はじめに
著者は、日本の獣医大学を卒業後、一般病院で3年間勤務した後、現在アメリカの大学で獣医救急集中治療(ECC)専門医になるためのレジデントをしています。
この記事では、米国動物看護師における専門性についてご紹介します。
- 動物看護師スペシャリストとは
- VETERINARY TECHNICIAN SPECIALIST (VTS)
- 取得するメリット
- 取得までのプロセス
- 動物看護師 麻酔科専門医受験要項
- 動物看護師 救急集中治療 専門医受験要項
- まとめ
動物看護師スペシャリストとは
アメリカの動物看護師のスペシャリスト、VETERINARY TECHNICIAN SPECIALIST (略してVTS)とは、看護師さんの専門の資格になります。獣医さんの「腫瘍科専門医」「麻酔科専門医」の様に、アメリカでは看護師さんとしての仕事の中にスペシャリティの資格があります。
以下の16つの科目がありますが、その中には実験動物や病理学、そして馬の看護師の資格も含まれています。小動物臨床の資格は全部で12科目(黄色線)になります。
- エマージェンシー:Emergency and Critical Care
- 歯科:Dental
- 内科:Internal Medicine
- 麻酔科:Anesthesia and Analgesia
- 動物園学:Zoological Medicine
- 実験動物:Laboratory Animal (provisional)
- 行動学:Veterinary Behavior (provisional)
- 診療病理科:Clinical Pathology (provisional)
- 一般診療科:Clinical Practice (provisional)
- 皮膚科:Dermatology (provisional)
- 馬:Equine (provisional)
- リハビリ科:Physical Rehabilitation (provisional)
- 栄養科:Veterinary Nutrition (provisional)
- 眼科:Ophthalmology (provisional)
- 外科:Surgical (provisional)
- 画像科:Diagnostic Imaging (provisional)
取得するのは非常に難しく、このライセンスを持っている看護師さんは獣医大学病院にも数名いるかいないか、というところです。私が以前働いていた大学の救急集中治療科には、1人ベテランの看護師さんで持っている方がいました。そして現在働いている病院では、このライセンスを持っている看護師さんはまだおらず、10年以上働いている看護師さんが今年初めて応募したと聞きました。
この資格は、専門性に献身している証明にもなります。この資格を持っていたら、就職では有利に働くはずです。そして、誰でも取得できる資格ではないので、希少性もあります。持っていることが自信にもつながりますし、他の看護師さんを育てるためのリーダーシップを取れるはずです。
取得するメリット
- 給料が上がる($50,000/年)かもしれない(平均で1-28%増加)
- 献身している証明
- レクチャーがや、獣医学生に教育できる
残念ながら、苦労してこのライセンスを取得しても、お給料は「上がるかも」くらいで、爆上がりするほどは期待ができない、と聞いたことがあります。お給料アップの目的で、VTSを目指すというよりは、本当にその科が好きで好きで、もっと勉強したいし、勉強したことを人に教えられる様になりたい、という人が目指すものの様に思います。
アメリカの獣医看護師の給料は平均$35,320/年 ($16.98/時間)です。2021年現在、1ドル約110円なので時給約1900円、年収が380万円ほどと言うことになります。
VSTを持っていると、$50,000/年ということなので、年収550万円ほどになります。
希少性が高い資格なので、VTSを持っていると、アメリカでは、「おぉっ」と思われる存在になります。VTSが取れるということは、やる気がある、やる気だけではなく本当に献身している(勉強もしているし、経験も豊富)という証拠です。
VTSはそれだけ信頼のある資格になるので、看護師の教育者としても働く機会が増えます。レクチャーをする立場に立ったり、大学によってはマスターの学位があれば、ファカルティにもなれるみたいです。
取得するまでのプロセス
- 高校卒業
- 獣医領域の学位を持つ(2年以上のプログラム)
- テクニシャンのライセンスを持つ(330ドル)
- NAVTA*に承認されている病院での3年以上の専門的な経験
- 1,000-10,000時間以上の勤務経験
- 試験クリア(科によってそれぞれのテスト形式がある)
*NAVTA: National Association of Veterinary Technicians in America アメリカの動物看護師の全国協会
それぞれの科によって、特異的な条件や試験が異なります。以下のサイトでは、それぞれの科の要項の公式サイトに飛べるリンクがまとめられています。
動物看護師 麻酔科専門医受験要項
例として、麻酔科の専門医受験資格をご紹介します。(2021年現在)
- AVMAが承認している動物看護学校を卒業
- テクニシャンのライセンスを取得
- 4年間以上、8000時間以上のwork experience
- 6000時間以上の麻酔に関連する仕事の経験時間
- 獣医専門医からの推薦状
- 獣医/看護師専門医からの同意書
- 50-60ケースログ
- 4つの症例報告
- 大学病院などでの経験40時間以上
- スキルの証明
- 60ドルの申し込み料
- 450ドルの試験費用
私が働く大学には数名のVTSがいます。麻酔科では、6年目の看護師さんが目指していますが、やはり相当な経験が必要で、今年で3回目のチャレンジとのことでした。
その看護師さん曰く、一般病院ではこれらの条件をクリアすることができなかったため、元々いた病院を離れ、大学病院にきて、VTSを目指しているそうです。
動物看護師 救急集中治療 専門医受験要項
救急集中治療の受験に必要な経験は以下になります。75ドルの申し込み料がかかります。
Part A
- AVMAが承認している動物看護学校を卒業
- テクニシャンのライセンスを取得
- 3年間以上、6000時間以上のに救急集中治療に関連する仕事の経験時間
- 25時間のセミナー受講
- 獣医専門医/VTSからの推薦状:2人から
Part B
- 3つの症例報告
- スキルの証明
スキルの証明とは、例えば聴診が正しくできているか、患者さんの呼吸困難に気が付けるか、骨髄カテーテルの設置、中心静脈の設置、動脈留置の設置、などを記録して、その手技を行った証明に専門医のサインを集める必要があるのです。
スキルの証明は申し込みの年のものが必要になるので、昔やったことがある、という経験はカウントされません。これによって、継続的にスキルを保つための経験ができているかと言うことをチェックしている様です。
症例報告では、Case reportの様な形で仕上げる必要があります。どんな治療をどんな根拠で行ったか、を文章にして提出します。
Part Bをクリアすると、試験(200問の選択問題)が受けられrます。試験費用は毎年変わるらしく、見つけることができませんでした。この試験をパスすると、晴れてVTSの資格が取得できることになります。
まとめ
この資格を目指すには、相当な覚悟と、仕事への愛が必要な様です。この資格を目指している看護師さんは、毎日率先して手技を行ってくれ、症例に関しても何をしているか、を積極的に質問してくれるので、一緒に働いていてもすごく楽しいです。
- VTSとは、米国の獣医テクニシャンのスペシャリストのこと
- 取得するまでのプロセスは、非常に難関
- VTSを取得=看護師として献身している、人生をかけている、といった証になる