうか。小さな血管の損傷を修復することができないため、点状出血が一般的な身体検査所見になります。

一次止血異常、点状出血
点状出血

二次止血

二次止血は、血小板によってできた脆い血栓をフィブリン重合によって強化するフェーズです。ここでは凝固因子が活躍します。内因系、外因系のY字の凝固因子活性のカスケードによって、最終的にフィブリノーゲンがフィブリンになり、血栓を強固にします。

一次止血異常でみられた点状出血に対して、二次止血異常では皮下出血(bruising)といった大きな出血が見られることが一般的です。一次止血が正常である限り、微小出血のコントロールは可能なため、点状出血は起こらず、それ以上の大きな血管の欠損に対して止血ができなくなるというメカニズムです。

二次止血異常、皮下出血
二次止血異常

この写真は、アナフィラキシーショックによって凝固異常が起こり、PT, PTTの重度な延長が見られた症例です。サンプリングラインの周囲で激しい皮下出血がみられました。点状出血とは違い、アザの様な見た目になります。

線溶系

線溶系は、上記の止血過程で作られた血栓を溶解する工程です。

線溶系

線溶系の機能低下によって、血栓傾向になります。その反対に、線溶系の亢進によって出血傾向になります。

線溶系亢進は外傷や、重度の炎症、DICなどの病態で起こることがあります。血小板数、血小板の機能、そして凝固因子の定量的な異常がないにもかかわらず出血傾向を示す場合に疑われます。

従来の凝固検査

従来の凝固検査にはどの様なものがあり、どの様な病態が検出できるでしょうか。

出血傾向の場合

  1. CBC:血小板数–> 一次止血に関与
  2. PT, APTT:凝固因子の欠乏をスクリーニング–> 二次止血に関与
  3. BMBT:血小板数及びPT, PTTに異常がない症例の、血小板機能異常及びvWF症のスクリーニング–> 一次止血に関与

血栓傾向の場合

  • FDP, D-dimer:線溶系亢進(間接的に凝固亢進)を疑うことができます。–> 血栓傾向に関与

従来の検査では検出できない病態

  1. 血小板の機能異常(BMBTは信頼性が低い)による出血傾向
  2. 線溶系の亢進による出血傾向
  3. 凝固亢進(FDP, D-dimerは感度が低い)による血栓傾向

この従来の検査の弱点を補うのが、Viscoelastic testになります。

Viscoelastic test

血液が凝固、線溶するにつれて粘弾性が変化することを利用した凝固検査の機械になります。Viscoelasticityとは、日本語で粘弾性という意味です。

液体が固体になるときに粘性が増し、固形から液体に戻る際に弾力が落ちます。

粘弾性

Viscoelastic testのうちの一つであるTEGという機械と、その構造が以下になります。原理がわからないとよくわからない波として出てくる結果が、なんだか恐ろしいですが、しっかり原理を理解すれば、案外とてもシンプルな検査なのです。わかりやすくシンプルに解説していきます。

原理

TEG 5000

ピンが機械の上部から吊るされています。血液サンプルが入ったカップを上図の様に設置します。カップを回転させて、ピンの振動を機械が検知するという原理です。

TEGの原理

血液が液体の状態では、カップは独立して回転するため、振動は0です。

血液が凝固し、粘性を増すとピンをカップの回転に合わせて振動することになります。この振動を信号に変換し、波形化します。

そして、血栓ができたあとは、線溶系によって血栓が溶解されます。これによって、カップは再びピンと独立して回転することになるので、ピンの振動が小さくなっていきます。

お気づきでしょうか。この検査では、なんと今までの古典的凝固検査では評価が難しかった線溶系の評価が可能なのです。

血液凝固能が極端に低い場合、血栓が一向にできず、振動ゼロ、つまりフラットラインになります。凝固能が亢進している場合(血栓傾向)、血栓が形成されるまでの時間の短縮、波形の幅の増加が起こります。

同様の原理を用いた様々な機械

この原理を使った機械は複数あり、それぞれ名前が異なり、特徴も異なります。TEG, ROTEM, VCMがメジャーなテストになります。

粘弾性の測定機械

実際に得られる結果は以下の様になります。原理が同じなので、得られる波形は類似しています。

各機械での粘弾性測定結果の表示

中でも、VCMは獣医及び人医療で用いられる、ベッドサイドの試験で、複雑なサンプリング方法や繊細なサンプルの取り扱いが必要ありません。ピンとカップという関係が、小さなデバイスのなかの2枚のスライドグラスで再現されています。

VCMの原理
VCMの原理

この機械は私が働く大学にもあり、非常に有用です。犬、猫のそれぞれの正常範囲も既に出ています。

結果の解釈

結果の波を、グラスに喩えたものが以下になります。

ワイングラス型では、血栓が作られるまでの時間が異常に長い=凝固因子の減少を示唆

シャンパンフルートでは、凝固開始までの時間が長いのに加えて、波の幅が狭いです。これはフィブリノゲンの減少を示唆しています。

テストチューブは、さらに幅が狭く、血栓が脆いことを示唆しています。つまり、血小板の数的な異常か、数が正常であれば血小板機能障害ということが示唆されます。

そしてマルチーニグラスでは後半がツボまっているのが特徴です。これは、作られた血栓が急速に線溶されていることを表し、線溶亢進所見です。

VCM波形の結果の解釈

おまけですが、私が考えた、ゆのみ型ととっくり型もご紹介します。

ゆのみ型は、波形の幅が大きく、凝固亢進状態です。

そして、とっくり型は、凝固が亢進しているにもかかわらず、線溶系も亢進していることが特徴的なDICを示唆する所見になります。

VCMの結果の解釈2

こう解釈できると思うとなんだか楽しいですね。古典的凝固検査では評価できなかったことが、viscoelastic testによって、明らかになることも少なくありません。

治療への応用

この検査を用いて、どの様に治療に応用できるでしょうか。

すごくシンプルに解説すると、一次止血の異常であれば血小板を補充(血小板輸血、新鮮全血の輸血)。二次止血の異常であれば凝固因子を補充(FFPの輸血、ビタミンKの補充など)。線溶系の異常であればトラネキサム酸やEACAなどの線溶系を抑制する薬の投薬。そして、凝固亢進に対しては抗凝固剤を使用。

という様に、治療の方向性が明らかになります。実際の意思決定はここまで単純なものではないかもしれませんが、この様に凝固系のどこに問題があるのかが明らかになることで治療方針を立てやすくなります。

まとめ

この記事では、凝固系の3つのフェーズ(一次止血、二次止血、線溶系)についての解説と、viscoelastic testという検査の原理と解釈についてご紹介しました。この検査から、古典的な凝固検査でわからなかった凝固異常が検出できる様になります。

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みけ
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